第7話 裏の打ち合わせ

 エニスとの面談を終えたグレイは領主の館を出て貴族区から商業区に入ると冒険者ギルドには向かわずに別の通りを歩いていく。そうしてしばらく歩いてから1軒の建物の前で足を停めた。その建物の扉の左右には二人の男が椅子に座っていたが近づいてくるグレイを見ると二人とも立ち上がった。


 グレイは扉に近づくとその左右に立っている二人の男達を見て、


「会う約束はしていないんだがいるかい?」


 と顔を扉の向こうに向けて聞いた。


 いらっしゃいますと言って立ちあがっていた男の1人が扉を開ける。中に入ると別の男が立っていてその男について建物の奥に進んでいき、1番奥の部屋の前で立ち止まった。


「グレイさんがいらっしゃいました」


 案内した男が言うと中から入ってもらってくれという声がする。どうぞと扉を開けて貰ったグレイが中に入ると机に座っていた大きな男が立ち上がってグレイに近づいてくるとどっかとソファに腰を落とした。


「久しぶりだな、グレイ。どうだ?ギルドマスターの仕事には慣れたのか?」


「ぼちぼちだよ。あんたみたいな貫禄はまだないけどな、ブレッド」


 ブレッドは裏社会の顔役の一人だ。今このエイラートにスラム地区は無い。以前に目の前にいるブレッドとあと二人の顔役からスラムの再開発の依頼を受けたグレイはすぐに領主のエニスに話を通した。そしてスラムの再開発が始まった。


 今では薄汚かったスラムは完全に取り壊されてこの地区は今は綺麗なアパート群や公園そして教会や病院まである。住民も元々スラムに住んでいた住民以外にも住んでいる人がおり見る限り過去のスラムの面影はどこにもない。


 ソファに座ったグレイは前に座っているブレッドを見ながら話を始めた。


「これから夏場になって旅行者や冒険者が大挙してこのエイラートにやってくる。あんた達にとっても稼ぎ時になる」


 その言葉に頷くブレッド。スラム地区は無くなったとはいえ顔役の3人は今でもエイラートの裏社会を仕切っている。娼館や一部の飲み屋、レストランを経営し、経営していないレストランや飲み屋や露店などからはみかじめ料を集めている。あとは市内の清掃やどぶさらいの仕事も彼らの会社が役所から元請している。


 そうは言ってもみかじめ料で暴利を貪っていないのはグレイは知っていた。店側も金額で妥協している時点でグレイはそこに口を出すつもりはない。


「トラブルがあったら困るのは市民だけじゃない、経営してる側だって被害を被ることがある。ってことでその辺の情報を共有したいと思ってな」


「なるほど。タチの悪い冒険者が地方からやってきて好き勝手されるとこっちも困るからな」


「その通りだ。タチが悪いだけじゃなく酒癖や女癖の悪い奴らもいるだろう。そういう冒険者ついては問題がありそうな奴らについてはこっちからあんたらに情報を流す。そっちからも逆に気づいた情報を貰いたい」


「確かにな。普段は真面目でも酒が入ると性格が変わる奴らは大勢いる。金に汚い奴らもいるだろう。そういう情報を流せばいいんだな」

 

 ブレッドの言葉にその通りだとグレイ。


「市民や普通の冒険者がとばっちりを喰らうのは避けたい」


「わかった。俺からジミーとソロにも言っておこう」


「頼む」


「それとこれは別の話になるが」


 とグレイが言った。何だという目をするブレッド。


「冒険者じゃなくてあんた達のアンテナに引っかかるヤバそうな奴が街に入ってきたら教えて欲しいんだ。もちろんそっちの世界でケリをつけ、こっちに言う必要のない事まで言ってくれとは言わない。俺が知る必要があるとそちらが判断した場合だけで結構だ。これはこっちからの依頼になるんで報酬を出す用意がある」


「ヤバそうな奴?」


 片方の眉を吊り上げたブレッドが聞いてきた。グレイは頷くと、


「詐欺師とか闇の奴隷商人とかだな。表の顔は違うだろうがそういう奴らを見つけたら教えて欲しい。あんた達なら裏のつながりで他の都市の情報も手に入るだろう?」


 ブレッドは聞きながら流石にグレイだと感心していた。自分達の様な裏世界の人間は常にアンテナを張って情報を入手する。ババ抜きでいうところのババを引かない様に普段から他の街の裏社会とは情報交換をしているし当然自分達でも独自の情報網を持っている。普通なら事が起こってから対処しようとするが裏社会では事が起こる前に対処するという考え方をする。したがって情報収集には皆力を入れている。


「役所なら事が起こるまでは何もしないが、グレイはそうじゃないんだな」


「冒険者の経験からかな。事が起こる前に何が起こりそうかを知っておけば対応しやすい」


「確かに。わかった。それも協力しよう。お前さんやリズ、領主にケリーと最強の元勇者パーティがこの街にいるから力技で来るやばい奴はエイラートにはこないと思うが冒険者じゃない商人や旅行者の成りでこの街にきて何かやってやろうって考えている腹黒い奴はいるからもしれないな」


「そういう事だ。冒険者がらみだとこっちで対処できるが商人、旅行者となると奴らが何かしない限りこっちからは手を出せないからな」


 グレイの言葉に頷くブレッド。


「ジミーとソロに話をした結果はあんたに言えばいいか?」


「そうしてくれ。ギルドでも自宅にでも手紙か伝言してもらえれば結構だ」


「それでやばい奴が入ってきた場合にはどうするんだ?」


 ブレッドが聞いてきた。


「そこはあんた達と相談して決めようと思ってる。裏で処分するのか表で処分するのか。裏でやるとなったらこっちは口出しするつもりはない。表なら領主のエニス経由で衛兵に任せるつもりだ」


 話し合いが終わってグレイが部屋を出るとブレッドは側近を呼んですぐにジミーとソロと3人で会いたいと伝えろと指示を出す。


 グレイがブレッドに会った5日後にギルドにいるグレイの元に1通の手紙が着いた。グレイが封を切って中を見ると手紙には短い文章が書かれていた。



= 話はついた。JもSも問題ない。もちろん俺もだ。それから報酬と言ってたがこの件についてはそれは不要だ。こちらは3人共お前さんには大きな借りがあると思っている。それを少しずつ返していると理解してくれ。B =

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