第壱部 過去編

第40話 龍河れい

龍河れい 18歳  


二年前にブラウ大帝国に召喚され、この大陸に降り立った。

大帝国に召喚されたのは自分だけではなく、他にも同郷の者達がいた。


彼女は一番最後に投入されただった。


先に召喚された者たちは大帝国の超魔術により、勇者に

召喚してのち、ただの高校生だった彼女にも様々な魔術が施され、”龍の巫女”として


彼らがここにいるのは大帝国の執念のようなものだ。

もはや国土の半分以上を灰にされ、例え大帝国が滅びても、魔王軍に一矢報いたい、という妄執の一念に他ならない。


そして彼女はすでに数年前から戦闘を行っている他の勇者達と合流し、共に、魔王軍と戦った。


どういった理屈か超魔術かは知らないが龍河れいは龍の因子を組み込まれ、竜を扱い、戦った。

徐々に強力な竜を扱えるようになった。

最後の決戦では遂に龍神を召喚することに成功、龍神の協力を得て、勇者たちはとうとう戦いに勝利したのである。


そこまでは良かった。

よくある英雄譚の一説で終わる。


だが彼等はまだ生きてる。

魔王軍は滅んだ。

しかし大帝国も滅んでしまった。元の世界に帰ることは、もはやできない。

ならば、この身果てるまでこの世界で生きていくしかない。


「俺、ここに残るわ」


魔剣士ケインが仲間にそう宣言した。

ケインとは大帝国が付けた名である。

彼は術式を施され”魔剣士”として時には元の世界の記憶を失っていた。

郷愁の念にかられぬようわざわざ他の名を付けられた。


彼は魔王の娘と恋仲になり、添い遂げるつもりだった。

彼女が裏切ってくれたおかげで成功した作戦がいくつもある。

影の功労者だ。


「魔人達と人が仲良く暮らす世界にしようぜ! 俺が魔大陸を変える! お前たちも頼むぜ!」


そう約束して彼らは別れた。

ブラウ大陸に戻り、それぞれ今後のことを話す。


「私たち! 一緒になります! キャ! びっくり? ねぇねぇびっくりした!!??」

「北の海岸にケインの魔大陸と交易できる場所を作るよ」


バカップル、ユウコ・コウジは一緒になるらしい。

拳闘士コウジが突撃して弓使いユウコが援護射撃をするのを”ユウコウジ・アタック”と名付けちゃうほどのバカップルだ。


「俺は、教会を変えたい。彼らが魔人迫害などしなければ今回の大戦は起こらなかったはずだ」


聖者タカシは教会と共にいくらしい。


「俺は……ほら、リンネと行くよ、森で暮らすことにした」


大帝国にカールと名付けられた狩人の彼は仲間のエルフと静かに過ごす道を選んだ。


「俺は帝都に戻る。すでにガレキと化してしまったが、あそこを復興させたい。お世話になった人もまだ生きてるかもしれなしな」

彼らのリーダー・勇者サトシはこの中では一番の古株だ。


「私も、サトシに……付いていきたいわ。いいかしら?」

「いい、のか?」

「……もちろん」

「ふふ、聖女マリアが一緒にいてくれるなら、俺はなんでもできそうだぜ」


本人たちは周りに気づかれてないつもりだろうが、この二人も当初からのバカップルだ。


「私はヴァン・ガンと行くわ。彼がどうしても、私に一緒に来てくれってさ。やんなっちゃうわね」


女戦士マキはやれやれ、という雰囲気だが、微妙ににやけた顔が満更でもないことを示している


ヴァン・ガンはブラウ大陸から彼らを運んでくれた艦隊の司令官だ。

大帝国の艦隊が全滅し、もはや海路を行くのは絶望的と思われた。

それを勇者の指令でマキが比較的、まだ被害の少ない、南の艦隊を保有する領主に声を掛けまわり、彼がそれに応えた。

彼は南の艦隊をかき集め、艦隊を西周り、東周りの二手に分け北上し、まだ生きてる港に寄りつつ、少しでも説得して艦隊の数を増やし、北の海上で合流。

寄せ集めだが艦隊は北に位置する魔大陸に進軍したのであった。


そのヴァン・ガン達が留守の間に南の海では海賊たちがすっかり根を張ってしまったらしい。

その退治に一緒に行ってくれ・ついでに結婚してくれ! と求婚されたらしい。


「あんたちいいわね、お花畑で。私は……そうね、私はこの世界を少し見て歩くわ。のんびりと、自分の足で」


魔法使いサーシャのは特にひどいものだったらしく強力な超魔術を使える代償に全ての感情を失ってしまった。


「最後の勇者・龍河れい、君はどうするんだい?」


サトシがれいを見る。

”最後の勇者”とは”龍の巫女”と並ぶ龍河れいの称号だ。


「私には、もう愛しい旦那様がいるわ」


龍河れい、龍の巫女が龍神を召喚する代償は「汝の身を捧げよ」である。

それに対し龍河れいは「いいわ、私の身体も命も全部、持っていって! 全部上げるから! 来て、炎龍!」と答えた。

その瞬間から龍河れいと龍神は魂で繋がる、切っても切れない仲になったのだ。


召喚者と召喚された者の立場の差だろうか、龍神はこの十代の小娘に頭が上がらない。


「二人ならどこでも生きていけるわ。それで、一つだけお願いがあるの」

「続けてくれ」


龍河れいはブラウ大陸の地図を広げ指さす。


「ブラウ大陸のここから~ここまで私にちょうだい。この辺はもう街も村も全滅状態で生き残ってる人もほとんどいないから、いいわよね?」

「理由を聞かせてもらっても?」

「私の竜たちよ。彼らが安心して住む場所を作りたいの、お願い!」


仲間が顔を見合わせる。


「ま、いいんじゃね?」

「そうね、反対する理由はないわ」

「私、沢山助けてもらった! マジ感謝!」

「俺も守ってもらったことは数えきれない」

「……まぁ、あのデカブツたちが暮らすとなるとそのくらいの場所は必要だな」

「魔大陸、飛竜で飛んだ時は気持ち良かった!」


サトシがまとめる。


「よし! 皆、反対意見はないな、ではこの場所は”龍河れいと龍神の国”だ!」


これが、勇者たちが大戦後に仲間と袂を分かち、それぞれの道を生きるため、決意した物語だ。


千二百年後の世界に正確に伝わっているかどうかは定かではない。

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