第68話 圧力
アレックスとククリールと別れたヴァルサスは、一人酷いストレスを抱えながら授業を終えて、オウカ町を歩いていた。
貴族たる2人の間に、一般平民たるヴァルサスが入れないのは理解できるが、突然「お前は来てほしくない」と言われ、怒りが収まらない。
元々貴族と関わりたくなくて王子に絡んでいたのに、いつのまにか周りが貴族ばかりで本末転倒だとも思う。アレックスの派閥が解体され、絡む意味もなくなったことから、この辺りで終わらせるのもありだろうとも考えた時、ふと脇のハンバーガーショップが目に入った。
午後のこの時間は、小腹が空いた学生達や親子連れなどで賑わい、カウンターには列ができている。ヴァルサスは無意識に中を覗き電子通貨カードが使えるか確認していた。
箱入りの彼が行ける店はあるだろうかと、立ち寄る店舗は確認していて、いつの間にかそれが癖になっている。食べ物は厳しいとは聞くが、騎士といれば大丈夫らしく、新しい店にゆくたびに楽しそうにする彼の顔が浮かんでいた。
ハンバーガーショップでの電子通貨カードは、申請中と書かれており、まだ先になることがわかると、ヴァルサスは現金で3名分のセットを購入し王宮へと足を運んだ。
最悪、追い返されれば兄と食べればいいと思ったが、玄関へ顔を見せると叔父のモッコクがいて、簡単な身分証明だけをされて通してもらえた。
「ヴァルサスさん。ようこそ、殿下です?」
「はい、お見舞いに、これ差し入れ」
「ちょうど退屈されてたので喜ばれます」
「寝込んでないんですか?」
「普通の風邪なので、そこまでひどくないというか」
「会っていいんですね」
「ヴァルサスさんだし?」
「……」
ジンは相変わらずでヴァルサスは不安になってしまう。
「差し入れって食べ物ですか?」
「え、はい」
「俺も少し貰うけど構いません?」
「それ見越して3人分」
「マジ? 建て替え……」
「いいですいいです。差し入れなんで……気にするなら今度奢って下さい」
ジンは複雑な表情をしていた。
居室フロアには相変わらずセオがおり、今日はグランジもいる。差し入れがあると知ったセオはお茶を置いて、後で部屋へもってきてくれると言ってくれた。
「ヴァル……」
「元気そうじゃん」
広い自室へ入るとキリヤナギはバツ悪そうにベットに座っていた。少し機嫌が悪そうにも見えて、珍しいとも思ってしまう。
「聞いてよ。セオもジンもグランジも部屋から出してくれない、ひどい」
「風邪だろ。寝とけよ」
「もう治ったし」
「熱あったじゃないっすか」
ジンが困惑している。
子どものようだが、ヴァルサスも治りかけは同じ経験があってわからなくもなかった。
「ククにも先輩にも会えなかったし、また欠席が……」
「……あのさ、王子」
「? 何?」
「俺、一般なのにほぼ顔パスだったんだけど、怒られねぇの?」
「え、別に、なんで?」
「なんとなく?」
「もう僕のこと怒るの父さんと母さんぐらいだよ?」
「どんな基準だよ。俺は立場的な話してんだけど……」
立場と聞いてキリヤナギは少しだけ考える仕草をみせる。何を考えているのだろうと思ったが、返答は思いの外すぐに帰ってきた。
「僕が信頼してるからいいんじゃないかな?」
「なんだそれ、騙してたらどうすんだよ」
「それ以上はジンの仕事だし?」
「丸投げっすね……」
機嫌が悪そうに見えた表情は、普段通りの彼の顔へ戻りヴァルサスは先程の事がどうでも良くなって居た。ククリールの辛辣な言葉はいつものことなのに、アレックスにまで続けられ、少しつらかったのだと思う。
「俺、一般だしさ。本来なら関われないわけじゃん。だから時々思うんだよ。こういうのよくないんじゃないかとかさ」
「僕は嬉しいんだけど、みんながみんな良いとは思わないのはそうかも、色んな人がいるし」
「そうだよな……」
「でも、それで言いなりになっても誰も幸せにならないから、結局自分がどうしたいかじゃないかなぁ」
「幸せ?」
「だって、僕からしたら『余計なお世話』だし……」
「殿下、直球すね」
「誰かはその人の為を思って『お世話』してくれるのかもしれないけどさ、『お世話』される側が嬉しくない『お世話』されても困るよ?」
「そ、そうだけどさ……」
「でも僕、ヴァルの『お世話』なら安心できて、タチバナ軍も休んだし、今日も早退もしたし、お陰でうまくいったから間違いないなって」
「……」
「きてくれてありがとう。何かあったなら聞かせてよ」
少しだけ泣きそうになっている彼に、キリヤナギは意表をつかれていた。
ヴァルサスが、先程の経緯を話そうとすると、入り口からセオがワゴンとともに現れ、ジンとヴァルサスが絶句する。
そこには、皿の上へ綺麗に等分に切られ、盛り付けられたハンバーガーがあり思わず言葉に迷ってしまった。
「これサンドイッチ?」
「ハンバーガーって言ってさ……」
「セオ、何で切ってんの……?」
「え、何かまずかった??」
セオは「ハンバーガーはそのまま食べるもの」だと言われ、さらに衝撃をうけていた。彼にとって食事は、作る事が当たり前で、誘われない限り外食もすることもほぼなく縁がなかったのだ。
「も、申し訳ございません、ヴァルサスさん……」
「い、いえ、気にしないで下さい」
「これ挟んであるのハンバーグだよね? ナイフとフォーク?」
「そっからか……??」
冷静になるとハンバーガーショップも、このオウカへ出店して10年も経っては居ない為、貴族にはまだまだ縁のない店なのだろう。
ヴァルサスは包み紙をもち、かぶり付くキリヤナギが少し見たかったが、ジンのお手本をみて嬉しそうする彼へ安心もしていた。
「ジンさんは知ってるんすね」
「俺、騎士貴族ですけど、どっちかっていうとヴァルサスさんと同じ一般寄りなんで」
「ジンもよく行くの?」
「時々? アークヴィーチェにいた時に、カナトにお使いさせられてましたね」
「お、お使い?」
「カナト、このジャンキーな感じが好きみたいで……」
「へぇー」
騎士がお使いとはどう言う事だろうと、ヴァルサスは言及するか酷く迷っていた。
初めて食べるそれに王子はとても楽しそうで、ヴァルサスの気持ちも晴れてゆく。嫌味もなくこちらの好意を最大限に受け取ってくれる王子に、少なからずヴァルサスも救われていた。
「クク、ちょっとひどいね。僕ならまだしも、ヴァルにまでそんな事言うなんて……」
「擁護しねぇの?」
「僕は仕方がないところあるけど、ヴァルは関係ないし?」
「仕方ない?」
「嫌われてるから?」
「最近そう言う気配なくね?」
「かな? でも優しくされると逆に不安になるから、怖くて……」
「どんな感覚だよ」
言葉にできず「うーん」と考え込む王子にヴァルサスは呆れて居た。しかし、彼女に想いを寄せるキリヤナギが、彼女の味方をしないのも意外で真意を聴きたくなってしまう。
「てっきり、姫に着くと思ってたのに意外だわ」
「そかな? でも貴族の言葉って重くて、その言葉一つで人の人生変えちゃったりするし、気をつけないとなんだよね。今は学生だから気にしなくていいんだろうけど……」
人生を変えると言われ、思わず息が詰まるものを感じる。たしかに俗に言う領主や王の言葉は、逆らうことが許されず命令権として行使されるからだ。
当然、本人の意図を汲み取らなければならないが、乱用されればどうなるか分からない。
「ヴァルが一般だってわかってるのに、あえてそう言うのは心がないなって……」
「王子が言うか……?」
「それこそ、ヴァルのいう立場の話?」
気を使えたはずだと、王子は話している。彼が言うのもピンとこないが、ククリールがキリヤナギに対して発する言葉と、ヴァルサスに対して言葉では、かかる「言葉の重さ」に違いがあり、それは立場に差があればあるほどそれは重く重要になってゆく。
ククリールがキリヤナギへ命令してもキリヤナギは従う必要はないが、ヴァルサスに向けられれば、逆らう事は許されない。
今はお互いに「学生」であり、校則にも権力的立場においての命令は「学生」である限り効力はないとされているが、自身の立場を理解した上であえて貴族として振る舞うのは一般学生への圧力にも等しく、かつてアレックスがやって居たことと同じだからだ。
しかし、散々辛辣な言葉を受けているのに、今更何を気にしているのだろうとも思えてきて情け無くも感じる。
「言葉って、その時の心持ちで思いも寄らないところで傷ついたりするから、難しいよね」
「別に傷ついてねーし、久しぶりに貴族にムカついただけだよ」
「ほんと??」
「そうだよ!」
不安そうに覗き込むキリヤナギに、ヴァルサスはそっぽを向いている。ジンはそんな様子を見て、毒味を終えたものをキリヤナギの前へ配膳していた。
「なんかもういいや。思い返したらいつもの事だし……」
「付き合わせてるの、多分僕の所為だからヴァルは無理しないでね……」
「いつも思うけど、本当姫のどこがいいんだよ……」
「僕は、自分を客観視させてくれるところかなぁ……貴族の世界ってククみたいな人。本当に居なくて、嬉しいんだよね」
「なかなか居ないって、逆にどんな人が多いんだ?」
「僕が王子だからだろうけど、女の人なら、喜ばせてくれる人とか、なんでも言うことを聞いてくれる人とか、僕の為を思ってアドバイスくれる人とかかな……、でもそう言う人にはだいたい利権があって、将来公爵になりたいとか、兄弟を近衛兵として抜粋してほしいとか、そんな希望をもってみんな優しくしてくれるけど、僕はそれに答えられないから……」
「……」
「優しくしてもらえたら、何か返さないとって思って面倒だなって….…」
「へぇー」
「ククは真逆だったからさ。利権が何も無いのは僕からしたら気楽で、素直に色々話せるのがありがたいなって」
「……」
「ヴァル?」
「王子ってそんな色々考えてたのか……」
「え"っ」
「殿下、やっぱり誤解されてんすね」
ジンの一言は余計だと、キリヤナギは怒っていた。切られたハンバーガーも味は変わらずセオも給仕をしながら二人の談笑を楽しんでいる。
「と言うか、やっぱり付き合いたいんだよな、それ」
「え、うん。一応……? このままでもいいかなって思ってだけど……」
「今なら普通にオッケーされそうじゃね?」
「そうかな……?」
「何かあるのか?」
「色々……、一度振られたから自信なくて……友達のままの方がいいのかなとか」
「どんな振られ方したんだよ」
言葉に渋るキリヤナギにヴァルサスは首を傾げて居た。ジンはいつのまにか入り口で警備兵として立ち、セオも給仕で控えている。
「付き合えたらいいなぁ……。でも、ククにも幸せになってほしいから、僕はそう言う国にする努力をした方がいいのかも」
「悟ってんな……、つーか、せっかくいい風吹いてんだから諦めんなよ……」
「……そうかな? ヴァルがそう言ってくれるなら、また頃合いをみて伝えてみるよ」
「おう、こう見えて応援してるし」
「ありがと」
そこからは2人でゲームをしたり、他愛のない世間話を延々としていた。そして日も暮れる頃合いにヴァルサスは騎士・アゼリアと帰宅してゆき、キリヤナギも夕食の席へと向かう。
付き添いはグランジに任せ、ジンは束の間の休憩時間だが、先程のヴァルサスとのやりとりを聞いてジンは少し複雑な感情を得て居た。
「カレンデュラの件、殿下気づいてる?」
「気づいてるね……」
他の6人の公爵家達の間で、カレンデュラ公爵家を公爵より侯爵へと降格すべきでは無いかと言う話が出ている。
それは、かのカレンデュラ公爵家は家長が、王子の誕生祭にも姿も見せず、連絡も事務的なものばかりで、王はもう数年間まともに会話もできて居ないからだ。
それもここ数年で何度も不法入国を許し、かつガーデニアの技術支援がありながらも首都への移動を許していることから、その指揮力も問題視もされつつある。
もともと侵入されやすい土地でもあり、ある程度は仕方ないとはされてはいたが、敵を追いきれずにいる事はやはり領主としてあるまじき事だとも言えるからだ。
「どっから漏れたんだろ」
「勘じゃない?」
「マジ?」
「それとも夏? 会いにきてくれた御曹司や令嬢に色々言われたんじゃないかな? カレンデュラはやめとけ、みたいな」
「『余計なお世話』すぎる……」
「『学生』の時ぐらい、ほっといてくれてもいいのにね……」
セオとジンからすれば、『学生』である時ぐらい何者にもしばられず、好きに恋愛をして、自由を謳歌してほしいと願っているが、周りからすればそれは危うくどうしても国の将来を考えてしまうのだろう。
王族から距離を置く公爵は、もはや他の貴族から信頼を失い、それを許す事はできないと、皆が皆、口を揃えて王子へ釘を指しにくる。
一般ならそれを押し切る事はできるが、キリヤナギは王子であり、それは『祝福』されなければならない。
「婚約できる?」
「厳しいんじゃないかなぁ、側室ならありだけど、シダレ陛下が望まれなかったからね……、陛下が求めなかったのに王子が求めるのも違うし?」
「シダレ陛下って一途?」
「一途と言うか、学生時代にご兄弟亡くされて心を閉ざされちゃったんだよ。ヒイラギ王妃殿下が唯一の安息で、キリヤナギ殿下が男子だったのが本当奇跡……」
「兄弟は……?」
「殿下生まれて数年後からちょくちょく喧嘩が増えて、何もしないまま今まで……」
「それ、聞いてたけど何があったかしらねぇの?」
「これは本当、使用人の間でも誰も知らないんだよ。でもその頃から過干渉も悪化して、結果的に殿下病んじゃうし……もう……」
正当な後継者は、キリヤナギしかいない。
1人しか居ないが故に、周りは常に最善を求め、期待し、それを王子へと押し付けてくる。キリヤナギは、それに応える為に努力を惜しまず、耐えつづけ、自分を殺して潰された。
今は結果的に理想の王子となり、過去にあった風当たりもほぼ無くなったが、ククリールと関わる事で再度それが起こっていることに呆れ、言葉が浮かばなかった。
しかしジンは、これは「正解」なのではないかと考察する。
ククリールへ好意をよせるキリヤナギが、「ジンが好きだった王子」にもどる足掛かりとなるなら、それは応援すべきであり、あるべき形だとも思うからだ。
「ジンはどうなって欲しい?」
「俺は、殿下が幸せならいいかな」
「建前に聞こえるけど……」
「なんで……?」
「ジンって気遣いができる自己中だし?」
「ひどくね??」
しかし正しくも思い、言い返せなかった。確かにキリヤナギ以外には全く興味が湧かず、セオには彼のことばかり聞いてしまう。セオやグランジは知りたいとすら思った事がないのはやはり答えなのだろう。
彼はそれを察しているのか、何の疑いもなくこうして付き合ってくれる。
「これが殿下じゃなくて、本当自分中心なら友達になれて無さそうなのに、ジンは殿下が全てだから全部許せる不思議」
「ちょ、直球……」
「ま、そこが信頼できるんだけどね」
一周回って許されている。
確かに社交的であるなら、今頃アークヴィーチェにも送られず、出世街道にも乗って騎士長にも推薦されていたのだろうが、ジンはそんなものに興味はなかった。
キリヤナギの近衛兵として、キリヤナギに許されている今が、まるで型にピッタリ嵌るような心地よさを得ている。
「確かに俺、前の殿下のが好きだし……」
「それ本音?」
「本音」
「ふーん?」
「何……」
「前言撤回しようかな……」
「え"……」
焦るジンにセオは笑っていた。
彼もまた、信頼を失うことに不安を持っていることがわかり、無関心というわけでは無いと理解もできたからだ。
「殿下が好きなら、殿下がどうしたら生きやすいか考えてもいいんじゃない?」
「周りが変わればいいだろ?」
「それが自己中なの!!」
理解はできるが、実行はしたく無いと思ってしまう。たしかにこの性分のセオがずっと側に居れば、キリヤナギのあの性格も納得ができた。
反論をしたいとセオの言葉にどう返すか考えていると、夕食にでていたキリヤナギが、早い時間に戻ってきて驚いてしまう。顔が赤く、少しぼーっとした表情に2人は察した。
「殿下、調子悪い?」
「眠い……」
「今日は早めに休んだ方がいいと返された」
「お熱計りますね。お部屋へ」
手を引かれるまま、キリヤナギはセオと自室へ消えていった。
そんなキリヤナギが休む頃、ククリールは一人、ベッド上で膝を抱えて居た。昼間の告白が頭から離れず、ずっと考えていたらいつの間にか日が暮れて真っ暗になっている。
少しだけ我に帰ってあかりをつけると、昼間激怒していたヴァルサスが頭によぎり、少しだけ罪悪感が芽生えて居た。
貴族同士の対話へ一般の彼がいるのは気を遣わせると思い出た言葉だったが、立場の差など彼が一番理解していることでもあり、言い過ぎたのだろうと思う。
少しだけ悩んだが、ククリールは重い腰を上げ個人通信をヴァルサスへと飛ばした。
@
そんなヴァルサスは、帰り道に買った漫画雑誌を読んでいた。
昼間のストレスはどうでも良くなり、明日もまた普段通り過ごせるだろうと思っていたら、枕元の通信デバイスに着信が入り、ククリールのものからで驚いてしまう。迷わずでるとそれは彼女らしく「ご機嫌よう」から始まった。
『アゼリアさんのデバイスで間違いないかしら?』
「お、おう。そうだけど……」
『昼間はごめんなさい。貴方に気を使わせたくなかったの、きっと入れない話をしてしまいそうだったから……』
「……姫」
『「貴族」としての立場的な深い意味は無くて……貴方を締め出す意味ではなかったの……繰り返しになるけど、ごめんなさい。以後気をつけます』
想定外の反省の言葉に、ヴァルサスはしばらく反応ができなかった。どう返せばいいか分からなかったが、その言葉を聞きながら、ヴァルサスは王子の言葉を思いだす。
キリヤナギは、ククリールの素直な言動が好きだと話して居たのだ。
ヴァルサスには気を使うべきと話し、本末転倒だとも思ったが、社交辞令という相手を喜ばせる「嘘』の方が面倒だとも思え、嘘をつかれるぐらいならそのままの方がいいとも思う。
『それでは、本日はこれで……』
「姫、いいぜ、そのままで」
『え……』
「俺ら『学生』だろ? そんなん気にすんな」
『でも、怒ってらしたから……』
「俺も兄貴が感染症になって気が立ってたんだよ。せっかく『学生』なのに、いちいち立場気にする方が面倒じゃん」
『……』
「昼間の態度が気楽ならそれでいいんじゃね」
『それは……』
「ちゃんと謝れる奴ってわかって安心した。それわかってくれてんなら、俺は文句ねぇよ」
『……』
「また明日話そうぜ」
『アゼリアさん……。ありがとう、また学校で』
「おう、おつかれさん」
ヴァルサスは通信を切り、ほっとして居た。
ククリールは、赦されたはずなのに何故か胸が締め付けられる思いを感じて居た。
@
「殿下、マジでいくんすか?」
「いく。今日生徒会で、文化祭の初会議」
朝、熱が下がったキリヤナギだが、午前は様子見るべきと念を押され、午後から登校の準備をしていた。
昼食を終えて意気込むの彼にセオも呆れて、ジンも心配が隠せない。
「また熱でるかもしれないのに……」
「もう大丈夫!」
「昨日そう言ってダメだったじゃないっすか」
「ジン、こっち戻ってから五月蝿くなったよね?」
「殿下がこんな危なっかしいなんて知らなかったんすよ」
「今更過ぎない??」
セオの突っ込みもうるさいが、キリヤナギは無視して自室を出てゆく。追いかけてゆく様子を、グランジとセオに見送られ、二人は王宮の通用口から外出した。
「生徒会って何時までです?」
「嘘、生徒会は来週」
「はーー??」
「だって休んだら部屋から出してくれないし」
「そもそも病気なのに……」
「もう元気だよ?」
「……」
何も言えず、頭を抱えるジンをキリヤナギは楽しそうに見て居た。不敵なその笑みにジンは呆れながらも察してしまう。
「生徒会終わる頃に迎えに行けばいいです?」
「うん、ありがとう」
今日もまたジンは共犯だ。
しかしこれは、今に始まったことではなく昔からのことでもある。
「調子わるくなったら連絡してくださいね」
「それはちゃんとする」
駆け足でキリヤナギは学院へと急ぐ。
セオやグランジにすら明かされないキリヤナギの嘘を明かされ、ジンは少しだけ嬉しかった。
それこそ数年前、一緒にこのクランリリー領を走り回っていたことを思い出し何故か笑みすら溢れてしまう。
「じゃあまたあとでね」
「お気をつけて」
ジンは、学院の騎士と挨拶を交わし今日も登校してゆく彼を見送った。
学院で普段通り合流した3人は、復帰してきた王子を迎え、普段通りの日常を過ごす。
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