第7話 出発! 出来ません!

 ――翌朝!


 俺は町を探しに行くと決めた。

 マリンさんや昨日から行動を共にしている仲間に打ち明けたところ賛成意見が相次いだ。


 特に鋼鉄の料理人津田さんの意見は深刻だった。


「もう、みんな気が付いていると思うが、調味料がないんだ。さ、し、す、せ、そ。全てない。肉を焼くだけではなあ……」


 津田さんが焼いてくれた巨大な鹿の肉は美味しかった。

 だが、確かに味付けが何もないので、朝食の段階で飽きが来ている。


「ご飯が食べたい」

「パンとか炭水化物が欲しい」

「野菜! 私は葉物がないと辛い!」

「コーヒーか、せめてお茶が飲みたいです。水ばかりでは……」


 ああ。俺もコーヒーが飲みたい。

 缶コーヒーのベッタリとした甘さが、疲れている時に効くんだよな。


 俺の仲間たちから反対意見は出なかった。


「マリンさん。一緒に来てもらえますか?」


「喜んで! 異世界の町へ行くなんて楽しそうじゃないですか!」


 飲料水担当のマリンさんも確保。

 これで、出発できる……と思ったら、邪魔が入った。


 俺たちが話しているのを聞きつけて、クレームオッサン軍団がやって来たのだ。


「勝手な行動をとるな!」

「君たちがいなくなったら、誰が食料を調達してくるんだ!」

「そうだ! そうだ! ここの安全確保はどうなる!」

「夜の見張りが減るじゃないか!」

「責任を持て!」


 俺はカチンと来て、言い返した。


「アンタたち何を勝手なことを言ってるんだ! 俺に何の責任があるっていうんだよ! このままここにいてもジリ貧になるから、町を探しに行くんだろうが!」


 鹿の代わりにコイツらを撃ってしまいたい。

 俺はイライラしたが、イラッとしたのは、俺だけではなかった。

 仲間たちから、強烈な不満の声が上がる。


「そんなに元気だったら、食料は自分たちで調達すれば?」

「夜の見張りって……、そちらは誰も見張りをやってないですよね?」

「安全確保? 笑わせるなよ。自分で戦えよ!」

「そうだ! 高校生の女の子だって、戦ってたぞ!」


 ジョブ『勇者』の女の子がいて、巨大鹿の顔面を素手でぶん殴っていた。

 巨大鹿は一発もらってグロッキーになっていたので、素手でも相当強い。

 さすが勇者!


 それに比べて、このオッサンたちは……。

 オッサンでもジョブやスキルによって、活躍の場はいくらでもあると思うのだが……。


 俺の仲間たちと、クレーマーオッサンズが大声でもめだしたので、車掌の町田さんが仲裁に入った。


「ミッツさん。町を探しに行くのは、数日待ってください!」


「どうしてですか!?」


「実は――」


 俺は寝ていて気が付かなかったが、昨晩痴漢騒ぎや盗難騒ぎがあったそうだ。


 女性が宿泊している電車をのぞき見しようとして、女性の見張りにボコボコにされた男が一名。


 カバンに入れてあったのど飴が一つなくなった、盗まれたと騒ぎ出した男が一名。


 話を聞いていたマリンさんが、呆れてつぶやいた。


「そんな……のど飴一つで……」


 俺も同じ思いだ。

 だが、柴山さんは違う考えらしい。


「いや、飴一つでも日本の物は貴重品ですよ。もう、二度と手に入らないのです。それに食料品ですから、盗まれた人にとっては死活問題でしょう」


「「「「「ああ~」」」」」


 俺たちの仲間全員で納得した。

 なるほどなあ……、そりゃ騒ぐよな。


「だったらなおさら、早く町を見つけて食料品を手に入れた方が良くないですか?」


 俺は車掌の町田さんに強く申し入れた。

 町田さんは、何度もうなずきながらも、俺たちが出発することを押しとどめた。


「みなさんミッツさんのことを知っているんですよ。食料を提供してくれる親切な人だと定着しています。今、ミッツさんがいなくなったら、大パニックです」


「はあ……」


 別に親切でやっている訳じゃない。

 状況が状況だから、食料を分けただけだ。

 自分への評価が正確ではないことにため息をつく。

 俺は『スーパー親切マン』じゃないよ。


「ですから、食料を提供してくれる人が増えるまで待ってください。そうしないと、治安が一層悪くなってしまいます!」


「うーん……」


「お願いします!」


 車掌の町田さんの声は、悲鳴のようだ。

 目の下にはクマが出来て、頬はこけてゲッソリしている。


 人間たった一晩で、こんなになっちゃうんだ……。


「わかりました。数日様子を見ます」


「ありがとうございます!」


 俺は車掌の町田さんからの要請を受け入れた。

 クレームオッサン軍団と車掌の町田さんがいなくなると、リクが面白くなさそうに首を振る。


「ミッツ……。イイのかよ?」


「仕方ないだろ? 町田さんゲッソリして、あんな状態で頼まれたら断れないよ」


「まあ、しゃあねえか」


 俺は仲間に声を掛けた。


「とにかく良いスキルを持っている人を探して、仲間に引き込もう。特に狩りが出来る人、獲物の解体が出来る人を優先だ!」


「「「「「了解!」」」」」


 町を探しに行く――目標を変える気はない。

 ただ、ここでの暮らしを、もう少し安定させてから、食料を安定確保出来るようになってから出発だ。


 面倒は面倒だけれど、餓死者が出たり、食料の奪い合いで死者が出たりしたら気分が悪いからなあ……。



 仲間たちが散って、俺、リク、柴山さん、マリンさんも動き出そうとした時、イケメン高校生が声を掛けてきた。


「すいません。ミッツさんですか?」


「そうだよ。君は?」


「勇者佐伯です!」


「お、おう……!」


 勇者佐伯君は、キラキラした笑顔を俺たちに向けた。

 若いってスバラシイですね……。


「相談したいことがあるんです! 僕たちと取り引きしませんか?」

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