第13話 軍事施設
「ほら、これも美味しいわよ! しっかり食べなさい!」
制服姿に着替えたレイリが楽しそうに俺の口に何か突っ込む。
「むぐっ」
言われるままに食べてるわけだが、租借してる最中に次のを突っ込んでくるもんだから、口の中は常になにか入ってて休まる暇がねぇし、なんだかもう味もわかんねぇ。
しかもその間、レイリは俺の倍は食べている。
「そう言えば兄さま、今日は私が帰ってきたら元乃一条先生借りるわよ」
「わぁんで?」俺はモグモグしながら聞き返す。
「姉さまが帰ってきたら次に私がお社に龍紋関係で行かなきゃだからさ、その前にちょっと勉強見といてもらいたいんだよね」
「ん、ん、、はぁ~~~」
水を飲んで一息をつき、そう言われてかねてから考えていたことを伝える。
「じゃ、しばらく先生は俺の講義から外すからレイリの勉強に集中してもらおう」
「いいけど、どうしたの? しばらくお休みするの?」
「二人も面倒を見るのは大変だろうしちょっと考えていたことがあるから実行したいんだ」
「なによ、イチャイチャしちゃう~?」
「いや、そういうことじゃなくて、レイリは勉強するんだろ? 俺は龍之宮市を見て回りたいんだ」
「ふ~~ん視察ってこと?」
「二週間ほどかけて街の中に泊まり込みで上街と下街を見てみたいんだ」
上街というのは龍人街で下街というのは亜人街だ。単に上と下と略すこともある。
「え~お城に帰ってこないの? じゃあ私が兄さまのお宿に行っちゃおうかしら?」
「いや、それはだめだ。一応お忍びで行く予定だから、レイリが現れると現場が混乱しちゃうだろうから」
「何しにいくのよ」
「まぁ~この街で暮らす人々を見てみたいのと、この街がどうなっているのか、肌で感じてみたい、てとこかな?」
「この間、私と回ったじゃない」
「そうそう、あれでますます街の中に興味がでてさ、もっと良く見てみたいんだよ」
「その話は前からワシも聞いておるぞ」
龍帝が会話に入ってきた。
「そうなの? 父様?」
「ああ、コヤツ、調子に乗って街の外にでて国中を見てみたいと言うがそれは許可しなかったぞ」
「なんでよ、いいじゃない! 私と一緒に旅行するっていうのもいいわね!」
「そういうのはさっさと龍帝になってから好きなだけやれ。とりあえず市中の視察は許可してやったんだ」
「いつから行ってらっしゃるの?」
皇妃も参戦してきた。
「はい、出来れば明日からにでも」
「何よ!急ね」
レイリがちょっと不満をもらす。
「ならば、後で細かい話をしよう。ワシの執務室に来るように」
「わかりました」
「じゃあ今晩はまだお城にいるのね! 良かった!」
ギクリ
「レイリ、今夜はたっぷり可愛がってもらいなさい」
「わかりました! 母上! じゃあね、兄さま、私もう行くわ!」
行ってきますのキスをしてレイリが登校のため出ていこうとしてドアの前まで来て振り返る。
「可愛がるのは私のほうですけどね!」
ふふふと不敵な笑みを浮かべてドアの向こうへ消え去った。
やれやれ、今晩も寝れないのか。いや、寝かせてもらえないのか……。
◇◇◇
「それで佐藤龍一・市中視察の件なのだが……」
龍帝の広すぎる執務室で、俺の提案の審議が行われている。
審議というか、ただの予定確認なんだけど皇室なのでいちいちおおげさだな。
「以前よりご提出いただいた計画書の通りでほぼ問題ないと思われます。手配も先ほど差配しておりますので諸々の予約なども問題なければ本日中にできるでしょう。
それでそのご予定ですが最初の一週間で龍人街の南区・中央区・北区を回っていただきます。かなり駆け足になりますので要所要所、のご見学、ということになりますが。」
龍帝の初老ぽい、侍従長の龍人が概要を読み上げてくれる。
「次の1週間で亜人街を見て回って頂く予定ですが、亜人街はより広く・治安が悪いとこも不便なとこも多く、見回るのは大変かと思われますが一応ご希望に沿うよう予定を組んであります」
「それで護衛の件なのだが……」
「ん! ん!」
派手な装飾の赤い軍服に身を包んだ、これまた初老に見える龍人が咳払いをする。
「佐藤様は我ら近衛ではなく、一般兵の護衛をお望みとか。我らに如何なご不満があってそのような恥知らずなご要望をだされるのか、お伺いしたい」
ギロリと近衛師団長が睨んでくる。すげぇ迫力だ。怖いよ。
「いや、近衛の皆さまは全員貴族出身と聞いてですね……」
「なるほど、佐藤様は貴族にご不満がおありだと、そのように仰るのですな! これは困りましたな、佐藤様が例え龍帝におなりになったとしても果たして貴族達が忠誠を誓えるかどうか……」
「師団長、控えよ」
龍帝が釘をさす。
「これは陛下、恐れ入ります。しかしながら我々近衛は開国以来、皇族様方の警護を生業としております。これでは佐藤様が龍帝になられた暁には我らお役御免になりそうですな」
師団長は止まらない。
「ちょ、ちょっと聞いて下さい!」
なんだか話が変な方向にいきそうだ。
「……伺いましょう」
「私の警護に一般兵を、それも民間出身者にしてもらいたいのはなるべく市中に溶け込んでいただきたいからです」
「我が近衛でもご不満の貴族ではあるが市中生まれは多い。護衛はもちろん案内役にも最適である」
「ちょっと最後まで聞いて下さい」
「師団長、横やりをはさむのを控えよ」
「畏まりました、陛下」
「え~とですね、宿も今回は民間人が泊まる、あまり高級ではないとこです。旅人やら行商人などが利用する必要最低限の安宿です。そんなとこにお貴族様がいらっしゃたらきっと不審に思われると思われますし他の宿泊客にも警戒されてしまいます」
「むっ」
「多分亜人街ではもっと、その、言い方はアレですがもっとボロい宿に泊まる予定です。なのでなるべく平民出身の、それも一般家庭出の兵の方について来ていただきたいのです。その方が町中で違和感がないと思うからです」
「……」
「決して近衛の方をないがしろにしたいわけではない、ということをご理解ください。それどころかいつも警護頂き、感謝しておりますので」
「ふむ」
「如何でしょう?近衛師団長殿、佐藤様のお言葉には一理ありますし筋が通っておるように思われます」
侍従長が援護してくれる。
「なるほど、佐藤様は我ら近衛に対し、敬意をもっていらっしゃるようだ。我らの仕事がないがしろにされないのであれば今回のご提案、お受けするしかなさそうですな」
もっとゴネるかと思ったが意外とあっさり折れた。
後で侍従長から聞いたが近衛師団のプライドが立ててあれば何も問題のない事柄らしいが一応ごねて見せるポーズをとって、いやいやあなたを尊敬してますよ、ちゃんと顔を立ててますよ、てこちらが言葉にしたらそれでチャン、チャン、で論戦が終わるらしい。
龍帝にそれならそうと最初から教えておいて欲しいとゴネたら、あれが貴族というものだ、実践できて勉強になったろう? お前は勉強したいのだろう? とニヤリとされた。とんだタヌキおやじだ。ちなみに俺の対応は多めにみて30点らしい。
「それで師団長殿に改めて私からお願いしたいことがあるのですが……」
「ふむ、この私めごときにできることでしたら」
◇◇◇
その後、俺は城を出て、南区にある軍事基地へと向かった。
なるべくボロイ竜車を用意してもらった。竜車とは竜が引く車でこの街では一般的な乗り物だ。
軍事基地は南区でも城の外壁にくっつくように存在し、なかなか迫力ある建物だった。
その司令室に俺は通された。
「これが近衛師団長から預かった紹介状です」
「ふむ、いただこう。拝見する」
近衛師団長と違い、こちらは黒い詰襟的な軍服を着ている。
「君は……加藤正一君だったか、この書状によると、爵位を持たぬ田舎の皇族の遠縁の方の関係者で後学のため龍都を2週間かけて見学するので、護衛を用意して欲しいとあるがこの通りで間違いないかね?」
「間違いありません」
「なるほど……。三人でいいのか?」
「はい、お願いします」
「わかった、一応お城から要請があり、事前に信頼のおける腕のたつ人の三人の部下を用意してある。君の護衛に付けよう。おい、呼んで来い」
ドアの前に直立不動でたっていた兵が「ハッ」と敬礼し、出て行き、すぐその三人を連れてきた。
まず真ん中に立つおかっぱ頭の女性が敬礼する。
詰襟学生服の上着にセーラー服のスカートのような軍服だ。
「自分は竜騎兵団第一師団所属 篠田マナ中尉であります!」
ハキハキしておる。
そして名前に龍も竜も付かない龍人だ。新鮮だな。
中肉中背で胸は中々大きい。姿勢よく直立不動の体制でいかにも軍人らしい。
そして眼光が鋭いなこの人、さすが腕利き、なのか?
司令が補足してくれる。
「あ~彼女は格闘・剣術・魔術となんでもこなせる万能型だ。君の護衛の指揮を執らせる。はい、次自己紹介して」
篠田中尉の後ろに控えている長身の男がのそっと動く。
こちらはもろ黒い学生服になんか色々記章とかが付いてる感じの軍服だな。
「え~竜武士団第二大隊所属、高野こう少尉、どうも」
腰に刀を差している。篠田中尉と違い猫背気味であまり軍人らしく見えない。
なんというかやる気というか覇気が感じられないな。大丈夫か?
「ヤツはまぁ、御覧の通り、頼りなさそうに見えるが、ああ見えて竜聖一刀流の免許皆伝で腕は確かだ」
司令が説明してくれる。
「はぁ」
「では最後」
篠田の後ろにいた高田少尉よりは背の低い眼鏡の男が応える。
こいつはグレーの学生服ぽい軍服に黒いマントを羽織っている。
「自分は竜魔術特別第一大隊所属、黒田ゆうすけ少尉です。よろしく」
なんか気さくな感じの奴だな。この中では一番好感が持てそうだ。
「あ~彼は所属部隊の名の通り魔術が得意だ、重宝すると思うよ」
「そうなんですね、手配感謝します」
「本日は彼らを連れて城に戻り、明日から市中の宿に宿泊し見学する、彼らは君の護衛・案内をする、でよろしいか?」
「はい、大丈夫です」
「ではここに署名・押印してくれたまえ」
俺は出された書類に言われたとおりにする。偽名の印鑑は城で用意してもらった。
「うむ、これで費用はお城持ちだな、よしよし。ところで……」
「はい?」
「近衛からの紹介状には是非、君にここでの兵の訓練を見学させてやってくれ、と書かれてあるがどうするね?」
お、それは面白そうだ! 師団長粋なことしてくれんじゃん!
「いいでんすか!?」
「かまわんよ、篠田中尉、お客人に我が兵の訓練を見学させてやってくれ」
「はっ! 了解しました! では加藤さん、こちらです!」
おお~~ちょっとわくわくしてきたぞ!
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