第7話 顔

「その銀髪ぎんぱつ超似合ってますね!てゆーかイケメン!」

ミモザカンパニーのデザイナー、相間そうま 香澄かすみは蓮司のアトリエでテンションが上がっていた。

「お、いい反応。やっぱそうだよね?」

蓮司がにこにこしながら言うと、相間はうんうんとうなずいた。

「スミレちゃんとかノーリアクションでさ〜自信無くしちゃった。」

「………」

菫は二人のやりとりをしらけた目で見ていた。

「あーまあ、うちって社長もイケメンだし?川井さんも美人だから、基準がおかしくなっちゃってるんですよね〜!」

相間はハハッと笑った。

「顔は仕事に関係ないから!!」

菫が会話を終了させた。

この日は菫が相間を連れて蓮司のアトリエを訪れ、実際のデザインイメージのラフを見せることになっていた。

「…で、こんな感じでモチーフをテキスタイル風にすることもできて、これはこれでオシャレなんじゃないかな〜って個人的には思うんですけど、やっぱり原画の雰囲気そのままの方がパワーがあるし今っぽいなーと思います。」

相間が会社でプリントしてきたラフを広げて見せた。

「へぇ〜テキスタイル風とか自分じゃ絶対やらないからおもしろいかも。ノートの裏面とかこれにしたらいいじゃん。」

「それ絶対かわいい!」

菫が興奮気味に言うと、蓮司はクスッと笑った。


「それにしても一澤さんすごいですよね。」

相間が言った。

「なにが?」

「相間調べですけど、絵の具で描く系のアーティストの人ってパソコンできない人が多いイメージです。でも一澤さんは撮影も補正も全部できちゃいますからね。勉強されてたんですか?」

「あー…学生の頃にちょっとね。」

蓮司は少し歯切れの悪い口振りで答えた。

「そっちの絵は新作ですか?」

相間が壁に立てかけられたキャンバスを指した。それは先日のスミレの絵だった。

「うん。これも使う?」

蓮司が言った。

「あ、その絵は…」

菫が口を開いた。

「え?」

「…この絵は今回は使わない方が良いと思います。」

「なんで?」

「…グレーの色が…少しだけ濁っているので…少し、一澤 蓮司らしくないです。」

蓮司は驚いた顔をした。

「でも素敵って言ったのは嘘じゃないです。ただ…なんとなく少し、本調子じゃない…みたいな…あ、あくまで素人の意見なので…」

菫は失礼なことを言ってしまった気がして慌ててフォローした。

「………」

蓮司は絵を見つめて黙ってしまった。

「失礼なこと言ってしまってすみません。」

「…いや、自分では全然気づかなかった。スミレちゃんすごいね。」

蓮司は絵を直すと言ってそのまま創作モードに入ってしまったので、二人は会社に戻ることにした。


「一澤さんってイケメンなんだね。メディアに顔出しすれば良いのにね。」

相間が言った。

「うーん…整った顔…とは思うけど。」

「もー!それがイケメンなんじゃん!あんな銀髪普通似合わないよ。スミレはやっぱ基準がおかしくなってるよー!」

相間は菫の一つ上で、二人だけのときは友達のような口調になる。

「基準かぁ…」

(社長の顔はかっこいいって思うけど…。)

菫は明石の顔を思い浮かべた。

「一澤 蓮司、絶対モテるねあれは。」

「うーん…」

「“学生の頃にちょっと”ってあの含みのある感じ、絶対女に教えてもらってるよ。そもそもあの作風も、女子の好みわかってるな〜って色合いだし。」

相間が推理するような口振りで言った。

「えー?そうかなぁ?」

「スミレは本当に鈍いなぁ…!ってゆーか、あんなに気に入られてるんだから、ちょっとは気にしなよ。一澤 蓮司と恋愛とかおもしろそうじゃん。」

「おもしろそうって…。ないない。契約で禁止になったし。揶揄からかわれてるだけだよ。」

菫は否定した。

「何言ってんの?禁止なんかじゃないよ。」

「え?」

「社長が言ってるのはあくまでも一方的なセクハラ、パワハラのたぐいを禁止するって話でしょ。スミレが好きになったら恋愛して良いんだよ。社長、たまに言ってるじゃん、仕事に支障がなければ恋愛は何でも自由って。だいたい社長の奥さんだって仕事で関わってるデザイナーだし。」

相間が熱弁を振るう。

「だとしても!無いから!香澄ちゃんはそういうことばっかり考えすぎ!」

菫が強く否定すると、相間はつまらなそうな表情かおで話を終えた。

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