第6話 行動目標

「ミッツ! 起きろ! 俺たちの番だぞ! 見張りだ!」


「ん……。おお……。もう、三時か……」


 ウトウトしていると、リクに叩き起こされた。


 異世界転移一日目の夜、どうやって寝るかで非常にもめた。


 とにかく好き勝手なことを言う人が多い。

 特に年輩男性に多かった。


『オイ! ホテルはないのか!』

『オマエら探しに行けよ!』

『風呂に入りたい!』

『運転手と車掌は、責任取れよ!』


 運転手さんと車掌さんに詰め寄り、とにかく文句ばかりだ。

 気持ちは分かるが、何もしないでいれば寝る場所がないままになる。


 運転手の斉藤さんと車掌の町田さんは、クレーム対応で動けない。

 だが辺りはドンドン暗くなってくる。


 俺はマリンさんたち女性陣と相談して、俺たちが乗っていた車両は女性専用の宿泊所にした。

 木工スキル持ちが、簡易ベッドを作り、リクが解体した巨大鹿の毛皮が布団代わりだ。


 そして、俺たち男性は、石造りの神殿らしき建物で寝ることにした。


 火魔法スキル持ちが松明代わりに、魔法の火を空中に灯す。

 男性陣で神殿内部を探索すると、奥の部屋で人骨が見つかった。


『うわ……』

『ヤバイ……』

『南無阿弥陀仏!』


 ジョブ『ブッダ』、スキル『成仏』とか、誰かいないかな?


 人骨が怖いので、俺たちは神殿の入り口近くに陣取り、見張りを立てて、交代で寝ることにした。

 巨大鹿の毛皮を敷いて、雑魚寝だ。


 一応、運転手の斉藤さんと車掌の町田さんには、『女性が電車を使い、男性が神殿で寝る』ことを報告したのだが、周りにいたクレームおっさんたちに文句を言われた。


『オマエら勝手なことをするなよ!』

『誰の許可をもらって決めたんだ!』


 コイツらは、昼メシも晩メシも、俺が狩ってきた肉を食ってた。

 何もしないで文句ばかり言う。


『文句ばっかり言ってないで行動しろよ! 使えるスキルがあるヤツは、スキルで何かしているし、そうじゃないヤツは、薪になりそうな枝や枯れ葉を拾ってきたりしてたぞ! 助け合えよ!』


 こんな森の中で、文句ばかり言っていたら死んでしまう。

 今の状況は、山の中で遭難しているのと同じなのだ。

 さらに、救助の見込みもない。


 とにかく生き残るために行動をしないと不味い……と俺は思うのだが、クレーマーオッサンたちは違うようだ。


『オマエの勤務先はどこだ! オマエの上司に文句を言ってやる!』

『私は大会社の部長だぞ! 誰に向かって口を聞いているつもりだ!』


 何言ってるんだコイツら……。

 相手にする時間ももったいない。


 俺は罵声を飛ばすオッサンたちの相手はせず、リクや柴山さんたちの所へ戻った。


 俺たちが行動したことで、他の人たちも同じように動いた。

 電車は女性が利用し、男性は思い思いの場所で夜を明かすことになった。


「オオーン!」


 遠吠えが聞こえた。

 かなり遠く感じる。


 リクに叩き起こされ、寝ぼけ眼でたき火に近づく。


「お疲れ様です。交代します」


 見張りは、俺、リク、柴山さんの三人に交代だ。

 たき火にあたっていた見張りの三人の顔色が悪い。

 一人が不安そうな声を出す。


「あの鳴き声……大丈夫ですかね……」


「大丈夫だよ。近づいてきたら、ミッツが追い払う」


「そうそう。それに、今まで獣が近づいてないですよね? 恐らくこの神殿は、獣が近づけないようになっているのでしょう。例えば結界とか、何かしら不思議な力で」


 リクが軽い調子で請け合い、柴山さんが論理的に説明して三人を安心させた。

 見張りをしていた三人は、ホッとした顔で神殿へ寝に向かった。


 三人でたき火にあたりながら、ボーッとしていると柴山さんが話し出した。


「昼間は、申し訳なかったです」


 柴山さんは、何について謝っているのだろう?

 俺は理由が分からず聞き返す。


「何が?」


「お昼のことです。ほら、運転手の斉藤さんと車掌の町田さんに、食事を分けてくれと頼まれた時に、僕が抗議したでしょう? 勝手にスイマセンでした」


「ああ、あれか……。いや、気にしないでよ。俺は考えるのが苦手で、動いている方が好きなんだ。だから、柴山さんが色々言ってくれて良かったよ」


 俺は本当に気にしていない。

 言うべきことを言ってくれる人は貴重だ。


 俺に続いてリクも気にするなと口にした。


「ミッツの言う通りだ。それに柴山さんが言ったことは、間違ってない。俺も同じ気持ちだよ。何もしないで、文句を言うヤツが多すぎる!」


「そう言っていただけると、気持ちが楽になります。それにしても、鉄道会社の二人は当てに出来ませんね……」


「クレーム対応で精一杯だよな」


「憔悴していました。本来は、あのお二人が仕切って色々と決めていくのでしょうが、無理ですね」


 リクと柴山さんの言う通り、無理だろうな。

 運転手の斉藤さんも車掌の町田さんも、クレームオッサンたちに色々言われて疲れ切っていた。


「問題は、これからどうするかですね……」


「そうだな。初日は何とか乗り切れたが……」


 リクと柴山さんは、途方に暮れている。

 そんなに困ることだろうか?

 俺は明日からやろうと思っていることを口にした。


「町を探そうぜ!」


 俺が町を探そうと言うと、リクは戸惑い、柴山さんは考え込んだ。


「おい、ミッツ! 町を探すって軽く言うけど、昼間狩りに出た時に気が付いただろう? この近くには何もねえよ」


 俺とリクは、昼間、この近辺を探索した。

 食料確保の為に狩りをし、食べられそうな木の実を探したのだ。


 行けども行けども森ばかりで、道とか、森番の家とか、人が住んでいる気配はなかった。


「だから遠征だよ。何人かでチームを組んで、遠征しようぜ! 俺とリクがいれば、狩りをして食料が手に入る。マリンさんがいれば、飲み水の心配はない。柴山さんが来てくれれば、怪我をしても回復できる」


「それは………、そうだな……」


「な! 長期の遠征が可能だろ!」


 最初は俺とリクで、身体強化を使って強引に森を突っ切ろうと考えた。

 けれど、この森は思っていたよりも広そうなのだ。


 なら、マリンさんと柴山さんにも同行してもらって、移動速度が落ちても長期間活動できた方が良いと考え直したのだ。


 リクはアゴに手をあててイケメンポーズで考え込んでいる。


「確かに、その四人なら遠征が可能だろう……。だが、この世界に人間が住んでいるって保障はないだろう?」


「神殿に人骨があったじゃないか!」


「あれは、俺たちと同じように、転移して来た人かもしれないぜ」


「あっ……そうか……」


 俺はリクの言う通りだなとガックリきたが、柴山さんの眼鏡がキラリと光った。


「僕は人類が存在している可能性があると思います。この石造りの建物は、明らかに人が作った建造物だ。それも一つ一つの石がキッチリ同じ大きさに切り出されている。これは相当高度な文明をもった人類が存在する証拠だよ!」


「しかし、相当古い建物だぜ。既に人類が滅んじまったかもしれないぜ?」


「むっ……。その可能性は否定出来ない」


 リクと柴山さんは、腕を組んでウーンと考え込んでいる。


 面倒だな。

 俺としては、とにかく人里を探しに行きたい。

 俺は二人に強い口調で話した。


「いや、でもさ。人がいる。町なり村なりが、どこかにあるって考えようよ。まず、動こうぜ!」


 リクと柴山さんは、一瞬顔を見合わせると笑顔になった。


「そうだな! ミッツに賛成! その方が前向きで良い!」


「ミッツさんの言う通りですね。今、僕たちに必要なのは行動力です。町を探しに行きましょう!」

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