第6話 また振られた……。
「ひ、ひどいっすね……」
「派手に振られたな」
その日。ククリールの衝撃的なひと言を受けたキリヤナギは、とても授業どころではなく。消沈した様子でカナトとジンのいるアークヴィーチェ邸へと駆け込んでいた。訪れた屋敷は、年度末の清掃によって美しく磨かれ、まるで新築のように輝いている。キリヤナギは、今日は屋内へと招かれカナトの自室で膝を抱えていた。
「何かしたのか?」
「前の事件の時に、先に帰ったからかな……」
「い、一応助けたのに……」
「ジンが付き添ったと聞いたが……」
「状況が状況で、そんな話なんてできなかったし……」
「ぼ、僕もう立ち直れない……」
「あまり無理をするな、気のない相手に絡んでも、つらいだけだぞ」
「本当に婚約者候補……?」
キリヤナギは頷いていた。
ククリールの言動は、公爵令嬢ならどれだけ譲ってもあり得ず、学生でなければ本来言ってはいけない言葉だからだ。もし学外であったなら、無礼だとしてスキャンダルになっていてもおかしくはない。
「何が嫌だったんだろ……」
「深く考えるな。関わりを断とうとする相手に構う方が野暮だぞ」
「うーん……」
相変わらず反省しようとしているキリヤナギへ、ジンはどう言葉をかければいいかわからない。これは彼のいわば「性分」にも近く、指摘された事柄はできる限り改善しようと努力は惜しまない。これでも数年前は、納得がいかなければ押し切る事はあったのに、最近は顕著に悩んでいて心配もしていた。
「なんで、ククちゃんに拘るんですか?」
「んー、なんとなく信頼できるかなって」
「ど、どういう理屈だ??」
カナトが困惑するのも珍しいとジンは、何も言えなかった。しかしそれでも二人の言葉をうけてキリヤナギの目線が徐々に上を向いて行く。
「ククに、僕は必要ないのかな……」
「心苦しくはあるが、そう言うことだろう。令嬢としては考えられない態度だがな……」
これ以上、彼女へ関わることは迷惑だとカナトは言っている。彼に言われるとなぜか自然に納得ができて、それは受け入れなければならない事だと理解ができた。
「他に友達はできそうです?」
「分かんないかな。でも今日ちょっとだけ声かけてくれた人はいたかも」
「ならその人達と話したらいいと思います」
去年の秋学期から復帰し、少しづつ通っていたキリヤナギだが、王子と言う立場からか視線を感じても話しかけられた事はなかった。こちらから声をかけるのも気が引けて、ほぼ教員としか関わりもないまま進級し、心機一転したいとククリールへ声をかけたのにこの様だ。せっかくの学生生活なのに幸先が悪いとすら思ってしまう。
キリヤナギが王宮へ戻る帰り道。彼の目線は上を向き、ジンは今日も彼を送り届けアークヴィーチェ邸へと戻る。
日を跨ぐとショックだった気持ちも和らぎ、キリヤナギは多くの生徒達に紛れながらその日も登校した。
ククリールは昨日と同じ席にいて、キリヤナギも気にしないよう距離を取って座る。教科書をひらいて授業の開始を待っていると、傍に気配を感じてキリヤナギはそちらを見た。金の髪にガーネットのような赤い瞳を持つ彼女は、キリヤナギをまるで母のような目で見ている。
「王子、メッセージのお返事は下さらないのですか?」
彼女は、昨日キリヤナギがククリールに振られた後に話しかけてくれた女性だった。突然の問いかけに一瞬なんのことかわからなかったが、デバイスを入手したばかりのキリヤナギへ、丁寧に解説してくれたのを思い出してはっとする。
「ごめん。まだよくわからなくて……」
「宜しければ、昨日のようにこのシルフィが解説して差し上げますが……」
シルフィと言われて、キリヤナギは我に帰った。その名前の響きは、幼い頃から聞いていたもので、なぜ気づかなかったのかと罪悪感すら得てしまう。
「え、シルフィ??」
「あら、ようやく思い出して下さいましたか?」
嬉しそうに微笑む彼女は、シルフィ・ハイドランジア。ハイドランジアは、このオウカの北西の領地を納め、『王の力』の一つ、【細胞促進】を預けられた7つの公爵家の一家にあたる。また、この名はキリヤナギの母、王妃ヒイラギの旧姓であり、シルフィはキリヤナギの母方の従姉弟だ。
「ご、ごめん。気づかなくて……」
「気にされないで下さい。私も去年はとても多忙で、こうして声をかけにゆくタイミングはありませんでしたから……」
ハイドランジア領へは、子供の頃に何度も帰省していて、その度に顔を合わせていたのに何故わからなかったのだろうと思う。
三回生のシルフィは、昨日と今日の一限は履修しておらず、進級も危うかったキリヤナギの様子を見にきてくれたようだった。
「ヒイラギ王妃殿下より、一回生の頃は大変であったことは伺っています。助けが必要であればなんでも言って下さいね」
彼女の優しい言葉も久しぶりだ。最後に話したのは一年以上前にも思え、連絡も取らなかったのが悔やまれる。
「ありがとう、でもまだ特に困ってはないから大丈夫」
「ならよかったです。気軽に連絡してくださいね」
シルフィはそう言って席を埋めないように教室を後にした。
間も無く授業が始まると思ったとき、後ろから小突かれて驚く。振り返ると今度は初めて見る黒髪の男性がいて、思わず首を傾げてしまった。
「王子、生徒会長候補と知り合い?」
それなりに高貴な服を着崩した彼に、キリヤナギは全く覚えがない。
「え、シルフィなら従姉弟だけど……」
「従姉弟? あ、そうか、ハイドランジア王妃!」
男性の納得した態度にキリヤナギは頷いていた。彼は楽しそうに笑みを見せてくれる。
「こんにちは、君は何処かで会った……かな?」
「俺は一回から知ってるけど、王子。あんまり見なかったしなぁ。俺はヴァルサス。長いしヴァルって呼んでくれ」
「ぼ、僕はキリヤナギ……」
「知ってるけど……」
つられてしまった。焦っていたら笑われて恥ずかしい。
「王子って天然入ってる?」
「てんねん?」
「……わかんないならいいわ。昨日ククリール姫にめちゃくちゃ酷い振られ方してたじゃん。なんであんな嫌われてんの?」
「え、分かんない……でも多分、気づかないうちに酷い事したのかな……」
「覚えあるのか?」
「全然なくて……」
「そりゃもう誰もはなせねぇなぁ……」
「話せない?」
「公爵令嬢だぜ? 王子で蹴られるなら、俺らみたいな庶民が友達になれるわけねーじゃん」
「そうなの?」
「学校は平等って言うけどさ。相手によって気を使うだろ? 俺とか名前しか言ってねぇけど、どこの家出身とかきにならねぇの?」
「……全然」
「マジ?」
愕然としていて、不味いこと言ったのではと不安になる。だがヴァルサスは、しばらく呆然とした後、にっと笑ってくれた。
「なんだよ、王子、普通に話せんじゃん」
「え、うん。何が悪い事言ったかな?」
「いや、単純にそういう公爵クラスの連中としか付き合わないのかと思ってた」
「そんな事ないよ。シルフィは従姉弟で、子供の頃からのよく遊んでたから……」
「なるほどな」
「僕、昨日初めて通信デバイスを持って出かけたから、まだよくわかってなくてシルフィが丁寧におしえてくれたんだよね」
「マジ? 今までどうしてたんだ?」
「別に普通だけど、これすごく便利だね。僕感動しちゃった」
ヴァルサスがまた唖然としていて、何故か同情の目に変わってゆく。
「王族って厳しいんだな……」
「そうかな……? 父さんと母さんは確かに怖いかも……」
話しているとヴァルサスに肩を押し込まれて驚く。前を見ると教員が現れ授業が始まっていった。
第一回目の授業は一限と二限と共に説明会で、キリヤナギは二限ともヴァルサスと席を並べて受けることにした。今までずっと一人で受けており、隣が知り合いであることが新鮮で、楽しいとも思えてしまう。
「王子って昼どうしてんの?」
「お弁当があって、ヴァルは?」
「俺も弁当だけど、場所どうすっかな。食堂はいつもいっぱいだし……」
「それなら、遠いけど空いてる場所あるよ」
「お?」
キリヤナギは、一回生の時に活用していた屋内テラスへとヴァルサスを案内することにした。建物の一階にあり、どの教室からも距離があるこの場所は、人が通りかかることもなくよく時間潰しに使っている。
「こんな場所あったのか……」
「放課後に歩き回ってたら見つけたんだ。疲れた時とかよくここで寝てた」
「へぇー、王子なのに大丈夫なのか?」
「何が?」
「狙われたりしねぇの?」
「あんまり良くないって言われてるけど、ほかに行ける場所も無いし……」
「ふーん。まぁいいか」
屋内テラスは、自販機と大きなテーブルがあり、簡単な休憩所のようになっている。窓際には背もたれのないソファがあり、キリヤナギはよくここで休んでいた。
「王子ってこの学園の派閥はどこ支持してんの?」
「派閥?」
「そうか、デバイスなかったんだもんな……。この大学には、一応公爵家が中心の派閥があって、一つは西側の領地を納めるマグノリア公爵家の跡取りを中心とした派閥と北西のハイドランジア公爵家の跡取りの派閥。この二つの派閥は今度の学生選挙で生徒会長の座を争ってて、出来るだけ影響力のある貴族の生徒を奪い合ってるって感じだ」
「えぇ、すごい」
「ククリール公爵令嬢も、一年の時からマグノリア先輩に目をつけられてて、今必死に勧誘されてるって話だぜ」
「ククも? なんで?」
「この大学、平等を謳われてるけど、一般生徒からしたら貴族は憧れの的だったりもするんだよ。特に公爵家は最上位で目立つしな」
「へぇー」
思わず感心していたら、ヴァルサスは呆れていた。この王子はそんな「最上位」から、さらに上の位へいることへ自覚がないらしい。
そんなキリヤナギ本人は、この大学に入学した時点で、どんなに位の高い貴族であっても同じ学生として関われるとは聞いていて、特に気にしてはいなかった。
「そもそも、王子はなんでククリール姫に?」
「ククは僕の婚約者候補だから、話せればいいかなっておもってたんだけど……」
「へぇー、王族流石だな。でも一回生の時からあんなんだから、もう誰もよりつかねぇんじゃね?」
「そうなんだ……」
「挨拶までいければいい方だぜ? 二言めにはプライドズタボロにしてくるから、みんな近づけやしない」
突然黙り、真剣に考えている王子に、ヴァルサスは驚いてしまう。ククリールのあの態度は入学時から変わらず、周りはもう「そう言うもの」だと認識し、誰も気にしていなかったからだ。
「あんまり良くないよね。僕、ここに通う生徒は、みんな学生だからいいのかなって思ったけど、自分の影響力をしってるのに皆へ酷いこと言うのはどうなのかな……」
「まぁ、確かにそうだけど貴族ってそう言うもんじゃねえの? 捻くれ者いるじゃん」
「社交界のそう言う人は、大体理由があるんだよね。身勝手な人もいるけど、でもそれはあくまで社交界だから、それを学生にやるのは、圧力をかけてるように思われても仕方ないと思う」
「圧力?」
「シルフィとかほかの公爵家の皆は何が言ってる?」
「ハイドランジア令嬢とは、何度か話し合ってるのは見たことあるな。でも聞いてる様子はないし、めちゃくちゃ皮肉と皮肉の言い合いでやばかったみたいだけど」
「僕なら聞いてくれるかな?」
「昨日撃沈してたじゃねーか……」
同じ位となる公爵家の言動を持ってしてもやめていないのなら、これはおそらくキリヤナギにしかできない事だ。無差別なのかは分からないが、ククリールの為にもよくはないと判断する。
「王子って実はめちゃくちゃお節介?」
「うーん。ククの場合は任命責任みたいな感覚かな……」
「王子なのに、律儀だな……」
「……そうかな? 僕、ヴァルが話しかけてくれて嬉しかったから、僕もヴァルにできることあるかなって」
「別に俺はマグノリアだの、ハイドランジアだの派閥関連が面倒だっただけだし?」
「面倒?」
「俺、一般でさ。家が普通よりちょっと裕福? でここ来てんだけど入ってみたら同類はみんな貴族ヘコヘコしてて嫌気刺してたんだよ」
「……そっか」
「王子もどっちかに寄るのかと思ってたけど、そんな雰囲気なさそうだし?」
「派閥なんて知らなかったし、今はみんな学生だけど、僕から話しかけるのは気を遣わせると思って控えてたんだ。教えてくれて助かったよ」
「ふーん、なら助けてやるから、俺の後ろ盾になれよ」
「後ろ盾?」
「俺にも色々あってさ、学生貴族のゴタゴタに巻き込まれるのは御免ってやつ、王子なら目をつけられる事もなさそうだし平和にやれそうだし」
「へぇ、そう言うことならもちろん。何すればいいのかな?」
「別に『友達』って言ってくれたらいいぜ?」
「友達……」
「王子の友達っていってくれるだけで、平和になる」
キリヤナギは嬉しくなった。友達だと思っていたククリールに振られて辛かったが、ヴァルサスの方からそう言ってくれるなら、それは間違いないからだ。
「じゃあ僕もヴァルが友達って言っていい?」
「それを頼んだんだけど……、まぁいいか」
そう言って昼食を終えた二人は、放課後に正門から帰宅しようとする彼女へと声をかけにゆく。人だかりができている通路でも道を開けられる彼女は、ヴァルサスの言う『姫』と言うあだ名も確かに間違ってはいないと思えた。
そんな彼女を追いかけて名を呼ぶと彼女は、まるで敵を見るような目で振り返ってくれる。
「何か御用かしら? 忙しいのですが」
「突然呼び止めてごめん。色々聞いて放置できないと思ったから」
「?」
「貴族や一般のみんなに、出会い頭から酷いことを言うのはやめてほしい。みんな怖がってる、ククのこれからにもよくはないと思ったから」
ヴァルサスは呆然としククリールも意表を突かれた表情をしていた。周りの生徒達も足を止めそんな3人を観察している。
しばらく言葉を失っていたククリールだが、吹き出して笑い出してしまった。
「そんな事のために? バカみたい」
「クク……?」
「私は、意図も何もしらずそうやって見栄を張ろうとする人が大嫌いなの。2度と話しかけないで下さい」
「意図? ならどうして?」
「何も考えず、注意だけしてくる人に説明する義理なんてないわ。さようなら」
とりつく島をみせないククリールに、ヴァルサスは唖然としていた。見送るかに見えた王子は、背中を見せる彼女へ即答する。
「言葉にしないと、何も伝わらない」
「……!」
「僕は『王の力』も、持っていないし、何も聞かないままククの意図的がわかるって傲慢な考えも持ちたくはない」
「……」
「どうして?」
もう一度振り返ったククリールに、周りの生徒の視線が集約する。今まで公爵家たる彼女を、ここまで問い詰めた生徒は居なかったからだ。
「言いたくありません」
「……なんで?」
「でも、そこまで仰るなら面倒なので控えます」
「……!」
「もう話しかけないで下さいな。王子殿下」
ククリールは、そう言って正門を出て行ってしまった。迎えの自動車へと乗り込んでゆく彼女を見送っていると、横のヴァルサスはにっと笑っていて背中を叩いてくる。
「王子、やるじゃん!」
「いいのかな……」
「十分だよ」
キリヤナギは、ククリールが聞いてくれた事よりも認識してもらえた事の方が嬉しかった。
*
自動車へ乗り込んだククリールは、思わず大きなため息をついてしまった。
一人が好きで話しかけられるのが面倒だっただけなのに、まさか王子から注意されるなど思っても見なかったからだ。しかし、以前話に来てくれたハイドランジア令嬢をあしらってから、本当に周りが鬱陶しく感じ、際限が聞いていなかったと反省もする。
「お嬢様、本日はお出かけと伺っておりますが」
「えぇ、レンゲ町のいつものカフェに付けて」
「かしこまりました」
今日は少しだけ用事があった。それは放課後にマグノリア公爵家の長男。アレックス・マグノリアからお茶の誘いを受けていたからだ。公爵家同士の親交もあり、安易に断る事ができず定期的に会っている。嫌いではないが好きでもない。が、彼はまともに会話ができる相手であるとククリールは認識していた。
辿り着いたレンゲ町のカフェは、貴族向けの豪華な外装をしており、小規模な東屋の立つ庭園がある。貸切テラスへ案内されたククリールは、そんな美しく整備された花壇を眺め、待ち合わせの相手がくるのを待つことになった。すると十五分ほどでククリールの元へ、カジュアルな礼装を纏う金髪の男性が顔を見せる。
「ご機嫌よう。ククリール嬢」
「ご機嫌ようアレックス。今日何か御用かしら?」
アレックス・マグノリア。ククリールと同格のマグノリア公爵家の御曹司だ。彼は向かいに座り、注文をとるとククリールへ嬉しそうに向き合う。
「授業が忙しくて、なかなか会えなかった。悪いね」
「私は別に……」
「ははは、ありがとう。でもそろそろ私の派閥に参加しないかい?」
「またその話?」
「いよいよ選挙が始まるから、君の力を借りたい」
本題が早いと、関心すらしてしまう。普段の貴族同士の会話は、挨拶から始まり簡単な近況や雑談から入るものだが、アレックスは「それ」に煩わしさをもつククリールへ配慮してくれているのだと受け取った。
「それは私にとってどんなメリットがあるのかしら?」
「もちろん、快適な大学生活を保証するよ」
「具体的には?」
「そうだな。君が煩わしいと言うあの集団を解体しよう」
「容赦がないのね」
彼は貴族らしい貴族だ。その在り方は誇り高く、約束は必ず守ってくれる。しかし、同時に切るべきものを切る冷酷さも兼ね備えていた。
「ふーん。なら一応聞くけど、生徒会長候補としてどのような思想をお持ちなのかしら?」
「あぁ、今現在この学園はどんな家であっても平等だとされているが、一般には一般の、貴族には貴族のあり方で『区別』すべきだと私は思っている」
「それ『差別』ではなくて?」
「『区別』だよ。彼らはこの国に住む民であり、我々貴族は、そんな彼らをまとめなければいけない。その違いこそ学生の時に学ぶべきだと思っているが、どうだい?」
ククリールは黙りながらも複雑な感情を得ていた。貴族は確かにそうだ。王に与えられた領地を収め、人々の導き手となり運営してゆかねばならない。しかしククリールは、それは『区別』されるべきではないと思っていた。領主は民から税金を徴収するが、その税金で土地を開拓しながら整備をして人が住める土地へと整える。そして災害や外敵から人々を守る為に対策し、兵を派遣する。
カレンデュラ領は、敵国と隣接していることから、国境沿いの警備を厳重に行ない夜も見回りを行っている為に、ククリールは領主と民は「持ちつ持たれつ」の関係であると思っていた。
民があるからこそ領主が栄え、領主は民の暮らしの安全と生活を守る。だからそこに、地位の差はあっても権利の差は生じない。
このアレックス・マグノリアは『差別ではない』としながらも、その考えは明確な『支配』に近いのではとククリールは感想していた。
「アレックスは、一般平民の皆様をどう思ってるの?」
「大切な『民』だよ。でもここの学生は傲慢すぎる。どちらが偉いかはっきりさせなければ大学を出た時に苦労するだろう」
「上から目線すぎない? 私達は公爵でも、人の為にこの立場にいるのよ?」
「そうだね、王の為に土地を平定しなければならない」
「呆れた……。申し訳ないけど、貴方の考えには賛同できません。他当たってくださいな」
そもそも選挙など興味はない。しかし、アレックスを会長にしてはいけないとククリールは思った。この学校は、王立であることもそうだが、公爵家の税金や寄付金により運営されており、その御曹司が学園に通う事で必ずしも影響が出ないとは言いがたいからだ。
学生選挙によってアレックスが選出され、理事長や運営部にそれが「学生の意思」とされたなら、圧力が掛かる可能性がある。また、公爵令嬢たるククリールがつくことで、「公爵家が支持した」と示されれば、生徒の大半を占める一般平民の意見が、其方に寄る可能性もあるからだ。
席を立ち帰ろうとした時、残されたアレックスが口を開く。
「そうか、なら王子にでも声をかけてみよう」
思わず体が止まった。先程のことを思い出し、振り返る事なく続ける。
「お好きにどうぞ、私は帰ります」
「気をつけて」
ククリールはそう言って店を後にする。
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