第壱部 俺の出張

第30話 友好示公武国

さて、俺は今、側室カナエを伴い、友好示・公武国に来ている。

この国はブラウ大陸北東に位置し、異世界より来た、勇者十名のうち拳闘士コウジと弓使いユウコが結婚して出来た。

国の名前がこの二人の名前、ユウコ・コウジをくっつけてユウコウジ、友好示・友好を示す国と言うことらしい。


……なんともセンスのない……とは思うが、こいつらきっと勢いで名付けちゃったんだろうな、と想像がつく。

きっと年とって国の名前言われるたびにああああ~~~、となったに違いない。


さて、この国は昔、魔王軍との戦いが終わり、後年また同じような事が起こった時にすぐ対処できる防波堤のような高い武力を持つ国にしたいと勇者組二人が地元の協力者と共に作り上げた国だ。

その為なんというか西洋風だ。

これだよ、これこそ異世界ファンタジーなんじゃないの?

なんだよ、龍帝国のなんちゃって時代劇みたいな和洋折衷な国は!


さて、その友好示公武国と我が龍帝国は仲がいい。

その名の通り友好国だ。

高い武力組織を作るために、我が国の竜をけっこうな量を輸入してくれているからだ。

そう、有り難いお得意様、ということだ。


実は我らが龍帝国はめちゃくちゃ金持ちだ。

それはもちろん、竜を多数飼育・輸出しているからに他ならない。

逆を言えば他に大した輸出できる産業がないわけだが、この世界ではそれだけで十分だ。

種類、大きさ、など豊富なバリエーションの竜を保有し、どの竜もみな高額で取引される。


現代社会で例えれば自転車・バイク・トラック・車・戦車・戦闘機・セスナ・大型輸送機・ヘリコプターなどの輸出大国だ。

しかも竜は鱗・皮膚・肉・骨・爪・角・目玉・各種内臓まで高価取引されるのだ。

自国の竜が倒れた時ですら、それら遺体が細部に至るまで取引対象となるのだから、いくらでも商売可能だ。

それらを飼育・育成しているのでまぁ金の成る気永久機関とでも言おうか。

その代わり食費は莫大なものだが、必要経費だな。

竜を売ればその食費を補って、なお余りある価値がある。

もちろん市場の値崩れを防ぐためにそれなりの輸出調整はしている。


そして竜と同じくらい、いやそれ以上に価値があるのが竜育を行う龍人だ。

輸出した竜の面倒を見るために腕のいい龍人がこちらから年単位で出向させている。

それらの出向料もバカにならないほど高額だ。

犬のブリーダーが馬の調教師と違う様に、竜も竜種によって竜育者が違う。

竜種を増やせば増やすほど、より多くの竜育者が必要となる。

その為、竜育者はしばしば他国にヘッドハンティングをされるがほぼ成功しない。

龍人はやはり龍人の国でしか暮らせないのであろう。


龍帝国以外の国では竜の飼育などの面倒を見てるのは大抵竜人だ。

竜人もよく、竜を買うがやはり龍人には叶わない。

これはどういうことかというと”竜を従わせる力”というものが竜人と龍人では段違いなのだ。

経験豊富な龍人の竜育者なら百頭の竜を一人でなんなく操る。

竜人の場合、どんだけの熟練者でも二頭が精々だろう。

それだけでも実は他の人種から見たらすごい話で他の人種には無理な話だ。

なんとか、おとなしめの草食の小型竜を手なずけるので精一杯だろう。


ただの人じゃなくなった俺も竜のことがなんとなくわかるようになった。

あらゆる竜にとって龍人は上位種なのだ。

時々政治家だの学者だのが俺の執務室に来たりするが、そいつらは大体竜に興味がない。

それでもそこらの竜人なんかよりも上手に竜を扱う。

だから俺がただの人の時、周りの連中はあまり俺に竜に近づけない様にしたらしい。

レイリの馬車もそういう一面があったらしい。

現在は俺より大きな肉食竜の近くに行っても、あまり怖いとも思わない。


さて、今回俺たちがこの国に来たのは中型の肉食竜が竜育の一名の竜人を嚙み殺し四名ほどにケガをさせて逃亡した、ためだった。

出向してた龍人もちょうど帰省の時期で何とかして欲しいとSOSがきて龍帝に命令されて、「お前ちょっとこの件解決してみせろ」と派遣されたってわけだ。

仕方ないので”ご令嬢のお館訪問”は一時中断だ。


今回の派遣メンバーは俺以外にカナエ・従者二名・オカッパ小隊三名・近衛三名・帰郷中のこの国に派遣されてた竜育師の龍人二名。

派遣団十二名と多くなってしまった。

他に飛竜騎兵ドラゴンライダー七名


はっきり言って近衛は要らなかった。

下条屋敷でも俺が困っている時全く役に立たなかったしな。

しかし俺がオカッパ小隊を手元に配置してからなぜか対抗して三人用意されて、行く先々に付いてくるようになった。

カナエにグチったが「それも仕事と思いなさい」と一蹴された。


「これは別に、私が元近衛だからいうのではないわ。あなたはいずれ龍帝になるのだから少しづつでいいから近衛と折り合いを付けなさい」


と正論をかまされたのでグウの音もでない。頭でわかってはいるんだけどさ……。

そのカナエは最初連れてく気はなかったんだけど「役に立つから連れて行きなさい」とゴリ押しされた。

従者は無表情1号ちゃん改め、龍乃影サキちゃんと、え~と、そうだ青野和也君。

せめて俺付きの従者の名前くらい覚えないとね。


それで俺たちは七頭の小型飛竜に分乗し、三日かけて友好示公武国にきた。

出迎えた飛竜に誘導され、首都近くの飛竜場に到着、迎えられた馬車で首都に入る。

馬車の中で副大臣とかいう人が「この度はご足労頂き……」だの色々言ってた。

逃げたのは龍帝国より輸入して間もない、軍用の中型火竜で、どうしても無傷で捕獲して欲しいと何度も念をおされた。まぁ高価な竜だしな。

やれやれ、これは大変そうだ。


我々はとりあえず、用意されたこの国一番の来賓が利用するホテルに入った。

この国に設置された、龍帝国大使館から役人が何名か来て詳しく説明を受ける。

彼らが持ってきた地図を広げ対策を練る。


大使が今回の火竜逃亡事件の概要を伝える。


「え~、今回逃亡した中型火竜ですが逃亡したのが夜半だったこともあり、不幸中の幸いと言いますか、犠牲者は飼育してた竜人のみ、のようです。

それで逃亡経路ですが、首都を南に突っ切りその後、南西の方に逃亡し、森に入り行方がわかっておりません」


大使館職員のエルフが続ける。


「我々含め、雇った数名の狩人と冒険者が足跡を追ったのですが途中で見失いました。追跡に気が付いたのか、なかなか頭のいい奴です」

「フンっ! 当たり前だ、中型火竜は優秀な狩人でもある。エルフごときにそうそう見つけられるものか!」

「はい、オカッパ黙って下さい~。あと差別発言禁止」

「しかし! にのっ……はい」

「しかし、二の丸殿、エルフの民や狩人にも見つけられないとなるとなかなか厄介でござる」


サムライがしかめっ面で言う。


「じゃあさ、僕らの乗ってきた飛竜で探そうよ。空からなら早く見つけられるじゃない? 見つかったら地上の捜索班に合図をすればいいし」


とクロダ


「う~~ん、それで見つけて捕獲をどうするか、だな……竜育師の二人はどう思う?」


連れてきた竜育師は中年(見た目がな)の夫婦で神田光一・マリ夫妻だ。


「あの子は本当に頭の良い、いい子なんです。私たちの一団がいなくても、いいようにちゃんとこの国の竜育係に教育もしましたし、手順書も渡しました。なぜこんなことに……」

「母さん、よせ、二の丸様、逃げた竜は私たちの組が空乃七条さまの牧場で赤子の時から育てた古い種ですが優秀な竜です。

私たちの顔を見せればきっと言うことを聞いてくれます」

「なるほど……ん? もしかして七條て?」


と俺はカナエの顔を見る。


「龍乃七條家の縁者ね。七條一族は帝国の竜のほぼ全てを竜育してるわ」

「ああ、やっぱり。ま、それは今はどうでもいいや。とりあえず今回はクロダの案で行こう。大使、雇った狩人たちはどうなってます?」

「はっ、まだ契約中であります」

「じゃあ俺とカナエ、近衛で四頭の飛竜で空中探査、その他は地上班ということにしよう。それで飛竜班が目標を発見次第、地上班に連絡」

「連絡手段はどうするでござる?」


サムライの問にカナエが答える。


「飛竜班はまず、お互いが視認できる距離で飛行探査、目標を発見次第、他の飛竜に飛竜を鳴かせ合図、そのまま見失わないように空中停止。他の飛竜三体はお互いを見失わないように地上班まで移動。

近ければそのまま地上から目標へ接近。遠い場合、夫妻を飛竜に乗せ、急行。その後到着次第、目標近くに夫妻を降ろし、そのまま接近して説得?、といったところかしら?」

「お~さすが元近衛将校、素晴らしい作戦だ、誰か意見はありますか?」

「夫妻を最初から飛竜に乗せてくのはどうでござる?」


あ~そういえばそうだな。その方が速そうだ。


「神田夫妻どうかしら?」

「飛竜でなるべく刺激させたくないので最初の案でお願いします」

「ではそれで決まりね」

「他になにかないかな?」


皆カナエの作戦案に納得してる様子だ。

特にオカッパは「すごい! 私と考案してた案と全く同じでした!」なんて言ってる。そう言えばこいつも指揮ができる将校だったな。

とりあえずこの案でいけそうだ。あとは出たとこ勝負だな。


「よし皆これでいいな、今回の作戦を『キリシマ作戦』と呼称する! 明日早朝より状況を開始する、各自準備せよ!」


「「「はっ」」」と皆が立ち上がりキビキビとそれぞれ準備に入る。


く~~映画とかアニメとか見た、なんか指揮官のやる掛け声、一度やってみたかったんだよねぇ~気持ちいい!


……カナエとオカッパがなぜか生暖かい目で見てるが気のせいだろう。

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