第2話 ギルマスからの依頼
勇者パーティの仲間で勇者でもあり今はここ辺境領の領主をしているエニス。彼の奥方のマリアが子供を産んでから1年ちょっとが過ぎた頃にリズが双子を産んだ。
その年は普段より雨や霧の日が多く、2人が産まれた日も霧雨だった。グレイとリズは相談して男の子をレイン、女の子をミスティと名づける。エニスからはわかりやすい名前だと言われたが、その時にグレイは、
「そっちだってエニスのエとマリアのマから取ったエマーソン、俺たち以上にわかりやすい名前じゃないか」
と言い返す。
エニスによると女の子だったらエマ、男の子だったらエマーソンと決めていたらしい。
2人を産む前、妊娠してからはリズは酒場には出なくなりグレイが1人で酒場を切り盛りしていた。元々酒しか出さない店だ。カウンターだけのBARならグレイ1人で十分にやりくりできる。
ただ出産後は双子だったこともありリズ1人で子育てはきついということでグレイと2人で子育てを始めると夜の酒場は休業日が多くなっていった。
「そろそろ店を閉めようかと思ってるんだ」
ある夜子供が寝た後でリビングで話をする2人。
「いいの?酒場の親父っていうのがグレイの夢じゃなかったの?」
「もう十分に楽しませて貰ったよ。それに子供が大きくなって手がかからなくなった時にまたやりたいと思ったらやればいい。元々金儲けで酒場をしてる訳じゃないしな」
そうしてお店は一旦閉めることにする。2人は双子の子供の子育てに生活の軸足を置いた。酒場はもちろん冒険者の活動も一旦休止した。引退ではなく休止にしたというのは当時のギルマスのリチャードから引退を強く止められたからだ。従いグレイもリズも今でも所属はエイラートのSランクの冒険者のままだ。
双子が産まれてから5年が経った。グレイもリズも30代になり2人の子供も順調に育っている。
子供の相手をし、子供を連れてエイラートの市内で買い物をする。グレイが庭で魔力を鍛える訓練をしていると見よう見まねで真似をしていた2人に魔力の貯め方を教え初めると時にはリズも一緒になって2人の子供に魔法の基礎を教えたりと4人の生活は以前とは様変わりしていた。
そんな日々を過ごしていたグレイとリズ。今から2ヶ月程前の雪が溶け始めた頃に、ギルマスのリチャードがふらっとグレイの家にやってきた。
「久しぶり」
「お久しぶりですね」
グレイに続いてリズが挨拶をすると、リズの足元にいた2人の子供も
「おじさんこんにちは」
「おじさんこんにちは」
頭を下げて挨拶をする。
「おおっ、ちゃんと挨拶できるんだな。いい子達だ」
玄関で2人の子供の頭を撫でるリチャード、撫で終わると立ち上がってグレイに話があるんでこれからギルドに顔を出してくれないかと言う。
グレイはリチャードと一緒にギルドに顔を出した。ここも久しぶりだ。グレイが中にはいるとその場にいた冒険者が一斉にグレイを見る。
「大賢者グレイだ」
「相変わらずの雰囲気だな」
そんな声を聞きながらリチャードの後に続いてギルドマスターの執務室に入ると受付嬢がジュースを持ってきてテーブルの上に置いて部屋を出ていった。
2人だけになると、
「グレイ、お前ここのギルドマスターをやってくれないか?」
いきなり言うギルマス。
「ん?なんだって?」
一瞬何を言われたのかわからなかったグレイは間の抜けた声を出した。
「お前にこのエイラートのギルドマスターをやってくれないかって言ったんだよ」
呆けた顔をしていたグレイが真顔になると目の前のリチャードを見て言った。
「おいおい、昼間っから酔ってるのか?ここのギルマスはあんただろう?タチの悪い冗談だぜ、笑えないな」
「それが冗談じゃないんだよ」
そう言ってギルマスのリチャードが話しだした。
冒険者ギルドは現在王国内の主だった都市にある。そしてそれらを統括しているのが王都ギルドのフレッドだ。一応王都ギルドのギルドマスターという地位にいるが実質的にはこのアル・アインの冒険者ギルドの頂点に立っている男だというのは関係者なら皆が知っている。
「そのギルドなんだがな、今度王都にギルドの総本部を作ることになったんだよ。今までの様に各都市が独立してやっていく事には変わらないがギルド全体の方針を決めたり情報を流すにしても問い合わせるにしてもいわゆる冒険者ギルドとは別にきちんとした本部があった方が全体として動きやすいという事になってな」
リチャードの話を黙って聞いているグレイ。
「それで新しく総本部を王都に作るに辺り、そこの代表として王都のギルマスのフレッドがなる事になったんだよ。奴は今まで実質的にギルドの頂点にいた男だ。適任であるのは間違いない。どこのギルドも奴を代表に推薦してきたよ」
尤もな話だ。フレッドの能力と性格は冒険者のみならず他の都市のギルドマスターからも高い評価を受けているのは周知の事実だった。
「フレッドが代表になるのはいい。だが、となると王都ギルドのギルマスは誰が引き継ぐんだという話しになってな。どう言う訳か俺が指名されたんだよ」
これもグレイには理解できる話だ。アル・アインの冒険者ギルドでフレッドの次のNO.2はここエイラートのリチャードであるってのも周知の事実になっている。
「なるほど。それであんたは王都に転勤する。エイラートのギルドマスターが不在になる。ここまではわかった。それでだ」
と一旦言葉を切ったグレイ。
「そこでなんで俺なんだよ?こっちはもう半分以上引退してるロートルだぜ?他にイキがいいのがいっぱいいるだろう?」
「いや、いない」
グレイの言葉をバッサリと切り捨てるリチャード。そして身を乗り出してグレイを見て言った。
「いいか。ここエイラートは冒険者のレベルも高い奴らが多い。Aランクの奴らは当然俺が一番強いって思ってる奴らばかりだ。そんな奴らに睨みを効かせることが出来るのはそいつらより上の、Aランクの誰が見ても自分達には敵わないと思わせることができる奴じゃないとここは務まらない。それが出来るのはSランクのグレイ、お前さんだけなんだよ」
「勘弁してくれよ」
心底嫌な表情をしてグレイが言うがギルマスのリチャードはそんなグレイの態度はどこ吹く風で話を続ける。
「お前さん達勇者パーティの全員がこのアル・アインのみならず大陸中で最強の連中だ。冒険者をやってる奴らだってランクSの元勇者パーティだけは別格に見ている。お前らにはどうやっても勝てないってのもわかってる」
「だったら俺以外の奴らにやらせりゃいいじゃないかよ」
「お前さん以外に誰がいる?」
言葉に詰まるグレイ。リチャードはニヤリとして
「エニスは領主様だ。そしてケリーは魔法学院の教師だ。そしてリズは双子の子供の世話で大変だ。グレイ、お前さんだけが暇してるんだぞ?」
「暇ってことはないぞ?」
ムキになるグレイ。
「暇だろうが。酒場はずっと休業だ。子供ももう5歳だっけ?そろそろ手がかからなくなってくる時期だ。リズ1人で昼間は十分相手ができるだろう」
「ぐぬぬ」
返す言葉がなくて唸っているだけのグレイ。リチャードがダメ押ししてきた。
「なぁに、ギルマスたってやることはそんなにない。普段の仕事は周りの職員達にぶん投げてれば彼らが上手くやってくれる。出来上がった書類に目を通してサインすりゃ終わりだよ。それよりグレイがギルマスにいるって事だけでギルドが締まるんだよ」
「リズと相談させてくれ」
少しの沈黙の後グレイが言うと当然だなと言うリチャード。
「3日以内に返事をくれ。引き継ぎやらお前さんを次のギルマスに申請する作業など仕事が待ってるんだよ」
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