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第36話 旧王城
「眠い……」
「王子」
移動する自動車の中で、キリヤナギは頬杖をつきながら移動していた。昨晩の移動から夜会を終え、王家の別宅にて一夜を過ごしたキリヤナギは、その日早朝からマグノリア領の北東にあるオウカの旧古城へと足を運んでいる。
今日は、ククリールを案内したいと言うアレックスの希望に応え、ヴァルサスと共に自動車の後部座席へと座っているが、貴族ではない相手にスイッチが入らず思わず大きな欠伸を落としてしまう。
「めっちゃ寝たじゃねぇか、ギリギリだったしさ……」
「うんー、でも眠い……」
ヴァルサスが目覚めた時、キリヤナギはまだ寝ていた。出発の2時間前でも起きて来ず使用人へ起こされた王子は、ほぼ無理矢理準備をさせられて今に至る。
「まだもう少し掛かりますから、仮眠を取られても大丈夫ですよ」
「うん、寝る……」
運転座席のセシルの言葉に王子は、座席後ろ側のトランクスペースからバッグに隠された大きめのぬいぐるみを取り出す。それは以前、ラグドールがクレーンゲームで獲得したものだった。
「……もってきてんのかよ」
「寝るのに良いかなって……」
「はは、常備のクッションは質素なものばかりですから」
そう言う意味ではないと思いながら、ヴァルサスは寛ぐキリヤナギを困惑してみていた。
その様は大学で昼寝をする彼と変わらない。
「どれだけ寝るんだよ……」
「元々沢山眠る方なのでお許し下さい」
「いや、いいんすけど……」
「貴族のお2人には、見せることはできませんからね」
なるほどと、ヴァルサスは納得してしまった。公開旅行として領地を訪れた時点でそれは王子にとっての公務であり、貴族への対応は接待にかわる。学友であったとしても同じで、その姿勢を崩してはいけないのか。
「我々騎士は、殿下が学園生活をどのように送られているのか存じませんが、ヴァルサス殿に見せているその態度こそ、きっと真理なのでしょう」
無防備に横になった王子は、仮眠とは思えないほどぐっすりと寝入っている。ヴァルサスが貴族ではなく一般だからこそ見せる様なら、それは信頼の証とも言える。
「隣の奴が寝てたらつまんねーじゃん、起きろよ」
「いだっ!」
「はは、楽しそうで何よりです」
キリヤナギは、結局叩き起こされてしまった。眠気を抱えたまま、ヴァルサスと雑談をして過ごした移動時間は穏やかなもので、一行は山道を抜けた先にある古城へと辿り着く。
そこは、とても栄えていた。
主要都市からは辺境で距離があるが、自動車が行き交い、観光客向けの土産屋や景色を楽しめる宿などが立ち並ぶ観光地となっている。
ゆっくり回りたいと言うククリールの為、ここに来ることは公開されていないと言うが、居合わせた旅行客は突然現れた車群に顔を見合わせて驚いていた。
「ここすごい落ち着く……」
「めちゃくちゃ広いじゃん、空気うめぇ」
夏の澄んだ空を囲う山々をみると深呼吸がしたくなる。先に自動車から出ていたククリールも、日傘を指してアレックスと見て回っていた。
「人が多いのね」
「スイレン町と同じく、ここも観光地として新たに再開発を行った。楽しんでもらえたら幸いだよ」
「ふふ、ありがとう。アレックス」
独特な二人の空気へキリヤナギは少しだけ、複雑な心境も抱いてしまった。
ククリールをアレックスが案内する中で、キリヤナギもヴァルサスと共に城下の雰囲気を持った場所を歩いてゆく。今の首都とは違う古い時代の街は、入り組んだ道沿いに低い建物があり二階建てのものは珍しい。
その殆どは復元されたものだとも言うが、今のオウカには見ない建物ばかりで興味が尽きなかった。
「王子見ろよ。剣があるぜ、両刃のやつ」
「え、珍しい」
「古来の武器のレプリカだな」
土産屋の傍に旧時代の武器と書かれた看板があり、大きめの剣が置かれていた。観光客向けに持ち上げられるようになっていて、振るえないよう鎖で止められている。
「おっも……リュウド持てる?」
「俺?」
「リュウドさん?」
「リュウドって剣派だから」
ヴァルサスがよくみると、彼は黒のケースの長物を持っていた。リュウドは一旦それをおろし、繋がれている剣を両手でゆっくりと持ち上げてみせる。
「これは……重量あるね」
「リュウドでも重いんだ……」
「これを背負い甲冑を着ていたという、現代では信じられないな」
「どうやって戦ってたんだろ……」
キリヤナギが所定の位置へ剣を戻している間、ククリールはデバイスで写真を撮り、土産屋の亭主とも簡単な雑談をしているようだった。メモを取る彼女の後ろで、ラグドールが日傘を刺し、ヒナギクが護衛に徹している。
「城はもうすぐだ。進むぞ」
アレックスの案内で、騎士達と共に三人は城を目指す。そして、丘の上の立派な城壁の向こうにその城はあった。
今の城の半分ほどの大きさだろう。古い城壁の先に、絵本にもでてきそうな城がそこに聳えていた。
「うぉーアニメみてぇ!」
「アニメ?」
「ファンタジー世界の素材としては、人気がある様式だからな」
中も豪華で赤の絨毯が敷かれた謁見室からホール。地下の駐屯所までは開放されている。通路には甲冑が並んでいたり、当時の絵画らしきものも飾られていて、まさに王家の雰囲気が演出されていた。
「ここすごい」
「なんで王子がテンションあがってんだ??」
「うちには無いし……?」
「それは、そうだろうな……」
近代化に伴い、争いもかなり減ったことから防御に特化した城は役目を終えた。現代では、その国力と権力の象徴として巨大に建てられ、人々に認知されやすくなる事に重きを置かれたことで、武力を象徴する甲冑や武器は飾られなくなった。
「通路は思ったより狭い……」
「どこがだよ……」
「比較すべきではないぞ?」
比喩するのならそこは確かに骨董品が沢山展示されている美術館だ。ホールには王族の肖像画や当時のレガリアのレプリカが飾られていたり、その時代に生きた人々の像などが展示されている。地下にゆくと騎士達の駐屯所があり、更に牢もあってキリヤナギは震えていた。
「今もあるんじゃねーの?」
「な、ないよ……」
「今は分けられているな。敷地内に『王の力』の盗難犯向けの留置所はあると聞く」
騎士棟の地下にあった覚えがあるが、そもそも王宮は敷地が広すぎてキリヤナギは、宮殿の中ぐらいしか把握していない。
旧王城は石壁に鉄格子のまさに絵に描いたような牢だが、現代では犯罪者も権利を持ち、人として生活できる環境が整えられている。
「オウカいい国じゃん」
「人は共存するものだが、全ての人間が善ではない。害を与える人間が野放しになっては、善良な市民に被害が出るからな」
「先輩はそう言うのに詳しそう」
「当たり前だ、貴族として一般平民は庇護すべきものでもある。彼らを守る為に害を与える者は容赦しない」
「本当、ブレないのね」
写真を撮っていたククリールが、ようやく口を開き、笑っていた。アレックスは楽しそうな彼女の手を取り、皆で王城の二階へと足を運ぶ。
2階以降は、普段一般には開放されていないが、今回王子が見学に来ると聞き、アレックスが、マグノリア公爵へ話をつけてくれていた。美術館となっている一階に比べ、2階は手入れはされていても、来客向けに改装はされておらず、元王城のリアルな生活感が残っている。
少し疲れた王子は、使用人に案内され王城の一室で休憩させてもらえることになった。
「私は、もう少し見て回りたいのですが……」
「うん。僕は気にしないで、少し休んだら追いつくから」
「わかった。ではククリール嬢、私が引き続き案内しよう」
ククリールは一礼し、アレックスと共に居室を出てゆく。
元王城へもう人は住んで居ないが、当時の床や壁のデザインはそのまま残り天井にも絵が描かれている。一見するととても豪華だが、毎日見ると思うと疲れるとキリヤナギは感想を思っていた。
「王子、良いのかよ」
「何が?」
「姫、アレックスに取られるぜ?」
「え、うん。でも、僕はフラれたし……先輩も前から好きだったみたいだし」
「マジか? ……確かに言われたらあからさまだわ」
「ここはマグノリア領だから、今は先輩の番かなって」
「そ、そうだけどさ……もどかしくねぇの?」
「ないわけじゃないけど、選ぶのはククだし、ここに関しては先輩の方が詳しいから、僕は僕なりに楽しもうかなとは思ってるよ。ククの邪魔しちゃわるいし」
「悟りすぎなんだよ。もっと攻めてけよ!」
「ま、まだ友達だから……」
ヴァルサスが睨みつけてきて、困ってしまう。仲良くする二人にキリヤナギも当然思う所はあるが、あの二人はもともと「そう」なのだ。それはキリヤナギの父、現王シダレと、アレックスの父、エドワード・マグノリア。そしてククリールの父、クリストファー・カレンデュラは、今現在キリヤナギの通う桜花大学院でのかつての学友でもあったからにある。他の友人も交え仲が良かった三名だが、シダレの即位の後に何かがありカレンデュラ家は疎遠になっているらしい。
「別に王子の事だし、俺がどうこう言えるもんでもないけどさ……」
「ありがとう。先輩には誠実でいたいんだ。僕の意思を汲んでくれるから」
「じゃあさ、騎士さん達はどう思ってんだよ」
「どうって?」
「ヒナギクさんとかめちゃくちゃ美人じゃん、そう言う関係とかねぇの? 貴族」
「な、ないよ!? み、身分違うし?」
「ないわけないだろ? ほらこのパンフレット見たら駆け落ちとか居たみたいじゃねーか」
「昔はあったかもしれないけど、ぼ、僕は知らない!!」
「ヴァルサスさんって、そう言う話すきだよね」
「リュウドさん。わかります?」
「わかるわかる」
「リュウドも聞かなくていいから!」
入り口ではセシルもセスナもいて使用人も聞いて居るのに、とても話せる内容ではない。
キリヤナギは顔を真っ赤にしていた。
「ラグドールさんとかも可愛かったじゃん。俺正直羨ましいんだぜ?」
「ぼ、僕の周りは普段女の人いないから! ラグドールは騎士棟と宮殿の医務室だし……」
「そうなのか?」
「そうなんだよねー、決まりが色々あるんだ。使用人も男性が多くてなかなか……」
「言わないでいいから!!」
「逆に息苦しいわ。どうやってんの?」
「言わない!!」
「本当耐性ねぇな」
キリヤナギが項垂れてしまい、ヴァルサスは呆れていた。この王子と年相応の話ができないのは残念だが、この反応を見ていて面白いと思うヴァルサスもいる。
「そいや、ジンさんとセオさんは?」
「二人は、エリィを見てくれてるよ。広くて散歩にもちょうどいいから遊んでてくれるって」
「大変じゃん」
「他にも自動車に変な人が来ないように見張りかな? 発信機とかつけられたら困るしね」
「リュウドさん、そんなんあり? こえー」
「殿下、外に出るの久しぶりだから」
「サカキさんは、今日は一旦休みみたいだけど……」
「親父のことは聞いてねぇ!」
先に行った二人は、女性騎士の二人と共に動き、セシルとセスナ、グランジ、リュウドは、キリヤナギの周辺を動いている。今日は先程の剣の話題もあったからか、リュウドが横についてくれていた。
「リュウドは僕と同い年なんだよね」
「へー」
「誕生日は殿下のが早いから、微妙に年下だけどね」
「じゃあ今年から騎士?」
「俺、騎士学校で一年飛び級したんだ。だから去年配属」
「エリートじゃん」
少し照れるリュウドに、ヴァルサスは新鮮さを感じる。騎士と言う固いイメージをもつ彼らだが、想像よりも年相応の話題が通じるからだ。
休憩を終えた二人は、そこから王城の三階から四階まで回り、王族のダンス練習用のホールとか神殿のような場所を見て回る。
アレックスとククリールと合流した後は、最上階の部屋も見にゆき、入り口へ戻る頃には午後を回っていた。
「面白かった」
「意外とすごかったな……」
「歴史的な遺産を舐めるな」
ヴァルサスが少し叱られていて、思わず笑いが込み上げてくる。ククリールは、王城からでてからも建物を見上げ、物思いに耽っていた。
「とても楽しかったです、連れてきてくださってありがとう」
「僕も一緒にこれてよかった」
「この後はスイレン町で食事の準備がある。案内しよう」
「本当にアレックスのターンなんだな……」
駐車場へ戻ってきた四人は、犬のエリィと再会しキリヤナギは一番はじめに飛びつかれていた。そして王子を載せた自動車は、一般車道を通りマグノリア領のスイレン町へと向かう。
マグノリア領スイレン町は、オウカ国に隣接する大河。ロータス側へ隣接する都市で、川から引き込まれた水の力で運送をになう水の都市だった。
町中に轢かれた水路をゴンドラが行き交い、船によって運ばれてきた荷物をあらゆる場所へ運んでゆく。そんな光景を一望できる建物へ案内された四人は、この都市で獲れた川魚の料理へ舌鼓を打っていた。
「あれ、隊長さんは? 行きは運転してたよな?」
「セシルは、エドワードさんと話があるからちょっと外すって言ってたけど」
マグノリア公爵の居るモクレン町は、確かに通り道だった。思えば昨晩の夜会でまた会うと話もしていたのを思い出す。
窓の外を眺める王子は、向かいにいるアレックスへ口を開いた。
「先輩、あの船のれるの?」
「乗れるぞ、街を一周できるプランを立てたおいたので楽しみにしておいてくれ」
王子はとても楽しそうに、街の景色を眺めていた。
*
王子の旧王城の観光が終わり、一人モクレン町にて降車したセシル・ストレリチアは、エドワード・マグノリア公爵へ謁見に向かう。
昨日きたその場所は、すでに歓迎の雰囲気はなく公的な施設として聳えているようにも見えた。
「遅れて申し訳ございません。宮廷騎士団、大隊長セシル・ストレリチア。ここへ参りました」
「よくきた。ストレリチア卿、任務中にすまない。ここで改めて顔を合わせられるのは光栄だ」
「恐縮です」
穏やかに応じてくれるエドワードにセシルは思わず緊張がほぐれてしまう。由緒正しくまた誇り高いマグノリア家は王族にこの上なく好意的で信頼にも厚いからだ。
「我が弟のセドリックが悪いことをしたな」
「セドリック殿に非はございませんが……」
「殿下が倒れられ、親衛隊長が貴殿へと変わってからの回復は目まぐるしい、これは一つの成果だ。誇ると良い」
セシルは上手い言葉が出てこず苦笑しかできなかった。宮廷騎士団に所属するセドリック・マグノリアは、エドワード・マグノリア公爵の弟にあたり、かつてのセシルの上司でもあるからだ。また、キリヤナギの以前の親衛隊を務めていた実績がある。
つまりエドワードの言葉は、王子が病に倒れた事実がそのセドリックによるものである可能性を認知していると言う事になる。
「誕生祭でのことはある程度聞いているが……」
「はい、マグノリア公爵閣下。私はシダレ陛下より直々に伝言を預かって参りました」
「ふむ、なんと?」
「『宮殿はもう何がおこるかわからない。いざとなれば任せる』と……」
「……そうか」
「私は深くは存じませんが、ここ最近はご夫婦の溝が深く……」
「は、相変わらずだな。シダレ陛下の夫婦仲に関して、私はそこまで重く捉えてはいない。殿下は気の毒にも思うが……」
「……私どもは殿下を守りきれず……」
「誕生祭の件を責めるつもりはない。むしろ、どうやって入り込まれたのか興味深いものだ」
「騎士よりも使用人は審査が甘く、顔写真付きの身分証のみで確認であったとのことです。また宮殿内部での仕事は、勤務歴3年以上が最低限ともされていましたが、敵は長く時間をかけて準備し、ことに及びました……」
「そうか……恐れ入ったな」
「我々、タチバナ、ミレット、ストレリチアは、王宮へ勤める1300名の使用人の照合を終えましたが、敵はもともと勤務していた者を脅していたりと特定は難航しております」
「ふむ、タチが悪いな」
もはや身元だけでは特定が出来ないほど、敵は浸透していた。騎士団は巻き込まれかねない使用人達へ注意喚起しつつ、水面下で対応に当たっている。
「アカツキは顕在か?」
「はい。変わらず」
「なら、そこまで心配する必要はあるまいよ。不安は残るだろうが彼が騎士長である限り、宮殿はどうとでもなるはずだ」
エドワードの楽観的な言動を、セシルは全て理解するまでには至らなかった。宮廷騎士団でのアカツキ・タチバナの立場は、年々威力を失いつつもあるからだ。
午後にスイレン町へと繰り出した王子は、学生組の三人と共にスイレン町のゴンドラへと乗り込む。まるで通路のように弾かれる水路は、すれ違うゴンドラや建物を鏡のように映し、それを無垢に咲くスイレンの花が彩っていた。
「涼しいー」
「オウカにもこんな場所あったんだな……」
「ヴァルサスも初めてか?」
「実はそうなんだよ。ローズマリーとか イドランジアには家族旅行でよく行ったんだけどさ」
「確かにその2箇所と比べるなら地味な事は認めざる得ない」
食物が豊富で海があるローズマリーは、オウカの中では屈指の観光地で、毎年この時期は休暇で多くの人々が訪れる。またハイドランジアは火山がありそれを利用した温泉街もあって、人々が日頃の疲れを癒しに訪れる名所でもあった。
「僕はここも楽しいかな」
「知名度では劣るが来ても損はさせない。近年では橋もできるからな」
「橋?」
「マグノリアのこの位置は、ロータス川の川幅が最も狭まる場所でもある。よってガーデニアとの国境橋を掛ける事が近年でまとまった」
「へー」
「今ちょうど建築のための測量をしている筈だ。見に行くか?」
「いくいく!」
流れる風景を静観する中、相変わらずククリールは会話の中へは入ってこない。ゴンドラを降りた後もそれは変わらず、少し心配にもなってしまう。
「先輩、ククは大丈夫かな?」
「あぁ、元々一人が好きな女性だ。そっとしておく方がいい」
路地へと差し込む光をククリールは眩しそうに見上げ、少しだけ笑みをこぼしていた。一人が好きにも関わらず敢えて同行を選んでくれている彼女は、少なくとも皆へ合わせてくれていると言うことになるからだ。
騎士達と合流し、リードに繋いだエリィと共にスイレン町を観光する王子は、短い橋を渡ったり、道中の出店で飲み物を買ってみたりと旅行を満喫していた。
騎士達も私服で一般に紛れ、王子から目を離さないようにしつつ、一行は川沿いの展望台へと足を運ぶ。
ウッドデッキがあるそこには、奥に港ができるであろうと言う仮の建物があり、その周辺には、中立地帯となる線が引かれている。
桜花の職人とガーデニアの建築士が話し合う様子を興味深く眺めていたら、一人の職人がこちらを見てもう一度振り向く。まるで信じられないような表情で見られ、キリヤナギが手を振ると振り返してくれた。
「王子って以外と人気あるんだな」
「珍しいだけだと思うが……」
「そうかな? 別に普通にいるよ?」
「そ、そうだな」
アレックスは、思わず言葉に困っていた。ククリールも広大なロータス川を眺め穏やかな風に身を任せている。
遠くにみえるガーデニアは、備え付けの望遠鏡でみるとかなり高い建物が立ち並び発展した都市だと言うのが窺えた。
「この川、海みたいに広いよね」
「? 向こう岸見えてる時点でそこまで広くないでしょう?」
「え"」
「海を見たことあるのか? そもそも」
「あ、あるよ! 8年前だけど……」
「わすれてるんじゃないかそれは……」
キリヤナギが焦っている様にジンを含めた騎士隊の皆が困惑している。たしかにロータス川は幅が1キロ以上あり、陸からみれば視界全てが川になるほど巨大ではあるのだが、比較を海にするなら、些か小さく感じるのも理解はできるからだ。
思わずしょんぼりしているキリヤナギに、ジンも少し焦っている。
「殿下、総スカンすね……」
「普段どおりですが……?」
「ぼ、僕、普通に生きてきたつもりだったのに……」
「普通では無いんじゃ無いか?」
「普通じゃねぇなぁ……」
騎士の皆も何も言えなくなっていた。しかし普通の友達の会話で、安堵の気持ちを持つセオも居た。
セスナがそんなキリヤナギのがっかりした気持ちに陰ながら同情していると、川の向こうから、小型船が水面を走ってくる。小さかったそれが徐々に大きくなるのを観察していたら、セスナが時計を確認して口を開いた。
「殿下、間も無く日も暮れますので、モクレン町へ戻られませんか?」
「ぇー、もう少し歩きたいんだけど……」
「列車が出るのは夜ですが、アゼリア卿とも合流しなければなりません。観光時間もお取りしましたので、ここは移動を」
「うーん、わかった……」
列車は日付の変わる数時間前に発車し、朝の起きる時間へ合わせるようにローズマリーへと辿り着く。朝から一度別宅へ向かい、午後から公爵の元へ顔を出すスケジュールだ。
少しだけ名残惜しそうにスイレン町を去る王子だが、その表情は変わらず少しずつ日のくれる都市を眺めている。
「ローズマリーって海以外にいくとこあるのか?」
「あるよ。公爵家にも知り合いがいてさ。たのしみなんだよね」
「へぇー」
「久しぶりに連絡をとったらウィスタリア家のみんなもきてくれるみたいで……」
「ウィスタリア?」
「公爵家だな。ローズマリー家は、現世代で男児に恵まれずウィスタリア家から養子に迎えたと言う」
「せ、政略的っーか……。と言うか公爵って、世代変わるごとにリセットされるのになんで次世代のことまで考えるんだよ。継げないなら意味なくね?」
「古い考えではあるのですが、オウカの公爵は、異能の中枢を担っているのもあって王が退位する前に暗殺や事故などで命を落とすことが少なくなかったの」
「今は平和だが、戦時中はいちいち選挙などやってはいられないからな。政治的な混乱を防ぐため、公爵が命を落とした際には
、その家の血縁が跡を継ぐと言う決まりがある」
「ふーん」
オウカの選挙は大まかに二つあり、一つは王が即位する際に行われる公爵家を決める選挙だ。これは各領地から立候補した貴族と、王の推薦した人間によって人が建てられ国民が選ぶ。もう一つは数年に一度選ばれる議会委員を選ぶ選挙で、こちらはそれなりに高頻度で行わるいわば定例行事だった。
「我々公爵家にとっては、政治は『家』で行うものだ。一般への生活へ影響が出ないよう。求められている思想を引き継いでゆく事が重要だと考えている」
「時代に合わせるのも必要ではなくて?」
「そ、それはその通りだな……」
小さく笑うククリールに、ヴァルサスがついてゆけている気配がなかった。議会委員は身近なものだが、公爵家は数十年に一度しかない為、その考えに馴染みがないのは確かにキリヤナギも理解はある。
「ウィスタリアとローズマリーは、今だと珍しいけどこの二つの家が結婚したのは、元々ウィスタリア側の希望もあったみたい」
「それって?」
「一目惚れとか好きになった? 僕が聞いたのは、初めて会った時に『自分で守りたい』って思ったって」
「めちゃくちゃロマンチックじゃん」
「二人とも優しいから僕は信頼してるよ」
「誕生祭で顔を見たが、確かにあの二人と王子は相性が良さそうだ」
キリヤナギも少しだけ憧れていた。
王室と言う制限の多い場所から見た彼らは、キリヤナギにはできない恋を実現させたとも言えるからだ。
モクレン町へと戻った四人は、公爵家へと戻り最後の会食へと参加する。エドワードを交えた空間は、メディアもおらず和気藹々としたものでそこへ緊張は見えなかった。
会食を終え、列車の時間までまだ余裕がある頃、食卓から出てきたヴァルサスが意味深な顔でアレックスを見ている。
「アレックスって、どんな部屋に住んでんだよ?」
「今は首都だが……」
「ここが実家なら自分の部屋あるんだろ? 見せろよ」
「人の部屋を見たいなんて下品な方ですこと」
「あん? 友達の部屋に興味もって何がわるいんだよ!」
「はは、『友達』か」
「僕も気になる!」
「まぁいい、他に機会もないだろうしな」
「私は、先にリビングに戻ります」
「すまない。すぐに向かうよ」
ククリールは身を翻し、騎士と共に階段を降りていった。
アレックスに案内のもと二人が彼の部屋へと向かうと重厚な両開きの扉の前に案内され、ヴァルサスが衝撃を受けている。
「ホール?」
「部屋だぞ」
躊躇いなく開けられた先に、キリヤナギは感心してしまった。キリヤナギの自室とは半分ほどの広さだが、巨大な書棚と勉強机、パーテーションによって分けられた天井付きのベッドが有る。内側の壁はクローゼットになっていて開けると鏡も出てきた。
「広すぎじゃね??」
「生活感あるー!」
「今は叔父の家にいて使ってはいないがな……」
ヴァルサスは早速書棚をみたり、ベッドの下の何かを探している。王子はソファの上のリアルな動物を模したクッションを撫でていて、アレックスは性格の違いを納得していた。
「エロ本がねーぞ……」
「え"っ」
「悪いな。そう言うものは全部首都だ」
「なんだよつまんねーな」
「掃除しにくる使用人がいるのに、置くわけないだろう?」
王子が恥ずかしくなり、思わず座り込むとソファの下にアンティークなロック付きのケースがある。なんだろうと見ているとヴァルサスが、王子の仕草に気づいた。
「王子! でかした!」
「えっえっ!」
「あぁ、それか……まぁいい」
アレックスは引き出しから鍵を取り出し、ヴァルサスへと投げ渡した。不安そうな王子に気にもせず、ヴァルサスがロックを外すと沢山の写真ケースやクレヨンで書かれた子供の絵がでてくる。
またマグノリア家の家族写真がでてきて、キリヤナギは少し感動した。
「小さい先輩……! エドワードさんも若いー!」
「それは15年前の写真だな」
「つまんねぇ……」
「はは、期待に応えれずすまない」
「先輩も一人っ子なんだ?」
「少し語弊があるが、妹が死産だったんだ」
「え……」
「当時、母は体が弱く妊娠も大きな負担があったのか、うまく育たなかったと言う。母はガーデニアの医療技術で今はもう元気だが、子を儲けれる年齢ではなくなってしまったからな」
「そっか……」
「妹に出会えなかったのは残念だが、私は母と妹のためにもこのマグノリアの家を正統に継いで行くつもりだ」
「先輩のそう言うところ、やっぱり尊敬する」
「光栄だな」
「なんか、悪い……」
「気にするな。貴様にそう言う反応は求めて居ない」
マグノリア家の写真の裏には、アリアと言う名が綴られている。アレックスは少しだけ反省するヴァルサスの背中を叩き、三人はリビングでククリールと合流した。
「アゼリアさんのテンションが下がってません?」
「うるせぇよ!」
「ちょっと色々あって……」
「……少し困ってしまうのだけど」
「えーー」
三人が思わずククリール見てしまう。彼女は何かにハッとしたのか目を逸らしてしまった。
「か、勘違いされないで、言いたいことが言えなくなると思っただけです!」
「姫、なんか、わりぃ」
「ククってやっぱり根は優しいよね」
「そんな事ありません!!」
アレックスは、吹き出して笑っていた。その後エドワードとアレックスの母、イザベルに見送られた皆は、列車へ乗るためにモクレン町のマグノリア駅へと向かう。
久しぶりの夜の街に思わず心を躍らせるキリヤナギへ、ジンがふと口を開いた。
「殿下、ラーメン行きません?」
「ラーメン?」
「ジンさんマジ?」
「そこの店、それなりに人気みたいで」
「ほぅ、『タチバナ』は意外と分かるな」
「俺もいっていい?」
「いいっすよ」
「セシル、行っていい?」
「構いませんよ。グランジも同行できる?」
「はい」
発車までまだ二時間近くある。
マグノリア駅近くのラーメン屋は、オウカで屈指の名店ともレビューでかかれていたからだ。
「私は先に乗っておく。遅れるなよ」
「うん、ククは?」
「興味ありません!」
キリヤナギは、エリィをセオへと任せ、4人でラーメン屋へと足を運ぶ。
かなり行列ができていた店は、中へ入ると壁中にサイン色紙があって驚いた。
食券を買う方式も初めててワクワクしていたら、丁度備え付けのテレビに昨日の王子来訪のニュースが流れ、職人と目が合ってしまった。思わず顔を確認され、そこから店が大変な騒ぎになり、ラーメンだけ食べて逃げるように店を出る。
「えらくギリギリだったな」
「い、色々あって」
「店に入ったらバレて色々……」
「初めてサイン書いた……」
「飾ってくれたら、写真おくってくれるみたいです」
出発の時間が近いと言うと、サインだけ書かされ店員を含めた客は解放してくれた。並んでいる最中はバレなかったのに、ニュースの時間に被ってしまったのは運が悪かったとすら思う。
「つーか、有名人なのすっかり忘れてたわ……」
「うぅ、ラーメン美味しかったのに走って気持ち悪い……」
「大丈夫すか……?」
窓を開けていたら、ゆっくりと列車は動き出してゆく。夜も更けて、エリィがキリヤナギの膝で寛ぐ中、旅行の初日が終わってゆく。
「起きたらローズマリーだっけ?」
「はい。到着は8時ですが、ローズマリー騎士団の方との待ち合わせが10時頃となりますので、ゆっくりされていても大丈夫です」
「いっぱい寝れる……!」
「今朝も散々寝たじゃねぇか……」
昼寝が出来ず、もう程よく眠気があった。寝台列車にあるシャワーで軽く汗を流し四名は、ゆっくりと走る列車の中で、一日を終えてゆく。
*
リーシュは、ローズマリーの南東にある山岳地帯へ数名の騎士達と共に足を運んでいた。ローズマリー出身の彼女は、騎士学校も地元から卒業しこの辺りもよく研修で行き来していた時期もある。
騎士学生は、学生でありながらも領内の様々な場所を巡るため、人が住む場所はある程度把握できてもいるからだ。
今回は宮廷騎士とローズマリー騎士団の【千里眼】使いが、この山岳地帯へ飛行機が隠された事を確認した為、宮廷騎士団は即座に対応部隊を派遣し、周辺にある村を調査していた。
給水車や移動販売の役人に紛れ、聞き込みを行った結果、アオキ村へ来訪者があったとの情報を掴み、こうしてリーシュも派遣されている。近隣まで騎士達を乗せた護送者で向かっていたが、村が近づくごとにわずかな赤い光がどんどん大きくなってゆくことに気づく。
その光は明らかに電灯によるものではなく、焦臭い臭いも漂っていて、運転手は思わず口に出した。
「火事だ……!」
全員が言葉を失って自動車から降りると奥に見える村は火に包まれ悲鳴が上がっている。隊長は人命が最優先としローズマリー騎士団へ応援を呼ぶと共に、騎士へ救助を行うよう指示をだした。
隠密部隊向けの黒一色となる動きやすい服装できたリーシュは、指示が出た直後に村へと入り逃げ惑う住民達を入り口へと誘導する。しかし、元々老人ばかりだったアオキ村は、体を悪くしている人々も多くいてリーシュは、より奥の住居へ人を探して飛び込んだ。
するとそこには燃え広がり、酸欠で気を失う男性がいてリーシュは即座に担ぎあげて避難させてゆく。
「聞こえますか!!」
大声で呼びかけると、男性はわずかに目を開ける。声が聞けると思えば腹を抑え、上げたのは呻き声だった。
そこには何故か刃物のような物が刺さっている。
「い、一体、何が……」
「騎士さん、か?」
「はい、今応急処置をーー」
「いいこれは、自業自得じゃ……」
「喋らないでください!!」
「すまん、俺らは、何も、でけんかった……、でも、マリアちゃんは、攻めん、でくれ、彼女は優しい……」
「マリア……?」
リーシュは、何を話されたのかわからなかった。男性は力尽き、リーシュはさらに声を上げ生存者を探そうとした時、火の海の上空を低く飛んでゆく巨大な影があった。
風を起こし、まるで火を煽るように村の上空を飛び去ったのは、騎士団が探し求めていた『飛行機』だった。
*
「村に火を? 本気ですか?」
「名案だと思わないか?」
あまりにも軽く話された言葉に、マリアは思わず本音を口にしてしまう。その日も2人は倉庫で顔を合わせ、間も無くローズマリーへと現れる王子を攫う作戦を相談していた。
「追ってきた宮廷を撒くにはうってつけだろう?」
「泊めて頂いた恩は? 人をなんだと思ってーー」
「こんな国の人間など、知ったことではない」
「それでも、ここの人達は王家に批判的な人達です。巻き込む必要なんてない」
「オウカの肩を持つのか? マリア……」
「……っ! そんなつもりは……」
「そんな善良さがあるから失敗するんですよ。もっと割り切って下さい……」
マリアは何も言えなかった。アロイスの言うことは正しく、まだ自分はこの男の力がなければ生き延びる事すら出来ない。
「夕方にはお願いします。あと飛行機は破棄します」
「は? クードさんは……」
「いい囮になってくれますよ」
「人をなんだとおもって……」
アロイスは先程、クードに「後から追いつく」話し、飛行機でウィスタリアまで飛ぶよう指示をだしていた。
丁寧に操作をレクチャーし、村の上空を飛べば、助けてくれた人達のいい挨拶になると話し、日が暮れてから先に出発するように告げている。しかしクードにはここに宮廷が来ることはまだ知らず、火が放たれることも知らない。
「オウカ人に同情するなら、いっそ帰化したらどうですか?? マリー・ゴールドさん」
「……それは、しない」
「なら後は頼みます。これができるか出来ないかで、貴方を連れて行くか決めますね」
渡されたのは、携帯着火器具だった。
マリアの中に、この村へ迷い込み助けてくれた人々の事が思い出され、何をしようとしているのだろうと思いが駆けて行く。そして、アロイスと分かれたあとマリアは1人で首から下げるロケットの写真を見ていた。
ジギリタズに残してきた母は、重い病をもち、もう何年も入院している。ジギリタズでは、高度医療のほとんどは支配階級が独占し、平民たちへの医療費は高額で国民はそれを払う為に、国民は政府が発注する工作員任務を受注する。
一つ完遂すれば小貴族程度の金銭が支払われ生活も保証される為、貧困層は喜んでそれを受けるが、お粗末な者から捉えられ2度と母国には帰れない。
マリアもまた、工作員の志望者としてアロイスに教育された生徒の1人だった。マリアは、このアロイスに気に入られ、こうして共に行動もしているが、味方を全て捨て駒にした誕生祭に、マリアの心は悲鳴をあげていた。そしてそんな心境で出会った王子は、非道な自分にすらも「戦いたくない」と言ってくれた寛大な心の持ち主だった。
思い出せば思い出すほど、心が切り裂かれるように痛み、泣きながら住居へ火を添える。
何をしているのだろうと、いっそこのまま消えてしまいたいと思えば、母の笑顔が脳裏へ映る。
母には、東国へ留学すると話した筈なのに何をしているのだろうと自問自答するしかなかった。そして、ありとあらゆる場所へ火を放った後、それが燃え広がる前にマリアは、とある住居へと駆け込んだ。見慣れた住居には晩酌の準備をする男性がいる。
「リリスちゃんどうしたんじゃ? ないちょるやんけ」
「突然すみません。逃げてください」
「は?」
「ここに、火を放ちました。すぐ燃え広がります。ごめんなさい。ごめんなさい、でも、そうするしかなくて、おねがいします。逃げてください」
「何をいっとる?」
「すみません。でも今は、逃げてください……! 私は東国人でもなくてーー」
男性は、突然マリアの口を塞いだ。そして、手を離し小さな端末をみせてくれる。
それは、倉庫内の録画映像だった。
「これな、息子がつけとけいうて置いてったんだ。直してくれた時思い出してな、せっかくだしと設置してたんじゃ」
「……!」
「全部きいとったで、遠くからよお来たんやなって……」
「……」
「俺らはもう先はないけど、リリスちゃんは若いからな。俺ら気にせんと頑張って生きてけ、またいつでも遊びにきんさい」
男性は、妻を呼び2人で笑っていた。まるで何も聞いていないように、「元気でね」と見送ってくれた2人へマリアは逃げるように去るしかなかった。
が、マリアが知るのはここまでだ。
家の裏で話を聞いていたアロイスは、住居へと現れ迎えた男性と妻へ手をかけた。
男性が火消しの連絡を入れる前に行われ、火は止まる事なく燃え広がり、村は火に包まれる。
「私に何度尻拭いをさせればいいのですか?」
男性の末路を聞いたマリアは、絶望で頭が真っ白になっていた。死ぬ必要のなかった人が、自分のせいで命を落とした事実を受け入れられず、頭が理解を拒否する感覚をえる。
「まぁ、リカバーはできたのでいいでしょう……。ローズマリーでの働き次第で、全て許します」
マリアは、何も言い返せなかった。そして、アロイスが聞こえない距離まで離れた時、ずっと堪えていだ言葉が口にでる。
「たすけて……」
深くローズマリーの森でその声は、どこにも響かない。
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