第27話 龍ノ下条家 参
「ご就寝時に無理なお願い、お聞き届け、入ります。龍ノ下条カナエでございます」
平伏したまま、カナエが言う。
「二の丸様、ご油断無きよう」
無表情1号ちゃんが耳打ちするが、わざと相手に聞こえるくらいの大きさの声で言う。こいつ……。
「それで、どの様な御用でしょう?」
「はっ、できますればお人払いをお願いしたく……」
俺より先に無表情1号ちゃんが答える。
「それは出来ません。我が主はあなた方に不審の念を抱かれておいでです」
「いや、いいよ、この人は俺に危害を加える気はなさそうだ」
「しかし! 二の丸さまっ」
俺は手をあげ1号ちゃんを制し、二人に出ていくよう手でジェスチャーする。
あの1号ちゃんが演技かもしれないけど、感情出してまで俺のそばにいてくれようとしてくれたのは嬉しいけど、ここまで平伏してくれてる人をこれ以上無碍にするのも、ね。
「わかりました、ではすぐ外に控えております。何かございましたらお呼びください」
と1号・2号は出て行ってくれた。
「では、改めて、どういったお話でしょう?}
「はい、まずは謝罪をさせていただきたく思います」
俺はわざとわからないフリをする。
「謝罪? 何かそちらに謝罪して頂くような件でもございましたか?」
「はっ、初日に当家の女どもが二の丸様に、その……ご無礼を働いた件にございます」
「ああ、俺を誘惑してきたことか。アレはまいったよ」
「申し訳ございません。我が祖父の仕出かしたことではございますが、その後、かの者の暴走を止めました故、なにとぞご容赦を」
「え? でも君も知ってたんですよね?」
「それは、その、存じておりました」
「それで高見の見物を決めてたわけですか?」
「いえ! そのようなことはなく! その……二の丸様は、その、女性を、が、その、お抱きになるのがお好きだと、そういう情報があり……」
「ああ、喜んで差し向けた女性達とお楽しみに励むだろうと、そう思ってたわけですね」
「……はい」
「なるほど……」
どこ情報?どこ情報だよそれ! いや確かに現時点で二人と二神とではげんでるけどさ。
そんな出会った女を片っ端からやるような性獣じゃねぇよ!
「では私への無理解であのような仕打ちをされたと」
「はい。お喜びなるかと、いうことです。大変申し訳ございませんでした」
……ため息がでちゃうな……。
「あなたも私の側室に入る気があるのでしたら今回の件は是非止めていただきたかった、とういうのが私の気持ちです」
「重ね重ね、申し訳ございませんでした」
「とりあえずこの件に関しましては……そうですね、今少し考えてみたいので保留にしておきます」
「……わかりました、お好きなようにご処分願います……」
「では、これでよろしいでしょうか?」
「あ、あともう一つ! もう一つだけよろしいでしょうか……」
「……伺いましょう」
「少し、私の自身のお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ」
カナエは正座し、背筋を伸ばし、姿勢を正し話し始めじた。
「私には婚約者がいました。と、申しましても生まれて数年で親が決めた遠縁の下条の者です。
その方は近衛でも人望もあり、文武共に優れ、地位の高い方でした。
お年は65歳で、私とは63歳差で私が20歳を迎えた時、婚約の儀を行い、4,50歳当たりで婚姻の儀を行うことになっておりました。
二の丸様はもともと人族のお方なので奇妙に感じられるかもしれませんが、こういうことは龍人の世界では珍しいことではございません。
龍人は生まれて赤ん坊から20代くらいまでは人と同じに成長しますがそれからはゆっくりになります。
20代が100歳くらいまで続いている、とお考え下さい。
さて、私とそのお方ですが幼い私に会いにこの屋敷によくいらっしゃってくださいました。
私の親には、この娘との間に子が生まれたらその練習になります、似た子だといいですが、と私をよく構っていてくれたそうです。
私もよく懐き、十代のころにはこの方に似合う女性を目指さなければ、と自分を磨きました。
とは申しましても武辺の家のなのでもっぱら武術に明け暮れ、時々、級友などから女らしさをご教授頂く、くらいのことでしたが……。
20年前のことです。私が19歳の時、それまでは身内と周辺のごくわずかの者ににしか婚約のことは知らせていませんでしたがいよいよ来年、公に向けて知らせる婚約の儀が待っていた時のことです。
突然婚約はご破算になりました」
「……理由は?」
「理由は今回の異世界召喚が成功しそうだ、ということでした。我が龍之下条家で親類全てを合わせても一番年少の龍人の女は私なので当家からは私を異世界より来たのが男性であればその者にあてがおう、と親類一同を交え相談した結果、決まったそうです。
儀式が失敗したり、女性だったらまた婚約したら良い、といういことになりました。
成功しそうだという目途が立ってから後、龍帝様のご正室レイラン様より女児がお二人お生まれになり、皆もなんとなく今回の召喚は皇家が是が非でも男性召喚に全力を尽くすだろうと他の貴族達も用意を始めたようです。
そして今回の召喚儀式は成功し、あなた様が異世界よりこの地にいらっしゃいました」
「……なるほど、あなたのお立場は良くわかりましたが、それを俺に聞かせて、どうしたいんです?」
「わかりません……。ですがただ二の丸様に聞いて頂きたかっただけかもしれません」
「その、婚約者の方は今は?」
「現在は遠く離れた国境付近の出張所の閑職に就かれてるとか、当分中央に戻ることはないでしょう」
「そう、ですか」
「誤解されないで頂きたいのですが、確かに婚約者の方のことはお慕いしておりましたし婚約がなくなった時は寂しい想いもしましたが20年前のことですし、もうなにも感じることはございません。
二の丸様が御来龍されてよりあなた様のことが気になり、あなた様のことを良く知りたく思い、色々と手の者に調べていただいたりしております。……お笑いください」
「その割にはこの数日ツンツンした態度されてるんであまり良い印象がないのかと思ったよ」
「それは……あの、ご側室お披露目の儀のお言葉です」
「あれ? 俺なんか言ったかな?」
『……領地を知りたい、貴女に案内して欲しい、それ以上に深く貴女を知りたい……』
「私はお城に入り、もうこの地に来ることはないと覚悟して龍都にいました。……なのに……あなた様は……」
ん、ちょっと待て、これ俺は地雷踏んだのか? 踏んじゃったんじゃないのか?
かなえだけでなく……他の貴族の娘たちにも……
「ふふふ、そのお顔はお気づきのようですね。他の娘たちにお会いするときも精々お気を付けて下さい。皆、生半可な気持ちであの場にいた訳ではない、ということを二の丸様の身に深く、刻んでいただきたく存じます」
こいつはかなわないな。おれは会う女性、みんなにこうして手玉に取られていくのだろうか……。
「わかったよ、降参だ。今回の色仕掛けは俺の胸の内にしまっておくよ」
「……感謝いたします」
「もうしゃべり方も地に戻していいよ、お互い疲れるだろ?」
「ありがとう、助かります。肩が凝ってしょうがないわ。ずいぶん時間を取らせてしまったわね、もう戻ります」
「戻るな」
と立ち上がりかけたカナエの手を取った。
「……いいのかしら?」
「最初からそのつもりだったろ?」
ふふふ、と俺の問には答えずカナエは俺の顔を艶めかしい目線を送りながらゆっくりとスーツを脱ぐ。
なんともやる気満々のレースひらひらのヒモ状態の下着だった。
「二の丸様が言うなら仕方ないから、泊まって行ってあげる……」
と、俺の上に被さり口を重ねた。
そしてぎゅ~と抱きしめてきて「20年、待ったわ。私、初めてだから……」と耳もとで囁かれた。
◇◇◇
廊下では無表情の侍従と侍女が待機してた。
「姉御、おっぱじめやがったな」
龍一が心の中で2号ちゃんと呼んでた侍女が隣の侍女に言う。
「うまく収まって良かったんじゃない?」
と1号が応える。
「いやいやぁ~~姉御、アレ、この家のお取り潰しまで絵描いてたんじゃない?」
「どうかしら? どうでもいいじゃないそんなこと」
「これからどうする?」
侍従が聞いてくる。
「そうね、もうここは安心だわ。私が残るから皆解散。配置に戻ってちょうだい」
「了解」
と返事が返った一瞬後には1号を残し、誰もいなかった。
一人残った彼女は今晩も朝まで長いなと思いながら襖の前で正座し待機するのであった。
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