第15話 龍人街にて
俺たちは軍事施設の食堂で遅めの昼食を取ることにした。
「それにしてもすごい迫力でしたね」
俺は興奮していう。
「ん? まぁここにいるのは我が軍のほんの一部だ」
顔と同じくらいの大きさのおにぎりを食べながらオカッパが答える。
あのおにぎり、三個目だ、すげぇな。
「そうなんですか?」
「所詮僕らは龍都防衛隊ですから、そんな大げさな竜はいなんですよ」と黒田少尉。
「暴竜とかすごい迫力じゃないですか?」
「ここは山頂の都市だから戦闘もあまり大型なのは必要ない。さっきの暴竜も小型の部類だ。むしろこの都
市の主力は飛竜隊の方だな。我が軍の中核である龍之中基地にはな、一匹で都市など簡単に破壊し尽くすこ
とのできる超暴竜などの竜種がいて、それはまぁ見ごたえがあるぞ」
「なるほど」
サムライは先ほどから物も言わずもくもくとやはり巨大おにぎりを食べてる。
コイツもう五個くらい食べてるんじゃないか?
城でも思ったが龍人ってのは大喰いだが兵士となるとそれがより目立つな。
◇◇◇
昼食を終えた俺は午後も軍事訓練を見物させてもらい、城へと戻った。
身分がばれたら困るので三人には近衛の宿舎に泊まってもらい、俺は自室に戻り夜はレイリと朝まで過した。
「明日から市中見学だから今日は一回したら寝ようね」
「何言ってんのよ! 明日からしばらく会えないんだから沢山するのよ!!」
……人類は龍人の性欲に恐怖した。いや、寝かせてもらえんかったよ。
◇◇◇
いよいよ本日は市中見学である。
一応彼らには私服を着てもらっている。俺との関係は田舎から来た親戚を三人が案内している、という体だ。
中央区にある宿を拠点に回る予定だ。
竜車の中で隣に座った黒田少尉が小声で俺に囁いてくる。
「昨晩はお楽しみ、でしたか?」
「何のことです?」
俺は平静を装いつつ返す。
「とぼけてもだめですよぉ~。朝、風呂に入ったでしょ?」
「ええ、自由に入浴して良い、と許可を頂いているので晴れた日の朝はなるべく大露天風呂に行きます。あそこ気持ちいいんですよね」
「実は私も朝飯前に行きましてね。その、加藤さんが着替えてる後ろにいたんですよ」
「あ、ああそうだったんですね、気が付きませんでした」
「すごく、その、甘い匂がしてましたよ」
クククと嫌らしい笑みをみせる。
くっこいつ……。
「それにね、そのぅ身体中に細かいあざが沢山見えましたよ。ご注意下さい」
キスマークか?キスマークのことなのか!?
「い、いやぁ~泊めていただいたとこが、虫が多くてですね~、刺されたらしくかゆくて、それで湯に浸かりに……」
我ながらしどろもどろに答える。
「ふふふ、そういうことにしておきましょうか」
コイツ……いいヤツだと思ってたのに、コイツへの敬意はなくなったのでクロダと俺の中で呼ぶことにする。
「おい、もうすぐ到着するぞ」
御者台にいたオカッパが俺たちに声をかける。助かった。
俺たちは宿で手続きをすませ、早速視察という名の市中見学ツアーを始める。
時間は大切にしなきゃね。
最初に南区に行ったがもう三度目なのでわかった気でいたが、こちらもまだまだなかなか広く、こんな場所があったのかと感心することだらけだった。
駆け足で二日かけて南区を回ったあと、次に中央区を回る。
かなり広大な龍神様の神社で参拝したあと、、回ったのは闘技場や武道場などだ。
この都市は武芸試合や格闘試合などが盛んで、毎日どこかで試合が行われている。
もめごとを勝負で決めることも珍しくなく、行った先の試合では「○○家と△△家による××について取り決める決闘」などと書かれた垂れ幕がでてたりして面白かった。
決闘を見世物にするとは斬新だと感心してしまう。
公営の競竜場なども連れて行ってもらい、どの疾駆竜が勝つか賭けることができる。
本日は開催されてなかったが飛竜レースなんかもあるそうだ。
せっかくなので俺は城からもらった金でこずかい程度賭けてみた。
結果は5レース中1レース当たりで100銀貨当たったがあとはボロ負けだった。
けど前の世界でも競馬どころかパチンコすらしたことのない俺には、とても新鮮で楽しかった。
隣でサムライがやれ、あの竜の顔付きがいいでござるだの、あれは気負いすぎなのでやめとけだのうるさかった。
「あれは第三種二型疾駆竜でウチで扱ってる軍用竜とは違い草食で脚はウチのより速いが気が弱く臆病なのであまり軍用には向かず……」
竜オタクのオカッパが早口で出てくる竜を解説してくれる。
なるほど騎手も色々な人種がいるみたいだ。むしろ龍人はいないように見える。
その次に行った闘竜場では、竜同士を戦わせて勝敗を賭けていた。
こちらは軽量級から中・重量級までの試合をしており、軍事訓練のときとはまた違った迫力があり、見ごたえがあった。
俺たちが見たのは最終戦だった。
「さぁ、やってまいりました本日の最終決戦! 泣いても笑っても本日最後の試合であります! 皆さまお待ちかねの重量級対決! 西が勝つか?東が勝つか?勝負の龍神様が微笑むのはどちらか! 皆さま一瞬の攻防をお見逃しなく!」
この闘竜場ではアナウンスまでしていた。ノリがプロレスだな。
「にぃぃぃしぃぃぃ~~~~~~
第一種二型ぼぉ~~~っりゅぅ~~~~~~
たつきのぉぉぉぉかぜぇぇぇえぇ~~~~~~~~~! 三勝二敗」
うぉぉぉぉぉっぉおぉぉおおおお!!!!!!
赤くて角のある暴竜が登場し、会場は割れんばかりの声援がとんだ。
会場の中心まで来て、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉお! と暴竜が吠える
「ひぃがぁぁぁしぃぃぃ~~~~
第一種二型五式ぼぉ~~~っりゅぅ~~~~~~
きさとぉぉぉぉやぁまぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~! 五戦全勝」
今度のは緑色をしていてちょっと精悍な顔付きだ。
「第一種二型暴竜は今ではもう軍では使われていない種だ。二百年ほど前まではバリバリの一戦級の暴竜だったがあまりにも大食いでしかも活動時間が短い、という欠点があってな、つまり燃費が悪い、てやつだな。だがこういった短い時間の試合形式で戦う分には飼う方もそんなに苦にはならないから闘竜場などでは重宝されてるみたいだな」
頼んでもないのにオカッパが暴竜の解説を早口で言いう。
「試合前のパフォーマンスが終わったらあのように口に拘束具を付け、相手を殺さないようにするんだ。せっかく育てた竜を試合の度に殺してちゃ割にあわないからな」
なるほど、よく考えられてるな。
試合が始まるとお互い様子を伺うように、時計回りに回る。緊張が走る。
と、突然”きさと山”が仕掛ける。”たつきノ風”に向かって猛ダッシュした。
それを”たつきノ風”が避けようとして、体をひねるが間に合わず横っ腹に強烈な頭突きを食らってしまう。
走って、頭突きして、当たった。たったそれだけのことなのにすごい迫力だ。
暴竜の鋭い目線、拘束具から漏れる荒い吐息、走り出した時の地響き、頭突きがヒットした時の衝撃音! これはクセになりそうだな。観客が興奮するのも頷ける。
”きさと山”が頭突きで相手がよろけたところを間髪入れず体を回転させてしっぽを顔に当てる。うまい!
しかし”たつきノ風”は倒れない。低い姿勢で踏ん張る。いいぞ!””たつきノ風”!
”きさと山”が距離を取り、足で数回地面を蹴り上げる。もう一度突っ込むつもりか?
「やれ~~! いいぞ! そこだ、きさと山~~~!」
隣のサムライがうるさい。
またダッシュした”きさと山”の猛烈な頭突きがたつきノ風を襲う、が今度は避けたりせずに真向から相手の頭突きを受ける! またしてもものすごい衝撃音!!
”たつきノ風”が地面に爪を立てて踏ん張るが十メートルほど後ろに押される。
しかし持ちこたえる!
と、すかさずその巨大な頭を振り上げきさと山に叩きつけてた! すごいぞ!!
”きさと山”が倒れた瞬間その顔に向かってしっぽを連打、連打、連打の猛ラッシュ!!!!
たまらず”きさと山”のトレーナーと思わしき竜人が降参の意思表示をし、”たつきノ風”の勝利が決まった。
瞬間、会場は割れる様なスタンピングと歓声とブーイングに包まれた。
「あっちの赤いのが勝ちましたね」
「ん~~~きさと山は今まで負けなしでしたが今日は少し動きが鈍かったみたいですね」
「……拙者、千龍金貨スったでござるぅ……」千龍金貨は約十万金貨だ……。
「貴様! 賭け事など! 今は任務中だと何度言えば理解するんだ!!!」
また、サムライがオカッパに怒鳴られてる、もうお約束だな。
「ちゅ、中尉、お忍びですからそんな大きい声で」
クロダに言われて慌てて口を押える。この人が一番まともだな。
「す、すまん」顔が真っ赤だ。おかっぱ、意外と可愛い面もあるんだな。
しかしコイツら、基地司令によると腕利きの警護のはずなんだが・・・・。
◇◇◇
最後の二日間は北区を回った。
北区ははっきり言って俺の性に合う街区だ。
というのも南区や中央区は、整然としすぎていたからだ。高級住宅街しかり、商業地区しかりでどれも綺麗に整備されていてセンスの良い建物が並び、道行く人も服装に気を使っている雰囲気だが北区はとても雑多な感じで肌にあう。
もちろんオシャレだったり、センスの良さそうな建物がないわけではないのだが、全体的に適度にボロかったり古かったりするものが混在している。
南区で見た古い建物はいかにも歴史を感じさせ、気を使って手入れされてるように見えたが、こちらで見るものは古い建物に最近とって付けたような新しい建物が増築されていたりするし、通行人もだらしないのから綺麗な身だしなみの者まで本当に種々雑多でなんとなく落ち着く。
路地裏では屋台なんかがあちこちに並んでいて見るのも楽しかった。
その一つで焼き鳥的なものを買い食いしてるとオカッパが
「こういった屋台は違法なんだけどな」
とつぶやく。
「上街でも下街でもちゃんと店舗を持っていない商売は違法なのです。祭りなどでも並ぶことがありますが
それはきちんと許可をとらなければならないのです」
クロダが補足してくれる。
「拙者の親も昔はこのように屋台で商売してござった……」
サムライが珍しくまじめな表情でい言う。
「この人たちは……」
「店舗を構えるお金がないんですよ。店で買うよりは安いし、あまりあくどい商売をしてるわけでもないのでお上も見逃してる部分もありますね」
「なるほどなぁ」
街の人たちも色々なんだな。
◇◇◇
その日の夕食は宿ではとらず北区ですますことにした。
三人とも北区出身なので折角なので龍人街視察最終日はおすすめの店に連れて行ってもらった。
こじんまりとした居酒屋みたいな店だ。小上がりの畳の席でとりあえず市中視察の折り返しとなる龍人街視察の終わりに祝杯を挙げた。
「本日は私が奢りますので皆さん、お好きなように注文してください」
一応ここまで何ごともなかった感謝の気持ちで俺はそう言ったが、後で言わなきゃ良かったと後悔することになる……。
「加藤どのはもっと食べなきゃならんでござるっ!!」
酒樽を3つ空けてすっかり真っ赤っかになったサムライがからんでくる。
「そうだ、だからそんなにひょろいのだ!」
赤くはないがこちらもけっこうな摂取量のオカッパも続く。
大皿てんこ盛りの料理が瞬く間に消費される中、そんなに食べない(いや、食べれないんだが)俺に酔っぱらった二人が絡む。
「いやいや加藤さんはただの人種なんだから、無茶言わないで上げて下さい」
唯一の善意・クロダが助け舟をくれる。
「ん、だとぉ! 食わなきゃ女にモテないぞ! 兵舎では人種に関係なく一番食べるのがモテるのだ!」
オカッパが変なこと言いだした。
「そうでござるぅ~、そんなんじゃおなごは寄り付かんでござるよ~、加藤殿は人種ならもう嫁子を持つお年頃であろう?」
サムライめ!余計なお世話だ。
「お二人とも加藤さんに失礼ですよ」
そうだ、止めてくれクロダ!!!
「加藤さんはもうお城でいい想いしてるみたいだし余計なお世話ですよ、おっと、これは秘密事項でした。」
クロダ!てめぇテヘペロしてんじゃねぇ! なんてこと言ってくれやがる! 所詮はそっち側かっ!!お前なんかクロダじゃねぇクロイダ!!
「ふむ、それは報告が上がっとらんな。詳しく聴取する必要性を感じるな」
「いやいやいや、ちょっと待って下さい。なんにもありませんよ!」
「加藤どのぉ~~拙者も聞きたいでござるぅ~~~、拙者と加藤殿の仲ではござらぬかぁ~、あと金貸して
欲しいでござるぅ~明日また闘竜場に行くでござるよぅ~」
「そうだぞ加藤氏! 貴官には竜の説明がまだまだ終わっとらん! ちょっとこっちに座れ! いいか、この揚げ物が疾駆竜だとしたらこっちの刺身が岩竜でな……」
……ぐだぐだになってきた。
いい加減収拾が付かなくなってきたころお開きにして店を出た。
ダラダラと4人で歩いていると、昼間は気づかなかった、やけに煌びやかな通りがある。
「あちらの通り、やけに明るいですね」
「むふふん、気になります?」
クロダがにやけながら返事をする。
「? はぁ」
「あちらは歓楽街ですよ、遊郭とかあって綺麗どころがよりどりみどりですよ。ちょっと寄って行きます?」
クロダがニヤニヤする。
「あぁ、なるほど」
すると後ろでオカッパが反応した。
「なんだ加藤氏! 女か!? 女が欲しいのか!?」
店から出たら、ゾンビのようにフラフラと黙って付いてくるだけだったオカッパがからんでくる。
「いや、けっこうです」
と、近寄って肩を組まれる。
「ふふん、私はどうだ? 一晩くらい抱いてやるぞ?」
「それがいいでござるぅ~~加藤どの、中尉に抱いてもらえばいいでごるよぉ~~」
なぜか泣き出すサムライ。
「ちょ、離れて下さい中尉」
「ん~? ちゅーいい? ちゅーがいいか? ちゅーか? とりあえずちゅーしてみるか?」
コイツ、親父ギャグまでかましてきやがった。
「酒臭い、やめてください! ちょ、黒田さん助けて下さい!」
クロダはニヤニヤ黙って見てるだけだった。
オカッパ、コイツただの堅物・竜オタクかと思ってたらとんだ酒癖の悪さだ!
「龍人は抱いたことはことはあるか~? 気持ちいいから記念に一回やっとけぇ~」
「ええい、しつこい! 離れろオカッパ! 酔っ払いとそういうことするのはゴメンだ!!」
けっこう強めに拒否をしなんとか押し返した。
するとオカッパめ、いきなり泣き出した。
「あ~~~ん、加藤氏が、冷たぁ~いィ!おかっぱの兵隊龍女は嫌だっていじめるぅぅぅ~」
「わかる、わかるでござるよ中尉どの、拙者も今日スッた金銭は実家へ仕送りするはずだったのに悲しすぎるでござるぅ~~」
サムライ……そんな大事な金なんで持ち歩いてんだよ……そして気軽に賭け事に突っ込むなよ……。
その後、泣き止まない二人をどうにかクロダと二人で駐車場まで連れて行って竜車に押し込み、なんとか宿に戻った時にはもう明け方近くになっていた。
少しだけ仮眠して、部屋から出るとなぜかいきなり怒鳴られた。
「遅いぞ! 寝坊か加藤氏! なんだ! その面は! さっさと支度を済ませんか!」
オカッパ、メッチャ元気。化け物め……。
いよいよ今日から亜人街へ行くが、二度とコイツらとは酒は飲まないと誓う俺だった。
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