第38話 元老院
「それで、かの国の処遇はどうなった?」
「あれは……四条が行ってなんとかなったのだろう?」
「ああ……うちが出るまでもない、職員の……なんとかっていうヤツが行っての」
「なんとかではわからんよ。この老いぼれ龍」
「話の腰を折るな、それで?」
「いちいち下級の職員のことなど覚えてなどいれんわ、お主らもそうであろう。ああ、そのなんとかがの、行って……。終わりじゃよ」
「さっぱりわからん」
「ええ、と、おい、この老い龍どもに説明してやれ」
「ハっ、ではご説明させていただきます。カタリナ共和国ですが、我が外交部の者が共和国評議会に下手人の遺体を持っていきまして、説明を求めたところ、拒否されました。
とりあえず、では戦争して白黒つけましょう、と告げたたところ一日待って欲しいと言われましたので、その日は大使館に帰還。
その翌日、評議会に赴いたところ、どういうわけか評議会全員とその秘書、家族にいたるまで暗殺されておりました。
その後、政治的落ち着きが収まるまで一先ず返事を頂くのを保留。
その一か月後に再度返事を求めたところ、細部の詳細の資料が紛失し、全貌を把握することができないがどうやら前評議会議員の仕業であることは明白で、如何様にもそちらの気の済むようなご処分をお願いします。ということでした」
「これは一度纏めた資料を提出したはずじゃ」
「そうだったかの?」
「どうせ、人の教会の連中が裏にいるのじゃろう。やつら龍を目の敵にしとるからの」
「龍だけじゃないわ、奴らは亜人全てを根絶やしにしたいくらいの気持ちじゃないかしら」
「それで、その後どうなった?」
「ご存じの通り、我が国は『他国に攻めず、他国に攻めらせず』の原則があります」
「ふんっカビの生えた規則じゃ」
「しかし、国母様の教えは絶対じゃ、破れば炎龍様のバチが当たるわ」
「うるさいぞジジィども……続けたまえ」
「ハッ、今回は他国が攻めてきた、と判断され、必要とあれば、かの国を焼き尽くして構わない、とのお達しがでておりましたので、とりあえず処分保留のままお指図をお待ちしてる状態になります」
「そうか、そうか。して、帝はなんと?」
「元老に任せる、と一言」
「これは……面倒臭くなられたご様子じゃな」
「ほんに、ほんに、あの子は昔から途中で飽きてしまう癖が治らぬ」
「老龍どもっ! 帝への軽口は不敬である!」
「ふんっ若い上条はお堅くていかん」
「ああ~ワシも早ぅ御島に御呼ばれされたいのう……」
「やだねぇ~じじぃもばばぁも都合悪くなるとすぐそれだ。島でもあの世でもとっとと行っちゃいな!」
「ふふ、つい最近までろくに飛ぶことも出来なかった龍が吠えよるわ、可愛いのぅ」
「可愛いといえば、ほれ、三条の小娘が二の丸様にお輿入れしたのだろう?」
「うらましや、ウチにはまだおいでにならぬ。早ぅ来ていただきたいのう」
「全ては二の丸様の思し召しだ、順番を待つがよい」
「いいよねぇ~、子を産んでなけりゃ私が嫁ぎたいよ」
「そうそう、二の丸様はなかなかいい男だよ、さすが異世界の君」
「この辺にはいないタイプよね」
「二の丸様がお前たちなどお相手するかっ」
「ほほほ、百年若返るんじゃな」
「なにさ、想像するくらい勝手だろ」
「そうだ、老い龍だまりなっ」
その後、グダグダしながら龍之宮城の一室で龍帝国元老院はカタリナ共和国の今後の処遇に話が進んだ。
◇◇◇
「あら、似合うじゃない。ちょっと格好いいわよ」
俺は今、飛行服を着せられている。
ドラゴンライダー。
飛竜を操る者をそう呼称する。
陸上の竜を操る者は竜騎兵と呼ばれるのに対し飛竜に搭乗する者はなぜか横文字だぜ?
「そんなの知らないわよ、昔からそう呼ぶのよ。確か……国母様がお決めになったんじゃないかしら?」
……瀧河れい……またお前か。
「そうか、俺は飛竜騎兵みたいな感じに呼ぶのかと思ってた」
「ああ、でも書類にはそう書くわね。どうしてかしら?」
「ほら、ここのベルトが緩んでるわよ、しっかりしてちょうだい」
龍乃一条カナンが俺の飛行服をあれこれいじくりまわす。
「なんで拙者たちまで……」
「あなた方、二の丸様のお側衆なんでしょう、なら付いてきた方がいいんじゃなくて?」
「私は楽しみだぞ! 今日乗るのはあれだな! 一種三型6式! 急激な機動をこなし戦闘力抜群の超攻撃型小型飛竜! 『はやぶさ改二』
くっはぁ~~~まさか、この私がまさか『はやぶさ改二』に乗れる日がくるとわぁぁぁぁぁ! ぐふふっふうふ~」
竜オタクのオカッパがなんか、鼻息荒く、よだれ垂らしながらなんか、興奮してる……。
「オカッパ、興奮しすぎ」
「いやいや、二の丸様! これが興奮せずにいられようか! ……あああ……どのような乗り心地なのだろう。見たまえ! ここからでもわかる、あの洗練された鱗! 美しい! 美しすぎる!」
「何言ってるのよ、残念だけど本日あなた方を背に乗せてくれるのはあっちの三種飛竜よ、素人が一種飛竜で飛ぼうなんて十年早いわね」
「カナン様、わ、私は素人ではありません! 軍籍の時は一種中型暴竜付きでありました! せめてあっちの二種飛竜を……」
「ごめんなさい、だめね。どうしても一種飛竜に乗りたいのであれば、まず教習所に通うことから進めるわ。それとも二の丸様お側衆やめて飛竜隊に入隊する?」
「……ご指定の飛竜に搭乗させていただきます」
◇◇◇
なにがどうしてこうなったか事の経緯の説明が必要だろう。
俺は今回の側室候補、龍乃一条家にお邪魔することになった。
……まぁ側室候補と言う名の、断れない本決まり側室、なんだが……。
「全く二の丸様には呆れたわ!」
会う早々説教だった。
龍乃一条家・長女、龍乃一条カナンはエルフの血を引き、長い耳と美しい金髪が特徴的だ。
二十八歳
はぁ、まぁ仰る通りと思います……・と、以前の俺なら言ってたろう。
だが、俺も回りの女性たちに鍛えられた。
まぁ、一理あるかもね。
こういうのはこのくらいで思っていた方がいい。
相手の言うことを鵜吞みにしてくのはその内、考え方を相手にコントロールされる、ということになる。
取り合えず一通り相手の言いたいことを言わせておく。
するとまぁまぁ気の済んだ相手が段々落ち着いていく。
「……まぁいいわ。確か我が家の領地見学をご所望でしたね」
「はぁ」
「ふふふんっ、私、最高の見学をご用意いたしましてよ」
と、カナンはにやぁ~と笑った。
なんかやな予感。
「はい! 皆! 入ってちょうだい!」
カナンがパンパンと手を叩くと大勢の従者が部屋になだれ込んできて、俺とオカッパ小隊はこの飛行服を着させられたのだ。
そして郊外の飛竜場まで連れてこられ
「では二の丸様御一行には空から当家領地をご見学いただきます」
と、龍乃一条カナンはにこやかに宣言した。俺の嫌な予感は的中した。
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