第6話 夏に備えて
グレイがギルドマスターになって2ヶ月が過ぎた。季節は春の終わりでこれから夏を迎える。エイラートが1年で最も賑やかになる季節だ。
アル・アインの各地から避暑目的でお金持ちや旅行客がやってくる。冒険者も同様だ。そして人が集まればトラブルの種も増える。グレイが冒険者の時から夏場はエイラートの衛兵と冒険者が合同で市内の巡回や警備をしていた。
この日グレイは夏の警備について衛兵と打ち合わせをするために職員2名と一緒に領主の館に向かっていた。
館に着くと領主の住居とは反対側にある棟、役人らがいる執務棟の廊下を歩いて大きな会議室に入る。そこには既にエイラート守備隊の幹部達4人が座っていた。
「遅れて申し訳ない」
そう言って着席するグレイ。中央にグレイが座りその左右に職員が座る。
「いや、まだ時間前だ。それにしても久しぶりだな、グレイ。お前さんがここのギルドマスターになるって聞いたときはびっくりしたぜ」
グレイに気さくに話かけてくるこの男はエイラート守備隊の責任者であるリッキー。グレイとは以前から顔見知りの男だ。
「リチャードに上手く丸め込まれたって感じだよ」
「どっちにしても守備隊から見ればグレイがギルドマスターだと仕事がやりやすい」
「あんまり期待すんなよ。こっちはがさつな冒険者なんだからな」
軽口を叩きあったあと打ち合わせが始まった。打ち合わせになるとグレイの左右に座っていた職員とリッキーの左右に座っている騎士、実務者同士で話しが進んでいく。グレイもリッキーは黙ってそのやりとりを聞いているが時々質問や確認をする。
「ギルドでは今年はどれくらいの冒険者が外から来ると見てるんだ?」
リッキーの問いに職員が答える。
「外から来る冒険者の数は昨年並みと見ています。ただしここ数ヶ月で新たにエイラート所属になった冒険者がおりますので総数は増えていますね」
「グレイがギルマスになって増えたってことか。人徳だな」
職員の言葉を聞いたリッキーがニヤリとして言う。
「そんな訳ないだろう。たまたまだよ、たまたま」
グレイが言うと両隣の職員が向かいに座っている守備隊のメンバーにリッキーの言ってる通りだと言わんばかりにグレイの言葉に首を左右に振っていた。
「貴族区は従来通り守備隊が巡回する。商業区は冒険者で、居住区や公園はどうする?」
リッキーが聞いてきた。
「以前と違ってスラム地区も今はない。貴族区以外は自由に動けるだろう。となると俺達ギルドがクエストとしてBランクより上の連中に巡回させた方が良さそうだ」
「やってくれるか」
とリッキー
「問題ないな」
グレイはそう言ってから両隣の職員に聞くと彼らも問題ないでしょうと言う。
「万が一犯罪者が出た場合には城門や市内の各所にあるおたくの詰所にいる騎士に連絡する。あとは任せるというのでよいか?」
「こっちはそれで問題ない。城門も詰所もこの時期は忙しくなるから増員する予定だ。あとは不定期になるが守備隊も居住区は巡回することにしよう」
「そうしてもらえると助かる」
その後は事務方同士で細かい打ち合わせとなりグレイもリッキーも黙って聞いていた。打ち合わせが終わると双方が立ち上がって
「この時期はいつも大変だがよろしく頼む」
リッキーがそう言うとその言葉に頷き、
「こっちこそよろしく頼む」
グレイが言って打ち合わせが終わった。会議室の扉を開けて先に守備隊の連中が部屋を出ていき、続いてグレイらギルドのメンバーも部屋を出ると廊下にいた職員がグレイに声をかけてきた。
「領主様が話があるそうですのでこのまま領主の部屋に来てもらえますか?」
わかったというグレイ。一緒に来た職員には先にギルドに帰ってくれと言って一人で廊下を歩き一番奥にある領主の執務室をノックする。
「打ち合わせは終わった?」
「ああ、今終わったところだ」
エニスが勧めるソファに座ると給仕の女性がジュースを持ってきた。彼女が部屋を出ると、
「どうだい?慣れた?」
と聞いてくるエニス。
「ギルド職員が優秀なのが多いから助かってるよ。エニスの周りにいる官僚達と同じだな。スタッフが優秀だとこっちは助かる」
「俺達、ちょっと前まではこんな仕事するなんて夢にも思わなかったよな」
「全くだ。今でも半分信じられないくらいだからな」
そう言って笑う二人。
「さっきまで例の夏場の巡回の打ち合わせをしてたんだろう?」
エニスの問いかけにそうだと答えるグレイ。
「それで毎年やっている城門を開放して市民が城壁の外を散歩できる様にする件だけど、今年もやるつもりなんだ」
「いいんじゃないか。あれは確かランクCクラスの連中にとっては良いクエストになっているはずだ」
エイラートではエニスのアイデアで夏の間城門を開放して市民が外側を散策できる様にしている。これは市民には好評で普段出られない城門の外に出て散歩する市民が多くいる。一方冒険者、特にランクCクラスの冒険者に取っては市民の散策エリアの巡回クエストは人気があった。滅多に魔獣が出ず、出てもランクDクラスの魔獣ということでランクCの冒険者で十分に対応が可能でありクエストの取り合いになるほどの人気になっている。
「じゃあ今年もやるってことで。後で正式に領主名でクエスト依頼票を出すよ」
「頼む」
その後は雑談となった。グレイが
「エニスが息抜きしたいってのならいつでも言ってくれよ。事前に連絡をしてくれれば閉めてる酒場を開けるからな」
「本当かい?そりゃいい話だ。正直グレイの酒場が閉まって行く所がなくて困ってたんだよ」
エニスは本当に困っていた様だ。今の話を聞いて表情が一変した。
「酒はあるし定期的に掃除はしてる。いつでもOKだ。エニス一人でもいいし家族で来ても大丈夫だ。子供はうちの子供達と遊ばせときゃいいからな」
「そうだな。是非寄せてもらうよ。行く時はオーブで連絡入れる」
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