第19話 神社・拝殿
お社では龍帝一行はその後二人の龍神に追い出された。
「君たちそろそろ出て行ってくれないかな?」
「そうでありんすな。我らだけにしといて欲しいでありんす」
宮司が答える。
「龍神様、我らだけ、とは」
「ほら、そこに倒れてる子がいずれ目を覚ますからさ、ちょっと話をしておきたいこともあるしさ」
「さいでありんす。理解したならとっとと出て行ってくんなまし。よろずうまくいきんし後には明日朝には彼共々お目にかかれるでありんしょう」
◇◇◇
お社を出ると母が一人喪服の着物を着て待っていた。
「ははうぅぇ~~~~~」
レイリが飛びつく。
「がんばりましたね、レイリ。それであなた……」
「うむ、あとは……彼次第だな」
◇◇◇
全員で神社の拝殿まで戻り、なんとなく車座で落ち着いた。
「と、父様、これって世界の均衡が壊れるとかなんとか、そういう話になるんじゃないの?……」
先ほどまで大陸の他国を全て亡ぼす勢いだったレイリがとまどってる。
「その通りよ、レイリ。私たちの、わがままで、これからの世界が、変わってしまうのよ……」
「落ち着きなさい二人とも」
父・龍零がなだめる。
「どこから話してよいのやら……」
龍零が重く口を開いた。
「まず、ワシは彼を生き返らせることに決めた。これはお前たちの為だけでなく、あと千年、我らが子孫があのような儀式をしなくてもいいように、だ。
あれは犠牲が、ですぎるからな……。
今回の事態を受けてワシはすぐさま弟の龍全に頼み、協力してもらい。ご神託をさずかった。
知っての通り国の守り神でもある炎龍様はそのお気持ち次第で我が国に現れる。
我ら皇族や貴族はもとより、民草の枕元に現れたり、気軽に幼子と一緒に遊んだり、漁師と釣り勝負などしたこともあるらしいという記録もある。
女子の姿で村人に混じり、祭りで踊っていたとこともあったという。
だが、人の側から神をお呼びだてし、願いを聞いていただく、というのは並大抵ではない。
炎龍様曰く、彼の命の代償はこの国の全てであった。
しかし、炎龍様はこの国の守り神でもあらせられ、愛しき方と成した大切な我が子が作りし大事なお国でもある、龍帝国を亡ぼすような真似はしたくなかったのであろう。
お悩みになられた炎龍様がご提案くださったのが炎龍様と他の龍神様と願いを分散し、叶える、というものであった。
それが炎龍様にこの国の財産の半分と二柱の龍神様の願い、その子作りだな、を受け入れよ、というものだ。」
「そ、そんな……」
レイラはなんとも複雑な心境でいた。己の恋慕、皇女としての立場、この世界のただ一人の人間として、人の暮らし在り方を変えてしまう事態に関わってしまうことに戸惑いを隠せないでいた。
この儀式についてはあまりに複雑な要素が絡まってきてしまっているのではないか、彼女は頭をフル回転させる。
龍零は続ける。
「彼がそれを受け入れれば今後、我ら、火を属性とする龍人の他に水と雷を属性に持つ龍人が生まれるだろう。我らとその子らが交わっていった先にどの様な龍人が生まれるのかはわからないが龍人以外の種には脅威でしかないだろう。もしかしたらそれぞれ国を興し、我らの子孫と敵対するやもしれないし先のことは全くわからない」
「龍一様が二柱のご提案を受け入れない場合は……」
「ご破算だよ、彼の人生はそこで終了だ」
「そんな……」
「父様、これからどうなっちゃうのかな?……兄さまは……」
レイリが心配そうに言う。
「二人とも、しっかりしなさい!」母が子らを叱責する。
「事は成りました。後、我らにできることは何もありません。あなた達は朝、あの子が二神を連れてきた時に黙って笑顔で受け入れてあげることです」
「母上……」
「はい、お母さま」
朝まではまだまだ長く時間がかかりそうだ。
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