第3話 初戦闘

 森の奥から現れた巨大な鹿は、赤く光る目で俺たちをにらんでいる。

 前足で何度も地面をひっかき、頭を左右に振って角を揺らし威嚇してきた。


「デケエ……」

「こっちをにらんでるよ!」

「怖い!」


 本当に大きい!

 さっき俺が飛び乗った木よりも、背が高いのだ。


 三メートルを超えている。

 四メートルあるかもれしれない。


 あんなのに踏み潰されたら、ひとたまりもない。


 俺はマリンさんをチラリとみた。


「ヒッ……」


 今にも恐怖で倒れそうだ。

 マリンさんは、身を守るスキルを持っているのだろうか?

 心配だな……。

 何とかしなくちゃ!


「アイツは、俺が何とかするから! マリンさんは、みんなと電車の所へ戻って!」


「だ……大丈夫ですか?」


「さっきの木を倒した攻撃を見たでしょ? 大丈夫!」


「がんばってください!」


 マリンさんの応援を背に受けて、俺は一気に高い枝に飛び乗った。

 スキル『身体強化』が発動しているので、体が軽い。


 巨大な鹿と目が合う。

 真っ赤な目は、俺をにらみ殺そうと怪しく光る。


「オイ! ミッツ! 何してるんだ!」


 リクが近くの枝に飛び乗ってきた。


「コイツを引き離す!」


「無茶するなあ……」


「リクも逃げろよ。みんなを電車のある方へ連れて行ってくれ!」


「わかった。死ぬなよ!」


 リクは、さっと枝から飛び降り、みんなを連れて電車がある方向へ駆け出した。

 巨大な鹿が、逃げるみんなの方へ視線を移す。


 俺は、すかさず巨大な鹿を挑発した。


「こっちだ! 化け物! 子鹿野郎!」


 大声を出し、手を叩き、細い枝を折り、巨大な鹿に投げつける。

 俺の挑発が功を奏して、強大な鹿の注意が俺の方へ向いた。


「さあ、来いよ! 追いついてみな!」


 俺は、枝から飛び降りると、みんなが逃げたのと逆方向へ走り出した。

 スキル『身体強化』の効果で、グングン走るスピードが上がる。

 森の中では怖いくらいだが、後ろか巨大な鹿が追ってくるから、スピードを緩めるわけにはいかない。


 巨大な鹿は、木の枝などお構いなしで、角や体に枝が引っかかっても、へし折って俺を追いかけてくる。


(そろそろ、大丈夫かな……)


 転移していた地点から、ある程度の距離はとれたと思う。

 俺は右手をピストルの形にして、銃撃の準備をする。


(あそこを足場にしよう!)


 走る先に一際大きな木がそびえ立っている。

 銃撃の足場に良さそうな太い枝が見えた。


 俺はジャンプして、一気に太い枝に飛び乗った。

 向きを変え迫り来る巨大な鹿を見る。


 巨大な鹿は、赤い目を光らせ、獲物を定めたとばかりに角を俺へ向けた。


(うわ! 怖えええ!)


 震える手を前へ伸ばす。

 昨晩見たアクション映画を思い出し、自分はヒーローだと言い聞かせる。


 枝に飛び乗ったことで、巨大な鹿の頭が丁度、俺の目の高さだ。

 ヘッドショットが狙える!


 俺は左手を右手に添えて、両手で銃を構えるポーズをとる。


「うおーーーーーー!」


 吠えながら、銃弾を撃ち出す!


 ドン!

 ドン!

 ドン!

 ドン!

 ドン!


 指先から五連発で魔力の弾丸が撃ち出された。

 巨大な鹿の頭に次々と着弾し、血しぶきとともに頭が吹き飛んだ。


 巨体が地面に倒れ、震動が巨木をつたう。

 俺が飛び乗った枝は、派手に揺れた。


「おお……やった……。やった!」


 俺は枝の上で木の幹に体を預けて、ぐったりとした。

 あんな巨大な化け物と戦ったのだ。

 精神的な疲労だろう。

 正直、動けない。


『経験値を獲得しました! レベルアップしました!』


 頭の中に連続して、声が響いた。


(経験値を獲得……レベルアップ……。どんだけゲームっぽい世界なんだよ……)


 俺は初戦闘の余韻なのかボーッとしていて、何も考えられなかった。

 木の幹にもたれかかって休んでいると、リクの声が聞こえてきた。


「おーい! ミッツ! 大丈夫かー?」


「リク! ここだ! 無事だ!」


「おお! いたいた……って、怪我してるじゃないか!?」


「え?」


 リクに指摘されて気が付いたが、左腕を少し切っていた。

 血が出たようだが、もう固まりだしている。


「どこかに引っかけたんだろう。必死で逃げたから……。もう、グッタリだ!」


「おう! お疲れ! しかし、スゲエな、コレ!」


 リクは地面を指さした。

 視線を下にすると、頭のない巨大な鹿が地面に横たわり一面血だまりになっている。

 かなりグロイ……。


 マリンさんたち、女性陣を逃がして良かった。

 このグロイ光景を目にしたら、失神する人が出ただろう。


「なあ、リク。みんなは無事か?」


「ああ。全員、電車まで戻ったよ。ただ、みんな心配していたな。オマエが一人で大丈夫かって」


「そいつは、どうも」


「巨大鹿を倒して、何か変化はあったか?」


 リクはニコリと笑って聞いてきたが、ウソや誤魔化しがきかなそうな雰囲気を醸し出している。

 正直に答えておくか。


「リクは信用出来そうだから、正直に答えるよ。『経験値を獲得した』、『レベルアップした』って声が頭の中に響いた」


「ほお~。ゲームみたいだな。それで、どれくらいレベルアップした?」


「ちょっと待て……ステータス! オープン!」



【名 前】 ミツヒロ・ダン

【ジョブ】 竜騎兵エリート

【レベル】 10 new!

【スキル】 魔銃Ⅰ・剣術Ⅰ・身体強化Ⅱ new!・騎乗術Ⅰ

【ギフト】 アイテムボックス・異世界言語



「レベル1だったのが、レベル10になった」


「一気にレベル10か! じゃあ、鹿は結構強いヤツだったのかもしれないな。スキルは?」


「スキルやギフトは増えてないな。だが、身体強化ⅠがⅡになってる」


「レベルが上がるとスキルも成長するのか!」


「そうみたいだな」


 俺はステータス画面に表示されているスキル『身体強化Ⅱ』を指で押してみた。



『身体強化Ⅱ:身体の運動機能などを大幅に強化する。常時発動』



 俺はリクに説明文を読み上げた。

 リクも自分のステータスが面を見て、説明文を比較しているようだ。


「強化の前に『大幅』がついてるな」


「大幅に強化か……ちょっと試してみる」


 俺は地面に飛び降りた。

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