第3話 ブラウ大陸についての講義

侍女が熱いお茶を俺たちの前に出してくれた。

彼女が出ていくか行かないかのタイミングで


「さて始めましょう」


眼鏡の端をくいっ、とあげて元乃一条教師は講義を始めた。


「今より約千五百年前 このブラウ大陸を統一した大帝国があり、人々は繁栄していました。

ある時、隣接する魔大陸より魔王軍が攻めてきて、大戦争が起こりました。

戦いは最初のうちは均衡していましたが、だんだん戦況も劣勢となった大帝国は挽回すべく……五百人の魔導士を集め、十名の勇者を異世界より召喚します。


異世界召喚儀式は困難を極め、時間もかかり、十名の勇者を召喚に成功した時には、大陸の六割を魔王軍に奪われていました。

しかし、十名の勇者の活躍により、反撃開始をすると、徐々に戦況も好転していきます。

各地に散らばっていた戦士たちも呼応し、魔王軍を大陸から追い出し、魔大陸まで攻め込み、ついには魔王軍と休戦協定を結び、三百年続いた戦争も終結します。


そして十名の勇者たちはその役目を終え、各地へと散りました。


一名の魔剣士は、魔王軍の姫と一緒になり、魔大陸に残り、統治しました。

これは姫の色香に惑わせられたとも、魔王軍の監視の為、あえて残ったとも言われますが、真相は定かではありません。


他の九名はこのブラウ大陸に戻りました。

二名の拳闘士と弓使いは結ばれ、大陸の北東に国を興しました。

これは魔王軍がもし、また攻めてきた時に一早く対応する為の組織作りをする為でしたが、そこに賛同し、またこの勇者夫婦を慕って多くの民が集まったため、だと言われています。


また二名の勇者と聖女はやはり夫婦となり、瓦礫と化した大帝国の帝都を復興すべく、尽力しました。

そしてやはり、彼らを慕う者たちの手により、大帝国の貴族も帝王もなくなった、その地に国を興し、その統治者となります。


そして一名の聖者は大陸で信仰されていた、教会と共に各地の被災者たちを救済して回りました。

そののち、彼を中心とした聖教国が大陸の南東にできます。

ちなみに我が国の国教は龍神様ですが、聖教国はじめ、他の地域では人神が信仰されており、この一点において我が国と聖教国は交流はありますが、あまり仲良くありません。


そして一名の狩人はエルフと夫婦となり、静かな生活を望み、大陸中央東の辺境へと移ます。

そして彼らを中心に一大農業国家が生まれました。


一名の女剣士は、海賊に悩まされた大陸南沿岸に乞われ、赴き、土地の権力者と夫婦となり、南に海洋国家を築きます。


一名の魔法使いは放浪の旅にでて、大陸各地を回ります。

しかしその後、その行方は誰も知りません。

一説には他の大陸に渡った、とも言われてます。

その後、大小さまざまな国が生まれては消え、統合されたりして現在の大陸を形作っていきます。


そして


勇者パーティーの最後の一名”龍の巫女 龍河れい”は勇者パーティーを助け、また自身のパートナーでもあった七大龍神の一柱、炎龍神と夫婦になり、二人の男女の子を成します。


それまでも他の龍神も含め、人と龍神が夫婦になった事はありましたが、子を成したことはありませんでした。

なので、この異世界より来た巫女と結ばれて、初めて龍神が子をなしたことはまさに奇跡と言えます。

このことは他の龍神たちにも驚きをもって知らせられた、と聞きます。


龍神と巫女は子らを大切に、愛情をたくさん注ぎ、育てました。

彼らは龍人たつびとと呼ばれ、この世界の新たなる亜人となりました。

男の龍人は人の娘を嫁に迎え、子を成します。また妹も人の子と夫婦になり、子を成しますが二人とも子が二名づつしか生まれませんでした。

これは龍神と巫女の間の子が二名だったためであると言われてます。


そこで男の龍人は龍人をさらに増やすため、三十人の側室を作り、それぞれ二名づつの子を作りました。

そののちも、現在まで龍人には、二名以上子をなすことはできませんでした。


これが龍帝国の始まりで私たちの祖先です。


男の龍人は大陸東に龍帝国を興し、最初の龍帝となります。

妹もこれをよく支えました。

彼らの母である、龍の巫女は龍帝国の国母となり、様々な知識を龍帝に与え、龍帝国は発展していったといいます。

子らの教育は母である、巫女の龍河れいが行ったので子や孫らは自然と、ニホン語を身に着けていきました。

現在も我が国は第一言語はニホン語で、第二言語が大陸共通語となってますが龍人は共通語を喋れるのは半数くらいの割合です。


そして初代龍帝は三百年の時を生き、その生涯を閉じました。


その後も我が国は順調に発展していきますが、しかし、問題もありました。

龍人は代を重ねるごとに、他の人種にはない、その異能の力が弱まっていったのです。


千二百年たった今では、初代龍帝のような偉大なる異能の力を使える者は、龍人の貴族社会でもごくわずかです。

龍帝国ではその強化を行うことが急務であると言えましょう」


カツカツと目の前の黒板に地図だの相関図だの書きながら、元ノ一条教師は一気に説明をする


長々と説明されたあと黙って聞いてた俺は聞いてみた。


「はあ、なるほど、そんで?  なんで俺が? 召喚されたわけ?」


俺の顔がよほどマヌケだったのか、それとも質問自体がよほどマヌケだったのか、横で一緒に説明を聞いていた皇女様は「はぁ~~~」と大きなため息をついた。


「つまり,また、より能力の高い龍人を生み出すためには、異世界の人が必要ってことなのです!」


続けて元乃一条先生が言う。


「つまりは国母さまと同じ異世界から来た、貴方にこの世界での子作りをしていただきたいのです」


そう言われ、俺は、呆けた表情で返す。


「誰と?」

「それは……」


と先生が言いかけて、龍一の目の前に勢いよく出て、レイラ姫が遮る。


「それは私とです!!」

「え? それは君と夫婦になるってこと?」


顔を赤らめながらレイラ姫が頷き、答える。


「まぁ、そうですね。夫婦です! 子は絶対二人は欲しいです!!」

「まじかよ……」


肩を落としてうつむく俺に、レイラ姫が不安そうにおずおずと尋ねる。


「私では……ご不満でしょうか?」

「いや、そういうことじゃなくて……ていうか君いくつ? そんでお姫様でしょ? そしたら俺の立場どうなっちゃうの? 無理だよ皇族なんて」

「私は今年十八です! 心身共に立派なレディーであると自負しておりますし、きちんと教育も受けております! そしてお立場ですが……私の夫となりますので、是非龍帝をついで頂きたいのですがっ!」


早口で姫様が勢いよくまくし立てる。


「だから無理だって……俺、普通の貧乏家庭育ちだし、サラリーマンだし。その、君のお父さん?  にもうちょっと皇帝?  やってもらって、龍人て長生きなんだろ? 子供ができて成人したらその、お父様と変わってもらうんじゃだめなのかな?」

「龍一様はお飾りで、何もしなくてもいいんです!  政治だの軍事だの経済だのは専門家にやらせておいて龍一様はふんぞり返っていらっしゃるだけで良いのです! お願いいたします!!」


いつの間にかレイラは佐藤様から龍一様と呼び方を変えていたが、俺は気づかなかった。

いや、それどころではなかったからな。


「う~~~~~ん……」


と腕を組み、悩む。


「龍一様……」


さらにたたみかけるように、しゃべりかけようとするレイラ姫を、元乃一条先生が制して助け舟を出してくれた。


「姫様、異世界人様も今日この地にいきなり飛ばされて、初めてのことばかりで戸惑い、お疲れのことでしょう。異世界人様には、本日はもうお休みななられて続きは明日にされたらいかがでしょう?」

「元乃一条先生……」


クイっと眼鏡を挙げて今度は俺に向かう。


「あなたも今日は色々大変だったことでしょう。少しお一人になり、冷静に考えてみて下さい。もう元の世界に帰ることはできないのです。そして、この国ではあなたのことを必要としています。生涯手厚く、身の周りのお世話もさせていただきます。よくよくお考え下さい」


元乃一条先生は冷静に俺に諭すように言う。


「そうですね先生。龍一様も申し訳ございませんでした。少し興奮してしまったようです。私もお父様のことは言えませんね。龍一様がくつろげる部屋をご用意させますのでそちらでどうぞお休みください」


しおしおと元気なく、レイラ姫が言う。

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