あちらの悪役令嬢は前世が猫だったようです。

それはどうだろう

「あぁ妾（わたし）の可愛いアレク、なんということでしょう……可哀想に…………！」

　濃い化粧の、丸い女。

　ふくよかな頬と、ふくよかな肉体。

　金色の髪と碧い瞳だけが王子との接点の女。

　その碧い瞳を涙で潤ませながら、その女は息子である王子を抱き締める。

「……お久しぶりです、母上」

　擽ったそうに緩くはにかみながら、どこか嬉しそうな表情の王子と、優しく息子を抱き締める母の姿は、まるで一枚の絵画のようだ。

　強く抱き締め、それによって気付いた我が子の変化に、女は悲しそうに眉根を寄せた。

「こんなにも痩せてしまって、苦しい思いをしているのね」

「…………私の事は良いのです、それよりも、エトワールが不憫で……」

「エトワール？、あぁ、新しい婚約者の事ね、アレクは本当に優しい子…………」

　まるで小さな子供を相手にするかのように、よしよし、と息子の頭を撫でながら、女は呟くように言った。

　そんな母を、息子は懇願するように見つめ、そして真剣な面持ちで口を開く。

「母上、どうか、あなたからも父上に尋ねて頂けませんか？」

「尋ねる？」

　息子の唐突な言葉に、不思議そうにオウム返しを返しながら、女は王子から身体を離した。

「そうです、父上はきっと、あの女に脅迫されているんです」

「脅迫？　……それに…………あの女、とは？」

　話が見えないとばかりにキョトンとした顔で尋ね返す母に、息子は少しだけ苛立たしげな様子を見せた。

「…………フォルトゥナイト家のクロエリーシャです」

「どうしてそう思うの？」

「父上は、私にあんな酷い事を言うような、するような人ではなかった筈です」

　息子のそんな真剣な言葉に、母である女は理解しないまま頷いた。

「………………そうね、あの人は優しい方だもの、きっと凄く辛い思いでアレクを突き放したのね」

「母上、どうかお願いします、父上の深意を探って来ては頂けませんか」

「ええ、ええ、もちろんです、妾の可愛いアレク、待っていてね、妾がきっとなんとかします」

「母上、すみません、どうかお願いします」

　嬉しそうに、安心したような顔で笑う可愛い我が子に、女はその顔を満面の笑みにしたのだった。

　王妃の筈のこの女は、元は隣国の姫である。

　政治にも詳しくなく、国同士の友好の為の政略結婚として嫁いで来た女は、なるべくしてそうなったという結果だ。

　賢しい女を隣国から送れば、内側から国を簒奪させようとしているという風に思われてもおかしくない。

　ゆえに、彼女は見目と、心の清らかさのみに重点を置いて育てられた。

　隣国の姫を側室にする訳にもいかず、彼女は望まれてお飾りの王妃となった。

　よく言えば純粋無垢、悪く言えば脳内花畑。

　スカスカの脳に詰められた少ない知識は、主にお菓子と美容に関する知識だけ。

　清らかだった筈の心は年月と共に歪み、現在は汚泥のように醜くなった。

　気に食わない事があればヒステリックに怒鳴り、物に当たり散らし、暇潰しに侍女や使用人を陥れる。

　それが誰にも咎められないのをいい事に傍若無人な振る舞いを続け、現在。

　王は逐一諌めていたのだが、悪すぎる頭が理解を放棄しているのか、一向に改善は見られなかった。

　今ではもう、王妃のご機嫌を損ねない為に、美しい男の使用人しか女の周りにはおらず、たまに同性と会うとしても何か理由を付けて拒否し、実の娘である姫とすら面会しようとしない。

　だが、王や他の王子には会う。

　そんな愚かな人間に成り下がっていた。

　そして、そんな母を見ながら育った長男の王子がどうなるかは、想像にかたくないだろう。

　なお、王は何をしていたのかというと、優秀な教師を付けたりなど、それなりに出来る事はやっていたし、王子とも友好な関係を築いていたので、王子の中身がアホな事には気付けていなかった。

　王子本人が猫を被っていたせいもあるだろうが、多忙な王が気付く事が出来るかと言うと、難しいと言わざるを得ない。

　王は、王妃がこれから何をするつもりなのか知る由もなく、勢いのいいクシャミをしたのだった。

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　さて、俺があれからどうしたのかと言いますと、頑張って魔法の開発してたとしか言えない。

　いや、だって構わないと拗ねるんだよクロめっちゃ可愛くない？

　俺が構わないと拗ねるんだよ？　可愛くない？　可愛いよね？

　大事なことなので二回繰り返しました。ご了承ください。

　つまり、俺が頑張って魔法構築してたら横から、ちゃいちゃい、ってしてくるんですよ可愛くない？

　それでも頑張って魔法構築しようとしたら膝に乗って来るんだよ可愛くない？

　しかも頭を俺の顎に向けて伸ばして来るんだよ可愛くない？

　足が痺れるとかどうでも良くなるよねこんなん無理だわ可愛いもん。

　いやだって可愛いもん。

　そんな感じにラブラブ生活を送ってますが、いつまでもこのままじゃアカンということで、まず洗浄（クリーン）の魔法を仕上げました。

　構造としては、皮脂や汗、その他老廃物を表皮から取り除く風と水の複合魔法である。

　いい匂いがするようにもついでにしてるので、お陰でクロは今とってもフローラルです。

　魔力消費がものすげぇけど、使うのは俺がクロにってだけなので問題は無い。

　実用化？　知らん。

　俺だけ使えたらいいよ。

　次に取り掛かったのは、なんかあった時のための準備である。

　もし脱走しても、攫われても俺には分かるようにGPS機能の付いた魔法具を作る。

　その為に必要な材料を当主さまにお願いして取り寄せてもらった。

　ちょっと大きめの紅宝石（ルビー）で、純度が高くて、綺麗なやつ。

　なんでルビーかというと、クロに似合うからに決まってるよね。

　いや紫水晶（アメジスト）や緑宝玉（エメラルド）でも良かったけど、脆いし純度が高いのが少ないのがね。

　あとやっぱりクロには赤が良く似合うからね。仕方ないね。

　それから、金剛石（ダイヤモンド）も飾りとして用意したよ。

　こっちは俺のポケットマネーというか、何で手に入れたか忘れたけど持ってたやつです。

　そして、金を使って台座を作り、宝石の方に魔法式を組み込みました。

　お陰で紅玉石の中からキラキラした魔法陣がクルクル回ってるのが見えて、我ながら凄く綺麗なものが出来上がりました。自画自賛。

　で、アクセサリーの形状ですが、前世からも慣れてるチョーカー型にしました。

　そうです、首輪です。

　黒い革、これは染めた訳じゃなく、リザードカイマンというワニっぽい蛇の魔獣から取れる最高級品です。

　これは俺が頑張って採ってきた。

　そしてそれを合わせるとあら不思議、めっちゃカッコ可愛い豪華なチョーカーの出来上がり。

　めっちゃ頑張って作りました。

　めっちゃ似合ってます可愛い過ぎる。

　なお、このチョーカーの宝石には、まだあと10個くらい魔法式が組み込めるようにしてるので、随時追加したいと思ってます。

　その為の金剛石の飾りだからね、俺まじ有能だよね。

　こないだ付けたいって思ってたのは全部付けたよ！　仕方ないよね！

　ほんで、次に何をしなきゃいけないかというと、猫語の翻訳ですよ。

　………………俺、さすがに猫語は分からんのぜ。

　ちくしょう!!!

「んなぁん？」

「なぁにクロちゃん心配してくれてるんでしゅかもうかわいいなぁもう！　ファー！　クロちゃんクロちゃんクロちゃんいい匂いする可愛いあー可愛いなにこれ可愛い」

「んぐるなぁ」

「あー、苦しかったのごめんねクロちゃんよーしよしよしよしよしよしよし」

「なぉん」

　よぉーし！　頑張るぞぉ!!