そりゃそうだ
「貴様らにも分かるように説明せねばならんのか……」
うわっ、王様すげえ面倒くさそうな顔してるよ、色んな人が見てる中で大丈夫かなこれ。
まあ、馬鹿にも分かるように説明とか、面倒以外のなんでもないから仕方ないけどね。
気持ちはとてもよく分かる。うん。
「…………リクドウインの倅よ、頼めるか」
「はっ、かしこまりました」
でーすーよーねー!!
めんどくさいもんね! 仕方ないね!
だがしかし、覚悟を決めて説明しようと言葉を捻り出そうとした次の瞬間、予想外の所から邪魔が入った。
「王様! それはダメです! ちゃんとあなたの口から説明して下さらないと、王子も納得出来ません!」
いや、それエトワール嬢が言ったらあかん。
ホントに打首にされるぞあんた、死にたいのマジで。
「そうです、父上! センの言葉など信用出来ません!」
王子まで便乗し始めたけど、それだと王様の判断全否定になるよ王子、いいの?
俺が信用出来ないのは仕方ないけど、王様が選んだ事なんだから王様を立てなきゃあかんやろ普通は。
「…………それをするには、場所を整えねばならん。
このような他国の皆様が見ている前で、これ以上の醜態を晒す訳にもいかん事くらい、阿呆な貴様にも理解出来るだろう」
「何を言うんですか父上、悪女の本性をバラし、他国の方々にも警戒して頂くのが、この国の為になります!」
いや、王子の馬鹿さしか露呈してないけど。
国の為に全くなってないけど。
頭痛のせいか、王様がこめかみを親指で解している。
そんなのを完全無視して、王子は堂々と言い放った。
「父上! いい加減に説明をお願いします!」
うん、シバきたい。
そのドヤ顔にドロップキックをかましたい。
俺が殴ったから痣とか腫れとかあるけど、無駄にドヤ顔してるから無駄に腹立つ。
なんなのマジで。
すげえドヤ顔してるけど、なんも誇れないしなんなら恥の上塗りだよ。
「……………………貴様は、婚約者が居ながら、余所の女に現を抜かした……、それは間違い無いか?」
「それは、あの女に嫌気が差していたからです、私は被害者だ!」
いやいやいやいや、ちょっとどうしようめちゃくちゃシバきたい。
堂々とやめてよそんなの。
お陰で王様すげえ大きな溜息吐いちゃったじゃん。
俺が必死で王子をシバきたい衝動と闘っていると、溜息吐きすぎて肺に無くなった空気を吸いこんだ王様が、王子を見据えながら口を開いた。
「言いたい事は山ほどあるが、幼いお前が望んだ故の婚約だ。
つまり当時、本来婚約する相手が他に居た筈の令嬢を、無理してお前と婚約させた事になる。
それがどういう事か分かるか」
「………………それは…………その……」
なんでそこで吃るんだよ王子、さっきまでの勢いどこ行ったのよ。
「公爵家は本来、王家とは婚姻関係を結ぶ事が出来ん。
権力が偏るのを防ぐ為でもあり、血縁関係が近しいからという理由もある」
公爵家といえば、王様の妹姫が降嫁したご家庭だった事を思い出した。
つまり、王子とクロはイトコ同士だったのだ。
知識にはあったけど、あんまり意識してなかったから説明してくれるのはありがたいです。
王子なんてフルボッコだドン! やっちゃえ王様! キャー! カッコイイー!
「それを、お前の為に無理を言って王位継承権8位である所を剥奪し、公爵令嬢と結婚し子が生まれた時の為に医療に力を入れたのにも関わらず、お前の我儘で白紙に戻せと」
「……っそれは、申し訳なく思いますが、このような悪女に育つ事など予測不可能です!」
シバくぞてめぇ。
「貴様の言う悪女が、前世返りをしているのにも関わらず、まだ疑うか」
「その前世返りとやらが演技で無いと言い張る根拠はなんなのですか!」
堂々と口答えする王子に、王様から本日最大の溜息が漏れた。
うん、仕方ないね。
ちなみに現在、こんな意味不明なド修羅場を見せられている
クロや王様や俺には労りの篭った優しーい視線を向けながら、今後一体どうなるのか、固唾を飲んで見守っていた。
他国の皆様ですら気の毒そうな視線を向けてくれているので、もはや王子は完全にアウェイである。
「国の重鎮や他国の王族を前に、まるで猫そのもののように演技する意味があると?」
「己の悪事を誤魔化す為以外に何があるのですか!」
この王子ポンコツ過ぎてどうしよう。
何も見えてないよ、馬鹿過ぎてもう何をどうしたらいいのか分からない。
案の定、王様はなんかもう、全てを諦めたみたいな、チベットスナギツネみたいな顔である。
漫画だけの表現かと思ってたけど、人間ってホントにあんな顔出来るんだね知らんかった。それとも王様が器用なんだろうか。知らんけど。
「……………………貴様にはほとほと愛想が尽きた。
こんな輩を次期王に据えようと考えていた己の浅はかさに泣けてくるわ。
貴様には謹慎を申し付ける。衛兵! 王子を連れて行け!」
威厳ある頼もしい声が響き渡り、扉や窓際を警備していた兵士達が、ガチャガチャと鎧の音を響かせながら王子を拘束した。
「なっ、父上! まだ途中です! 何を…………くっ! 離せ!」
「きゃあっ! 王子! 何故ですか王様! やめて! 王子に乱暴しないで下さい!」
「エトワール!」
意図せずして引き離された恋人同士の寸劇ような、なんか腹立つやり取りにこっちまでチベットスナギツネみたいな顔になりそうだ。
何この茶番。
「暫く頭を冷やし、己がやった事を
独特の呼吸法や発声法でもあるのか、それとも何か魔道具でも使っているのか。
そう告げる王様の声は辺りに響き渡った。
さすがは王様マジカッコイイマジリスペクト。
もうスタンディングオベーションでブラボー! と叫びたい。
でもきっとこれは、王様から息子である王子への最後通告だろう。
俺が大声出して雰囲気を台無しにする訳にもいかない。
「くそっ、エトワール! エトワール!!」
「いやぁああ! 王子ぃぃぃい!!」
なお現在クロが何をしているのかというと、俺に撫でられなくなったあとすぐに催促するように頭をぐりぐりと押し付けて来たので、ソッコーで頭を撫でた。
え? 王子とエトワール嬢?
知らん。
で、そこからずっと頭を撫でているからか今はご機嫌にゴロゴロと喉を鳴らしている。めっちゃ可愛い。もっかい言おう。めっちゃ可愛い。
でも俺にそんなに撫でさせてたら髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうぞクロ。
まあそんなヘマしないけどな!!
毛の流れに沿って、撫で付けるように撫でる。
もふもふでふわふわでめちゃかわである。
「んなぁーん」
はああああ!! かわいいいいいいいい!! もっかい言おう。かわいいいいいいいい!! ごめんあと一回言わせて。かわいいいいいいいいいいい!!
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