第壱部 俺と龍神
第18話 龍神
話は龍一が殺された夜に戻る。
龍之宮城の敷地内本丸より、離れて奥に龍之宮城神社がある。
その奥の殿の、そのまた奥に神社関係者でも出入りを制限されて、宮司しか入れぬ場所に広い池があり、その池の中島に小さな社がある。
その社には炎龍のご神体と言われている神玉が奉納されている。
その神玉の前に龍一の遺体は運ばれていた。
「許さなぁぁぁぁぁぁいィィ!!!!!殺してやるっっっ!!!八つ裂きにして殺すぅ!!!」
龍一の遺体の前で、レイリは怒り心頭だった。
その真っ赤な髪は文字通り怒髪天を突き、例えではなく実際に燃え盛り、その間から見え隠れする角からは放電現象が起こっている。
真っ赤になった龍眼はさらに怒りに燃え。口からはボっボッと小さな炎がときおり吐き出されている。
「今すぐ他の国全てを亡ぼしてやるぅ!!!!」
雄たけびをあげ、今にも飛び出し、言ったことを実行しそうだ。実際レイリにならそれができるだろう。
「レイリ、落ち着きなさい」
姉のレイラが妹を宥める。
「しかし姉さま!!!」
レイラは妹に平手を浴びせる。
「龍帝国、皇女たるものいついかなる時も取り乱すべからず!」
レイラが皇族の心得を説く。
「みだりに……真体となる、なかれ……」
レイリが続ける。幼いころより母や家庭教師に繰り返し叩き込まれた言葉だ。
「己が激情に負けし時、国滅ぶを覚えよ」
レイリが急速に落ち込み、真体から戻る。
涙が溢れて止まらない。レイラはやさしく妹を抱く。
「真体になり、怒りの感情に駆られれば、涙が蒸発し、泣くこともできないでしょう?」
「でも、でも姉さま! 兄さまがっ、兄さまがぁぁぁ~~~!!」
レイリが姉の胸で泣きじゃくる。
「二人ともいるかっ」
その時、龍帝たる父が入ってきた。
「レイラ、レイリ辛かったな……」
この神社の宮司である叔父も一緒だった。
「お父様、叔父様……。龍一様が……」
「ああ、わかっている。胸の損傷はもう直してある、落ち着きなさい」
宮司は落ち着きはらい二人を宥める。
「では皆、そこに並びなさい、儀式を始める」
炎龍の神玉の前に宮司の叔父が座り、次に龍一の遺体、それを見渡すように龍帝親子が並ぶ。
厳かに宮司は龍帝に問う。
「では龍帝国・龍帝に申し上げる。この度の儀式により、我が国並びに他国、及び全ての龍人と人に多大なる影響及ぼすこと、これを承知か?」
「承知」
「ではもはや是非は問うまい。レイラ、並びにレイリよ、龍人ならぬこの者の為にその身にいかなる犠牲をも払う覚悟ありや、なしや?」
「婚姻の儀はまだですが彼はすでに我が夫。なにも迷いはございません」
「兄さまの為に我が命を捧げてもかまいません!」
「ならばあとはただ龍神をあがめ、おそれ、そして祈りをささげよ」
宮司が祝詞をあげる。
「吐普加美依身多女・吐普加美依身多女」
続けて長い祝詞を唱え始める。
そのうちに神玉の中に小さな炎が揺らめき始めた。それは次第に大きくなり、ついには神玉自体が燃えるように真っ赤に光りだし社からに漏れるほどに発光する。
その光はまた、急速にしぼみ消え、また元の暗闇に戻る。
そしてゆらりと、神玉の前に真っ赤な着物を着たあまりにも美しく、そして烈火の権化のような男が現れた。
「この龍神・炎龍を呼び出しは、うぬらか……」
人には出せぬ威厳と神聖を纏い、現れたその龍神の顔は少し悲しそうである。
龍帝が平伏し、
「ははぁ~! 龍神・炎龍様が子、初代龍帝が子孫、現龍帝、龍零が御身をご降臨お願いしまし奉りました」と答えた。
「堅苦しい口上はよせ、我を呼び出したということはわかっているのであろうな?」
「はっ、ご神託の儀、全て承ります」
「はぁ~~~。それほどにこの者が大事か? また百年かけて召喚したら良かろう」
やれやれ、といった感じで炎龍はいう。
「炎龍様」
揺らがぬ意思で龍帝は言う。
「仕方あるまいか……」
炎龍が憂鬱そうに言う。
言った瞬間、大きな音と共にまばゆいばかりの青白い光が社に走った。
「ふむ、この地に降臨するのは何千年ぶりかの?」
炎龍の右隣に青と白の少し露出の多い着物をまとった、これも人とは思えぬ美しさの女性が現れた。体中のあちこちからバチッ、バチッと放電している。
「七大龍神が一柱、雷龍である。皆よしなに」
あいさつが済むが早いか、水分多めな霧が舞い上がり、炎龍の左隣にこれまた恐ろしいほど美しい女性が現れた。こちらは肩をはだけた派手な着物の格好だ。
「ふぅ~。皆々様、お初にお目にかかるでありんす。七大龍神が一柱、水龍でありんす」
二柱が現れたところで炎龍が龍帝に伝える。
「では龍帝よ、汝が願いを叶える。われらが契約、ゆめゆめ破るることなかれ」
炎龍様が言い終わるとその場はまたしてもまばゆい光に包まれたのであっった
◇◇◇
最初に目を覚ましたのはレイラであった。
ここは……どこ?
私はいったい……
思考がぼんやりしてはっきりしない。上体をゆっくり起こし、額の龍紋を使い、強制的に自分を覚醒させる。
するとだんだんと記憶が思い出されてくる。
ここは奥の社で叔父が祝詞をあげ、神々が降臨したこと。
「あれは……夢?」思わずつぶやく。
そう思えるほどに現実感のない出来事だった。
「夢じゃないよ~」
「やっと一人目覚めたでありんすか?」
「雷龍……さま、水龍さま……?」
「その通りでありんす」
「龍紋で強制的に覚醒するなんて根性あるなぁ~」
玉体の左右にあぐらをかいて頬杖をついてる雷龍とキセルをふかしながら座ってる水龍がレイラを見ていた。
するとだんだん他の者も起きだした。
「……ここは……」
「あれ?……私……」
「う、う~~~ん……」
全員が目覚めたのを見計らって雷龍が立ち上がり皆に告げる。
「よし全員、目が覚めたな。君らの願いは我らに受け入れられ、我らはそれを叶えた。
そのうちこの者も目が覚めるだろう。
為に君らはその対価を我々に払わらなくてはならない。
龍帝は龍帝国の国庫の中の半分を炎龍に捧げる。これはすでに炎龍が受け取った。
そして我ら雷龍と水龍に支払うべき対価は……」
レイラがゴクリと喉をならし、聞く。
「その対価とは……」
「うん、この者との子作りだ」
「え? それって龍一様と?」とレイラ。
「え? え? なんで? なんで? なんで神様がっ? 兄さまと?」
「この千年、いや千二百年待ちに待ったでありんす」
「いやぁ~~~今回来てくれたのが男の子で助かったよ~~」
「女子でしたら、まぁ龍神で激しい争奪戦になったと思いんす」
「最低炎龍みたいに二人は欲しいね」
「我が子を抱くのが楽しみでありんす。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!??」
姉妹仲良く声を上げた。
「ちょっと父様どういうことよ!!」
レイリが父に責め寄る。
「お父様、聞いてないんですけど」
レイラも負けてない。
「落ち着きなさい二人とも、兄上を責めるでない」
叔父が二人を宥める。
「でも! しかし、叔父上!」
「叔父様もご存じだったのですか!!」
ギロリとレイラが睨む。
「待て待て、儀式の前になんでもする覚悟は聞いたろう?」
「うっ!」
「……それは確かにそうですが、でも、……」
「くっくっくっく、可愛い~ねぇ~私の子たちもこのように言い争ったりするのかな?」
「あれ、わっちの子はきっとお上品になりんす。かようにはしたなくはなりんせん」
龍神たちはうれしそうに龍人のいさかいを眺めている。
「わかってるんですか? お父様、叔父様! そこらの貴族の娘を側室に迎えるのとはわけが違うんですよ! この世に違う属性の龍人が誕生してしまうかもしれないんですよ!!」
レイラはあきらかに自分が動揺していることを自覚していたが止まらなかった。いや止めれなかった。
「してしまうかもじゃないぞぉ~~~誕生させるんだぞぉ~~~」
雷龍が茶化す。
「龍神様はだまっててください!!」
「うわっあの娘、怖いなぁ~~」
「余計な口をはさむからでありんす。こういった時は神様らしく、人の子のやりとりを終わるまで黙って見守ってるが吉でありんす」
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