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第65話 結果発表
予定時間より早く始まった表彰式は、多くの人が集まり、誰もがその結果に驚いていた。
一位の「タチバナ軍」の赤チームは、フラッグを3本とり鉢巻を90本確保し、残り20名の生徒が残る。
二位が「無能力」の黄チームでフラッグ一本に鉢巻70本で生徒が10名。
三位の「王の力」の青チームは、フラッグ一本と鉢巻60本、15名ほど残った内訳だった。
青チームは初手からフラッグを多く確保した事で数を維持する為、長く防衛に走り鉢巻が増えることはなく奪いきれなかったと囁かれる。
キリヤナギを胴上げしようと言う流れに本人は遠慮して何故かアレックスが胴上げされてしまい、全国メディア彼らは困惑していた。しかし見に来ていた来賓や警備騎士たちも拍手をしてくれて、大学には日が暮れるまで賑やかな空気で彩られる。
そして、生徒たちは後片付けの後、特別に手配された学院の打ち上げへと招待された。
優勝チームにはその年のシンボルカラーの勲章が配られ、キリヤナギは本格的なそれに目を輝かせる。
「すごーい! かっこいい!」
「王子は普段からつけてんじゃん」
「騎士勲章の時以来だから嬉しい!」
「これは文化祭だと映えるからな。私も入手できて嬉しい限りだ」
「文化祭で使うんだ?」
「社交ダンスなどで相手に困らなくなるぞ、会話も弾むからな」
「あんな彼女持ちアピールなんてどうでもいいぜ」
やさぐれた言動を話すヴァルサスだったが、何度も勲章を眺めていてキリヤナギも嬉しくなる。
振舞われている夕食は、ジンが人数分よそって持ってきてくれて、まるでお祭りのように盛り上がっていた。
「ジン、セオとかみんなは?」
「セオは、家族枠なので先に戻りました。俺とセスナさんと隊長は参加してたんで警備がてらうろうろしてますよ」
「そっか、ジンも参加してくれてありがとう」
「それなりに楽しめました、誘ってくれてありがとうございます」
「ジンさんは戦ったんですか?」
「黄色チーム? 名前は聞けなかったんですけど」
「ルーカスか、無謀なことをしたな」
「鉢巻あげましたけどね」
「へぇ、強かったんだ!」
「頑張ってくれたので」
キリヤナギは感心しているが、肯定はしていない言動にアレックスが意味深な表情で睨んでいた。
「僕はセシルのをもらったけど、セスナは誰にあげたんだろ」
「内訳で計算すると330になるはずの鉢巻が320しかない。渡さなかった可能性もあるな」
「そんな事もあるんだ」
「乱戦で紛失した可能性もあるが、気にする問題でもない。去年の思えば想像以上に盛り上がった。これなら来年もまた開催出来るだろう」
「先輩ありがとう。楽しかった」
「こちらも光栄だった、来年も組めればと思う」
「おいおい俺は?」
「ヴァルも取り返せたのすごかったよ。引きつけるだけでよかったのに」
「負けっぱなしでいられるかよ。騎士アゼリアは転んでもタダでは起きないぜ!」
「タダ?」
「失敗しても、功績は残すと言う意味だ」
ジンもまた同じテーブル席へ座って、一緒に夕食を済ませていた。
試合の流れを3人で振り返っていたら、「タチバナ軍」の彼らだけでなく、黄チームや青チームの彼らまで感想を言いにきてくれて、生徒会を踏まえ頑張ってよかったと優越感に浸る。
時間は遅くなっていき、二回生以上の生徒は運ばれてくるお酒を楽しみ、さらに賑やかになって言った。
キリヤナギはお酒が苦手で、遠慮しながら雰囲気を楽しんでいると人混みからグラスを持った男性がこちらへと歩いてきて、ジンが「あ」と声をあげる。
「近衛騎士とは、本当だったのですね」
「こんばんは、ありがとうございました」
「ルーカス先輩……」
彼はしばらく黙りながらも、キリヤナギと向き合い。グラスに入っていた酒を一気に流し込む。そして大きく息をついて述べた。
「言いたい事があるだろう」
「え、うん……。ファンクラブやめて欲しくて、ククが嫌がってるから」
「ふん、アゼリアには負けたが、王子に負けた覚えはない」
「えぇ……」
「往生際がわるいぞ」
「最低かよ。どう言えば分かるんだ?」
「だが、全てを理解していないとも言っていない。確かにアゼリア卿と王子がいうように、好きな人が嫌がっている事はやるべきではないとはおもうからだ」
皆が意表をつかれ返事に戸惑ってしまう。ルーカスの言動は、まるでこちらの要求を受け入れるようだからだ。
「しかし、個人的にククリール姫は応援したいので、改名という形なら受け入れよう」
「改名?」
「ファンクラブとして集まった我々は、すでに一つのコミュニティとなっている。よって今更解散はしたくはない。ここはファンクラブとしての活動を停止し、名前を変えて運用したいとおもっているが」
「……それなら、大丈夫だと思う」
「妥協案だな。確かに『無能力』チームとして集っていたあの人数なら、解体も簡単には出来ないだろう」
「マグノリア卿は理解が早くて助かる」
「そうなんだ?」
「解体して欲しくないと言われれば、説得する必要もあるからな」
なるほどと、キリヤナギは感心した。たしかに誰も解散したくないのに、解体するのは、反発も生まれるからだ。
「その新しい派閥の名に、王子の名を使わせてもらえれば、ありがたい」
「僕? いいけど」
「王子いいのか? それ危険だぞ?」
「え、でも、減るものじゃないし」
「誤解は生まないようにな、ルーカス」
「マグノリア卿の心配には及ばない。こう見えて、私は貴殿の考えに賛同していたものだ。迷惑はかけん」
「光栄だな。だが私はもう王子の部下に過ぎない」
「残念だ。この学校はそこの王子が思うほど、平和でもなければ、健全でもない。マグノリア卿はそこへと目を向けながら、我々一般のことを誰よりも考えていたのは理解している」
「嬉しいが、私は急ぎすぎたと反省しているよ。できることなどしれているだろうが、相談なら聞こう」
「ありがたい」
「なんだお前ら仲良いのか?」
「ルーカスは私の支持者だったと言うだけの話だ」
アレックスは目を合わせず、飲み物を煽っている。キリヤナギは立ち尽くすルーカスへ言葉に迷いながらも口を開いた。
「困ってるなら僕も何か……」
「思いつきで秩序を破壊した奴に誰が相談すると?」
「え"、ごめんなさい……」
「王子は謝るな!」
怒られてしまった。
握手しようとしたら、ルーカスは手を払って帰ってしまい、初めて嫌われていた理由を理解する。
何も知らなかったことに後悔をしながらも、責任は取らなければならないとキリヤナギはもう一度反省した。
楽しい曲も流される飲み会は、三回生の進行でカラオケ大会が始まったり、モニターには「体育大会」を上空から撮影された様子も映っている。
もうしばらく楽しみたいと眺めていると大勢の人の中から現れた女性がいた。
「シルフィ……!」
「王子、少し良いですか?」
キリヤナギは席を立って、彼女と少しだけ歩く事にした。この「体育大会」で連勝していたツバサは、今だに敗北した事が受け入れられず、先に別宅へと帰ってしまったと言う。
プライドを傷つけてしまっただろうかと心配にもなったが、シルフィは何故かとても穏やかに笑ってくれて許してもらえている気分にもなった。
「お兄様は大丈夫ですよ。負けず嫌いなだけですから」
「僕、兄さんに負けてばかりだったから……」
「そうですね。本当に驚いたと思います。最後に遊んだのは何年前か、私も殆ど覚えていませんから……その分、王子の事を下に見ていたのは間違いないでしょう。ごめんなさい」
「そんなの本当の事だし? シルフィが謝る事じゃないと思う」
「いいえ。私も年上として貴方を守らねばならないと思っていました」
「え」
「姉として、従兄妹として、何ができるだろうと、でもそんなものは必要なかった……。王子は、昔のままですね」
ふと彼女の笑みから、懐かしい記憶が呼び起こされる。ハイドランジア邸で3人で遊んだ時、シルフィはツバサに勝てないキリヤナギを勝たせようと助けてくれた時があった。
キリヤナギは何も気にしてはいなかったのにツバサはそれに怒り、キリヤナギは初めてシルフィを庇った。
それがきっかけで取っ組み合いの喧嘩になる。
大人に止められ、お互いに怪我はなかったが、以来ツバサはキリヤナギへ干渉する事をやめ、あの様な態度を取る事になった。思いかえせば、今回の「体育大会」はそれと同じ構図だったのだろうと思う。
「ありがとうございます」
「僕は、何もしてないよ」
「これからは従兄妹、そして友人として対等に居させて下さいね」
「もちろん!」
シルフィはまるで付き物が取れたように笑ってくれて、そこから沢山子供の頃の話をしていた。10歳前後までの曖昧な記憶が、彼女と話す度に戻ってきてとても懐かしくて楽しくなる。
「今度ハイドランジア領に行きたいと思ってて」
「あら、嬉しい。楽しみにしてますね」
「うん」
そうやって大学の夜はゆっくりと更けて行く。飲み会がお開きになり、後片付けが終わる頃には門限はとっくに過ぎていて、キリヤナギはジンと緊張しながら帰路へついていた。
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