第12話 町を探して探索の旅2~ダイハード

 ――主人公視点に戻る――


 ■異世界転移九日目、拠点を出発して七日目


「ミッツ! 正面から来る! グレートダイアウルフだ!」


「あいよ!」


 リクがスキル『気配探知』で、魔物グレートダイアウルフの存在を感知した。

 俺たちは、歩みを止めて戦闘に備える。


 俺が前に出て、リクが後ろへ。

 マリンさんと柴山さんは、木の陰に隠れた。


「間もなく接敵!」


 リクが鋭い声で警告を発すると、すぐに姿が見えた。


 正面から唸り声を上げてグレートダイアウルフが迫ってくる。

 ウルフといっても普通の狼じゃない。

 サイズがデカイ。

 大型トラックが俺たちめがけて突っ込んで来るようだ。


 俺は右手を構えて、グレートダイアウルフの眉間に狙いを定める。


 ドン! ドン! ドン! ドン!


 俺の右手から発射された魔力の弾丸は、グレートダイアウルフの頭部を吹き飛ばした。


「よっと!」


 すぐにリクが飛び込みグレートダイアウルフをアイテムボックスに回収する。

 放っておくと血だまりが出来て、辺り一面ヒドいことになるのだ。


「柴山さん。この辺りかな?」


「ええ。近いと思います。方角はあっています!」


 俺たちは、神殿らしき石造りの建造物を見つけた。

 今朝、木の上から見つけたのだ。


 朝、昼、晩の一日三回、木の上に登って建物や火を使っている痕跡はないかウォッチしている。

 もう、転移した場所を出発して七日たったが何ら発見がなく、俺たちは『ダメかもしれない……』と意気消沈していた。


 そこで発見した建造物に――人の匂いに、俺たちは狂喜した。


「木の間からチラッと見えただけだが、大きな建物だと思うんだ」


「ええ。木の高さから考えると、相当巨大です。僕たちが転移した場所に立っていた神殿と同程度の大きさではないでしょうか」


「人が住んでいるかな?」


「そう願いたいです……あっ! ミッツさん! あれ!」


「おお!」


 木の間から、白い壁が見えた!

 朝、木の上から見た神殿だ!


 思わず俺は駆け出そうとしたが、俺の腕をリクがつかんだ。


「待て! ミッツ! 走るな!」


「何でだよ! 早く行きたいだろう!」


「もし、人が住んでいたとしてだ! 敵対的な連中だったらどうする? いきなり攻撃されるかもしれないんだぞ!」


 そんなこと考えもしなかった……。

 だが、リクの言う通りだ。


 地球でも敵対的な部族は存在する。

 北センチネル島の原住民は、島に上陸しようとする人を無差別に攻撃する部族だ。

 彼らは無茶苦茶排他的で、他民族の上陸を許さない。

 ヘリコプターにさえ弓を射るのだ。

 おかげで、今も石器時代同然の生活をしているらしい。


 もし、北センチネル島の原住民のような連中が住んでいたら、無防備に近づくのは危険極まりない。


「……了解だ。慎重に接近しよう」


「柴山さんも! マリンさんも! 気持ちは分かるけど、警戒を忘れない!」


「「はいっ!」」


 リクは珍しく怖い顔で俺たちに注意をした。


 ありがたい。

 リクがいてくれて良かった。


 ところで……、警戒……、警戒……。

 どうすれば良いのだろう?


 ――そうだ!


「リク! あの建物はナカトミビルってことだな!」


「……ダイハードか?」


「イエス!」


 ダイハードは八十年代のアメリカの映画で、ブルース・ウィリス演じる主人公ジョン・マクレーンが大活躍する映画だ。


 舞台はロスアンジェルスのナカトミビル。


 昔の映画だが、俺のお気に入りの一本である。


「そうだ、ミッツ。あれはナカトミビルだ。テロリストに占拠されているから、慎重に近づけ」


「オーーライ!」


 俺は右手を拳銃の形にし、左手を添え、フレンドリーファイアーを避ける為に銃口を下に向ける。


 木の陰に隠れながら、ジョン・マクレーン気分で慎重に神殿へ近づく。


「ところでミッツ……」


「なんだ?」


「ジョン・マクレーンがいるのは、ナカトミビルの中だ。外から近づくのは、パトロール警官のパウエル巡査部長だ」


「あ……」


「ミッツは、ジョン・マクレーンじゃない。太っちょ警官パウエルだ」


「しまったああああああああ!」


 リクが嬉しそうにクスクス笑う。

 いやいやいや、気分が台無しだ!


「くっそう……ビルから銃撃される未来しか見えねえ……」


「そうならない為に、慎重に近づくのさ!」


 俺とリクは、映画ダイハードの話で通じ合ったが、マリンさんはさっぱりわからないようだ。


「何のこと? 二人は何の話をしているの?」


「マリンさん! 日本に帰ったら、二人で映画ダイハードを見ましょう!」


「えっ!?」


 勢いで言ってしまったが、マリンさんの理解を得るには『ダイハードを見てもらう』のが一番早い。


 だが、俺の純粋な布教心をリクが茶化す。


「どさくさに紛れてデートに誘ってるよ! やるなミッツ!」


「うるさいぞ! リク! ダイハードはアクション映画の金字塔だ!」


「いいですよ。楽しみにしてますね!」


 図らずもマリンさんからオーケーをもらってしまった。

 ひゃほう! 日本に帰ったらマリンさんとダイハードだ!


「えっと……そろそろ行きませんか?」


「ごめん!」

「悪い!」

「すみません!」


 柴山さんがしびれを切らしたので、俺はシブシブとナカトミビル……いや、神殿らしき建物に向かって進んだ。


 近づいてみてわかったが、俺たちが転移した場所に立っていた神殿と同じデザインの建物だ。


 果たして人が住んでいるのだろうか?

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