第29話 報告書

私は妹分に交代してもらい、一日三時間寝る。

そしてその他の時間はあるじのそばにいる。


午前 5:00


あるじの朝は早い。

朝も暗いうちから、お城の敷地の周りを走るのだ。

最初のうちは一周するだけでバテてたが、最近は十週ほど走る。

私のために頑張るあるじはいじらしい。

私は私より弱い男には興味がない。

きっと私より強くなり、私を抱くためにあるじは鍛えているのだ。

なんともいじらしいがあるじであれば別に今すぐ抱いて頂いて構わない。

その為に下着はいつもあるじ興奮間違いなしの勝負物を身に付けている。


おっと走り終えたあるじに水分補給をさせ、汗を拭く。

体中の汗を拭いてあげたいとこだがあるじは私からタオルを受け取って自分で拭いてしまう。

きっと恥ずかしいのだろう。そんなあるじも可愛いが、もう少し私を頼ってくれて構わないのだが仕方ない。

あるじの自主性を妨げないのも侍女の仕事だ。



午前 6:00


汗を拭き、一息ついたら二の丸御殿近くの広場に行き、近衛の武術指導の者と一通り体操やら柔軟をする。

私は柔軟のお手伝いをする。あるじの身体に私が触れ、あるじは少しドキドキしてるのだろう。

私の身体の匂いを嗅いで興奮しているかもしれない。

もちろんそのまま押し倒してくれて構わない。

武術指導の見ている前で朝焼けを浴びながら大人の柔軟体操になるのも仕方のないことだろう。


・・・しかしそんなことはなく、普通に武術指導者と柔軟をし、武術の訓練を始める。

最初は体術だ。

一通り組手を始める。


私もあるじと組手をしてみたいものだ。

体術には自信があるし、ボディラインにも自信がある。

この武術指導者も私なら数秒で倒せる。

その後、あるじと組手を始めるがあるじは優しいので女の私に手や足を出すのをためらうだろう。

きっと軽く右拳でも繰り出してくるかもしれない。

私はそれを左手で手首をつかみ、そのままナナメ下に体崩しをして主を組み伏せる。

背中に乗り、そのまま右手を極める。

その際、私の身体の柔らかいところが主の身体にあたり、またもあるじは興奮してしまうのではないか?

しかも接触部位が多い。

これはもう生殖行為と呼んで差し支えあるまい。


おっと、組手の後は剣の稽古だ。

むむ、指導者はもう少し手加減をしてやってもよろしかろう。

私ならやさしくあるじの後ろから手をとり指導する。

そうするとあるじの背中に私の胸が当たってしまうのは仕方のないことだろう。

不可抗力というやつだ。

あるじはきっと全力で背中に集中し、我が胸の感触を感じてしまうだろう。

そしてあるじのエクスカリバーと言う名の剣の稽古になってしまうのもしょうがないことなのだ。

私は受け止めるしかないのも、しょうがないことなのだ。


一通り稽古が終わったら今度こそ体中を拭こう、隈なく、余すこともなく。

しかし照れ屋であるところのあるじはまたしても私からタオルだけを受け取り自分で拭いてしまう。

困ったあるじだ。侍女に仕事をさせるのも主の役目だというのに。



午前 7:00


朝はあるじは城内の誰でも入浴自由の大露天風呂に汗を流しによく行く。

付いていってお体を洗うのをお手伝いしようとしたが断られる。

あるじは恥ずかしがり屋さんなのだ。

私の裸なら見ていただいても全然かまわない。

むしろ、この鍛え上げた体を全身くまなく眺めて頂きたい、と思っている。

いずれ、そういう関係になるのであれば早い方がよろしかろう。

だが脱衣所で控えているように言われ、仕方なく待つ。

しかし、風呂上りに仕上がったあるじが私を求める場合も考えておかねばならない。

脱衣所という場面設定に燃え上がるのも一興であるのは間違いない。

他の入浴者に見られながらとはあるじもとんだ、ど変態だが侍女である私は受け入れるしかない。

あるじのお求めを全て受け止めるのが侍女としての役目なのだ。

そうこうしているうちにあるじが風呂から上がる。

身体を拭こうとすると断られる。

どこまでも恥ずかしがり屋なあるじなのだ。

少しは私に仕事をさせて欲しい。


午前 7:30


その後、あるじは二の丸の食堂に行き、ご正室とレイリ様とお食事を取られる。

その間、給仕は食堂の女中に任せ、隣の控え室で私も食事を五分で済ませ、他のあるじ付きの者と今日の予定の確認をする。

青野兄弟とサン・サヤは今、龍ノ三条家ご出向のための用意の段取りを任せてあるのでその確認。

サナは私と一緒に主周りにいてもらう。

サナは美人なのにわざと目立たないように地味にしている眼鏡っ子だ。

もう少しちゃんとすればいいのに、とは思うが目立たなくするのも影の仕事だ。仕方ない。


午前 9:00


午前中はあるじの魔力の調整だ。

これは龍神様が毎日交代で行っている。

今日は雷龍様の日だ。

本丸奥の後宮に向かい雷龍様のお社に行く。

あるじが雷龍様のお社に入り、私たちは外で待つ。

時々光ったり、ピシャァァァァという音が聞こえる。

その度にあるじのうめき後が聞こえる。

きっと二人でエロいことをしてるに違いない。

私だって影の房中術、四十八式を使えばあるじをもっとよく鳴かせることは可能だろう。

しかし、私には魔力調整なんて複雑なことはできない。

いや、むしろ雷龍さまのしてるエロいことをお手伝いできたらいいんじゃないだろうか。

そうしたらあるじも喜ぶ。

ふと横を見るとサナの頭が揺れている。

今日は日差しも柔らかいからな。仕方のないやつだ。


午後 0:00


サヤが昼食をもって来てくれた。

あるじの分を確認する。

あるじは最初とても小食だった。

以前は龍人で言えば十歳くらいの子供の量くらいで満腹になっていて、心配したものだが最近は食べる量も増え、喜ばしいことだ。

私はお社の閉じられた、扉の前で食事がきたことを告げる。

扉が開かれると下着姿でぐったりして倒れてるあるじと、やはり下着姿であぐらをかいて笑ってらっしゃる雷龍さまがいらっしゃった。

やはりエロいことをしてたのだろう。

こんな明るいうちからお盛んなことだと思うが、私も体力には自信があるので朝から晩まで一日中あるじのお求めに応える自信はある。

きっと魅力的すぎる私に主は私を片時も離したくなくなるだろう。

仕方のないあるじだと思うが、それに応えるのも侍女の役目だ。

愛されすぎるのも大変だ。


サヤは、私たちの分まで弁当を持ってきてくれたので、その後三人で外で昼食をとる。

私は手早く食べ終わりお社の近くに行きたいが、サナ・サヤの話が長い。

鬱陶しいが妹分の話を聞いてやるのも年長者の役目だ。仕方ない。


午後 15:00


その後、昼食後もしばらくお社に籠り、休憩した後、本丸のあるじの為に設えられた執務室に向かう。

その時は三バカ・・・もといオカッパ小隊も付いてきた。

あるじはオカッパ小隊と談笑しながら公務をこなす。ちなみにサナは隣の控室で待機している。

はっきり言ってコイツら邪魔だ。

やっぱり三バカでいいや、コイツら。

コイツらさえいなければあるじと二人きりなのに。

二人っきりであればこの密閉空間で魅力的な私に我慢ができなくなり、あるじは私をお求めになるのではないだろうか?

社長と秘書? 的な場面設定にあるじは大興奮してしまうのではないだろうか?

乱暴にあの執務中の、大きな机に押し倒されてしまうに違いない。

さんざん体を弄ばれたあと、今三バカがくつろいでるあの長椅子で事に及ぶに違いない。

職場で行われる禁断の情事・・・。なるほど、しかしあるじのお求めにいつでもどこでも応えるのは愛される者の定めだ。

受け入れよう。


さて、公務といっても、報告書を読んだり書類にハンコを押すだけの作業だ。

まだまだあるじがこの国で何かを決定したり指示を出したりすることはない。

しかし、なぜか色んな部署の奴らが、お知恵を拝借したく、とあるじの執務室に訪れる。

きっとこの世界にはない、異世界のことを聞きたいのだろう。

大半は仕事以外の話をして帰って行く。

まつたく私の愛し人は人望がある。

しかし人望があり過ぎるのも困ったものだ。

私を睦む時間が減ってしまうからな。

控室に行くとサナが寝転がりせんべいを齧りながら新聞を読んでた。

もう少し仕事をしてるという意識を持って欲しい。


午後 19:00


二の丸に戻り、愛しい我が君は三バカを連れて兄上と本日の報告と明日予定の確認を行う。


午後 19:30


愛しい我が君は奥方様たちとご夕食をお取りになる。

レイリ様はいつも通り、バリバリお食べになるがご正室様はあまり食が進まないようで、愛しい我が君はご心配されていた。

無論私が身ごもった時には愛しい我が君にご心配おかけすることがない様にしなければならない、と肝に銘じる。


午後 20:40


愛しい我が君は腹ごなしの為、食後に軽く、体術の自主練を行われる。

ちょっと薄暗闇の中で励む愛しい我が君。

今回は体調の良い、レイリ様もご見学されてらっしゃる。

黙って御覧になってらしたが一通り愛しい我が君の自主練が終わると、がんばってね、と抱擁しお戻りになられた。

ご懐妊されてから、以前にはなかった貫禄のような余裕のようなものがある。

今後の為にも参考にさせてもらおうと思う。


午後 21:30


愛しい我が君は汗を流すために今度は皇族専用の浴場に向かわれる。

なるほど、ここで余人を交えず私と睦みあいたいに違いない、と思われるがその前に兄上に呼ばれ、仕方なく、サンと交代する。

兄上の用事は大したことではないので割愛する。


午後 22:30


愛しい我が君の居室横の控室に行く。

サナとサンが待機してたので引継ぎをし、二人にはもう戻り休むよう伝える。

さて、私は控室の扉に耳を当てる。

本日はカナエ殿がご訪問あそばし、現在談笑中らしい。

酒、つまみの替えの用意はサナが準備していてくれたので呼ばれたらすぐにお持ちしなくてはならない。

その後、御呼ばれはなく、カナエ殿との一戦が始まった。

カナエ殿は普段のお澄まし顔からは想像できないくらいのど淫乱だ。

激しい音がし、声も大きい。

そして何度も甘えた声で愛しい我が君にねだるのだ。

近衛隊で普段抑圧された生活をしていた反動なのかもしれんが、とんだムッツリだ。けしからん。


午前 3:30


愛しい我が君はかなえ殿相手に五回戦を戦い抜いた。

もちろんその戦闘記録は聞こえてくる範囲で詳細に記録したので別紙にて参照して欲しい。

もちろん私もいざ、愛しい我が君との事を迎える時には大いに参考にしたい。


そして愛しい我が君はご就寝遊ばれた。


以上で、愛しい我が君の本日の行動記録を終わる。



               龍ノ影さき

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「おれは昨日の報告書を提出しろと言ったんだ。誰がお前のエロ妄想小説を出せと言ったか!」


翌朝、これを読んで二の丸の一切を取り仕切る龍ノ影庄司は頭を抱えた。


「私、頑張った。私史上最高傑作」


この妹は愛想がないこと、いや感情が表にでないことを抜かせば出来がいい。

なのに、なぜ・・・と兄は困惑する。


「だからさぁ~今日も私が書くっていたじゃん、サキ姉。後半”あるじ”から”愛しい我が君”になっちゃって欲望駄々洩れじゃん」

「その方が気持ちが伝わる」

「サナ、お前のもなぁ~・・・」



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午前 五時

 主様あるじさま・起床、走る 異常なし


午前 六時

 主様あるじさま・稽古 異常なし


午前 七時

 主様あるじさま・風呂 異常なし


午前 七時半

 主様あるじさま・朝食 異常なし


午前 九時

 雷龍様お社 主様あるじさま・魔力の調整 異常なし


午後 零時

 主様あるじさま・昼食 異常なし


午後 十五時

 本丸執務室 主様あるじさま・執務 異常なし


午後 十九時

 二の丸 主様あるじさま・打ち合わせ 異常なし


午後 十九時半

 主様あるじさま・夕食 異常なし 


午後 二十時四十分

 主様あるじさま・自主練 異常なし


午後 二十一時半

 主様あるじさま・風呂 異常なし


午後 二十二時

 カナエ様来訪。酒盛りその後性交  異常なし


午前 三時半

 主様あるじさま・就寝 異常なし


      桃野さや

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「いつも言ってるがもう少しなんか書くことがあるだろう?」

「ないよ、庄司兄。報告書は簡潔なほど美しい」


フンスっと威張る。


まだまだ指導が足りない、と龍ノ影家長男は思う。

いずれあるじが龍帝になれば自分が父の跡を継ぎ侍従長にならなければならない。

妹たちがこうもポンコツだと不安しかない。

あるじたちがそんなに手がかからないのに庄司の悩みは尽きない。

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