第22話 ギルドマスターのエルフ、名はボイル

 俺、リク、マリンさん、柴山さんは、領都ノースポールにある冒険者ギルドの応接室に案内された。


 ソファーに座って待っていると、耳の長いエルフの男性が入ってきた。

 優しそうな雰囲気で笑顔が素敵な美青年だ。


「私はギルドマスターのボイルです。ノースポールの冒険者ギルドは、あなた方を歓迎しますよ! 良い魔物の素材を売って下さるそうですね。拝見させて下さい」


 リクがアイテムボックスから、グレートホーンディアの魔石を取り出した。

 ソフトボール大で緑色の魔石だ。


「こ……これは!」


 ボイルさんの目がキラリと光った。

 ボイルさんは、リクから魔石を両手で丁寧に受け取ると、そのまま、ジッと魔石を見ている。


「まさか!? これは!? グレートホーンディアの魔石ではありませんか!?」


「そうです。よくわかりましたね」


「私は鑑定系のスキルを持っていますから。それにしてもグレートホーンディアの魔石ですか! いやあ、良い物を拝見させていただきました!」


 ギルドマスターのボイルさんは、上機嫌だ。

 どうやら俺たちが持ち込んだ魔石は、ボイルさんのお眼鏡にかなったらしい。


 これなら買い取ってもらえそうだ。


「他にも色々あります。見てもらえますか?」


「えっ!? 他の魔石もあるのでしょうか!?」


「ええ。グレートダイアウルフとか、グレートキラーグリズリーとか」


「おお! それは是非!」


 ボイルさんが、両手を叩いて大喜びだが、俺の隣のリクが渋い顔をする。


「オイ! ミッツ! イイのかよ!」


「俺たちじゃ価値が分からない。価値が分かる人に見てもらった方が良いだろう?」


「それは、そうだけど……」


 理由は分からないが、リクが出し渋る。

 俺は柴山さんに視線を移した。


 柴山さんはアゴに手をあててしばらく悩んだ。


「うーん。悩みますが、ミッツさんの言う通りですね。僕たちは手持ちのお金がありません。換金出来る物を換金してくれる人に見てもらった方が良いでしょう」


「賛成~!」


 マリンさんも賛成したことで、リクも納得したらしい。

 リクは、アイテムボックスから、一種類ずつ魔石を取り出した。


「おお! おおおお! おほほぅー!」


 ボイルさんのご機嫌が最高潮になる。

 どうやらボイルさんは、名前の最初に『グレート』がつく魔物の魔石に興味があるようだ。

 グレートシリーズは、森の中でも拠点側、つまり奥の方で出現する。


 一方、オークの魔石は放置している。

 オークは森の出口よりで出現していた。


「やはり……」


 柴山さんが、つぶやいた。

 俺は小声で柴山さんに話しかける。


「何が、『やはり』なの?」


「森の植生が違ったので」


「植生?」


「植物の生え方のことです。拠点を出発して新しく神殿を見つけましたよね? あの辺りまでは、針葉樹林を巨大にしたような木ばかりでした。しかし、イルゼ村付近、ケインさんたちと出会った辺りは、広葉樹が増えていました」


「んん?」


 俺は柴山さんが言っていることが、ちんぷんかんぷんで全くわからなかった。


「わかりやすく言うと……。とんがっていて大きな木が多かった森が針葉樹林。イルゼ村の近くの葉っぱが大きな木が広葉樹です」


「ああ、そう言えば……。木の種類が違っていたね。木の上に登った時の高さや堅さが違っていた」


「そうです。森の木の様子が違うということは、そこに住む魔物の分布も違うであろうと」


「そういや。拠点に近い魔物の方が強かったな。レベルアップの影響もあるだろうけど、オークはザコに感じた」


「そして、ギルドマスターのボイルさんは、強い魔物の魔石に強い興味を示しています。なかなか手に入らないのでしょう。やはり僕たちの拠点に近い魔物は強力なのだ、高く売れるのだと思ったのです」


「そうか……! チャンスだ!」


 ボイルさんに、魔物の素材を全部買い取ってもらおう。

 そうすれば、この町で食料品や衣類を買って、拠点のみんなに配ることが出来る。


 何せ二千五百人分が必要なのだ。

 売れる物は売って、現金化しないと。


「ボイルさん。魔石は他にも沢山ありますし、毛皮や牙もあるんですよ! 全部買ってもらえないでしょうか?」


「な、な、な、なんですとー! 買います! 買います! 全部出して下さい! 全部です!」


「わかりました! よし! リク! 全部出しちまえ!」


「あんまり目立ちたくないんだけどな……。どうなっても知らねえぞ……」


 リクが次から次へとアイテムボックスから、魔物の素材を取り出した。

 魔石、グレートホーンディアの角、毛皮、グレートダイアウルフの牙、毛皮などなど、応接室が素材で埋まっていく。


「す、凄い! 大漁じゃないですか! この毛皮は、貴族に高く売れますよ!」


 ボイルさんの興奮は、鼻血を吹き出さしそうなほどだ。

 これなら何でも高くかってくれそうだ。


 よし!

 俺も出そう!


「俺も買ってもらいたい物があるのですが、アイテムも良いですか?」


「一体、何でしょう!?」


「これです!」


 俺はアイテムボックスから、神殿で回収したアイテムを取り出した。

 美しいガラスビンに入った飲み物だ。


「ま、まさか……! これは!」


「エリクサーって物らしいですよ? 買い取ってもらえますか?」


 ボイルさんは、エリクサーに向かって両手を出して触ろうとしているが、手が震えて触れない。

 大げさだな。


 リクが血相を変えて立ち上がった。


「オイ、ミッツ! エリクサーって何だよ!」


「いや、わからない。きれいなビンに入っていたから、高級酒じゃないかな?」


「違う! 違う! そうじゃない!」


 そう言われても、困る。

 何となく高そうな物だから、俺は回収してきたのだ。

 売りたい。


「ミッツさん! エリクサーは、ゲームやファンタジー小説なら、それは……」


「ミッツさん! ヤバイですよ!」


 柴山さんとマリンさんも興奮しているが、何なのだろうか?


「うーん……」


 そしてギルドマスターのボイルさんが、興奮しすぎて目を回してしまった。

 何が何やらさっぱりだ。


「ミッツ!」

「ミッツさん! ちゃんと相談して下さい!」

「ミッツさん! ダメでしょう!」


 なぜか、三人から怒られた。

 解せぬ!

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