第壱部 俺と側室
第23話 ご側室お披露目の儀
まだまだ国中が両皇女婚姻のお祭りムードの中、城内の例の百畳敷きで、とある顔見せがあった。
婚儀の七日後に行われた、それが「ご側室お披露目」である。
まず上座に龍一が座り、右にレイラ、レイリが座り、左に雷龍、水龍が座った。
その左端に数名の侍従・侍女と龍帝夫婦が座っている。
龍一の前にはまず三名の女性が並び、後ろに五名づつ二列に女性が並んでいる。全部で十三名だ。いずれも美女揃いでそれぞれそれぞれ色鮮やかな振袖姿だ。
そしてその女性たちの左右に縁者達が取り囲むように並んでいる。みな平安時代の貴族のような服装だ。
「いやいやいや、異世界の君を龍帝に据えれば箔がつくかと思っていたら……」
「まさしくまさしく、人族のお方だし十年持てば御の字と思ってましたからなぁ」
「なんでも龍神様に龍の因子を授かったとか、異世界の君はやはり我々等と違い規格外。」
「これで龍帝国の百年の安泰は保証されたも同じ!」
「くくく、百年どころか千年は大丈夫でありましょうぞ」
美女達は正座し、ピクリとも動かないが周りの縁者達は好き勝手なことを会話している。
聞こえているよ、あんたら。と思いながら龍一は目の前の光景を眺めている。
婚礼の時は言われるがまま、動作をインプットされた役者のように行動し、言葉を発するするだけで良かったのでリハもただ覚えるだけでいいので良かったが今日は違う。
昨日、おとといと二日続けてリハーサルをさせられた。
とにかく、いつもの様にヘラヘラと平民モードでいることを禁止された。
以前ふんぞり返っていればいいと言われたが慣れない人間に、本当にふんぞり返って初対面で目上の他人と過ごすのは精神的にキツイ。
しかも佐藤龍一はただの底辺サラリーマンだった。
ヘイコラしてる方が自分には性に合ってる、と思ってるような男だ。
練習にはレイラ、レイリ、雷龍、水龍が付いて始めたが雷龍、水龍は十分ほどで早々に飽きて神社に帰って行った。
しかし皇女姉妹はそれはもう熱を込めて龍一を指導した。
これから十数名の側室と一遍に顔見せするのだ。
婚礼までの様々な行事で龍一のお披露目は済んではいるが龍一は人前でまだ決められた定型文のようなセリフしか発してないので本当の、その人となりはあまり周囲には伝わっていない。
次期龍帝が皇女一家にどの様に『仕上がっているのか?』を側室やその縁者に鑑定される場に、いかに龍一をソレっぽくして出向くのはかなり重要事項だ。
そう、こちらが向こうを品定めするように向こうもこちらを品定めしてるのだ。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
百戦錬磨の貴族たちに1ミリもスキを見せてはいけないためにも姉妹の指導も熱が籠る。
「だめよ、兄さま!そこは『そうですか?』じゃなくて『であるか』でいいわね!」
「そこで頭を下げてはいけません、あなた」
姉妹の厳しい突っ込みが何度も入るが龍一には苦痛でしかなかった。
結局何度やってもサマにならない龍一に姉妹は
「もう、兄さまの好きにやってよ……」
「……仕方ないですね……後はなるようにしかならないですね」
と匙を投げた。
「……まぁ頑張ってみるよ」
そう答えるしかない龍一だった。
◇◇◇
現在の126歳の龍帝・龍零は側室を二人娶った。若いうちに娶った一人は人族ですでにこの世にない。もう一人はエルフで、子が成人したら森の近くで暮らしたいと一人、田舎に引っ込んだ。
しかしどちらも龍零が気に入り、自分で選んだ女性だ。
このようにズラリと並べて「はいどうぞ、これがあなたの側室達です。意見は聞くし気に入らないなら交換もするけど人数は変えないし拒否権もないよ」というものはいけ好かない、と思うが仕方ない。
召喚儀式に関して、それぞれの貴族には数百年に渡り、ただらなぬ人的、金銭的協力をしてもらっている。もし男性の召喚に成功した場合、この人数の側室を迎え入れなくてはならないのは遥か昔よりの皇家と貴族の契約ごとなのだ。
彼のいいように収まればよいが……と龍帝は気のいいだけに見える異世界人に心を砕く。
表情の厳しい龍零に何かを察したのかその手の上をレイランがすっと自分の手を重ねる。
「大丈夫ですよ、あの子はひょうひょうとして、いつもヘラヘラ笑ってますがなかなかのものですよ」
「……だといいのだが」
と龍零は答える。
「では時間と相成りました。只今より、ご側室お披露目の儀を始めたいと思います」
司会進行役の侍従長が開始の挨拶をはじめる。
一通り、出席者が紹介される。これも多い主席者のためなかなか長い時間がとられた。
ちなみにだが侍従長が主席者の紹介をし終わったか否かぐらいで雷・水の龍神たちは消えていて代わりに「かみなり」「みず」と筆で書かれた木の立て看板が座布団の上に置いてあった。
一通り側室達の顔を拝めたので満足したのだろう。
その後龍一が挨拶をし、いよいよ女性たちの自己紹介に入る。
「まずはぁ~~~龍帝国ぅ~~ご三家がぁ~~一つぅ~~~。龍之上条家~ご息女~龍之上条つかさ様ぁ~~~」
唄でも詠むように司会の侍従が最初の女性の名を紹介する。
すると最前列三名のうち、真ん中の一人が頭を下げ、同時に脇にいた二名の男性が正面に座を正し一礼し、
口を開く。
「この度は異世界の君、佐藤龍一様改め、龍之宮龍一さまと第一皇女レイラ様、第二皇女レイリ様とのご婚礼、誠におめでたく、お慶び申し上げます。
さて、ご紹介に預かりましたこれなるは我が龍之上条家が長女、龍ノ上条ツカサと申し、現在34歳と相成ります。
異世界の君に置かれましてはご皇女様方が齢十代ということもあり、お若い方がお好みとお話を耳にしておりますが何分我ら龍人は長寿故、子たちものんびり授かる次第。
長女も当一族内では一番若く、もちろん男性経験もなく、龍一様におかれましてもお気に召すこと間違いなし、と、いやぁこれは育ての者が言葉にするにはいささかおこがましくもございますが、まずは共にお過ごし頂いて後悔はさせぬよう、育て上げております」
いや、全然頭に入ってこねよ、と龍一は右から左へ言葉を流していた。
「龍之上条ツカサでございます。よしなに願い、奉ります」
ここで初めて女性が口を開いた。
龍一はレイリに教わったように「であるか。」と答えておいた。
その言葉を聞いて縁者は元の位置に戻り女性もピタリと元の置物のように固まる。
進行役の侍従長が様子を見、次の女性の名を上げる。
……これをあと十二人……龍一はげんなりした。
ちなみに庶民の間で広まった「異世界の君」は当人の周りの者以外で今やすっかり龍一の二つ名に定着していた。
◇◇◇
ここでこの場に揃っている貴族を紹介する。
龍帝国には多くの貴族がいるがここにいるのは龍帝国でも建国以来存在する屈指の大貴族たちで帝国を支える、なくてはならない家柄の者たちである。
■龍帝国初代龍帝の妹を始祖に持つ御三家と呼ばれる貴族。
龍之上条家 政治を司る一族
龍之中条家 司法を司る一族
龍之下条家 近衞・警察を司る一族
もともとは上条と下条の二家だったが後年中条が加わり御三家となった。
■初代龍帝の側室の子を始祖に持つ十大公爵家
龍乃一条家
政治全般を取り扱う。飛竜使いの一族でもある。
龍乃二条家
軍事全般を取り扱う。代々一族皆軍人の家系である。
龍乃三条家
魔術全般を取り扱う。一族は魔術師の家系である。
龍乃四条家
外交の家系 帝国と他国の政治・経済などの諸問題を取り扱う一族
龍乃五条家
経済 国の貨幣の運用、国庫の運営など国内商業のルール策定・他国との取引などを取り扱う一族
龍乃六条家
文化・教育などを取り扱う一族
龍乃七条家
竜の育成 帝国で扱う民間・軍事の竜全般の飼育などを統括する。一族
龍乃八条家
農業・林業・流通などを取り扱う一族
龍乃九条家
海運・漁業・流通などを取り扱う一族 海竜使いの一族でもある。
龍乃十条家
龍帝国の宗教を司る・神社などを管理し、国中の儀式などを取り仕切る一族
◇◇◇
これら貴族の令嬢たちの自己紹介が全て終わった頃にはすでに夕暮れとなっていた。
「……龍乃十条家公爵様、ありがとうございます。ではこの後、皆さまには龍一様を交え、ご会食会場に移動して頂き、ご夕食を交えご歓談して頂きたいと思います。
では最後に龍一様に今儀について総括して頂き、龍帝様のお言葉でご側室お披露目の儀、終了いたしたいと存じます。
では龍一様、お言葉をお願いします」
司会役の侍従長が、最後の令嬢の自己アピールが終わり、締めの言葉をかける様、龍一に水を向ける。
最初、龍一はとっとと終わればな、くらいしか考えていなかったがここにきた者が皆が皆、通り一遍の言葉しか自分に向けてこないのを、なぜかだんだん腹がたつようになってきたのであった。
そりゃ、いきなり異世界に呼ばれて大勢の女と子作りしろと言われてOKしたのは自分だが、こんなのはあんまりだ、と思った。
レイラやレイリは、龍一との間に子を授かることが一番の目標だろうが、二人は少なくとも龍一の気持ちに寄り添ってくれたし無理強いはしなかった。
雷・水の龍神達にしてもやはり子作りが目的だろうがこちらの意思確認はしてくれた。
しかし、問答無用のこのお見合いはなにか、自分でもよくわからないが気に入らない。
こいつらになんとか一矢報いたいと思い、なんて言ってやろうか途中からそればかりを考えていた。
そして思いついたそれを言葉にした。
「まずは皆さま、私のためにお集まり、ご苦労様です。
ご存じの通り、私は異世界より、この地に来て半年になります。
まだまだ勉強不足で知らないこと、わからないことが多く、恥ずかしいばかりであります。
この一か月、婚礼の儀のため、かなり多くの方々のご紹介を受けましたが、恥ずかしながらこの頭に残っている人はほとんどございません。
本日も寝床に入り、朝起きたら申し訳ございませんが皆さまのことなど思い出せなくなるかもわかりません」
龍一が話だし、皆黙って聞いていたがレイリがここで「プッ」と小さく噴出した。
列席の貴族たちは皆ざわざわしている。
「さて、そこで皆さまにお願いがあります。私を皆さまのお館にご招待して欲しいのです。
その後ご令嬢を伴い、皆さまの領地をご案内願いたい。これもご存じだと思いますが私はまだこの龍之宮市より一歩も外へ出たことがございません」
「龍一!!!」
龍帝が龍一を止めようとするのをレイランが諫める。
「あなた! 最後までお話を伺いましょう」
おずおずと龍帝が座る。
レイランが「どうぞお続けください。」と短く龍一に促す。
「では……私はこの城を出てこの国を見てみたい! いずれ龍帝になるのなら、例えそれがお飾りであろうともこの国を見、住む人を見て、この国を知ってその任に当たりたい! 帝国各地の空気に触れ、水を飲み、人々の息遣いを感じたい。
どんな生き物が歩き、飛び、どんな植物が日を浴び風になびき、どんな山が聳え、平原が広がり、海原があるのか、その風景を是非私にお見せいただきたい! この私に貴方の領地の自慢を思う存分して欲しい!」
貴族たちはもはや龍一の言葉を息を飲み聞いていた。
「それを本日来ていただいた、あなた方ご令嬢にお願いしたい。是非私に貴女の人となりと、ご領地を教えて下さい。領地よりも深く、私は貴女たちを知りたいのです。」
言い終わり、場は誰も言葉を発さなかった。
龍一は……やっちゃったかな……と思ったが、瞬間、列席の貴族たちが笑い出した。
「いやいや、これは一本取られましたな!」
「我が領地をご覧になったら龍都には戻りたくなくなりますぞ! お覚悟下さい!」
「さすがは異世界の君! 規格外、この上なし!」
「当領地は美食の街がございます。龍都にも異世界にも負けぬでありましょうぞ!」
「当家自慢の山脈の景色に大海原、見応えピカイチですから是非ご来訪願いますぞ!」
「豪胆、豪胆! いや気持ちがいい、次期龍帝万歳!」
「万歳!」
「次期龍帝 万歳!」
「万歳!」
いつの間にやら談笑は万歳大合唱に代わっていた。龍一がふと横を見るとレイラ、レイリもノリノリで万歳していた。
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