第12話 牛乳の立ち飲みは腰に手を当てて

私こと、龍之宮レイリは龍帝国の、お姫様なのである。

幼いころから、姉と共に異世界の人に憧れて過ごし、念願かなって異世界人様と出会えたわ!

私と彼の恋は少しづつ、でも確実にお互いの歩調を確かめつつ、育ててきたわ。

頼れる友人たちも協力してくれて、親身に相談に乗ってくれたの。

友情って大事よね!

そして、昨晩! ついに私と彼は結ばれてしまったのよ、きゃ~~~~~~~!!

彼は私のことをとても大切に抱いてくれたわ。

あんなに素敵な夜はきっと生涯忘れることはできないわね!

そして迎えた今朝は、世界がとても輝いて見えたわ!

ああ、生きてるって本当に素晴らしいことなのね!


「レイリ様、今朝は朝からどしゃぶりでしたが」

「ちょっとアン、人の日記勝手に読まないでよ!」

「……レイリ様……」

「……そんな残念なものでも見る目で見るな~!」


はい、うそで~~~す。

抱かれてないし結ばれてませ~~ん。

料亭での作戦会議は結局 <全部やってみればいいんじゃね? 数打てば当たるっしょ作戦> になったんだけどことごとくダメだったわ。


◇◇◇


■第一次兄さま攻略・はだかリボン風呂場突入作戦■


アンに兄さまの部屋を見張らせて、風呂道具持って部屋を出たら報告させたの。

ここまでは良かったと我ながら言わざるをえないわね。

後はアンに手伝ってもらって、はだかリボン装備でお風呂場にいざ突入!!


「兄さま私を見て!!」


恥ずかしかったけど、大声で言ったわ。

お風呂場は、かぽ~~~ん、ていい音してたわね。

なんでいないし、だわ。

兄さまったら自称してたけど風呂オタクっていうの?

城中の風呂場に行ってるらしく、その日は誰でも入れる大露天風呂に行ってたんだってさ、私そんなとこ入ったことないし!


◇◇◇


■第二次兄さま攻略 素直に抱いて作戦■


もうはっきり本人に直接言えば良いのよ。

委員長もたまには、いいこと言った。

だから夜、とっておきの可愛い浴衣を着て兄さまの部屋のドアを開けたわ。

そして勇気をだして言ったの。


「兄さま、私を抱いて!」


そうしたらギャハハハハハハハハとプルーンが大爆笑しやがったのよ!

恥ずかしいやら腹立つやらでそのまま出てきちゃったわよ!

あ、プルーンてのはうちの城に住み着いてるヴァンパイアで何代か前の龍帝さまと気があって仲良くなって住み着いてる、て話だけど私は2,3回くらいしか見たことないわ。

後から聞いたんだけどあいつ、兄さまがこの世界に来たとき襲撃者から何回か兄さまを守ってたみたい。

それで夜、兄さまが勉強してると時々部屋に来て、だべって帰っていくらしいわ。

そんなん知らなかったし。


◇◇◇


■第三次兄さま攻略 勝負に勝ったら抱いて作戦■


もう自分でも何を血迷ったのかわからなかったけど、カエデの案を採用してしまって……我ながら後悔しかないわ。

朝食の時、木刀を振り上げて


「兄さま! 私と勝負よ! 勝ったら私を抱いて!」


と叫んだら「姫様ご乱心!!」て、あっという間に侍従・侍女たちに取り押さえられ、別室に連行されて学園休んで母上に一日中説教させられたわ。

最悪。死にたい。


「レイリ様、大丈夫ですよ。姫様は側室になることが決まってるんだから、慌てなくてもそのうちいやでもヤルことになるでしょう?」

「それはわかってるんだけどさ……」

「大体その年で子作りしたいという感覚が私には理解できないですね。子なんて二人しかできないんだから皆、百五十超えた位じゃないと作らないもんだし」

「はぁ~。私がその年になったら兄さまはもうこの世にはいないわね」


恋する龍姫の空回る夜はいつまでも光明を見出せないでいた。



◇◇◇



「レイリのことをもう少しかまってあげてくれ」


個室に呼びだされ、龍帝じきじきに申し付けられた。

隣では皇妃が疲れた顔をしている。


「わかりました。気にかけておきます」俺はそう答える。


今朝は目の前でリアル【姫様ご乱心】を見てしまったので、なんともお互い気が重い。


「頼んだぞ」


退出して思う。

ここ数日レイリがなにやらわけわからんアプローチをしてくるのは気づいていた。

いや、わかっている。

シンプルに俺にかまって欲しいのだ。

思えばこの世界に来て、初日に俺の部屋へ忍び込んだ時から一貫してずっと同じ主張なのだから。

レイラとは結ばれて情欲は以前より増えたような気もするが、やはり今は勉強が楽しいのだ。

本をむさぼるように読み、知らない知識が増えていくのが面白い。

そういえば小中学生の時、昼休みは図書室で本を読むのが学校での楽しみだったことを思い出させてくれた。

放課後はバイトに明け暮れたから、ゆっくり本を読める時間は俺にとってはとても貴重な時間だったんだ。

たまに夜来るヴァンパイアも最初は勉強の邪魔でうっとおしい、と思っていたが話をしてみると意外と面白いヤツだった。

本の間違いを指摘してくれたり、歴史書には載っていない裏話を教えてくれたり、こことは違うまったく知らない土地や人の話を聞かせてくれる。

そのかわり俺はヤツが聞いてくる俺のいた世界の話をする。

そんなことが楽しすぎた。

今は空回りしてるが、レイリは元の世界じゃど底辺にいた俺なんかにはもったいない素敵な女性だ。

彼女と過ごす時間もとても楽しいし、きっとそういう関係を持ったら素晴らしいことになるだろう。


だが、……だがしかし! なのだ。


今はふと、レイラがいないのが寂しい。

きっとレイラがいたら勉強どころではないだろう。

一度火のついた情欲は、朝から晩まで体力の続く限り彼女を求めてしまうのではないだろうか?

彼女を抱くとなぜか力が湧き上がり、何度でも何度でも彼女を求めてしまう。

まだ一晩だけの関係だけれどその後数日は寝ないで勉強しても平気なくらいだった。

多分レイラから分泌されるなんらかの成分が俺に影響を与えているのではないだろうか?

今レイリを抱いてしまったら俺はどうなってしまうだろう?

きっと肉欲に溺れてしまうに違いないし、そう思えてしまう自分がいやだ。

知らずにそれを表にださないよう疲れるまで勉強に打ち込んだ部分もあるかもしれない。

だから、レイリのことはうすうす感づいてたが見てみないふりを決めていたけど、もうだめだな。

レイラの時と同じだ、覚悟を決めろ!!


俺は部屋にあるベルを鳴らす。


「お呼びでしょうか?」


間髪入れずに俺付きの、いつもの無表情な侍女が現れる。


「レイリ皇女殿下をここへお呼びしてくれないか」


一時間後、レイリが現れた。


「なによ!兄さま、こんな時間に、このわたしを呼び出すなんて!」


皇妃様にたっぷりしぼられたのだろう、目が少しはれぼったい。


「はは、ずいぶん遅かったな」

「女の子は支度に時間がかかるのよ!」

「そうか、実はお願いがあるんだが」

「な、なによ!」

「今晩は俺と一緒に過ごして欲しいんだ」

「……それって……」

「ああ、頼む」

「しょ、しょうがないわね! 兄さまの頼みじゃ断れないから! しょうがないわね!」


そっと抱き寄せる。


「もう、ずるいわ兄さま、私、色々考えたり、苦労したり……ん……」


ごちゃごちゃうるさいレイリの口を自分の口と重ねる。


「……はぁ……ん……遅いのよ、ばか……」


朝が来た。

やっと朝がきた。朝がきてくれた。

これで俺は解放される。解放されるんだ……。

レイラとの情事が、え~~例えるなら二人でゆっくり日向の公園を散歩してるようなものだとしたら、レイリとのそれは激しいスポーツだ。

それもキャッチボールみたいな生易しいものではなく、お互いの体力と精神を削り取るような激しいボクシングでもしてるかのような……。

ちょっとうまい例えがわかんねぇや。

レイリも最初のうちは、しおらしいものだったが後半になるにつれて、まぁ、絶好調でこちらが振り回されるようだった。

レイリと体を重ねる前はスタイルや性格は違うが姉妹だし、レイリもレイラと同じようなもんだと思っていた。

しっかし、年もそう変わらない姉妹だというのにこうも違うとは思わなかった。

俺はまだ二人、二晩しか経験がないが、なるほど、英雄色を好むというのがわかるような衝撃だ。

多分十人女性がいたら皆、抱き心地が違うんだろうな、というのを今、肌で感じたんだから。

その肌もレイラはしっとりとしていて、もち肌というのか、くっついると本当に彼女に包まれているような気持ちになるんだけど、レイリの肌は文字通りピチピチしている。

ツルっツルで汗などが玉になり、ツ~~と流れていくのだ。

女性を果実に例える表現はまったくその通りだな、と変なことに感心していた。



「兄さま、朝がきたわね!」


ベッドから降りたレイリが素っ裸のままカーテンを開ける。

「うっ」俺はまぶしくて思わず目を細める。

俺の姫様は裸のまま、その全身にくまなく朝の陽光を浴びながら足を広げ腰に手をやり、、ゴキュ、ゴキュと牛乳らしきものを飲んでる。

まぁなんというか力強い。


「ぷはぁ~~~~! 一発ヤった後の牛乳は最高ね兄さま!」


ニカッと見たことない、すんごいいい笑顔だ。


「……一発どころじゃねぇよ……」俺は力なくつっこむ。

「なんか言った?」


下着を着けながらレイリが聞いてくる。


「いや、」


ベッドの上でぐったりしてる俺に近づき、頬にキスしてレイリが言う。


「さ、兄さまも早く服を着なさい。朝食に行きましょう! おなかペコペコだわ!」


俺はよろよろとベッドから降り、言われるがまま服を身に着けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る