第14話 軍事施設 その弐

「こちらへどうぞ」


俺は最初は、道場ぽいとこに連れていかれた。

その片隅で見学させてもらうことになった。

かなり広い道場に、数十名の兵士が数組に分かれて訓練を行っている。

剣術や格闘技、ストレッチ的なことをしている組もいるな

よく見てみると、龍人だけでなくけっこういろいろな人種がいる。

様々な獣人、エルフ、多分普通の人種も大勢いるんだろう。

城内にも龍人以外の人種はいるが、こんなにも雑多にいると壮観だな。


「加藤さん、見てください。あちらで剣術の立会いをするみたいですよ」


黒田少尉が指を差し教えてくれる。

真体の龍人と狼っぽい獣人の試合らしい。


「どちらが勝つと思います?」


黒田少尉が聞いてくる。


「それは……狼人兵もすごい体ですがやっぱり龍人の兵士じゃないですかね?」

「素人ね、必ずしも龍人が無敵じゃないことを見てなさい」


篠田中尉が呆れた目で見てくる。

そうなんだ。この世界じゃ龍人が無敵な存在だと思っていたがそうじゃないのか?


「いやぁああああああああああ!!!」


龍人が吼える。気合がここまで届き、これだけで俺なんかは身がすくんでしまう。

ものすごい勢いでで龍人兵が真っ向から上段で木刀を振り下ろす。

狼人兵はそれを斜めに受けた、かと思った瞬間、狼人兵の剣がくるっと周り龍人兵の木刀がポーンと弾き飛ばされ、そのまま流れるように狼人兵の木刀が龍人兵の首に当てられる。

一瞬の出来事だった。


「まいりました」


龍人兵が負けを認める。


「どう?」

「いやぁ、一瞬で勝負が着きましたね。あの狼人兵の剣さばきは見事でした」

「グレン大尉殿は拙者と同じ竜聖一刀流の免許皆伝でござるし、数々の大会の覇者でもあられる。新兵ごときにやられはせんでござるよ」


おお。無愛想だと思ってた高野少尉が口を開いた。


「あれは巻き上げという技でござる。グレン大尉の得意技で大尉を何度も勝利に導いた神業でござるな」


剣術のことになると饒舌だな、面白いヤツだ。しかも言葉使いが、侍かよ。

良し、コイツのあだ名はサムライだな。


「あの龍人兵は新兵なのですね」

「左様、グレン大尉の前に並んでるのは皆新兵でござる、ほら、また負けもうした。大尉殿に勝てる者はあの中にはいないでござろうな」

「お願いします! いやぁぁっぁぁぁぁ!」

「参りました!」


テンポよく新兵達が負けていく。


「グレン大尉!」


一通り新兵をのしたところでサムライがあいさつをした。


「高野か、お前も手合わせするか?」


まったく、呼吸も乱れず大尉は答える。


「いえ、拙者、本日はお城よりの客人を案内してこざる」

「ほう?」

「はじめまして、加藤正一といいます。先ほどの立会い、どれもお見事で感服いたしました」

「それがしはグレン大尉である。加藤殿はただの人種でござるな? 見学はかまわんが我らの訓練はなるべく離れて見た方がいい。我らは訓練中は気や魔気などを遠慮なく放つ。それだけで訓練を受けぬ者は倒れることもある。気を付けられよ」

「ご忠告ありがとうございます。それにしてもあの、木刀をポーンと飛ばしたのは本当にお見事でした」

「ああ、あれを見られたか。そう何度もできるわけではござらぬ。あの立会いはたまたまうまくいった次第」

「いやいや謙遜でござる! 拙者などは三回立ち会えば一度はなにも出来ずに負ける無様をさらしてござる!」

「狼人は剣士に向いてる人種だからな。匂いでな勝負の流れを……」

「少尉! 自分の型を見てください!」

「大尉殿に勝つにはどうすれば……」


息を整えた新兵達がワラワラと二人を取り囲む。



◇◇◇


「彼らの剣術談義は長くなりますのであちらへ行きましょう」


黒田少尉が別の場所へ連れ出す。

剣術談義に夢中のサムライを置いて3人で施設建物の裏口から外へ出ると広大な敷地にでた。


「すっごい広いですね。表からだと全然わかんなかったです」

「ふん、一般人やその他に訓練場を見せるわけにはいかないからな」


篠田中尉が答える。


「ここは魔術結界が張られていて振動や音が外には漏れない。なので街中なのに思う存分暴れらる、というわけだ」

「はぁ、なるほど」


黒田中尉が指差す


「こちらの広場では竜騎兵が隊列を組んでますね」

「うむ、私の隊ではないが見ていこう」


野球場のスタジアムみたいに閲覧席があり、そこに移動する。

最前席に少し高い台があり、そこに立つ数人の将官らしき人物の姿があり、大声で指令を飛ばしている。


「けっこう色々な竜を扱うんですね」

「軍事竜を見るのは初めてか?」

「飛竜でしたっけ? 空を飛んでるのはたまに見かけますが、近くで見たことはありませんね。そのくらいです」

「とんだ田舎者だな。市中行進も見たことないのか? 祭日など田舎町でも近くの駐屯地から小規模ながらも行うと聞いたが」


篠田中尉が俺に容赦ない毒を吐く。

コイツ……今からコイツのあだ名は俺の中でオカッパに決めた。


「私の住んでる村ではなかったと思います」

「やれやれ、仕方ない。国民にわが軍の威容を教えるのも仕事のうちか」

「恐縮です」

「まずあの隊列の先頭集団が疾駆竜、脚も早く、急な斜面も苦もなく登り、渡河もこなし、長距離も平気でまぁまぁ万能タイプだ」

「竜車に使ってるのに似てるね」

「あ~長駆竜か。あれは草食で訓練したら普通の人種でも扱えるくらいおとなしくなるけどここの疾駆竜は肉食でけっこう凶暴だし龍人や竜人にしか扱えない種になる」

「へ~なるほどね。て、え? 竜人? そんなのもいるの?」

「はぁ? この国に住んでて竜人も知らないのか? さすが田舎者だな」

「ほら、あの辺に固まってますよ。あの人たちです」


黒田少尉がご丁寧に教えてくれる。


「ああ~遠くてよく見えないですね」

「はい、どうぞ」


と黒田少尉が双眼鏡を貸してくれる。こいつ準備がいいな。


「あ、ありがとうございます」


覗いてみるとなるほど、たしかに竜人だ。

龍人の真体はどちらかというと、外見は人に龍の要素がプラスしてる、ぶっちゃけハロウィンのコスプレ的な見た目だが、竜人は竜がそのまま人の形になったような外見だ。言うなればキグルミ?

緑だの赤だの青だの、鱗だろうか見た目がカラフルだ。


「あ、中列が動きますね」


話している間に疾駆竜の先頭集団がきれいな隊列を組んで移動をしていて、次の集団が動き出す。

牛より少し大きいくらいの2足歩行の赤い竜が続く。


「あれが小型火竜。うちの主力の竜で疾駆竜の次に数が多い。大抵の戦闘はこの2種の竜の集団でけりがつく」

「火を噴くんですか?」

「当たり前だ。火竜なんだから。我が国の成り立ちが龍神炎龍様だから我が軍も伝統的に火属性の竜を好む」

「あの火竜の後ろにいる、青いのや青白のは?」

「青いのが水竜、青白が雷竜。どちらも貴重な種で我が軍でも数が少ない」

「暴竜が動きますよ」


黒田少尉が指をさした本陣らしき奥のそばにいた、五頭の二足の大型竜が、豪快な地響きを立てて動き出す。意外と早いな。


「あれは暴竜だ。戦闘力は抜群だがまぁ平地の戦闘で使うことは滅多にないな。殺しすぎるからな」

「それじゃだめなんですか?」


「うん、戦闘は別に皆殺しにすることが目的ではない。敵の指揮官が負けを認め、戦闘が終了したら無駄な怪我人や死者を出さすに済むが、アレは一度暴れたらこちらの制御が難しくてな。だからもっぱら攻城戦などに連れて行き、飽きるまで城塞を破壊させるのに使う」


俺なんかはあの暴竜だけ揃えていればいいんじゃないかと思うがそんな単純なものでもないらしい。


「なるほど。けどでかくてかっこいいですね」


昔作ったティラノサウルスのプラモにそっくりだ!


「そうだろう! そうだろう! わかるか! あの良さがっ! でかいと言うことはそれだけで強さの証明でもあるし、近くで見るとその圧倒的な、大きさと美しさに感動さえ覚えるのだよ!」


オカッパのテンションがいきなり上がった。


「見たまえ! あの前傾姿勢で走る姿を! 流れるような動きであれで獲物を狩るのだ! なんて美しい……美しすぎるとは思わんかね!?」

「暴竜がお好きなんですね」

「当たり前だ!暴竜を好きにならない人間がいるかっ! かく言う私もついに今年から暴竜付になったのだ!まだまだ補助兵ではあるが……」

「補助兵というのは?」

「暴竜には1名の主騎乗兵と5名の補助兵がいて、6名で世話をするんですが主騎乗兵が騎乗できないときは代わりに暴竜に騎乗します。普段は暴竜の後ろに付いていき、補助作業をしますね」


黒田少尉が丁寧に教えてくれる。

暴竜の後から今度は暴竜よりも小さい茶系の四足歩行の竜が動き出す。


「あれは中型の岩竜。防衛戦の要だな。普段は本陣の周りを固めてる」


象ほどの大きさの竜がズシン・ズシンと続く。


「遅いですね」

「ものすごく固いんだけど遅いのが欠点だな。あれでも走ると早いんだけど、そんな長距離は走れない」


最後に数本の旗指物を立てた少数の疾駆竜と火竜の群れが残り、優雅に岩竜の後を付いて行く。


「残っているのが本陣ですね。一匹だけ黒いのがいますね」


実は最初からなんとなく気になっていたヤツだ。なんかこう目立つ、というか目につくといいうか、なんかイヤな感じのするヤツだ。


「あの黒いのは邪竜の一種だ。強さは疾駆竜ほどでそんなでもないが呪いを使う恐ろしいヤツだ」

「あれだけ人が騎乗してませんね」

「扱いの難しいやつでね。人を乗せるのを嫌う。扱うのも黒田の所属する竜魔術隊の兵が行う」

「所属が違うんですね」

「そうですね、でも戦場で他の竜と隊列を組めないと困るから時々こうして竜騎兵隊の訓練に参加させてもらうんですよ」

「ほ~勉強になります」

「あ、こちらにおったのですな、探しましたぞ!」


おっとり刀でサムライが俺たちのところに来た。


「高野少尉! 遅いぞ! 貴様、客人の案内・護衛任務だというのに何をしていたか!!」


サムライがこちらに合流するなりオカッパが怒鳴りつけられる。


「申し訳ござらん、ついつい剣術談義に花が咲いてしもうて……」

「なっとらんぞ貴様! だいたい……」

「まぁまぁ中尉、そろそろお腹すきませんか? 食堂に行きましょう。ホラ、竜たちも食事始めたし、加藤さんも空腹でしょう?」


訓練場を見ると一週した竜達がそれぞれエサを与えられているところだった。とうに昼の時間は回っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る