第16話 亜人街にて

グダグダになった飲み会の翌日、俺たちは龍人街の外れの外壁まで来てメチャクチャでかい門、の隣の普通の大きさの門をくぐり抜けて亜人街に入る。


「あのでっかい門、必要あるの?」

「ありゃあ、大型の竜を通すためにあるんスよ。まぁ普段開くことは滅多にないスね」


クロダが言う。なんとなく俺たちは今朝から砕けて話すようになった。


亜人街を一言で言うなら中心部はレンガ作りの明治時代。その他は木材多めの江戸時代の街並み。と言ったところか。

よくアニメやゲームとかであるだろう?

ストーリーの都合がいい設定、単なる雰囲気づくりだったりして時代考証のおかしな、なんちゃって明治時代とかなんちゃって大正時代な街並み。

あんなんと同じ感覚だな。

とにかくちょっと郊外へ行くと、そこかしこに長屋があってそこに常に溢れるばかりの人がいる。

もう少しスラムみたいなとこも多いかと思っていたがそうでもないらしい。

ないわけではないけどね。

俺たちは冒険者組合・商業組合・工業組合・建築組合・温泉組合などを一通りまわった。

俺のたっての希望で夜は街のあちこちにある温泉施設へ行く。

施設は本当にバラエティー豊かでこじんまりとした老夫婦が二人でやってるようなとこから色々な浴槽が楽しめる大型のとこまで様々でいつかこの都市にあるすべての温泉浴場を制覇してみたいという小さな野望が生まれた。

そんな充実した日々も五日もたった頃だ。


俺たちはいつもの日課の風呂入りに行った。

宿からは少し離れているが歩けない距離でもないので湯上りに月を見ながら風に当たりたいのもあり、四人で竜車を使わず歩いて行った。

お目当ての温泉に浸かり、帰りにちょっと一杯ひっかけて気持ち良くなりながらブラブラと宿への帰り道でのことだ。


「サムライはもう風呂の中で泳ぐのやめろよな、恥ずかしい」

「なぁ~にを言ってござる。あんな広い湯舟、泳がなきゃもったいないでござる」

「お前ら公共の風呂の中でそんなことしてたのか?」

呆れたようにオカッパがいう。

「こいつ、兵舎の風呂でも泳ぐんス」


いつものようにダラダラ歩いていると突然オカッパが


「総員真体! 防御陣形!」と叫んだ。


一瞬で三人が龍の真体になり、俺の前後をガードするように囲む。

するとどこから現れたのか前の通りを数名の人影が塞ぐように現れた。

振り返るといつのまにか後ろも塞がれているな。

通り沿いの両脇の長屋の上にも何人かいるようだ。これは……完全に囲まれている。

ほとんどが亜人だが龍人の真体も中に数名いるっぽい。


「いやぁ、今日はいい月夜だな。風も気持ちいい。風呂上りの散歩には持ってこい、かな?」


前方の人影から親玉らしい真体の龍人が話かけてきた。


「我らに何か用か?」


腰の刀に手を添えつつ警戒しながらオカッパが答える。


「いやね、俺たちが用があるのは龍人じゃねぇ。ご一緒にいる人間だよ。なぁ佐藤君。いや、今は加藤だっけ? まぁどっちでもいいや、おとなしく俺たちと一緒に来てくれねぇか?」


やばいな、こちらの事情は全て理解している、てことか……。


「なにを勘違いしてるか知らんが彼は我が兄嫁の弟でね。最近ここに来た、ただの田舎者だ。お引き取り願おう」

「はは、威勢がいいな、姉ちゃん。この人数を見ろ。俺たちぁ遊びで来てるんじゃないんだよ。お前ら、やれ」

「総員抜刀! 状況開始!」


かかってきた相手をクロダは短刀からカミナリ的な電撃やら火炎やらを出し戦い、オカッパは刀を振ったり、蹴ったり殴ったり、時にはしっぽをムチの様に当てたり、なんかすごく臨機応変に戦う。

そしてサムライは純粋に刀を振るうだけで人が倒れていく。

おおすごい、かかってきた竜人をバタバタと倒していく、三人ともすごいぞ! 本当にコイツら腕利きか? なんて疑ってたことを許してくれ。

十数人いた襲撃者はあっという間に地面にひれ伏した。さすが腕利き、伊達じゃないぜ!

すごく長かったような気もするし瞬く間であったような気もする。

サムライがヒュッと血を掃うために刀を振る。


「龍紋を使うまでもないでござるな」


サムライどうした、今日はなんかかっこいいぞ!?

しかし安心はできない。まだ向こうは龍人が控えている。


「やっぱ、やんなきゃだめか、やれやれ。……おい、お前ら目標を傷つけるなよ、価値が下がるからな」


「おう!!」残った龍人達の包囲が迫りいよいよ龍人同志の戦闘となった。

すると突然「後は任せた! 加藤氏スマン!」と言うが早いかオカッパが俺を抱きしめる。


「な!」


俺は訳が分からなかったがなにか作戦でもあるのか? と思った刹那!

彼女の額の龍紋がまばゆい光を放った。


「んんんんんっ!!!!」


とオカッパがうなると服がはじけ飛び大きく体が膨らんだ、かと思ったらあっという間に二十メートルはあろうかという青い色の龍になった。いやまさしくドラゴンだな、こりゃ。

まだ宵の口だ。それなりに人通りもある。


「うっ、うわぁぁぁぁぁっぁ! 龍体、龍体だぁぁぁぁぁ!!」

「龍体がでたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「避難だぁぁ!退避いそげぇぇぇぇ!!」


夜の下町はいきなり騒然となった。カンカンカンカンとどこからか異常事態を知らせる半鐘の音やピィ~~~と笛の音が聞こえる。

メチャクチャ大騒ぎになった。怪獣映画の怪獣が出た時の民衆のパニックそのままだな、とデカイ龍に抱きかかえられた俺は思った。

龍人が町中で理由もなく、許可なく龍体になるのはこの国では厳しく禁じられている。

規則を破ったものはとても厳しい罰が待っている。

最悪死刑にもなり得るし、役人が来て、おとなしく投降しない場合は討伐対象になったりする。


龍体になったオカッパは俺を抱きかかえたまま、その大きな翼をバッサバッサと羽ばたかせ空へと浮かんだ。

下ではクロダとサムライが龍人数人を相手にしている。


「させるかよ!」親玉が飛んできた。しつこいな。


そのまま俺に向けて口を開き、カチカチと火花がでたかと思ったら炎を噴出した。

それをオカッパがなんとか避ける。これ空中戦はこちらがでかい分不利なんじゃないのか?

多分この龍体、攻撃や大規模破壊には向いてても何かを守ったり細かいことをするには向いていないような気がしますよ、中尉さん。


「生け捕りが無理なら殺しても良いって言われてんだ! 覚悟しな!」


ですよね~~、その殺す気まんまんの攻撃、気づいてました~。

バサバサと翼をはためかせ、さらに高度を上げ距離を取ろうとするオカッパドラゴン。

するとその場に留まり浮いていた親玉の額と手の甲が光ってるように見えた。あれ龍紋じゃねぇの? 

なんか物凄くイヤな予感。

親玉の身体が青白く光った、と思った瞬間、ヤツの顔が目の前にあった。


「あばよ」


そう言ってヤツは俺から離れた。

胸の奥から熱いものがせり上がり口からでた。血だった。

左胸には深々と短刀が根本まで刺さっているのが見えた。


あ、これ俺死ぬじゃん。


気を失う瞬間、街の上空に城の方から警護の飛竜隊の群れが飛んでくるのが見えた。

オカッパ達、怒られないといいなぁ~~と思いながら、俺は、死んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る