第10話 魔石の存在
「魔物? あの巨大な鹿のこと?」
「ええ。僕らは魔物と呼んでいます。体内に魔石を持っています」
「えっ!? 魔石!?」
魔石!?
そんなのあるのか!?
「ミッツ! これだ! スキルで『解体』したら出てきた。」
俺が首をひねっていると、リクがアイテムボックスから何か取り出して俺に放った。
ソフトボール大の石だ。
緑色の半透明で、手触りはツルッとしている。
色のついた水晶玉みたいで、ズシリと重い。
「佐伯君。これが魔石?」
「そうです。ウチのクランメンバーが言うには、魔力がこもっているそうです」
「魔力ねえ……」
俺は何も感じない。
佐伯君のクランメンバーは、魔力を探知するスキルでも持っているのだろう。
「ただ、現時点では、魔石が何に使えるかはわかりません。要研究ですね」
俺は魔石を自分のアイテムボックスに収納してみた。
すると、『グレートホーンディアの魔石』とステータスに表示された。
グレートホーンディアは、あの巨大な鹿のことだ。
アイテムボックスに倒した魔物を放り込めば、名前がわかる。
魔石を仲間に渡して順番に見てもらう。
魔石に興味津々の人もいれば、おっかなびっくり魔石を触っている人もいる。
「大きくて重いね」
「アニメなんかだと、魔石はもっと小さいよね」
「大きいからレアな魔石なんじゃない? これ売れるかな?」
そうだな。町を見つけたら、魔石が売れるか聞いてみよう。
「わかった。じゃあ、これからは、あの化け物を魔物と呼ぼう。ウチの仲間も佐伯君たちと同じ呼び方にするよ」
「用語は共通にした方が良いですよね。この辺りはあの鹿……グレートホーンディアばかりです。他の魔物は見ていません」
「ウチも同じだね。食料調達で狩りをしているけれど、他の魔物は見てない」
「やっぱりそうですか。明日以降、調査範囲を広げてみます」
佐伯君は、ノートに俺のコメントを書き込んだ。
開いたページには、石造りの神殿のイラストがあり、その周りに円が描かれている。
そして安全地帯と書いてある。
「佐伯君。この安全地帯というのは?」
「この神殿を中心に半径五百メートルが安全地帯です。魔物は入ってきません」
「えっ!? それは間違いないの!?」
本当なら夜の見張りを減らしても大丈夫だ。
何より安心出来る。
「ほぼ間違いないと思います! 偶然発見したのですが……、グレートホーンディアにウチのメンバーが追いかけられたんですよ。けれど、神殿の近くになったらグレートホーンディアは引き返してしまいました。何度か同じ状況を再現して検証した結果、半径五百メートルが安全地帯とわかりました」
「「「「「スゲエ!」」」」」
仲間たちが、歓声を上げて拍手をする。
グレートホーンディアに襲われるかもしれないと、みんな不安だったのだ。
俺もホッとしたし、これで町を探しに行く条件の一つ『みんなの安全』がクリアされた。
少なくとも、神殿の近く『安全地帯』にいれば、魔物に襲われることはない。
車掌の町田さんも、ちょっとは寝られるようになるかな。
佐伯君は、俺の仲間たちが喜んだのを見て、嬉しそうに笑った。
「それで! 日本に帰る方法は?」
仲間の一人が発した言葉に、場が静まった。
昨日は異世界に転移したばかりで、みんなパニック状態だった。
一晩明けて、少し落ち着き……。
そして、日本に帰りたいと思いだした人が出始めたのだろう。
みんなが期待のこもった目で、佐伯君を見ている。
佐伯君は、申し訳なさそうに告げた。
「すいません。日本に帰還する方法は、わからないです」
何とも気まずい空気だ……。
仲間たちは露骨にガッカリしているし、佐伯君は、居づらそうにしている。
俺は、すかさずフォローの言葉を口にした。
「そりゃ、そうだろう。こんな訳の分からない怪奇現象だ。日本に帰る方法が、一日やそこらで分かるわけがないよ。佐伯君たちは、色々よく調べてくれたと思う。ありがとう! 感謝しかないよ!」
柴山さんが、空気を読んで俺の後にすぐ続いた。
「そうですね。特に安全地帯が分かったのは大きいです。当座の安全確保出来たのですから、大殊勲! 大金星と言えるでしょう!」
佐伯君たちとは、上手くやっていきたいし、今後も情報を提供してもらいたい。
ここでへそを曲げられるのは不味いのだ。
幸い俺の仲間たちは、二十代三十代の社会人が中心だ。
みんなすぐに空気を読んでくれた。
佐伯君は他の検証結果を報告してくれたが、場はお通夜みたいに静かだった。
不味いな……。
仲間も増えて良い雰囲気だったのに、一気に暗くなってしまった。
佐伯君が帰った後、俺はリク、柴山さん、マリンさんと四人で話をすることにした。
「明日、出よう! 町を探しに行こう!」
「オイ! ミッツ! 待てよ!」
リクが驚いた顔をして、俺を止めようとする。
だが、俺はもう決めたのだ。
「リク。さっきの空気を覚えているだろう? 俺たち、このままじゃダメだ。みんなが明るい気持ちになれるようにしないと。後ろ向きじゃ生き残れない」
「それで町探しを急ぐのか?」
「うん。他にいい手が思いつかない」
「まあ……、わかる話だ。反対はしないよ」
リクは了承してくれた。
他のメンバーはどうだろう?
「柴山さんとマリンさんは?」
「僕は賛成ですね。今日のスカウトで戦闘スキルを持つ人、解体スキルを持つ人が加わりました。食糧供給は問題ないでしょう。そして安全地帯が明らかになったことで、僕たちが出発する条件は整ったと判断します」
「私は……。もしも、日本に帰る方法があるなら……。日本に帰りたい! だから、町を見つけて、この転移のことを調べてみたい」
「決まりだ! 明日の朝出るぞ!」
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