第6話 勉学に励む
まぁ、その後はとにかく目まぐるしかった。
やれ祝宴だ挨拶だ、とにかくまず、国民に向けて、異世界転移者の発表と第一・第二両皇女との婚約の発表が矢継ぎ早に行われた。
行事自体は前から準備していたらしく意外とスムーズに行われた。
「俺が来る前から準備してたのか?」
誰も彼もが忙しく、俺はなかなか会えないレイラと偶然、二人きりになった時に聞いてみた。
「はい」
レイラが答える。
「召喚儀式が失敗したらどうするつもりだったんだ?」
「その時はその時でしょう。ただ、儀式が成功した場合にゆっくり準備に取り掛かるわけにもいかないのです。」
「なんでそんなに急ぐんだ?」
「私との婚姻を発表する、と言うことは国内外に、あなた様は龍帝国・皇室のものだ、と知らしめるためでもあります。異世界転移者が現れたとなると、この世界に少なからず混乱を招きますから。
召喚儀式に成功したことを、秘匿する案もあったのですが遅かれ早かれ、ばれてしまうでしょうから早めに婚姻を決め、発表してしまおうということなのです。これはあなた様の安全を確保するためでもあります。龍一様も初日に襲われたからおわかりでしょう?」
「ああ、なるほど」
そう言えば初日に襲われかけたな。
もうほんと、この数週間は色々あり過ぎた。
はっきり言って忙しさレベルは元の世界のブラック企業に勤めてたのとなんら変わらないような……
「婚姻発表後は龍一様を狙い、この龍ノ宮城に忍び込もうとする輩はなくなったそうですよ」
「そうなのか?」
「はい、もし、つかまり、どこの国の手の者かわかれば……」
レイラのめったに見せない、冷たい表情に思わず、ごくりとツバを飲む。
「どうなるんだ?」
が、さばさばとレイラが笑顔で答える。
「まぁ、問答無用で戦争ですね」
「戦争……」
「龍一様の所属が定かでなかった時ならいざしらず、皇女である私の婚約者で、次期龍帝となられるお方を狙う輩など、我が国総出で攻撃されても文句は言えないでしょう。龍人は名誉を重んじます。そして我が龍帝国は、多数の攻撃型の竜を擁する軍事大国でもあります。人の国を亡ぼすことなどわけもありません。」
レイラの澄ました顔で攻撃的な発言に俺はぞわぞわしながら「なるほどね、」とだけ返した。
心の中で(……おっかねぇ……)とつぶやきながら。
そんな短い会話中に、ゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえた。
「おっと、もう時間か、じゃ俺、行くわ、……じゃない……」
きちんと姿勢を正し、レイラに向き直る。
「ん! ん! では皇女殿下、自分は講義の時間となりました故、失礼させていただきます」
右手を胸にあて一礼する。うまくできたかな?
「はい、頑張ってください」
にこにこと微笑み、俺を送り出してくれるレイラ。
俺は立ち話を切り上げ、慌てて今講義を受けている書斎へ向かう。
俺はいずれ、この国の龍帝となることになるらしいのだが、皆が言う通り、ただ、ふんぞり返って何もしない、てわけにもいかない。
政治や軍事云々はともかく、国のトップとして必要最低限のマナーやら、この世界の常識や国の歴史・政治状態・人の暮らしなどを、西ノ一条先生に教えを受けている。
マナーだけ身につければいいと言われたが、とりあえず婚礼までは半年ほど時間があるので、自分からお願いしてレイラを通して先生に頼みこんだ。
どうせ、俺にはすることがないんだしな。
チートもないし。
なので朝から夕方まで講義を受けて、残りは寝る時間まで自主学習している。
なんせ覚えなきゃならないことが多いのだ。
けどなんだか苦にならない。
中卒の俺には今更だが、勉強するのが楽しくて仕方がない。
きっと今してることが明確に後々役に立つだろうことがわかっているからだろう。
西ノ一条先生も色っぽいしな、あのタイトのミニスカと黒のストッキングやヴぁいよね。
けど龍帝ご一家には、俺が学習漬けなのがご不満なようで、ことあるごとに、そんなことよりレイラ・レイリ姉妹と子作りに励めと言ってくる。
……いや、それは魅力的なことだがそれって婚儀後じゃない?
しかも嫁一家の方から積極的に進めてくる理不尽さよ。
そんなことは龍帝になったらおいおい覚えればいい、と言われるが俺はただの人間で君らほど長生きじゃねぇんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます