第13話 町を探して探索の旅3~神殿の様子

 俺たちは、森の中から石造りの神殿の様子をうかがった。


 神殿は、転移した場所にあった神殿と形も大きさも同じだ。


 神殿の周りには木が生えていない。

 石畳が敷き詰められていて、神殿を中心にちょっとした広場が出来ている。


 人影は見当たらない。

 だが、どこかに隠れている可能性がある。


「リク! 索敵を頼む!」


「了解……気配探知!」


 リクがスキル『気配探知』を発動して、石造りの神殿周辺に生物がいないか探り出した。

 俺、マリンさん、柴山さんは、息を殺してリクの回答を待つ。


「ふう……オーケーだ! あの建物の周囲に生物はいない」


「中に誰かいるかな?」


「どうだろう……」


 俺たちは、お互いのジョブやスキルを全て教え合っていない。

 だが、この探索行で有用なスキルは、細部をぼかしながら教え合っている。


 リクは、解体のスキル以外に、スキル『気配探知』が使えると教えてくれた。


 リクの説明によれば、レーダーのようなスキルらしく、生物がいるかいないかがわかるらしい。

 ただ、気配探知も万能ではない。

 障害物が多い場所では見落としが多く、森の中では著しく精度が落ちる。


 今まで俺が相手にしてきた魔物は巨大だったので、リクは森の中でもスキル『気配探知』でかなり早めに警告を発してくれた。


 だが、今回は、人の存在の有無だ。

 あの神殿の中にいたら、探知は難しいだろう。


 俺たちは、ゆっくりと神殿に近づいた。

 だが、特に反応はない。


 人がいないのか?


「誰も……いない……かな……?」


「そうだな……」


 ホッとしたような、ガッカリしたような複雑な気分だ。


 神殿の入り口にたどり着いた。

 入り口からは広い通路が続いているが、屋根があるので神殿の中は昼でも暗い。

 そっと中をのぞいて、物音がしないか注意してみたが、特に何もない。


「リク! どうだ?」


「ううん……壁が障害物になって正確にはわからない……。だが、探知できる範囲では、何もひっかからないな」


「わかった。柴山さん!」


「僕の出番ですね。ライト!」


 柴山さんは、回復魔法『ヒール』の他に『ライト』が使える。

 ライトは、その名の通りで光球を出現させる魔法だ。

 夜間の照明に大活躍している。


 柴山さんは、魔法で発生させた光球を神殿の奥の方へ移動させていく。

 石造りの通路をゆっくりと光球が移動して、石造りの天井や壁を照らす。

 俺たちは入り口から、通路をのぞき込む。


 光球はかなり奥の方まで進んだが、光球を見て神殿の住人が飛び出してくることはなかった。


「オーイ! 誰かいませんかー!」


 俺は大声で、何度か呼びかけてみたが返事はない。


「誰もいないっぽいな……」


「だな……」


「そのようですね。ここも無人の神殿ですか……」


「がっかりだね……」


 俺たちは、町――つまり人の存在を確認する為に、拠点を出て旅をしている。

 人工物を見つけたが、人がいないとわかったのだ。


 それは、もう、がっかりする。


 だが、俺は映画『ダイハード』を思い出して気分を切り替えた。


 ヒーローは、どんな時でも下を向かないのだ。

 絶体絶命のピンチでも、逆転のチャンスを狙う――それがヒーロー!


 今、仲間たちは下を向き、絶望に打ちひしがれている。


 何かないか?

 みんなが元気になることは?


 何かないか?

 プラス材料は?


 俺は腰に手をあてて、ゆっくり歩きながら、ブルース・ウィリスの口調――CV野沢那智――を真似ながら話し出した。


「なあ、みんな。たぶん、がっかりしているよな? ショックを受けているよな? そりゃそうだ! 俺たちは七日間、歩き続けてきたんだ! 昼は魔物を倒し、夜になれば木の上で寝て……苦労の連続だ!」


 俺とリクはスキル『身体強化』があるので、それほど辛くはないが、マリンさんと柴山さんは、旅の最初はキツそうな顔をしていた。

 そして、夜は魔物の襲撃を恐れて、木の枝に体をくくりつけて寝た。


 おっ……思考停止していた仲間たちの頭が動き出したらしい。

 三人とも下を向きながらも、うなずいたり眉根を寄せたりしている。


「確かに、ここには人がいないらしい。俺もガッカリだ! だが、一つ……良いことがある!」


 リク、柴山さん、マリンさんが俺を見た。

 疑問一杯の顔だ。


『良いこと……? 何だろう……?』


 そんな顔をしている。


 俺は人差し指をピンと立てて、ブルース・ウィリスっぽい表情を作る。

 そして、石造りの床を指さした。


「今日は、床の上で眠れる」


 しばらく沈黙があったが、三人が徐々に笑い出した。


「クッ……クッ……ククク……」

「んふふふふ……ふふふ……」

「ふふ……ハハハハ……」


 俺は両手を広げて、満面の笑顔を作る。


「な? 最高だろ? 今日の寝床は、枝の上じゃないんだぜ! それに、ホラ! 屋根もついてる! ゴージャスな三つ星ホテルだ! だろ?」


「ク……ハハ! ミッツ! オマエ、バカじゃねえのか?」


「ふふふ! 本当に! ミッツさん! バカよね!」


「ハハ……本当……ミッツさんは、バカですね! 僕は、もう降参ですよ!」


「おお? そうか? まあ、とにかくだ! 今夜の宿は決まったんだ! メシにしようぜ!」


 やった!

 三人とも元気が出たぞ!


 ありがとう!

 ブルース・ウィリス!

 ありがとう!

 野沢那智!


 あんたらの真似をしたら、何となく良い雰囲気になったよ!

 二人は俺のヒーローだ!


 イッピカイエー! マザーファッカー!

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