外伝:ゲームを買いに行こう!(後編)

「明日も公園みたいだし、今度はスイッチいれないと……」

「明日も……? 明日はグランジが目の定期検診だから、同行できなさそうだけど」

「全然気にしないって、大事だし」


 グランジは生まれつき片目が見えない。原因は知らされてはいないが、ハンデがある中で、受け入れてくれる皆に感謝していると話されていた。

 ジンからすればそんなハンデがあるのに互角に戦える彼が化け物に見え尊敬している。

 その後は戻ってきたキリヤナギと少しだけゲームで遊び、明日の出かける時間を決めて休む。

 楽しみにして居たのか、早めに起きてきたキリヤナギは、昨日よりも動きやすそうな洋装でジンと二人で公園へと向かった。しかし、そこには子供達はおらず仕方なく二人で待っていると、ショウが1人だけ現れて駆け寄ってくる。


「キリ、ユイきてない?」

「ユイちゃん? 見てないけど……」

「家に呼びに行ったけど、家の人にもうここに行ったって言われて……」


 公園を見渡すと、確かに母親らしき女性が声を上げて探している。ジンもキリヤナギも協力し広い公園を隅から隅まで探すが、トイレや物陰にもおらず、嫌な予感が湧いてくる。


「ジン、自動車は?」

「さっき見てきたんですが、今日は止まってなかったです。騎士団もまだ対応はしてないって」


 キリヤナギが確認したいと自動車の停車場所を見にゆく。

 そこには何も止まっておらず、手掛かりがないか見回していると、茂みの中に光を反射する何かを見つけ思わず拾い上げた。

 それは子供用の宝石を模したおもちゃで、汚れても居らずそこまで時間がたったようには見えない。すぐにユイの母親へ見覚えが無いか尋ねると、彼女は絶句して震えていた。


「ユイの、ものです。一番綺麗だから、王子さまにあげると……さっき……」


 キリヤナギは言葉を失い、息が詰まる思いだった。自動車の付近に落ちて居たなら、あの車の持ち主に連れ去られた可能性が十分にある。


「もう少し、探します。僕にできることをやりたい」


 母親の彼女は、キリヤナギの手を両手に持ち泣き崩れてしまった。

 ジンはクランリリー騎士団へと事情を説明し、捜索の応援と付近のカメラの調査を依頼する。


「自動車なら、駐車場かな……」

「止まっててくれたら良いんですけどね……」


 自動車なら最悪どこまでも走って行けるからだ。僅かな希望にかけ、二人は付近の駐車場から住宅街を一通り周り、大通りすらも探すが見当たらない。

 道中で、捜索の応援にきた騎士団員への対応はジンへ任せ、キリヤナギは一般平民を装ってやり過ごした。


「なんで隠れるんすか?」

「ショウ君とかにバレるのやだし」


 もうバレているとジンは思うが、今はそれどころではなかった。気を取り直し、駐車場は諦め、自動車が隠せそうな場所を探す。

 住宅街の空き地や、路地裏など地図に隠れそうな場所を一つ一つ回るが、やはり見つからない。

 お昼も忘れて走り回り、キリヤナギはいつの間にかヘトヘトになって居た。


「大丈夫すか?」


 付近の小売店で軽いおにぎりを買ってくれたジンは、飲料と一緒にそれをキリヤナギへ渡した。味付けが凝られていてとても美味しいおにぎりだが、手元のおもちゃを見ると「どうしているのだろう」という心配が尽きない。


「騎士団が、明日には周辺のカメラから洗い出しを行うみたいです。首都からでれば最悪どっちに逃げたかはわかるって」

「そっか……。お腹空かせてないといいけど……」


 騎士団から未だ見つかった報告は来ないばかりか、キリヤナギの門限も後1時間ほどに迫っていた。見つかるだろうかと一人深刻な表情をみせるキリヤナギに、ジンは一度距離をとって深呼吸をする。

 そろそろ戻らなければならないと前を向くと、小売店の隣は倉庫のような建物がビルに併設され建てられていることがわかった。

 ビルの脇にはいり、奥に駐車場があるそこは、おそらく搬入施設だろう。

 しかし、ここの前の店は数週間前に閉店して自動車などあるわけがないのに一台だけ普通車が泊まっている。

 ジンはキリヤナギと共に、できるだけ音を立てぬよう紛れ込み、その隠された自動車を確認した。すると昨日確認した識別番号は一致して居て二人は腹を括る。

 倉庫の周辺を歩き、窓から中を確認すると最低限の灯りで何かをする人間達がいた。


「殿下。見ててもらえません?」

「今その話??」

「危険ですって……」


「誰だ!?」


 気づかれてしまった。


「僕は裏からまわるね」


 キリヤナギはそう言って、武器を背負って裏手に走ってしまった。ジンは逃げるフリをして正面へと回り込みその場にいた全然の視線を集める。


「宮廷騎士団。特殊親衛隊所属のジン・タチバナです。こちらで何をされていましたか?」

「一人か??」

「いや、話し声が……」


 ジンはデバイスをちらつかせ、その声は応援のもので合ったと誘導する。相手は疑いながらも、騎士であることに一旦は落ち着いたようだった。


「こちらの管理者殿は……?」

「私だが」

「何をされていましたか?」

「ちょっとした同窓会だよ。彼らは私の後輩なんだ」

「詳しくお伺いしてもいいです?」

「かまわんよ。では事務所へ案内するので、こちらへ」


 ジンが倉庫へ一歩足を踏み入れた直後。入り口の死角にいた二人の男が飛びかかり、ジンは腰を落として回避。

 殴りかかってきた相手を腕をずらし、もう一人の足を引っ掛けた。

 掴んだ腕を離さず一言だけ放つ。


「業務妨害!」


 したから腹を蹴り上げ、起き上がってきたもう一人をぶつけてのしてゆく。そんな乱闘が始まる前、キリヤナギは人気のない窓を見つけ、武器を使い小声で謝りつつガラスを割る。鍵の部分を回してそっと中を確認すると、敵は正面のジンに気を取られているのか気配がない。

 音を立てぬよう侵入した場所は、事務室だった。見つからぬよう外に出て子供が居ないかをさがす、事務室、会議室の探して見当たらず奥の部屋に鍵がかかって居て、キリヤナギは難儀であるとすら思う。

 試しに小さくノックをしてみるが、何も帰ってこない。しかしもう一度叩くと、同じように音がかえってきて、救われた思いだった。


「ユイちゃん?」

「え、」

「キリさん?」


 違う声が返ってきてキリヤナギへ衝撃が走る。一人ではないことに言葉が出ず放置はできないと意思を固めた。


「鍵がかかってる。そっちから開けれるかな?」


 ユイなのかは分からないが、鍵の回る音が聞こえ、閉められた扉はあっけなく開いた。

 キリヤナギの顔を見たユイは、思わず飛びついてくるが今はそれどころではない。


「おい! 誰だ!」


 ジンから逃れようとした相手だと察して、キリヤナギはユイを放して向き合う。

室内の灯りは暗く、おそらく顔はちゃんと確認できてないのだろう。


「子供を助けにきた。このまま投降するなら何もしない」

「正義気取りか、そうは行くか!」


 殴りにくる敵は、後ろにはユイがいて流せないと思いキリヤナギの動きは決まる。

 キリヤナギは腰を落として、踏み込んでくる相手の拳を交わし、鞘の先端をみぞおちへぶち込んだ。敵は唐突な打撃に悲鳴すらあげず失神し、仰向けになって倒れる。

 走ってくる足音が聞こえ、武器を盾にして待機するが、現れたのはジンだった。


「殿下、大丈夫すか!?」

「ジン。僕は平気、ユイちゃんも」

「よかった……と言うか、もう騎士団そこまできてるんで、小売店のとこで待ってて下さい! セオ呼んだんで!!」


 焦っている。

 確かに、キリヤナギがここに居ては色々とまずい。

 空気を察したのか、ユイはキリヤナギをじっと見上げて少し寂しそうに口を開いた。


「キリさん、帰っちゃう?」

「……うん、僕が居たことは内緒にしてくれる?」

「え、うん」

「あとこれ、落としてたよ」


 宝石のおもちゃを差し出すとユイは顔を真っ赤にして、思わず両手で突き返してしまう。


「あ、あげる」

「え、いいの?」

「王子様に、似合いそうだから、渡して、下さい」

「……! わかった。ありがとうって伝えとくね」


 ユイはそこから、目を合わせてくれなかった。その後キリヤナギは侵入した窓から、騎士団に見つからないよう小売店の脇で待ち、押し寄せてくる騎士団の自動車を観察する。

 15分ほど待っていると外出用の装束を纏うセオが現れ、配車してくれたセシルも迎えにきてくれた。


「殿下、お疲れ様です」

「た、ただいま」

「大変でしたね、たまたま、ジンと買い物にきていたら、たまたま、近くで誘拐現場へ遭遇し、一刻を争う可能性があることから、ジンが解決へ乗り出したと」

「う、うん」


 セシルが必死に笑いを堪えている。


「ゲームは買えましたか?」

「う、売り切れでさぁ……」

「そうでしたか、とても残念ですね!」


 セオが激怒して居てキリヤナギはもはや何もいえなかった。


「いやはや、ジンはこちらに戻ってからめまぐるしい活躍ですね。流石殿下の近衛兵と言えるでしょう」

「セシル……」

「ともかく、今回もご無事で何よりです」


 セシルの言葉に安堵するが、その後セオは終始機嫌が悪く、謝るまでなかなか許してはくれなかった。

 しかしそれでも、ユイは救出され他に誘拐されて居た子供達も、皆自宅へ帰ることができてほっとする。


 

「キリじゃん!」


 次の日もキリヤナギは公園にきていた。私服のグランジとジンは、今日は業務として一緒にいる。


「ユイ、見つかったんだ! でも今日は大事取ってこないって」

「そっか、よかった。僕は遅くなって帰ったけど、見つかって安心したよ」


 ショウはきょとんとして居た。笑みを崩さないキリヤナギに彼は素朴に問う。


「やっぱ、『王子』じゃないよなぁ」

「え"っ」

「ユイは『王子』様に助けてもらったって、内緒で教えてくれたし」

「そ、そうなんだ?」

「かあちゃんも次見かけたら呼べって言うけど、偽物ならいいや。一昨日の続きやろうぜ」


 偽物と言うのもなんなのだろうとキリヤナギとジンは困惑していた。

 一昨日につかなかった決着をつける為、3人は果敢にもキリヤナギへと向かってゆく。彼は相変わらず、同点を維持して子供と遊んでいた。

 ゲームは結局手に入らなかったが、代わりにかけがえの無い宝石が手に入ったと、それはその日から、キリヤナギの勉強机にかざられる。

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