第33話 大使館 打ち上げ
「え~では、キリシマ作戦、色々ありましたが終了し、逃げた火竜も無事、友好示公武国に引き渡すことができました。
これも皆ががんばってくれたおかげです。ありがとうございます。では乾杯!」
その夜、俺たちは大使館で今回の騒動のささやかな打ち上げをした。
襲撃現場はあの後、怒り狂ったカナエに、犯人は逃げ出そうとしたが、残り全員あっと言う間に黒焦げにされてしまった。
……まぁ、そりゃあ、すげぇ焦げくさかったよね。
血の匂いと混ざってちょっと吐きそうになったよ。
俺達はカナエを止める間もなく、いや、あれは怖くて止めれんわ、怒り狂うカナエをただ黙って見てただけだった。
その後「情けない!!」とカナエがオカッパ小隊を説教してるとこに近衛が長躯竜を一匹引き連れてやってきたとこで
「とりあえず帰るか」となった。
ことの真相はまず青野君が神田夫妻を乗せた火竜を連れて森を引き返し、別ルートで森を脱出。
追手も見えず、危険のないことを確認し、夫妻と火竜を首都まで単独で戻るよう指示し、襲撃現場へと大急ぎで引き返し、現場に来て数人の円陣の中心で倒れてる三人と俺たちを確認。
取り合えず俺の危機をなんとかせねばと一人の背後にしのび、仕留めた。
「来た事わかんなかったよ」
「遅すぎ。私なら五分で戻れた」
「まぁ、一人でもやっつけることができて良かったです」
青野君はまだまだ暴れたかったようだ。
カナエは、と言うと一度飛竜場に戻り、近衛二人に今晩の打ち上げの指示をいくつかして、大使館に向かわせ、自分は長躯竜で、もう一人の近衛とこちらの一行を迎えに行く途中で火竜に乗った神田夫妻と合流。
事の次第を聞いたカナエは近衛に「私の竜連れてきて」というが早いか真体になり文字通りの火の玉となり飛んできて、ということらしい。
「あれぞイフリートだな」
酔った俺はカナエに言った。
ほろ酔いのカナエも答える
「イフリート?なにそれ?」
「え~と、なんだったっけ?俺の世界のゲーム……お話とかに出てくる炎の魔人だよ」
「ふ~ん、すごいの? それ?」
「よくは知らないけど、なんだかいつも怒ってるていうか、短気なイメージが」
「あははは、なによ、それ。ひどいわね」
「いやいや、二の丸様、有難うございました、本当に助かりました。本国のお力に頼らず本来ならば大使館だけで対処できれば良かったのですが……」
河野大使が恐縮そうに話しかけてくる。
「いえいえ、全員ケガもなく無事終わって良かったです」
「え~とですね、それでこちらがですね……」
と、大使が色黒の青年を連れてきて紹介しようとする前に向こうが俺の両手をとり、ブンブン興奮して振り回す。
えらい笑顔で悪意はなさそうだ。
と、となりの同じような色黒の美しい女性が話しかけてくる。
「申し訳ございません、二の丸様。私はこの国の王女、エリアナと申します。
今、二の丸様の手を握っているのが兄の王太子のカトラスです」
この友好示公武国では大陸共通語が主な言語だ。
なので街中は俺のわからない言葉で溢れている。
国の創始者は日本人の勇者だが、その他の人達はブラウ大陸人だから勇者達の方が大陸共通語を覚えた方がスムーズにいったのだろう。
だが一部古語として知識人等はニホン語を習得したりする。
龍帝国がニホン語を使用してるので通訳などの仕事にもなるので学校などでも一定数の人間が習得するらしい。
王太子がなにか興奮してしゃべってるが俺にはさっぱりだ。
「申し訳ございません、彼はニホン語を話すことができません。今回のお礼と異世界の君にお会いできたことをとても喜んでいます」
「そういえば君たちの祖先は、その、異世界から来た勇者なのかい?」
「そういうことになりますが、もう千年以上前のことですし、我々はただの人族なのでどれだけ血が残ってていることか……」
「そうか、そうだよねぇ……。でも嬉しいよ、少しでも元の世界と繋がりがある人とこうして会えるのは」
「AJ&%#ZIAUA)(WYIW<C=E)”)E’T!!」
カトラス王太子がなにか言ってる。
「え~と、?」
俺はエリアナ王女に目線で通訳を促す。
「彼は乾杯して欲しいです」
なんだ、そんなことか、
「いいぜ王子様! 乾杯!!」
二人でグラスを合わせ、グっとウィスキーみたいな強めの酒をあおる。
「くっ、はぁ~~!! いいね、龍帝国じゃ日本酒しかないからな、あ~~ビール飲みてぇ~~~」
俺はこの世界にきてからの一番の不満をもらした。
「ビール……エールのことですか?」
エリアナが聞いてくる。
「え?あるの?」
「お口に合うかどうか……。実は今日お礼にといくつかこちらの厨房にお運びさせていただいてます。お持ちしましょう」
「まじか! ついに……異世界ビールきたか……。お願いします!」
「はい、私どもの手の者に用意させましょう」
と、エリアナは立ち上がりそそくさと厨房へと消えていった。
ふと会場を見渡すと……。
隅っこでしょぼくれて反省会してたオカッパ小隊が飲んでて段々景気が良くなってたとこへ、カナエが説教をぶちかましながらからみに行ってた。
近衛は三人で固まり立ちながら大人しく飲んでる。
飛竜兵たちも今日は現地の飼育員たちに飛竜を任せ全員揃って騒がしく飲んでいる。
歌ってるやつもいるな。
大使はいつの間にか消え、この国の偉いさんたちとなにやら談笑中だ。
そこへ神田夫妻が挨拶にきた。
「二の丸様、今回は本当にありがとうございました。あの子が討伐されなくて本当に、良かったです」
「ああ、そうですね、あの火竜は無事ですか?」
「ええ、仲間の元に戻って安心したのでしょう。今は落ち着いてます」
「それで、火竜があのようになった、原因なんですが……わかりますか?」
「とりあえず……任せてた竜人に近衛の方と聞き取りをしたのですが、エサが規定の量より少なかった、ぐらいしか……」
お腹が空いて暴れたのか?
「そんなことで暴れたりするような種なのですか?」
「いえ、一種竜ならともかく、あの子は二種竜で、あ、一種竜というのは肉食で……」
「二種は雑食でしたね。」
「はい。多少の節食は耐えられるはずなのですが……」
「二の丸様、少しよろしいですか?」
いつの間にか近衛の一人が来て俺に耳打ちする。
「なに?」
「こちらへ」
「ちょっと失礼します」
俺は夫妻に断りをいれ、近衛に付いてくと人気のないとこに連れ出された。
コイツは剣下条卓也中尉。黒髪を刈上げ、精悍な顔付きをしてる。
ちなみに他の近衛は
空下条健司大尉
俺付きの近衛のリーダーでがっしりした大男だ。戦闘力が高そうである。如何にもな腦筋軍人タイプ。
大地下条アンリ中尉
カナエに似たクール美人な女性で、実はカナエに憧れて真似してるらしい。
わかるかね諸君。近衛隊め、全員下条で揃えてきやがった。近衛には他にも貴族の子弟が沢山いるのに!
もちろん皆カナエの親類で、数ある下条でもトップクラスの家柄らしい。いやんなっちゃうね。
そしてオカッパ小隊が中尉一人・少尉二人の編成なのでそれを上回る階級で編成してるんだぜ!
本当、やることがやらしいよな! そういうとこが嫌いなんだよ!
おっと、それでその剣下条中尉の話だが、て下条だらけだからまぎわらしくなっちゃうから「下条が……」て訳せないしな!
「興奮剤を使われたのかも、と夫妻は推測してます」
「興奮剤?」
「闘竜場などで反則行為などで使われるヤツですが竜を狂暴にさせるものです。効果は一時間ほどだそうですが……」
「それをあの火竜に?」
「あくまで推測ですが、と言われました。他に逃げるだけならまだしも竜人を襲うのが考えられないと……」
「ふ~~ん……、いったい誰が……」
「今回の二の丸様、襲撃といい、判断材料が少なすぎて如何様にも考えられます。襲撃者も全滅しましたし……」
「あれなぁ~~、まぁ、カナエのことは仕方ないか」
「あさって早朝には我々はこの国を離れます。明日一日で外国で自由に捜査もできません。あまりこの国の者のこともお信じなきよう願います」
そこへサキが呼びに来た。
「二の丸様、エリアナ王女様がお呼びです」
「じゃあ中尉、この件はまた後で」
「はっ」
中尉と別れ、俺は王女の元に行く。
エリアナは先ほどの約束通り、エールを用意して待っててくれた。
「さぁ、二の丸様、お味見くださいませ」
王太子もニコニコしながら待ち構えていた。
お、これうまそうじゃね? グラスを持つとひんやりしてた、コレは!!??
俺はそのままグっとグラスをあおる!!
っ!!!!!
ごきゅっごきゅっと俺の喉元をキンキンに冷えたビールが流れ込んでくる。
シュワシュワとした適度な炭酸っ!
これだよ! これが飲みたかったんだよ!!
「ぷっはぁ~~~~~!」
他国の王族の前だというがもはや礼儀作法などに構ってられない!
一口目の余韻を味わいながら、口元に付いた泡を拭うこともなく夢中で間髪入れずに二口目を飲む!
飲み込むのだ!!!
「くはぁ~~~~! うまっ!!!」
一気に、飲み干した。飲み干してしまった。
王太子はニヤニヤしながら俺を見ている。
俺は言葉の通じるエリアナ王女の両手を握り感謝の意を伝える。
「ありがとう! 俺がっ! いや私がっの、飲みたかった……」
頬からなにか熱いものが伝わる。俺は胸が熱くなり……感動、感動しているのか!? この俺がっ!
ただのビール一杯に、いやただのビール一杯だからこそ、感動したのだ!
あの、元の世界で当たり前に飲んでたビールがっ!!
語ろう、語っちゃってもいいよな!!
前に語った通り俺は貧乏だった。それは社会人になっても変わらない。
親父の残した借金。母親の生活費などなど俺のサラリーはまぁ、もらった右から左へとスーと流れていくのであった。
趣味みたいなものも持てない、が週一の週末に自分へのご褒美に三本、三本だけビールを買って飲むのだけが楽しみだったのだ。
そう、あの楽しみ、さぁ来週もあのクソみたいな上司のもとでクソみたいな仕事をするのだ、負けてられるかっ! という元気をチャージする俺のっ俺だけのエナジードリンク!!
それが、今ここに!
異世界のここに!!
もう、飲めないと思っていた俺の救世主、俺の癒しの女神がっ!!!
感動してなにが悪い! 涙を流してなにが悪いかっ!!
「とても頑張っていたのですね、何も悪いことはありませんよ……」
俺はいつの間にか号泣しながらエリアナ王女の胸に抱かれながら頭を撫でられていた。
「うぁあ! す、すみませんっ!」
は、恥ずかしい!!恥ずかしすぎる!!
「と、とんだご無礼を働きました! こ、この国の王女様に、俺はなんてことを……」
土下座した。こういいう時はザ・土下座だ。
エリアナが慌てて俺を止める。王太子は酔っ払いにもう興味はないとばかりに自国の役人となんか話してた。
「おやめ下さい、二の丸様、お顔をお上げくださいっ」
そう言うと俺を起こし、抱きしめる。
俺は血の気が引いてた。きっと傍からみたら真っ青だったろう。
「私は嬉しいのですよ、二の丸様に、異世界の君にお出しした我が国の飲み物がこんなにも、異世界の君の心を揺さぶり、感動させることができるなんて、私は誇らしいのですっ! 大丈夫です。宴席です。何もお気になさらないでくださいませ。」
慰めて頂いてるのだろうが、なんともバツが悪い。
自国の一行に他国の関係者の多い、こんな酒席で、その他国の王族の女性に無礼を働くという、とんだ恥を晒してしまった……。
異世界に来て、二の丸様なんて呼ばれていくら繕っても、所詮、俺は安サラリーマンなのだ……。
俺なんて、俺なんて……。
「
サキが何か言ってきた。
「三バカがやばいぞ」
ん? あぁ、オカッパ小隊か、チラっとそちらを見るとカナエが二人をブチのめしていて今、サムライを締め上げてる最中だった。
「王女殿下、申し訳ございません! この度の謝罪は後程正式にっ! 必ずさせていただきますので!」
と、俺はエリアナから離れてカナエ達の元へ行った。
「あぁ、異世界の君ぃ……」
なぜか名残惜しそうにされる。
やめてぇ~!お願いだから今は貴女からこの俺を離れさせてぇ~~~~。
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