第39話 龍乃一条カナン

「さぁ、手をとって、二の丸様!」


飛竜の上から手を差し伸べてくれる、カナン。

持ち上げられ、飛竜の背に乗る。

飛竜に乗るのは友好示に行った時、往復したのでこれで3回目、ということになるのかな?

背には立派な鞍が付いていてこの飛竜には二名まで乗せることができる。

前回はドラゴンライダーにおんぶヒモみたいのを装着され背中に引っ付いてったが今回は前に乗せられた。


「是非、二の丸様には風を感じてもらいたわ!」


そう言い、カナンは俺の背に回り、手綱を握る。

あ、ちなみに今回もおんぶヒモは装着されてて俺とカナンが繋がってる。

……おんぶヒモというか、今回は抱っこヒモだな。


カナンが周りを見渡す。


「皆、搭乗した様ね。じゃぁ行きましょう」


と言って地上にいた作業員にハンドサインを送る。

すると一人が手旗信号を送る。

遠くいた連絡員がピィィィィィィィぃィぃィィと笛を鳴らすと半鐘が鳴らされる。


俺たちはカンッカンカンカンと響く音の中をゆっくりと上昇動作を始める。


「キシュゥゥゥゥ」


飛竜が小さく鳴いて、その大きな翼をバサッバサツと羽ばたかせながら走る。

すると少し前傾になりながらフワっとその巨体が浮かび上がる。

この飛び立つ瞬間の、なんと気持ちのいい浮遊感! なんどやってもほんと、気持ちいい!

そのうち飛竜は完全に前傾姿勢に上昇気流に乗るように羽は最低限の動きしかしなくなる。


「ふふふ、この子は飛ぶのが好きなのよ! 今日は絶好調みたいね! お客様、本日は三時間ほどの飛行になりまぁ~す!」


お城の上空を二,三度旋回し北上を開始する。

飛竜はその尖った頭をピンと前に伸ばし、翼を広げ、美しい姿勢で空を切り裂き前に進む。

五頭の飛竜が編隊を造り跳ぶ姿はなんというか、格好いいな! オカッパじゃないがちょっと興奮する。


前回はドラゴンライダーの背中に引っ付いていただけだったが前に騎乗するとものすごい解放感だ。

しかしスピードもある分風圧が物凄い。カナンが俺の耳もとで大声で話しかけてくるがそれでも聞き返してしまうほどだ。

カナンはハンドサインで右下を指さす。

すでに北龍之宮市の上空を横切るとこだった。


◇◇◇



その後、雲の上に出て、一気に高速飛行した。

途中夕日が西の山脈に沈むのを見たのはそりゃぁ綺麗だった。

そして日が落ち、松明を灯した龍之一条領地の飛竜場に俺たちの騎乗した飛竜は静かに着地した


「あ~……風呂に入りたい……」

「体がコチコチでござる……」

「小隊! だらしないぞ!」


オカッパはさすがの元騎竜兵でこんなのへっちゃららしい。


「中尉は元気だなぁ……」


クロダも地面に伏し、へばってた。


前回は途中に休憩をはさみはさみの飛行だったから感じなかったが、休みなしの飛竜の三時間飛行はかなりキツイ。


「ふふふ、皆お疲れ様! お風呂を用意してあるから夕食前にお入り下さい。さ、そこ立って立って!」


カナンは俺たちばかりか、元気に周りの者にもテキパキと指示を出していく。


「迎えの馬車は容易してある? そう、お客様をご案内して。この子たちも疲れてるからお願いね。弐番の子が少し飛び方がグラ付いてたわ。多分翼の付け根かしら? 竜舎で休ませたら見てあげて」


お姉さんてより委員長? みたいな感じだな、と俺は思った。



◇◇◇



屋敷に着いてからはとりあえずお湯をどうぞ、と言われ俺だけ”当家自慢の湯”と、どこ行っても聞かされるフレーズの浴室へ連れてかれた。

温泉なんだけど、ここのはコーヒーのような色のした湯でそれが特徴らしい。


ふぃ~~と一人お湯に遣ってると当然のようにおずおずとカナンが入ってきた。

もうお約束だよね。俺もそうじゃないかと思ってたよ。


「……お、お邪魔させてもらうわよ」


おっ自分から乱入してきたくせにこれは新鮮な反応だな。

タオルで前を隠し、恥ずかしそうに湯に漬かり、俺の横に来る。


「わ、私、こういうの、その、初めてだから……」


俺は落ち着いていた。だって俺の入浴乱入者はこれで何人目だ?

たまには他のアプローチを期待してしまう俺は贅沢なのだろうか?


「……落ち着いてるのね、私だけが恥ずかしがってるみたい……」

「ん、ああ、そうだな」

「……そうよね、もうすでに数人の方とご経験がおありですものね……私なんか……」


おっとこれはいかん、頑張って俺の風呂に乱入してきた娘に自虐させてはいけない。

背中を丸める彼女の方を抱いて寄せ、体を密着させる。


「……」


彼女は黙ったままだ。

ちょっと何様のつもりだったのだろう、と反省する。

複数の女性と経験してるからなんだというのだろう。

今、ここでカナンは俺の為に、俺の気を引く為に俺が湯舟に浸かってる間に勇気をだして服を脱ぎ、裸の男がいる場へ自らの裸体を晒し、来たのだ。


そのけなげな勇気を、俺は余裕かまし、あ~来たの? 的な態度で受けてしまった。


どこのヤリチンだよ!

元の世界の情けない自分を思い出せ!



そう! 初めて会う女性にはいつも童貞であれ!!



「ありがとう、カナン、君は俺に、大事なことを、とても大事なことを思い出させてくれた」


俺はカナンを優しく抱きしめ、すでに半べそかいてる瞳を拭い、優しく口づけする。


「……いや」


少し抵抗される。がっ、構わずもう一度抱き寄せ口づけする・まだ舌を入れてはいけない。


「ん……」


もう彼女は抵抗しない。しばらく俺たちは抱き合ったままにした。


「……二の丸様は不思議な人ね……冷たい方かと思ったら、こんなに優しく抱きしめてくれるなんて……」

「今日は君と一緒に寝れるといいが」

「ふふ、気が早いのね。まずはご夕食が先でしょ」


◇◇◇


その後、贅を凝らした夕食で歓待され、大いに飲んで食って場も盛り上がり、俺たちは用意された寝室へと向かい、同じ寝床で朝を迎えた。


「ん~~~」カナンが伸びをする。

彼女は飛竜隊で鍛えられたその肢体を、もはや惜しげもなく俺に披露する。

カナエも鍛えられてる身体だが彼女のような鋼の女体ではなく、ところどころ女らしい柔らかな部分がある。

なんともいつまでも抱いていたくなる。


「私もすぐに後宮に輿入れさせてもうわね」


俺はまだなんとなくまどろみながら空返事で答える。


「ああ、そうだな」

「それで一つ、お願いがあるんだけど……」

「なんだ?」

「飛竜を一体連れて行きたいのよ」

「無理なんじゃね?」

「なぜ?」

「だって……大きいじゃん。お城の敷地内に小さいけど飛竜場があるだろ? あそこの竜舎じゃだめなのかい?」

「う~~ん、そうかぁ……やっぱり後宮は無理か……わかったわ、その線でお願いするかも」

「大事な飛竜なのかい?」

「ええ、昨年生まれた子なんだけど、ずっと私が面倒見てて、まだ小さくてね。やっぱり一人前の飛竜になるまで面倒見たいのよ」


しかし、みんなそれぞれ大事な竜がいるんだな。今度他の連中にもそういうのがいるのか聞いてみよう

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