第5話 襲撃、そして決断
結局、物騒な裏側の話を聞いても悩むことには変わりはない。
「どうしたもんか……いや、選択の余地はないようだし……」
「悩むならば死ね」
突然のど元に冷たい鋭利な感触がきた。
背中から腕は極められ、ナイフ的なものを突きつけられているらしい。
「なっ!!」
「騒ぐな。声を出したらすぐ刺す」
俺は無言でうなずく。
「よし、いい子だ。質問には、はいでうなずくか、いいえで横にふれ」
うなずく
「お前は今日、この城に異世界から召喚された者で間違いはないな?」
うなずく
「なにかこの国と約束か契約みたいなものはしたか?」
首を横に振る
「そうか……間に合ったか……」
ちょっと後ろの人物の緊張がとけたようだ。
声からして女のようである。
「まったく……招待もなく他人の城に忍び込むとは躾がなってないの」
第三者の声が上の方からした。
(次から次へとまぁ……せわしないな)
俺の偽りのない感想だった。
「ちっ!」
俺の拘束を解き、侵入者は第三者に対峙するようだ。
カッカッカっとリズム良く天井になにかが突き刺さる音がした。
「そんなもんじゃ、わしはやれんよシノビの者よ」
目を爛々と赤く光らせた少女が黒装束の侵入者の背後に一瞬で回る。
「竜之宮のヴァンパイアか! 化け物め!」
と言った瞬間、爆発音がして部屋一面に、白い煙がひろがった。
ゴホゴホと俺はせき込みながら(煙幕!?)と判断したその時、派手にガラスの割れる音がした。
「逃げたか……」
第三の少女がぼそりとつぶやく
「間一髪じゃったな」
とこちらを向いて微笑む。
それと同時に部屋のドアが大きな音を立てて開き、部屋の外に控えていた警護の兵たちが入ってきた。
「何ごとですか!!」
「おっと、わしは退散じゃな」
言いながら少女の体は煙にまぎれ、消えていった。
(なんなんだよ……)
普段の生活では味わうことのない、目まぐるしく動く状況に俺は少々疲弊した。
◇◇◇
「昨晩は大変だったそうですね、お体は大丈夫ですか?」
なかなかに魅力的な皇妃様に問われ
「はい、なんとか……」
力なく返事をかえす。
昨晩はあの後、駆け付けた警護の兵たちに襲撃者があり、逃亡したことを伝えた。
警護兵からは侵入を防げなかったことを謝罪され、人数を増やし、それこそ寝室を取り囲むように人員を配置することを鼻息荒く約束された。
疲れ切っていた俺は、少し軽食を頼み、がっついてから疲労困憊 のため、ドロのように眠った。
そして今日、軽く朝食を終え、また昨日とは違う建物に案内された。
そこは昨日の建物とは違い、どこも和風な建造物であった。
思えば昨日の建物もどこか和洋折衷な雰囲気ではあった。
そして今、通された部屋は百畳敷きはあろうかと思える広大な、畳敷の和風な部屋の中心である。
開け放された障子から見える景色は、枯山水的な、これまた和風の庭で、ときおり鹿威しの音まで聞こえる。
国母とやらの趣味だろうな、と想像がつく。
俺を中心に右に和服っぽい第一皇女のレイラ、左にこれまた和服っぽい第二皇女のレイリ、正面にはこの国の龍帝にして彼女らの父龍零、その隣に妃であるレイランが控えていた。
「それでどうだ、腹積もりは決まったのか?」
今日は昨日と違って、着流しラフな格好ではあるが、なかなか貫禄たっぷりだ。
大組織のやくざの組長、と言われても違和感がないくらいに。
「昨日、次女が部屋に行ったんだろう?」
チクリと言ってくる。
小声で「ごめんなさい、バレちった」と聞こえ,顔だけ正面にして左に目をやると、テヘペロの表情で右手でごめんなさいのポーズのレイリが見えた。
「まぁ裏も表も大体聞いたと思うが、どうなんだ?」
まっすぐ龍帝は俺を見詰め,問う。
もう覚悟を決めるしかない。
俺はゆっくりと息を吐き、吸う。
背筋を伸ばし、丹田に意識を集中し、龍帝を見据える。
手に汗がにじむ。
「はい、そちらのご提案の通りにしたいと思います」
「では我が娘、レイラと婚姻を結ぶことを了承するのだな?」
ギロリ、と睨みつけながら龍帝は問う。すごい圧力だ。
「はい」
「龍帝になり、我が娘レイリをはじめ多くの側窒を娶ることも?」
「はい、できる限り、頑張ってみたいと思います」
その瞬間、ピンと張っていた空気が、一気にほぐれていった。
「そうかそうか、それはいい! 良かった、めでたい!」
ガハハハハとのけぞるように高笑いする龍帝。
最初から終始おだやかなほほえみで、表情の変わらない妃。
この人表情が読めないな。
しかし、さっきより少し表情が、和らいだ感じでもある。
心底ほっとした表情で、胸を撫でおろす、第一皇女レイラ。
やったぁーと、無邪気にはしゃぐ、第二皇女レイリ。
「うむ、すでに婚礼の準備は始まっている。それに合わせ、転移者の発表も同時にせねばならん、昨晩のように他国から侵入しようと試みる輩も増えるだろう、警備を増やさねばな」
「お父様、今夜は婚姻のお祝いね!」
うきうきしながらレイリが尋ねる。
「うむ、わしの娘が、2人とも……異世界人様に嫁ぐことができる……とは……」
「あなた……」
ついに龍帝夫婦は感激のあまり涙ぐんできてしまった。
レイラも少し涙ぐんでる。
「ちょっとー! 予定どおり祝宴の準備、進めといてよぇー!!」
レイリは部屋の外へ駆け出し、外の者たちに声をかけると、ものすごい歓声が沸き上がった!
(やれやれ、これからどうなるんだ?)
俺は心の中で一人、周りの喧騒をよそに、複雑な気分でいた。
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