第11話 町を探して探索の旅1~柴山視点
――柴山視点――
■異世界転移三日目、拠点を出発して一日目
私は柴山総一郎。
日本では東江戸川大学国際セキュリティ学部の大学院に通う大学院生でした。
しかし、異世界らしき場所に通勤電車ごと転移してしまい、本日危険が予想される旅に出ることになりました。
この日記は記録の為、また、私が命を落とした時の為に記します。
この日記を手にし読んでいる方にお願いします。
もし、私が亡くなっていたら、もし、あなたが日本に帰ることが出来たら、父と母に伝えてください。
総一郎は幸せでした。
ありがとうございました。
さて、昨晩のことですが、ミッツさんが町を探しに行くと再び言い出しました。
ミッツさんは、転移初日に町を探しに行こうとしたのですが、車掌の町田氏に止められました。
町田氏は鉄道会社の人ですので、今回の転移事件に一定の責任があるのかもしれません。
少なくとも町田氏本人は責任を感じている様子でした。
(私は、町田氏には何の責任もなく、ただただ不運であったと考えています)
町田氏は、『食料の供給』『安全の確保』以上の二点をもって、ミッツさんを引き留めました。
ミッツさんは魔法攻撃のスキルを持ち、転移した場所周辺に生息する巨大な鹿『グレートホーンディア』を狩り、転移したみなさんに食料を提供していたのです。
また、ミッツさんが魔物と戦う姿を多くの人が目にしたことで、『魔物からの襲撃を撃退できる』と安心感を与えていました。
だから、町田氏は、ミッツさんが町を探しに行くこと、つまり転移した場所から離れることに反対したのです。
しかしながら昨晩佐伯グループのリーダー佐伯君から、転移した場所周辺が安全地帯であり、魔物の侵入がないとの検証結果が報告されました。
そして、我々が仲間を募り、増やしたことによって、攻撃スキルや魔物の解体スキルを持つ仲間を獲得しました。
これによって、転移した場所の安全確保と食糧供給の安定がもたらされたのです。
私は、町を探しに行くことに賛成し、ミッツさん、リクさん、マリンさん、そして私柴山総一郎が、探索の旅に出ることになりました。
初日は、いきなり頭の痛いことが起りました。
朝一番で転移場所から出発しました。
ミッツさんは自信満々に、明るくおしゃべりをしながら歩いています。
リクさんがミッツさんに話しかけました。
「オイ! ミッツ! この方角でいいのか? こっちに人里があるのか?」
「え? 知らないよ!」
「知らないって……。じゃあ、なんでこの方角に進んでるんだよ!?」
「野生の勘!」
「「「なっ!?」」」
私、リクさん、マリンさんは、絶句し歩みを止めてしまいました。
ミッツさんは、行動力に溢れた人なのですが、少々考えが足らないところがあります。
それにしても『野生の勘』はないでしょう。
リクさんとマリンさんが、ミッツさんを叱りつけます。
マリンさんに叱られて、なんだかミッツさんは嬉しそうです。
きっとダメな性癖が開花しているのでしょう。
私は急いでどうすれば良いかを考え、リクさんにお願いして木の上に連れて行ってもらいました。
この辺りは針葉樹林の森で、木は太く非常に高さがあります。
木の上から、村や町を探そうと考えました。
「なるほど! ナイスアイデア!」
ミッツさんも木の上に登ってきて、私を賞賛しますが、どうも考えることを放棄して、考えることを他人に放り投げている気がします。
閑話休題。
転移した場所には、神殿らしき巨大な石造りの建造物がありました。
つまり、そのような建造物を造る文明が存在しているのです。
古代エジプトから古代ギリシア程度の文明は存在している……ないしは、存在していたと確信しています。
であれば、この世界に住んでいる人類は、火を使っているはずです。
「煙や火を探してください!」
私はミッツさん、リクさん、マリンさんに、火が存在している可能性を説明しました。
調理、鍛冶、祭事など、人類の生活に火は密接に関わっています。
人里があれば、必ず火が使われているはずです。
高い木の上から四方を探しましたが、残念なことに人類の痕跡は見つかりませんでした。
しかし、大きな川を発見しました。
「柴山さん。これ使えるかな?」
リクさんが、ポケットから何か取り出しました。
コンパスです!
小さなキーホルダーのコンパスですが、ちゃんと機能しています!
「俺はキャンプが趣味で、これをスマホにぶら下げているんだ」
コンパスがあるのは大助かりです。
リクさんと川の位置を確認すると、川は南へ蛇行していることがわかりました。
「川を目安に南へ向かうのはどうでしょう?」
狙いはオリエント、四大文明です。
人類は川の近くに拠点を築き、川とともに文明を発展させてきました。
川の近くに町なり、村なりがある可能性は高いのです。
「ヨッシャー! これで勝てる!」
ミッツさんは、一体誰と勝負をしているのでしょうか……。
それでも、ミッツさんの元気の良さや前向きさは、今の絶望的な状況ではありがたいです。
我々は前を向くことが出来ます。
暗闇の中に光を照らせる。
リーダーは、こうあって欲しいと思うのです。
地上に降りてからは、リクさんのコンパスを頼りに南へ移動しました。
森の中ですので、迷わないようにリクさんが木に傷をつけたり、枝を折ったりして、目印を作りながら進みます。
途中、グレートホーンディアと接触しましたが、ミッツさんの攻撃スキルで瞬殺です。
リクさんがグレートホーンディアをアイテムボックスに回収し、解体、食料になります。
我々はお昼休憩を挟んで、日が暮れるまで移動しました。
夜になり木の上に登りました。
火! とにかく火です!
夜になれば遠方の火もわかります。
ですが、初日の夜は火――つまり人類の痕跡を見つけることが出来ませんでした。
私は大いに落胆しました。
「柴山さんの仮説は正しいよ! 明日以降も火や煙を探して行こうぜ! きっと町や村はある! 絶対にある!」
ミッツさんが力強く私を励ましてくれました。
何の根拠もないのですが、ミッツさんの力強い言葉を聞いていると元気が出ます。
そうですね。
気持ちを強く持たねば!
折れてはいけないのです!
お父さん、お母さん。
総一郎は、今日も元気です。
必ず生き残って見せます!
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