第22話 オカッパ小隊・婚儀

さて、俺はその後、一番に俺を警護してくれてたオカッパ小隊のことを聞いた。

短い間だが、同じ釜の飯を食って、情も沸いてたし、ひどめにあってなけりゃいいが、と思っていたら現在牢獄に入り、あとは死刑を待つばかりの状態だと聞いて慌てて解放するようお願いした。


北区郊外にある、軍刑務所にスムーズに交渉できるよう皇女のレイリを連れて大急ぎで会いに行ったら、彼女達は独房で両手、両足を鎖でつながれ顔になにやらお札を張られていた。

龍紋を封じるものらしい。俺も龍紋を得た結果なのか、独房はものすごい結界まで張られていたのがわかる。


「加藤氏……なぜ……? 生きていて……」


解放したオカッパは大分弱々しくなっていた。

とりあえず、三人を近くの食堂へ連れて行き、気の済むまで飲み食いさせた。

彼女らはなぜ俺が生きているのか、なぜこの国の第二皇女が一緒なのかなど、一言も尋ねずに自分たちが昨晩あれからどうしたかなどをいつものようにワイワイと笑いながら聞かせてくれた。

こいつら、本当いいやつらだな。

たらふく食べさせて元気になったところで食堂を後にし別れ間際に少し立ち話をした。


「本日はこのままお帰り頂いて大丈夫です。あなた方の元の身分は保証されます。本来、任務は今日を入れてあと二日ほどあると聞きました。今日明日は休養されてその後、勤務に復帰されたら上司に今後のことをお聞きください。お分かりかとは思いますが今回の件は一切の他言無用に願います。これを破ればどうなるか、はご存じのことと思われますが念のために」


お~レイリが普段のおきゃんな言葉使いじゃなく、レイラの様なしゃべり方をしてる、新鮮だ。

てかやればできるじゃん!

オカッパが代表して敬礼し礼を言う。


「はっ過分なご処遇ありがとうございます!」

「では、これで失礼します」


と言い、レイリが馬車に乗り込む。


オカッパ達が俺のところに来る。


「任務は全う出来なかったが君が無事で良かった」


オカッパは本当に俺のことを案じてくれてた。

自分が死刑になりそうだったのに、いい奴だ。


「拙者、加藤殿は只者ではないと思っていたでござる。また今度闘竜場に一緒に行くでござる。加藤殿のおごりで」


素っ気なく言い、俺にたかろうとしてるがこれがコイツなりの気遣いなのだろう。


「俺は歓楽街の方がいいスね。加藤氏のおごりで」


クロダはサムライに乗ってるだけだな。けどこんなどうでもいいやり取りも元の通りでうれしい。

皆に俺は答える。


「皆、本当に世話になった。サムライは賭け事はほどほどにな。クロダは真似してタカんなよ、オカッパ隊長、今度素面の時、抱いて下さい。皆ありがとう!」

「余計なお世話でござる。でもまぁ楽しかったでござる」

「じゃまた今度~」

「加藤氏はもう少し食べる量を増やさなきゃダメだな! では!」


すっかり戦友だな。俺はなにもせず、守られてただけだけど。

それぞれ別れの挨拶をし、俺は馬車に乗りレイリと城への帰路についた。


「いい人たちね」

「面白い連中だよ」

「ところで兄さま、最後の 抱いて下さい ってなにかしら?」


レイリがツンツンしながら聞いてくる。


「ああ~、あれはな、あいつら酔うとおかしくってさ……」


俺は帰りの道中でレイリに市中視察の珍道中、、大げさに面白おかしく聞かせた。

レイリは腹を抱えて笑った。


「私もさっきの食堂で、もっとあの人達とお話したかったのよ。兄さまばっかりずるいわ」

「あんなお澄まししてないで、会話に加われば良かったんだ」


うん、生き返って良かった。


そして一つ忘れていたことを聞いた。


「そう言えば俺を襲撃した連中はどうなったんだ?」


レイリがスゴイ悪い顔でニヤリとし「聞きたい?」と聞き返した。


「いや、やっぱいいや」とヘタレな俺は答えた。


◇◇◇


自覚はあまりしてなかったが俺の体が変化していた。

わかりやすいのが夜の営みだ。

その日、城に帰って久々にレイラを抱いた。

朝まで全然元気に過ごし、しかもまだまだ物足りないくらいだった。

そして一睡もせずそのまま過ごし、夜レイリを抱いたが、こちらも前は振り舞わせるような情事も苦もなくこなし、平気だった。

とにかく元気で体の奥底からどんどん力が溢れるようだった。

十台のときですらこのようなことはなかった。1週間くらいは平気で完徹できそうだった。


「あなた、寝て下さい。睡眠は大事です」


三日目でレイラに怒られた。


「龍の因子が入り、人とは違う体になったのでしょうが、我々だって夜は寝ます。このままでは体と精神が壊れてしまいます」

「そんなもんなのか?」

「無茶な生活をしてたら龍紋がそのうち暴走してしまいますよ。まだ一つも使えてないでしょう?」

「……はい、わかりました」

「素直でいい子です。くれぐれも無茶はしないで下さいね」


その日は早めに一緒に寝た。

あれほど全然平気と思っていたが体も心も実は睡眠を欲していたのだろう。

レイラに頭をなでられ明かりを消したとたん、俺は熟睡してしまった。


◇◇◇


その後俺は少しづつ公務も覚えていった。

これに関しては龍帝やレイラが面倒見てくれた。

それに合わせ、少しづつ武術も習うことにした。

亜人街襲撃事件では俺はあまりにも情けなかったからな。

武術といっても体が全然できてないから今のところもっぱら体力づくりがほとんどだ。

龍の因子が入ったからといってもいきなりスーパーマンになれるわけもなく、ということだ。

明け方、城内の敷地を一周するのはなかなか気持ちいい。以前の俺ならすぐバテてたろうが今はいくらでも走れそうだが、レイラの忠告もあるし、ほどほどにしている。

武術の先生に関しては今度は素直に近衛隊にお願いした。

あのおっかない師団長がご機嫌で腕の立つ部下を紹介してくれた。

雷龍と水龍たちはその後なにも言ってこない。

彼女たちはとりあえず新しく住まいが出来るまで神社に引きこもってるつもりらしい。


◇◇◇


婚礼を1ヶ月後に控えたある日,レイリが珍しく畏まって俺に願い事をしてきた。


「どうしたんだ? 改まって」

「実は学園のことなんだけど」

「うん、どうしたい?」


緊張してレイリが言う。


「出来れば婚姻の儀が終わった後も通いたいんです。卒業したら兄さまの側室として専念したいと思ってます」


俺は即答する。せっかく通ってるんだ、卒業くらいしたかろう。


「ああ、レイリの好きにしたらいい」


すると、とたんに笑顔になるレイリ。現金なもんだがこの笑顔を見れるなら安いもんだ。


「ありがとう! 兄さま!!」


飛びつき、顔中にキスをしてレイリは「友達に知らせてくるわ!」と言って出て行った。

今度はちゃんと夫として学級視察に行ったら大丈夫だろうか? と俺はちゃんと授業を見れなかったことに少し心残りがあった。


◇◇◇


そして、いよいよ婚礼の儀なんだが、婚儀はもう大変だった、の一言だ。

何をしたのか覚えてないくらい前後が大変だったからだ。

色々な人に挨拶しすぎて、まぁ軽くパニックだわ。

国内の偉い人が、それはまぁかわるがわる挨拶するのだ。

その次は国外からの来賓だ。

大体一日挨拶のあるなしに百人はあろうかという人数に会い続けだ。覚えきれるかそんなもん!

もう、とにかく人に会いすぎてちょっと人酔いして気持ち悪い。

やれ、パーティー、やれ会食、やれ舞踏、やれ神楽舞だ、花火だ、飛竜隊パレード閲覧だ、竜騎兵隊行進の閲覧だ、闘竜の御前試合だ、剣の試合の御前試合だ、やる必要ある? て行事がとにかくてんこ盛りだったのだ。

もはやそれが婚儀の前だったか、後だったかすら記憶があやふやだ。

レイランに


「婚礼はいつもこんなに大げさなんですか?龍零様たちの時はどうだったんです?」


と聞いたら


「私たちのときはもっと厳かでしたね。やはりあなたは異世界の君、ですから。皆、盛り上がってるのですよ」


うふふと表情を変えずに皇妃は言った。

婚儀自体は神社の例の奥の社に行き、玉体のまえで「はぁ~らいたぁ~まえ・きぃ~よめたぁ~まえ」と祝詞あげて三三九度やって、だ。

それをレイラとレイリと二セット。二日続けてやったよ。

あとは国民に向かって手を振る作業をしたな。

とにかくクタクタだ。


そして、俺の本当の試練はこの後やってくる。

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