そぉおおい!!!!
王は頭を抱えていた。
妻である王妃は頭が悪く、何も考えずに感情のみで行動する。
今も突然詰め寄られ、何も考えていないのがよく分かる事をひたすらに捲し立てられていた。
「何故王子を廃嫡したのですか! 可愛い我が子に、なんという仕打ちを!」
甲高いヒステリックな声が頭痛に響く。
どうしようコイツ、めんどくさい。
それが王の本音であった。
愛が無い政略結婚とはいえ、長年連れ添った夫婦である。
子供だって全部で三人もいて、円満夫婦だと言えるだろう。
故に、多少なりとも情はあるし、好意的な部類にも入っている存在だ。
だがしかし、王妃のこの短絡的な言動は、どれだけ時が経とうとも、王には許容出来ない部分であった。
「本当にお前と王子はよく似ていたのだな」
「突然何の話ですか! そんな事当たり前です!
まさかここまで短所が似ているなど、誰が思うだろうか。
己の都合の良い部分しか見えず、それ以外は悪だと思い込む。
王はコメカミを指で押して解しながら、息を吐き出した。
「お前がなんと言おうと、王子の処遇は変わらん。奴はそれだけの罪を
「だからと言って廃嫡など! 王子が悪い事をしたのなら叱れば良いだけではありませんか! そんなの厳し過ぎますわ!」
「事は叱るだけで済む問題ではない! 国を預かるべき王となるはずの者が! 罪も無い者を追い詰めた! 叱られるだけで済ませられるか!」
「そんなの、疑わしく思われるような行動をした方が悪いのではありませんか!!」
堂々と言い放たれた王妃の言葉は、王の頭痛を更に加速させた。
「つまり、疑わしい行動をした者は
「そうです! そうすれば冤罪等も生まれない、平和な世になりますわ!」
「本気で言っているのならば正気を疑う言動だが、理解しているか」
「では、他にどうしろと言うのですか!」
キャンキャンと吠え立てる喧しい子犬のように、矢継ぎ早に発される言葉は、王の頭蓋に突き刺さるかのごとく、不快だった。
「……もういい、下がってくれ」
「何故ですか!逃げないでください!」
「下がれと言っているだろう!!」
王の恫喝で王妃はビクリと身を竦ませ、それから何か物言いたげに顔を歪めた。
眉間に皺を寄せ、口惜しそうな表情を隠す事もせずに、無理矢理に言葉を飲み込んだらしい王妃が、憎々しげな低い声を発しながら口を開く。
「……そう、分かりました、失礼致しますわね」
そう言って、ようやく執務室から去った王妃に、王は盛大な息を吐き出した。
「離婚したい……」
微かに呟かれた声は、なんだか物凄く疲れていた。
誰も居ない廊下の突き当たり。
そこで、王妃は周りを確認した後に声を発した。
「誰かある!」
「はっ、ここに」
どこからともなく聞こえる声に、王妃の口元が醜く歪んだ。
「薬を用意なさい」
「……それは、どういった?」
「決まっているでしょう、以前も使った、アレです」
「かしこまりました、王妃殿下の御心のままに……」
王族には子飼いの影が存在する。
彼等にとっては、主の命令は絶対であり、逆らってはいけないものである。
そして、影は駆ける。
勝ち誇ったように笑う王妃の声を背に、溜息を零しながら。
********
キラリと陽の光を反射させながら、俺はそれを天高く掲げる。
「やっっっと出来たぁ! プロトタイプだけど多分これならきっと行ける!」
あれから何度か試作を重ね、それっぽい翻訳魔法を完成させた俺は、それを銀の腕輪に搭載させる事に成功したのである。
翻訳された文字が腕輪の表面に浮かび上がる、簡単に言うと昔懐かしいニャ○リンガル的なアレだ。
どれくらい昔だったか細かい年数は忘れたけど犬語翻訳機流行ったよね、あれの猫版的なやつだ。
俺は当時、確か学生だったような気がするから買えなかったみたいだけど、猫版も出てた思い出はある。めっちゃ欲しかった。
なおこれは声から発された感情を元に、一番近い言葉を選んで、翻訳してくれる優れ物、になっている筈だ。
俺の計算やらなんやらが上手くいっていれば、問題無く翻訳出来る筈である。
俺は意気揚々と振り返った。
「さあクロ! なんか俺に言ってみて! ほら! ほら!ねえ!クロ! お願い!喋って! なんか喋って!ほら!」
床に敷かれた大きめのクッションの上で丸くなりながら日向ぼっこしているクロに向かってスライディングで近寄った俺は、両手で掲げた腕輪をクロに近付けつつ、声をかける。
ちょっと埃が舞った気がしたけど、そんなんはどうでもいいのでスルーだ。
それよりも猫語翻訳魔法具なんですよ!
さあクロちゃん!いつものお喋りを発揮するんだ!!
だが、そんな俺をちらりと一瞥したクロは、そのまま俺からふいっと顔を背けた。
「……………ふぁああ」
「んんん!?アクビ!? えっ、アクビ!? いや可愛いけど!! 可愛いけど違うんだ!クロ! お願いだから! お願いだからなんか言って!ほら!」
ポスポスとクッションを軽く叩きながら根気よく声を掛け続ける。
すると、ふんー、と鼻から大きな溜息みたいなものをこぼしながら、ちらりと目線だけが俺を捉えた。
それからクロは、めんどくさいというのがよく分かる顔で、ようやく口を開いてくれた。
「……………なぅー」
「うっほぅ! なぅー頂きました! さぁてなんて言ったのかなクロちゃんは!」
“ごはん”
「…………………ん?」
えっ?
待て待て、どういう事だ。
もう一度腕輪を確認する。
が、何度見ても変わる事無く、角度を変えても何をしても“ごはん”としか書かれていない。
……いや、きっとこれは何かの間違いだ。
そう判断した俺は、次のクロの言葉を待つ事にした。
「なぅなー」
“ごはん”
ごしごしと目をこすり、もう一度確認する。
結果は変わらない。“ごはん”だ。
「あぅんにゃんにゃ」
“ごはーん”
うん。そうか。
「そぉおおい!!」
俺は作った魔法具を窓の外にぶん投げ、そのままの勢いでベッドまで駆けると、思いっ切りダイブして、寝た。
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