第24話 新しい龍

婚礼を終えた後、龍一は龍之宮城本丸より離れて、南西に位置する二の丸という建物に居を構えている。

レイラ、レイリも一緒に移動し、三人での新生活を送っており、城内では「二の丸様」と新たな呼称が付いた。

二の丸は本丸と違い、レンガ作りの洋風な建物だが五十畳敷のタタミの大広間が存在したり、こ洒落たテラスなどがあったり、相変わらずの和洋折衷な建物だ。

その五十畳で、とある取り決めが行われていた。


「……では順番はこの様に決まりましたが皆さま、異論はございませんか? ……なければこれで最終決定とさせて頂きます」


これは龍一が貴族令嬢お館巡りをする順番の抽選会だ。

昨日の御三家と十代公爵家の代表が集まり、巡る順番を決めるのだがなかなか難儀した。


「普通に御三家より始まり、一条~十条で廻ればよろしかろう」


と言う上位の貴族に対し、後半に回る貴族が反発したためだ。

しかし、あっさり龍一の「抽選で決めよう」の一言で取り決めが決まった。

もともと婚礼が済めば間髪を入れず、十三人が輿入れする予定だった。

なにしろ寿命の短い人族の龍一には若いうちに少しでも長く、一人でも多くの娘と交わってもらわなくてはならない。

龍の因子をもらい、数百年の寿命を得なければ昨日の龍一の提案など一笑に付されるとこだったのだ。

お前にそんな暇あるのか? と。


そしていよいよ一月後より龍乃下条家よりお館巡りがスタートする。



◇◇◇



側室お披露目の後、龍帝にメッチャ説教くらったけどまぁ無事終わったし、いいよね。

お館めぐりの順番も決まったし。

引っ越しも大体すんだし、てか俺の荷物なんてほとんどなくて、レイラ・レイリ姉妹の荷物運びが大変だったよ。

でもどうせそのうち本丸の御殿に戻るんだから、こっちは戻してこれは持ってってと、まぁ女性の支度は大変だよね。

そんなバタバタした俺の日常も、今日は久々に休養をもらえた。

以前の身体よりタフになったとは思うが、鍛えてるしな! ……まぁ疲れた。

夜の営みも、今は週に一度休息日をもらっている。

俺は二の丸御殿そばのいくつかある、あまり手入れされてない、人も寄り付かない小さな庭園にいた。

そこにベンチとテーブルを運び、焚火をしていた。

そう、以前の世界の俺は趣味なんてものはなかったが、唯一積極的にやりたかったのがソロキャンプだ。

都会の喧騒を離れ、一人自然の中に身を置き、木々のざわめきや小鳥の声を聴く……ああ~~~大自然~~~~~!

いや、手入れがそんなにされてないとは言え、城内の庭園の一つだしね、ここからは城内の建物は見えないが歩いて三分に建物あるしね。

ソロキャン好き~~なんていっても元の世界でも三回しかしたことないしね。

ええ、ええ、ほぼほぼ素人ですがなにか?

いいじゃん! こうして何もせず焚火の炎を眺めてるだけでも! ほら、俺『炎の龍人(仮)』だしさ!

そう言えば二の丸付きの侍従長にくれぐれも火事など起こさないようにとクギをさされたな、いやいや今は城のあれこれは忘れよう……この炎を見詰めているだけでいいんだ……。


ほら、あの木の上で鳥が綺麗な声で鳴いてるじゃん。


 ああ、鳥よ、お前は何処から来て何処へ飛んでいくんだ?

 何を思い木の上で鳴くんだ?

 城というカゴの中の鳥の俺とお前。

 お前の自由を俺にくれるならいつでもその立場を変えてやろう……。


……ヤバイ! 俺って詩人じゃね?

「かぁ~~~かぁ~~~~」

めっちゃカラスじゃね?


「二の丸様、至急御殿にお戻り下さい」


俺付きのいつもの無表情侍女が無感情に呼びに来た。

う~~ん、俺の休日が音を立てて崩れていくね!



◇◇◇



私は龍帝国・二の丸様・正室レイラです。


本日はとても大切なお話を、二の丸様にしなくてはなりません。

彼の居室で妹のレイリとお待ちしてますが、ふふふ、レイリの方が緊張した表情です。

さてさて、彼はどの様な表情をするのでしょう? 今から楽しみです。


「ね、ねえさ、奥方、様、少し座って下さい」


こんなにおろおろする妹は見てて楽しいですね。


「ふふふ、レイリ大丈夫ですよ」


こんなやりとりをしてると部屋にいた侍女が「いらっしゃった様です」と、扉を開けます。夫が来たようですね。


「どうしたんだ、二人とも、俺、今日はオフでソロキャンなんだけど……」


ふふふ、何をおっしゃってるのかはわかりませんが不機嫌そうな彼も可愛いものです。


「二の丸様、お休みをご満喫のとこ、お呼び出しして申し訳ございません。実は急いでお話したいことがございまして……」


レイリがとてもドキドキしながらこちらを見てますね。


「……なにかあったのか?」


夫も何か感じたのか、緊張してきたようです。


「実は……こちらにお寄り下さい」


言われるままに彼がこちらに来て下さいます。

私は夫の腰に両手を廻し、抱き寄せて耳元で囁いてみます。


「……私のお腹に新しい龍がいます……」


◇◇◇



「え、? それって、俺の?……」


俺は思わず聞き返す。


「はい、あなたと私の赤ちゃんです」


うふふとうれしそうに、本当にうれしそうにレイラは笑った。


「マジかぁ~~~!!!」


マジか! マジか! マジか! マジか! マジか!!


「俺の……俺とレイラの……子供……」


俺はレイラの腹をさすって見る。

この中に新しい命があるんだ、今レイラは二つ命を持っている……ゾ○ィー隊長か!? よくわからんが昔ネットで見た特撮番組を思い出した。


「いやったぁ~~~~~!!!!」


俺は思わずレイラと持ち上げた。


「すごいぞレイラ! やった、やった、やったぁ~~~! 俺たちの子だ!赤ちゃんだ~~!」


レイリも侍女たちも少しうるうるして祝福してくれてるが、俺付きの侍女は相変わらず無表情だった。


「兄さま、あまり無茶しないで、お腹の子がっ」


「二の丸様! 奥方様を降ろして下さい」


レイラを抱え上げ、クルクルといつまでも回る俺を周りが止めた。


◇◇◇


その半月後だ。

俺とレイリは全裸で朝の陽光を全身に浴びながら腰に手を当てて牛乳をゴキュゴキュと一気飲みしていた。

レイリと夜を過ごした迎える朝の日課みたいになっていた。


「ぷっはぁ~~~~! やっぱり兄さまとヤったあとの牛乳は最高ね!」


レイリは人前だと俺のことは二の丸様と呼ぶが二人っきりの時は相変わらず兄さまと呼ぶ。


「そうだな、今朝もいい天気だ」

「でもしばらくこれは無理ね!」

「どうしたんだ?」


ニカ~~~~と笑ってレイリが言う。


「私のお腹にも新しい龍がいるわ!」


◇◇◇


城内はもちろん、龍都に国中が二の丸様奥方・ご側室ご懐妊に沸いた。

男の子か? 女の子か? お名前はどうなさるのか?

どの様にお育てになるのか?

街角で、食堂で、酒場で、国民の話題に事欠かない。

もちろん学園で女子高生たちもその噂話に花を咲かせている。


「聞いたし?」

「姫様とうとう孕んだか~~」

「す、素敵です~~。うらやまですぅ~~」

「ご一緒になったんですもの、いつかはそうなるのも当然ですわ」

「きしししし、レイラ様と交代で週3だろ? よくやるしょ」

「姫様~学園ど~すんだろね~~」

「とりあえず休学して出産が落ち着いたら復学するんでないかい?」


「何はともあれお幸せそうでなによりですわ」


◇◇◇


とある軍事施設の食堂でとある女性兵士が昼食に顔ほどもある大きなおにぎりを食べていた。

四つ目をほお張ろうとした時声をかけられた。


「お久しぶりです。中尉」

「ああ、貴様らか、何の用だ」

「ここ良いですか? 失礼しま~す」


とグレーの軍服に黒いマントを羽織った男が返事も聞かず座る。


「お、甲定食とは豪勢ですな、拙者、本日は乙定にし申した。質より量、でござる。」


もう一人が加わる。


「いやぁこの顔ぶれはずいぶん久しぶりですね」

「同じ基地にいるのに不思議でござるな」

「ふん。別に会いたくもないがな」


と、中尉と呼ばれたオカッパ頭の女兵士はおにぎりをほおばりながら興味なさそうに答える。


「そう言えば聞きました? 御懐妊?」

「知らない奴がいるのか? 昨日今日入国した外国人だって町中のこのバカ騒ぎが目にはいるだろう。」

「いやぁ~おめでたいでござるよ」

「どうでもい」

「一気にお二人と入籍したかと思えば間髪入れずにお二人がご懐妊だからね~」

「かの御仁も頑張ったでござるな」

「お祝いを言いに行きたいけどそう気軽に会えないしねぇ」

「まぁまぁ、ここは心の中ででお祝いを告げるでござる」

「とか言って、また競竜でスったんじゃない?」

「いやいや、拙者最近は競竜場には行ってないでござるよ」


中尉はもう話には加わってこない。もくもくとおにぎりを食べてさっさと立ち去ろうと考えてるからだ。


『龍人は抱いたことあるかぁ~~?』


黒マントが小さい声で聞こえる様に言った。


「なっ貴様!!」


『気持ちいいぞぉ~』


侍言葉で話す男も続ける。


「貴様ら~! やめろよぉ~~」


男二人は笑いながらまた、かの御仁に三人で会えればいいな、と思っていた。

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