第31話 キリシマ作戦

大方の方針も決まり、俺は気になることがあり、大使に声をかける。


「ところで大使、聞きたいことがあるんだけど……」


大使は河野隆大使といい、少し肥満気味だ。

その見事に出た腹をさすりながら答える


「はっ、どういったことでしょうか?」

「この国って竜殺しとかドラゴンスレイヤーとかいるの?」

「は? いえいえこの国に野良の竜はいません故……」


は~~、と隣でカナエがため息をつく。


「いい? 二の丸様、この大陸ではそんなの商売にならないわ」

「なぜ?」

「大陸中の竜はそれぞれ国で管理されてるからよ。まぁ軍にはいるかもだけど」

「ふ~ん、そんなもんなんだ」


その後カナエが詳しく説明してくれたが龍帝国が誕生して以降、大陸中の竜は全て龍帝国が捕獲、保護し自国へ連れて行った、ということらしい。

というのも竜が存在すると周辺に住む人々が安心して暮らしていけない、ということで件の一匹か二匹、やっと退治して高額な費用を請求される”竜殺し”なんかより根こそぎ捕獲して、後もまた竜が現れてもケアしてくれる龍帝国は重宝したわけだ。

各国にある大使館は龍帝国の”竜捕獲依頼引き受け所”にもなっていた。

もちろん小型竜の少数の群れなどは地元の軍が討伐することもあったみたいだが、結局は費用対効果で見ると龍帝国に頼むのが一番だ、ということになる。

まぁそんなことを長年繰り返していくうちについには野良の竜はいなくなり、全て龍帝国の管理下に置かれ、そこから必要なら各国に出荷される、というシステムになった。


「それで二の丸様、あなたには地上班を指揮してもらうわ」

「え~どうしてだよ、俺も飛竜がいい!」


これは断固として譲れない。


「あのね……」


ここで飛竜兵団長が口をはさむ、ホテルまでついて来たのは彼だけで他のドラゴンライダー達は飛竜場で飛竜たちの世話をしている。


「二の丸様、ここへ来るまでは遊覧飛行と申しますか、とにかく安全を第一に気を配り、飛んできましたが飛行探査となると曲芸飛行とまでは申しませんが、かなり急な機動飛行を要求されると予想します。つまり……」

「あなたに何かあったら全員が困るってことよ」


オカッパも口をはさむ。


「そうだぞ。私らもう少しで、そのドラゴンスレイヤーとやらで首切られるとこだったんだからな」


これは降参するしかないようだ。


「わかったよ、仕方ない、地上組でいいや」



その後、細かい打ち合わせをする。

カナエ、近衛は飛竜兵団長と飛行ルートの確認。


俺たち地上班は


「そういえば神田夫妻は真体になれるでござるか?」

「何言ってんだサムライ、龍人なら皆なれるんじゃないのか?」

「いやいや、二の丸殿、我ら軍人はともかく、一般人はそうそう真体にならないでござる」

「前に息をするようになれる、ていうか気を抜くと真体になっちゃう、からいつも気をつけてる、的なことを聞いた気がするが」

「それは……若いうちだけでござるよ。年を取るとなかなかそうもいかないでござる」


そんなものなのか?


そして問いに神田夫妻が答える。


「そうですね……最後になったのは成人式のとき、くらい、かな?」


「あの時のお父さん、カッコよかったあわぁ……キリっとしてて……」

「よせよ、百年も前のことだ。でも母さんもステキだっったぞ」

「いやだわ、お父さん、たら……」

「はい、のろけ話はヨソでやっといてください。それで、真体になれるんですか?」

「申し訳ございません。私たち竜育者は聞き分けのない子の調教時に龍眼を使うくらいで……」

「なれても30分……いや、15分くらいが限度でしょうか? 真体になるのも2,3分はかかるかと」

「なるほどな。大使、それで友好示からの協力は?」

「長躯竜を10頭ほど借りてます。それと人手を20人ほどを動員してくれるそうです」

「そんなもんか、いっそ軍隊でも動員すればいいのに」

「討伐するわけではないので……」

「クロダ、探査魔法的なものはないのか?」

「あのね、魔術はそんな便利なものじゃ……特に移動してるやつはね」

「結局は地道に足で稼げ、てことか」


さて、そんななんじゃかんじゃをたっぷり話し合いながら迎えた当日。


◇◇◇



~キリシマ作戦~発動


初日

 早朝からの飛竜隊による捜索で午後についに目標を発見。

 その後夫妻に連絡・連行までの間に大風・大雨が発生。

 飛行困難となり、捜索中止。帰投。


二日目

 引き続きの悪天候により捜索中止。


三日目

 同上


四日目

 天候回復。捜索再開

 しかし3日間に及ぶ天候悪化の影響により、目標の痕跡は完全に消失。

 捜索は困難を極め、ついに発見できず。

 その日、地上班はキャンプし、現地宿泊。

 飛竜班には帰ってもらう。

  

五日目

 本日も早朝より捜索開始。

 午前中についに目標発見。夫妻を急行させ、中型火炎竜の説得? 成功。

 なんとか一緒に連れて森を出ることができる。

 大使館組と友好示国の配下は報告の為、先に帰らせる。

 飛竜隊もとっとと帰らせた。



俺・従者二人・オカッパ小隊・神田夫妻・中型火竜でダラダラと帰路につく。


「いやぁ、初日で片がつくかと思ったらとんだ長丁場になったね」


帰りの長躯竜の上で俺は言う。


「天候さえ良ければその日のうちに帰れただろうな」


オカッパも晴れやかな表情で言う。作戦が成功したのでうれしいのだろう。


「やっと帰れるでござるな」

「やっぱり布団で寝たい」

「二の丸様、今日は飲んでもいいんだろうな!」

「もちろん! 皆頑張ったからな。今日は帰ったら成功を祝って祝杯を上げよう! 君たちもね」


と俺は従者に言う。

青野君が


「いえ、私たちは……」


と断ろうとするとさきが


「わかった。あるじの申し出なら仕方ない。受けるしかない」


と答えた。? 別に強制はしてないんだが……。



◇◇◇



そんな和やかな雰囲気で後三十分もしたら森を出る、と言う時だった。


あるじ!!」


侍女サキが龍一に飛びつき、乗ってた竜から龍一を引き下ろす。

とたんに恐ろしく太い矢が何本も乗ってた竜に突き刺さる。


「小隊真体っ! 防御態勢!」


オカッパが叫び、三人が瞬時に真体になり龍一を囲む。


そこへ黒いフードを被った十人ほどの人影が前方に龍一たちを半円に囲むように現れた。


「やれやれ、真体になったのは三人か、どうだ?」

「真体の三人は殺せないまでも数で押せるな。火竜はどうする?」

「どうとも聞いてない。邪魔するようなら殺せ」

「とにかく目標はあの異世界人だ」

「少し魔力を感じる。話と違うぞ」

「どうでもいい。やることは同じだ」


「従者たち、主を守れ、抜刀! 小隊突撃!!」


オカッパが先手必勝とばかり小隊で突撃をかます。


「サキ、襲撃を受けてる、火竜は第一に守りたい、どうする?」


龍一はここ一番で頼りになるサキに尋ねる。


「ん、和也、火竜を連れて逃げろ。あるじは私が守る」

「サキ姉、俺もあいつら倒したい」

「だめ、今は火竜の保護が最優先。状況開始」

「……応! 神田さん! 動けます?」


火竜の背中の神田夫妻は鼻息荒く自分たちも戦う、と言うが和也は取り合えず避難誘導させる。

龍人は基本的に血の気が多い。


「中尉! こいつらっ」

「ああ! 魔人だ! 魔術に惑わされるな!」


オカッパ達も強いがなかなかに拮抗している。

オカッパが一人をブン殴り、倒す。


「おい、龍人にはヘタな幻惑は効かないぞ、てめぇを強化しろ!」


魔人の襲撃者は数に任せヒットアンドウェイを繰り出す。


「ふふふ、そんなの我が竜聖一刀流の前では児戯同然でござる!」


サムライも刀裁きが冴える。また一人切り伏せられる。

クロダは羽ばたき、空中から二人を支援する。

時々攻撃魔術を繰り出す。


「おお~、あいつらでなんとかなりそうだな」


傍で見てた龍一は少し安心する。


あるじ、油断はだめ」


サキは龍眼になり、いつ状況が変化してもいいように身構える。

真体になるのはまだだ、と油断なく状況を見極める。



襲撃者はまだ八人、残っている。

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