第2話 ノビー師匠に捧ぐ(スキルの検証)
俺はマリンさんとスキルの検証をする為に、電車からちょっと離れ、森の中へ移動した。
「私もご一緒させて下さい!」
「僕も検証がしたいので、同行します」
俺とマリンさんの周りにいた人が一緒に来たのはちょっと残念だが、皆さん同じ車両に乗っていた人で、毎朝顔を合わせている人だ。
言葉を交したことはないけれど、まったく知らない仲でもない。
今は、異世界に転移してしまって状況がよくわからないのだ。
多少なりとも知っている人と一緒にいると安心感がある。
マリンさんも同じ気持ちなのだろう。
先ほどよりも、落ち着いた表情をしている。
森の中に入り、電車から適当に離れた所で立ち止まった。
「この辺りなら、他の人の迷惑にならないでしょう。やりますか!」
「そうですね。凄い森の中です……。やっぱり日本じゃないのかも……」
マリンさんの言う通りだ。
北欧の針葉樹林みたいな森で、一本一本の木が大きい。
異世界に来たんだなと改めて思う。
「では……ステータス! オープン!」
もう、一度ステータスを見る。
【名 前】 ミツヒロ・ダン
【ジョブ】 竜騎兵エリート
【レベル】 1
【スキル】 魔銃Ⅰ・剣術Ⅰ・身体強化Ⅰ・騎乗術Ⅰ
【ギフト】 アイテムボックス・異世界言語
ここで確認したいのは、スキル『魔銃Ⅰ』……。
それとスキル『身体強化Ⅰ』も確認出来そうだ。
スキル『身体強化Ⅰ』を指でタップしてみると説明文が表示された。
『身体強化Ⅰ:身体の運動機能などを強化する。常時発動』
俺が『スーパーミツヒロ』になるってことかな?
どれくらい身体が強化されるのだろう?
俺は目線を上げて、手頃な高さの木の枝を探した。
(あれにするか!)
俺が目をつけた木の枝は、三メートルくらいに生えている。
木の枝は、なかなかの太さで、俺がぶら下がっても折れそうもない。
「あの枝にジャンプしてみます」
マリンさんや同行してきた人たちに、わかるように俺は目をつけた枝を指さした。
「えっ!? あの枝ですか!?」
「あの高さは……」
「いや、無理だろう!」
目標にした枝は二階くらいの高さに生えていて、俺のジャンプ力だと絶対に届かない高さだ。
だが、ここは異世界!
スキル『身体強化Ⅰ』が常時発動しているのだから、指先タッチくらいはいけるんじゃないか?
「いきます! ハッ!」
俺は垂直跳びの要領で、グッと膝を折り、腕を振って勢いをつけ、思い切り上に向かってジャンプした。
今までにない、加速感と浮遊感!
俺の体は高く持ち上がる。
「えっ!?」
あまりにも高く飛び上がり、目標にしていた枝が、俺の横に来ていた。
とっさに右手を枝にかけて、枝の上に乗る。
(ここ……三メートルはあるよね!? 届くどころか、乗っちゃったよ!)
俺は自分の能力……、いや、スキルの効果に驚いた。
「おお!」
「凄い!」
「ええっ!? 何で!?」
ギャラリーから勝算と驚きの声が上がる。
マリンさんはどうかな?
おお!
両手を組んで、うっとりと俺を見ている!
やっぱり今日はいい日だ!
俺がギャラリーに向けて――もちろん主にマリンさんにだが――手を振っていると、俺の横にシュッと人影が現れた。
「うおっ!」
「よっ!」
俺と同じカジュアルな服装の男だ。
年は同じくらい。
タレ目が印象的な甘い感じのイケメンだ。
「なるほどね。スキル『身体強化Ⅰ』って、こんな感じなんだな」
スキル『身体強化Ⅰ』を使って、同じ枝に飛び乗ってきたのか。
ちょっとビックリしたぞ。
「習志野陸だ。リクと呼んでくれ。お手本ありがとう」
タレ目のイケメン『リク』は、笑顔で右手を差し出す。
俺も笑って握手に応じる。
「弾光広。こちらこそよろしく!」
「おう、ダンミツ!」
その呼び方は、某女性タレントみたいで苦手なんだよな。
「……ダンかミツにしれくれ。くっつけるのは、ナシな」
「ハハ……了解! じゃあ、ミッツだな」
ああ、そうだ!
リクは、毎朝、俺の斜め前に座っていた。
「毎朝、会ってたよね? 斜め前に座ってたろ?」
「そうそう! 顔見知りがいると心強いね。状況がヤバそうだし、マジでよろしくな」
リクの声が真剣味を帯びる。
大人数で異世界転移……。
さらに森の中……。
ステータスやスキルで浮かれていたが、リクの一言で気持ちが引き締まった。
「そうだな……。さっさとスキルの検証をして、行動しないと……」
「ああ。じゃあ、俺は手持ちのスキルを試してくるぜ」
「あっ!」
リクはパッと枝から飛び降りた。
スキル『身体強化Ⅰ』があるとはいえ、恐怖心はないのだろうか?
俺は無鉄砲とか、よく考えて行動しろとか、職場でよく言われるけれど、リクも同じタイプかもしれない。
気が合いそうなヤツがいて良かった。
だが、マリンさんにちょっかいだしたらダメだぞ。
俺も枝から飛び降りてみたが、足に痛みもなく、普通にジャンプして着地した程度の衝撃しかなかった。
足の筋力が、スキルで強化されているのだろう。
「ミッツさん。凄いですね!」
「いえいえ。スキルのおかげですよ」
「他にもスキルがあるのですか?」
「ええ。上手く使えるかわからないけど、やってみます!」
マリンさんが、期待のこもった目で俺を見る。
やらねば!
もう一つ試したいスキルは『魔銃Ⅰ』だ。
『魔銃Ⅰ:銃から無属性の魔力弾を打ち出す。魔力を弾丸とする』
優秀そうな攻撃スキルだが、俺は銃を持ってない。
当たり前だが、他の人も銃を持ってない。
では、どうするか?
国民的人気の猫型ロボットマンガにヒントがある。
ダメダメ小学生のノビーと未来から来た猫型ロボットの話だ。
ダメダメ小学生のノビーだが、特技が二つある。
あやとりと射撃だ。
射撃といっても実際に銃を撃つわけじゃない。
ノビーは、空気の塊が発射出来るようになる特殊な薬を指先に塗るのだ。
そうするとダメダメ小学生のノビーが、百発百中の凄腕ガンマンになる。
そう。つまり……これだ!
俺はノビー師匠から学んだ。
指は銃だ!
俺は右手の人差し指と親指を伸ばして、ピストルの形にした。
右手を木の幹に向ける。
これはピストル。弾よ出ろ! と念じると、体から何かがスルリと抜ける感覚があった。
バシュ!
発射音と空気を切り裂く音が聞こえた。
右手から弾丸が発射されたのだ!
ドーン! バリバリバリ!
「「「「おお!」」」」
太い木の幹に着弾した魔力の弾丸は、幹を木っ端微塵に破壊した。
ゆっくりと木が倒れ、ギャラリーから歓声があがる。
威力が凄い!
弾丸というよりは、ちょっとしたミサイルだ。
「す……凄い威力ですね!」
マリンさんも、びっくりしている。
「もう、ちょっと、威力を落としてみますね」
さっきよりも弾に込める魔力を減らすイメージをして、撃ってみた。
すると、木の幹に命中しこぶし大の穴を開けた。
マリンさんが、木の幹に近づいて穴の空をじっくり見ている。
「さっきよりも威力が弱いですね!」
「魔力をコントロールすれば、良いみたいです」
「なるほど! 参考になります!」
マリンさんとスキルのことを話す。
マリンさんは、水系統の魔法スキルをゲットしたと、コッソリ教えてくれた。
「キャア!」
「うわ!」
「何だあれ!」
突然、ギャラリーから悲鳴が上がった。
みんなの視線の先には、あれは……、モンスター……。
敵意をむき出しにした巨大な鹿がいた。
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