第3話 仲間達

 その日グレイは家に戻るとリズに話をした。最後まで黙って聞いていたリズ。グレイの話が終わると


「いい話じゃない。グレイにぴったりよ」


「いいのかよ?」


 あっさりOKするとは思っていなかったグレイはびっくりする。


「もちろんよ。レインもミスティも以前程手がかからなくなってきてるから昼間なら私一人で大丈夫。それにグレイはこの街で有名だし冒険者の中にも慕っている人が多いし。グレイがギルマスをやったらエイラートのギルドも安心だね」


「そう簡単に言うけどさ、俺が人の管理とか書類仕事とか出来ると思うか?」


「思う思う。全然問題ないわよ」


 あっさりと言われてそうなのかなと呟くグレイ。


 リズはグレイの性格を知っている。知り尽くしていると言ってもいい。面倒臭いとか勘弁してくれとか言いながらも仕事はいつもしっかりとやる。要領もいい。お金にもクリーンだ。何よりグレイには人望がある。当人が思っている以上にグレイは周囲から好かれる人物だ。彼を嫌っているという人をリズは見た事も聞いたこともない。今ではスラムの顔役の連中とも普通に仲良くやっている。こんな人は見た事がない。もちろんリズは今でもそんなグレイの事が大好きだ。


「後進の指導も自分達の仕事だっていつも言ってたじゃない。グレイならギルマスの仕事も問題なく出来るわよ。私が保証する」


「リズにそこまで言われたら受けるしかないじゃないか」


「受けたらいいじゃん。それとギルマスに返事をする前にエニスとケリーにも言っておいた方がいいわよ。後から知ったらあの二人絶対に水臭いとか言って拗ねるから」


「確かにな」


 グレイがそう言うと隣に座っていたリズがグレイに寄り添って抱きついてきた。グレイの胸に顔を埋めたままリズが言った。


「家で子供の世話をしているグレイも好きだけど、それだけじゃあ勿体無いっていつも思ってたの。グレイはね、もっと外でいろんな人の為に頑張って欲しいの。そして夜は私や子供たちと一緒にいてくれたらいいの」


「わかった。やってみるよ」


 抱きついてきているリズの背中を撫でながら答えるグレイ。


 

 翌日グレイとリズ、そして子供二人は自宅を出ると市内を貴族区に向かってブラブラと歩いていた。グレイは左手をミスティの右手と繋いで歩き、リズは右手をレインの左手と繋いでいる。


 すれ違う人や露店の人と言葉を交わしながら通りを歩いて4人が貴族区に近づくとそこに詰めている衛兵がゲートを開けた。グレイとリズ、そしてケリーの3人はいつでもフリーパスだ。


「悪いな」


 ゲートを潜りながらグレイが言うと


「「おじさん、ありがとう」」


 二人の子供がゲートを開けた衛兵に頭を下げて礼を言うとゲートを動かした衛兵から笑みが溢れる。


 そのまま貴族区を歩いて一番奥にある領主の館に来るとそこでも2人、いや4人を見つけた衛兵が館のゲートを開けた。子供たちがさっきと同じ様にお礼を言って敷地の中に入っていくと扉の前に職員が立っていた。


「いるかい?」


「皆様いらっしゃいます。こちらにどうぞ」


 そう言って職員の後に続いて領主の館に入って一番奥の部屋にいくと前を歩いていた職員が扉を開け、


「グレイさんとリズさん一家が来られました」


 事前にオーブで連絡をしておいたので部屋に入るとそこにはエニス、マリア、そして彼らの一粒種のエマーソンが4人を待っていた。


「エマーソンのおにいちゃんだ」


「おにいちゃんだ」


 レインとミスティがエマーソンを見つけてそちらに近づいていくと二人より年上のエマーソンも近づいてきて3人で部屋の隅にあるおもちゃの方に走っていった。


 それを見てからソファに座る4人。エニスとマリアの向かいにグレイとリズが座るとすぐに給仕がジュースを持ってテーブルの上に置く。


「エマーソン君もまた大きくなったわね」


 部屋の隅で遊び始めた子供を見てリズが言う。


「この年頃って成長が早いわね。リズの双子も大きくなってるじゃない」


「そうなのよ。服や下着を買い替えるのが大変」


 4人でしばらく子供たちを見てから視線を戻すと


「何か面白いことを見つけたのかい?グレイ」


 エニスが聞いてきた。


「面白いというか何と言うか。とにかくエニスとマリア、そしてケリーには話をしておかないといけないってリズが言うからさ」


 そう言って自分がエイラートの冒険者ギルドのリチャードから後任をやってくれと指名された話をその背景から説明していく。黙って聞いていたエニスとマリア。グレイの話しが終わると、


「いい話じゃないか、グレイ。受けてくれよ。グレイがここのギルマスになってくれるのならこのエイラートの冒険者ギルドも安泰だよ。こっちも仕事がしやすくなる」


 エニスが言う。


「そうね。グレイがギルマスになってくれたら今以上にエニスもやりやすくなるわね。今のリチャードもすごくいい人なんだけどやっぱり貴族相手ってことで気をつかっているのがわかるのよ。こっちはそんなに気を使わなくてもいいと思ってるんだけどね」


 エニスに続けてマリアが言った。そしてマリアはリズを見て


「リズはオッケーしたの?」


「もちろん。大賛成したわよ。幸いに子供たちにも手がかからなくなってきているしグレイには子供達の面倒を見る以外にもっとやることがあると思っていたから」


「リズにそこまで言われたら断れないよな」

 

 エニスがグレイを見て言う。


「そういうことになるな。俺にギルマスの仕事が務まるかどうかは分からない。正直自信があるわけでもないがリズから後進の指導も俺達Sランクの仕事だって言われてさ、やってみる事にしたよ。ダメだったら途中でごめんなさいするつもりだけどな」


 グレイはそう言うが話を聞いている3人は責任感が人一倍強いグレイが仕事を途中で放り出すことはないだろうと思っている。


「これからケリーにも報告をしてからギルドに顔を出して返事をするつもりだ。正式に決まったら今度は公式に挨拶にくるよ。それが式たりらしいからな」


「グレイの口から式たりって言葉が出てくるとはな。丸くなったもんだ」


 エニスが茶化して言う。


「お互い様だろう?俺もお前も歳を食ったんだよ」


 その後雑談をして領主の館を出ていったグレイ一家。エニスはさっきまでグレイらがいた部屋のソファに座ると隣に座ったマリアに言う。


「周りがグレイを放っておかないんだよ」


「そうね。あれほど優秀な人はそうはいない。ギルドマスターならぴったりじゃない?」


「そうだね。当人が思っている以上にグレイは人望があるし何より能力がある。これからエイラートの冒険者ギルドは発展すると思うよ」


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