第8話 取り引きをする? しない?
「取り引き?」
イケメン高校生佐伯君は、俺たちと取り引きがしたいと言う。
「ええ。ミッツさんのグループには、鍛冶が出来る人がいますよね? 僕たちは武器が欲しいんです!」
鍛冶?
ああ……、金属加工のことか!
確かに金属加工のスキルを持った人が仲間にいる。
何でわかったのだろう?
しかし、武器か……。
考えなしに渡すのは、危険な気がするな……。
俺が黙っていると佐伯君は、ドンドンしゃべりだした。
「あれ? 僕のことを警戒していますか? 僕は勇者でクランリーダーをやっています。クランって言うのは、冒険者が沢山集まった大人数の冒険者パーティーのことです! メンバーは高校生を中心に五百人います!」
「「「「五百人!?」」」」
俺、リク、柴山さん、マリンさんが、驚き目をむく。
五百人は相当な規模だ。
そんなグループが出来ていたなんて知らなかった。
「高校生が中心ってことは、勇者や賢者が多いのかな?」
「そうです! 勇者、賢者、聖女がダース単位でいますよ!」
佐伯君は、爽やかスマイルで元気よく答えてくれたが、戦闘力を考えると恐ろしいグループだな……。
俺たちで、対抗できるか?
武器を渡しても大丈夫か?
とはいえ……。
頭ごなしに断って、勇者佐伯君が怒って暴れだしたら誰が止める。
ここは慎重にいこう!
俺は不安を感じながらも、佐伯君との会話を続けた。
「それで……、ええと……、取り引きだよね? 佐伯君たちは武器が欲しい。引き換えに俺たちには何をくれるの?」
「情報です! 僕たちは色々検証をしようと思っています。武器と引き換えに検証結果を教えます!」
「検証結果?」
「ええ。ステータス、ジョブ、スキル、経験値、レベルアップ、あの石造りの神殿みたいな建物、この場所、知りたいこと、調べてみたいことが沢山あるんです!」
佐伯君は大興奮で身振り手振りを交えながら、調査したいことを指折り数える。
何だろう?
佐伯君は、とても楽しそうだ。
この追い込まれた状況なのに。
何が楽しいんだろう?
話を続けても良いのだろうか?
俺はリクと顔を見合わせた。
リクが軽くうなずいたので、とりあえず話を続けてみる。
「それを佐伯君のクランで調査検証すると? その結果を教えてくれると?」
「はい! そうです! どうですか? 悪くない取り引きでしょう?」
「そうだね……。まず、仲間と相談させてくれるかな?」
「仲間と? リーダーはミッツさんじゃないんですか?」
「いや、俺は――」
「ミッツがリーダーだ!」
「リーダーはミッツさんです」
「ミッツさんですよ。リーダーは」
俺が否定しようとしたら、リク、柴山さん、マリンさんが一斉に俺がリーダーだと言い出した。
いつの間に、俺がリーダーになったんだろう?
まあ、今、誰がリーダーか議論しても仕方がない。
俺は気を取り直して、佐伯君に正式に取り引きの返事をした。
「俺たちは仲間と相談して色々決めるんだ。それに武器が作れるかどうか確認が必要だろ? だから、返事は待ってくれ」
「ミッツさんグループは、合議制なんですね……。ん~、わかりました。それじゃ、僕たちは電車の後ろの方に本部がありますから、決まったら教えて下さい」
「おう! わかった!」
佐伯君は、何か言いたそうに去って行った。
「どう思う? 佐伯君たちに武器を渡して、情報をもらう取り引きだけど……。俺は気が進まない」
「ミッツらしくないな? やろう! やろう! って言わないのか?」
リクは心底意外だと驚いる。
「リクだって、昨日見ただろう? 女子高生勇者! メチャクチャ強かったじゃないか! あんなのがダース単位でいる所に、武器を渡してどうすんだよ!」
「俺は取り引きした方が良いと思うぜ。昨日、俺とミッツでスキルの検証をしたけど、佐伯君たちは五百人単位でやるんだ。相当色々なことがわかるだろう。情報をもらわなかったら、俺たちと勇者たちの差は、もっと開くぜ?」
「それは……。そうだな……」
なるほど。
リクの言うことも、もっともだ。
「俺たちが検証を二人でやった。五百人でやったら、五百倍か……」
「えっ? いや、五百÷二だから、二百五十倍じゃねえか?」
「えっ? そうなの?」
頭を使うのは苦手なんだよな……。
「ま、まあ、とにかく! 俺たちがやるよりも、スーパーハイパーな効率で、スバラシイ情報が手に入るってことだな!」
「「「……」」」
だから、頭を使うのは苦手だって!
話をそらそう。
俺はマリンさんに話を振った。
「マリンさんは、どう思う?」
「私は……反対かな……。武器を作って、佐伯君たちに渡すんでしょ? 他の人も欲しがるんじゃないかな。そしたらエスカレートして、みんなが武装するようになるよ。それって、怖くない?」
「みんなが武装かあ……」
マッドマッ○スみたいだ。
ぞっとしないな。
「僕は取り引きした方が良いと思います」
柴山さんだ。
眼鏡をクイッとしながら、強く主張してきた。
「佐伯君たちの戦力は圧倒的ですよね? でしたら、佐伯君たちと敵対するのは避けるべきです。少なくとも今は、僕たちを対等の取引相手と見なしています。取り引きを了承すれば、攻撃されることはないでしょう」
「取引相手として関係を構築しろと?」
「ええ。その方が安全でしょう。取り引きを断って敵対するのは悪手ですよ。僕は佐伯君が怖いです」
「勇者だからね。メチャクチャ強いと思うよ。戦うと想像すると俺も怖いよ」
「ミッツさん。そうではありません!」
何だろう?
佐伯君の強さを問題にしているんじゃないのか?
柴山さんの体が強ばっている。
そんなに佐伯君が怖いのだろうか?
「佐伯君は、今の状況をゲームみたいに捉えているんです。聞いたでしょう? クランとか、冒険者パーティーとか。きっと、佐伯君は、新しいゲームの検証をする感覚なんですよ! 現実なのに!」
「お、おう……。そうかもしれないな」
「僕たちは、NPCにならないようにしなければなりません。NPCになったら、容赦なく殺されるかもしれません」
「NPC?」
俺もゲームはやるけれど、あまり詳しくはない。
NPCに首をかしげると、リクが補足してくれた。
「ミッツ。ノン・プレイヤー・キャラクターのことだよ。ゲームに出てくるモブキャラだ。柴山さんが言うこともわかる。ゲーム感覚ってのは、当たってそうだ。NPC認定されたら、何をされるかわからないな……」
リクは、佐伯君が去った方向に視線を移し、警戒感のにじみ出た顔をした。
マリンさんも、柴山さんの意見に賛成した。
「柴山さんの推測は正解かも。佐伯君は大興奮だった。新しいゲームを手に入れて、夢中になっている感じだったよ」
「さらに悪いのは、五百人を集めた政治力です。いや、カリスマ性かもしれません。ゲーム感覚で……、さらに人を集める魅力がある人物なんて、この後、何をするか……。非常に危険を感じます!」
確かに一日で五百人のグループを作ったのは凄いと思う。
柴山さんが、佐伯君を恐れるのは、ジョブやステータスじゃない。
佐伯君自身の人格や元々持っている力を恐れているんだ。
だが、それなら――。
「それなら、なおさら武器を渡したら不味いだろ? 取り引きを断った方が良くない?」
「取り引きを断った後に、力づくで来られる方が不味いです。その時は、対等な取引相手ではなく、佐伯君の支配下にあるNPC扱いですよ」
「そりゃ……、嬉しくない未来だな……」
あり得る話だ。
リクとマリンさんも渋い顔をしている。
俺はため息交じりに、認めたくない言葉を吐き出した。
「はあ……。俺たちに選択肢はないのか……」
「ええ。で、あれば! 僕たちが有利な内容で交渉した方が良いでしょう。取り引きで渡す武器は最小限にして、僕たちも武器を持ちましょう」
「武装するのか!」
「そうです! 僕たちは、佐伯君たちにステータスやジョブで負けていると推測します。ならばせめて、武器の数で勝っていないと対等な立場を得られません」
「わかった」
俺は柴山さんの言い分を受け入れた。
リクは積極賛成し、マリンさんも渋々ながら受け入れた。
金属加工が出来る仲間も消極的ながら賛成し、俺たちは取り引きすると佐伯君に伝えた。
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