第4話 レイリ登場!

「ではこちらでお休みください。なにか御用がございましたら隣の部屋に控えておりますのでそちらのテーブルのベルを鳴らしてください」


そう言い、ここまで案内してくれた侍女は、無表情で一礼してドアの向こうに消えた。

用意された部屋は、これまた豪華な部屋だったが俺はもう驚くこともなかった。

どこへ行ってもいちいち豪華だからな。

最初の地下の倉庫? 以外は。


部屋一面の窓からは雄大な景色が見える。

もう夕暮れだった。


「異世界でも夕日はあるのか……」


日は暮れるが、先ほどパンパンに食べたので全く腹は減ってない。

すっかりくたびれたスーツの上を脱ぎ、イスの背にかけ、これまた豪華すぎるベッドにダイブする。


「なんか、こう、アニメで見たけど異世界行ったらチートみたいな能力とか付くんじゃないのか? ……う~ん、けど前の召喚者たちみたいに魔王を倒せとか言われるよりはいいのかもな……」


答えが出るようなでないような、悩みをモンモンと考えながらベッドを転がりまわるとなにか、違和感があった。

その違和感がベッドから出てきて、先ほどの龍一の独り言に答える。


「そうそう、なにも考えずにあんたは、ただヤリまくればいいのよ。腰をたくさん振ってハッピー異世界ハーレムライフを楽しんじゃえばいいじゃない」


その違和感の正体は黒い、きわどすぎるヒモみたいな下着姿の赤毛のツイテールの美少女だった。


「ななななななな!!!」


思わず飛びあがる。


「だって、あんたはその為に呼ばれたんでしょう?」


俺の顔を覗き込むように、その赤毛の美少女は聞いてくる。


「なんだ、お前は! ん? その為にって姫様と結婚するためだろう?」

「はぁ? 婚姻なんておまけに決まってるじゃん。姉さまと子作りするんだから。皇女殿下が、なんの地位もない男と子作りするわけにはいかないでしょう?」

「……」

「なんにも聞かされてないの? あんたはこれから、この国中の女と子作りするのよ、こ・づ・く・り。もちろん私ともよ」


そういいながらツインテールは、龍一の腕に絡んで胸を押し付けてきた。

レイラよりは小さいがなかなか形がいいかな、と思い、いやいやと首を振る。


「き、君はいったい……」


思いっきり、きょどりながらそれだけ言えた。


「私はこの国の第一皇女、レイラの妹レイリ皇女でっす、お・に・い・さ・ま。これから末永くよ・ろ・し・く」


ふっと耳に息を吹きかけられた。

湧き上がる欲望をなんとか消し去り、


「まてまてまて、待てってば!」


ぐいっ、とレイリを押しのける。今は色気より状況確認をしなくちゃならない。


「なによう~~、さっさとヤることやろう~よぅ~」


口をとがらせ、不満そうにするレイリ姫。


「ちょっと待ってよ、その、お姉さんと結婚することが決まってる、いや、まだ決まってないが、とにかく俺と君がなぜそういう行為をしなくちゃならない?」

「だから言ったでしょ。姉さまとの婚姻はあくまでオマケ。あなたはこの国中の女と子作りするために召喚されたのよ。より強い龍人を増やすためにね。そしてもちろん私ともしてもらうわ」

「なんでだよ!」

「一条先生に説明されたんじゃないの?」

「いや、その話は聞いたが、国中の女って聞いてないよ、何人いるんだよ……無理だろ……」

「安心して、国中の女は言い過ぎだけど、初代様の三十人くらいの側室は要求されると思うわよ~~~」

「は~~~マジかよ、どこの将軍様だよ、大奥かよ……」

「まぁ、ほとんど皇室に繋がりの深い、貴族の娘たちだと思うけど、二、三人くらいは兄さまの好みの娘でも入れたりできるんじゃない~?」

「はぁ~~~」


一段と落ち込む俺を、すでに興味なさそうに寝そべりながら、その赤い髪をいじっていたレイリ姫はおもむろに立ち上がった。


「兄さま見て」


そう言うと、レイリ姫の体のまわりからうっすらと、ほの赤い光が溢れだすだす。

額から二本の角が生え、背中から翼が生え、腰からはしっぽが生えてきた。

目はまさしく龍のごとく、赤く光っている。


「な、な……」

「ふふんどう? これが龍人、本来の姿で龍人第一形態よ」


すでに暗くなりつつある部屋の中で、ぼんやりと赤く光る少女の姿は神々しくもあり、あまりにも美しかった。

俺は思わず見とれてしまった。


「もちろんドラゴンの姿にもなれるのよ。滅多なことではしないけど」

「はぁ~~~こりゃ驚いた」


「普段はね、宮廷内でも市中の生活でも龍人は完全に人の姿で生活してるのよ。人の姿であることがちゃんと自分を律しているって証明なのね。普通の人間でいえば服を着て生活してる、みたいな感覚かしらね。あとまぁ、生活に翼やしっぽは正直、邪魔だしね。気の抜けた時は龍の姿を出しやすいの。酒場なんかで酔って龍の姿を見せちゃうのは、未熟者って怒られたりしてるみたいね。だから私たち龍人は幼いころからいついかなる時も人の姿で生活することを徹底的に訓練させられられているの」


レイリ姫が続ける。


「でも、例外もあって、戦争のときなんかは皆この姿やドラゴンになったりするわ。あとは他国との外交だの取引の時なんかは、あえてこの姿でした方が交渉が有利になるみたいね」

「へぇ~~~すげぇな。ちょ、ちょっとしっぽとか触ってもいい?」


俺はさきほどの落ち込みも忘れて、レイリ姫の龍人第一形態とやらに興味がでてきた。


「い、いいわよ。やさしくね」


ちょっと恥じらいながらそのしっぽをむけてくれる。

触った感触は……細かい鱗がびっしりしてるので表面は固いのかと思ったが意外と柔らかい。


「柔らかくてひんやりしてるな。先についてる、この四本のトゲは、痛っ……なかなか鋭利だな」

「ひゃん、ちょ……」

「翼は……これまた……ほう、これで空を飛べるのか?」

「ええ……、私クラスなら二時間くらい、ん……かしら……」


真っ赤な顔でプルプル震えながらレイリ姫が応える。


「この頭の角は……」

「あっ待って!!」


レイリ姫の頭に、ちょこんと生えた二本の角に触れた時である。


「いてえ!」


ちょっと、ただけで指がぱっくり割れ、血がでた。


「もう、馬鹿ね兄さま、龍の角に気安く触るからよ、ちょっと貸して」


そう言いながら、レイリ姫は俺の血の出た指を口に含む。


「あっちょっと」


と言いかけたが、されるがままにした。


数十秒くらいだろうが、かなり長い時間に感じられ、そして少しドキドキした。

なんとなく、下着姿の、それもドラゴン風(実際ドラゴンなのだが)の美少女に指をくわえられてる、という状況がエロく感じられたからである。


ちゅぱっと口を離し、「もうこれで大丈夫」とレイリ姫は言う。


「え?」


と、指を見てみるとたしかに、先ほどあれほど深く切れた指が治っていた。

切り口さえ、どこかわからないほどきれいに、だ。


「これが龍の力よ」


とレイリ姫はにっと笑った。なんかかわいい。


「すげぇな……」

「はぁ~あ、興覚めしちゃった。今日はもう勘弁してあげる」


と言うとレイリ姫はさっさと龍スタイルを元に戻し、ベッドから降りる。

ごそごそと服を着始める、レイリの背中になんとなく、話かけてみる。


「なぁ、昼間見た空飛んでるやつ、あれも龍人なのか?」

「はぁ、何言ってるの?  兄さま。あれは竜よ、私たちとは全く違うわ」

「ん?  竜と君たちて何が違うの?」

「龍と竜よ」

「?」

「竜は龍神様が作られしもの。龍人は龍神様から生まれたものよ。わかった? 兄さま」

「さっぱりわからねぇ」

「ほんとばかね」


服を整えたレイリ姫がまた、ベッドで寝転んでいる俺のとこへ滲みより、耳元でささやいた。


「いいこと、兄さま。召喚前の会議では呼び出した異世界人の手足をもぎ、薬漬けにして、食べて排便して生殖するだけの存在にしてしまえばいい、といいう過激派もいたのよ、無事にいたければこれからの発言は十分に注意してね」

「まじか……」


その忠告にゾっとした。


「一番の落としどころは姉さまと婚姻して龍帝になって、私や貴族の娘たちを側室に娶るという、今の提案を受け入れることね。言われたと思うけど龍帝なんてお飾りで何もしなくていいのよ」


ひそひそとレイリ姫が耳元で続ける。


「う~~~~~~ん」

「よく考えて。それじゃあ、また明日ね」


と言って俺の頬にキスをして、レイリ姫は部屋を去っていった。

美少女にキスされても舞い上がるどころではなかった。

もう日も暗くなった部屋の中で少し考える。

自分は今かなり微妙な立場にいるらしい。

レイリ姫の言う通り、自分の態度一つで五体満足ではいられなくなるかもしれない。

思えばブラウ大陸の講釈の時、元乃一条先生が言いかけたことをレイラ姫が遮り、自分との婚姻についてまくし立ててきた。

多分、あの時、元乃一条先生はレイリ姫が言ったように自分は多数の女性とまじわり、子を作るために呼び出された、と言うつもりだったのであろう。


しかし、レイリ姫は何しに来たのだろう?


俺に裏事情を伝え、龍帝国側の条件を飲みやすくするためだろうか……?

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