そんじゃこうしよう
傍らで俺に頭を擦り付けてくるクロの頭を何度も撫でていると、ふと王様から声が掛かった。
「リクドウイン伯爵子息、ギンセンカよ」
「はっ」
ヤバいヤバい、そういや俺に王様の前で
めっちゃクロを撫でてたよ、やっぱり俺死ぬかもしれん。
やらかしちゃったぜ! てへ!
これで処刑ってなるなら、仕方は無いけど、でも。
やっぱり、クロを置いて死ぬのはちょっと、いや、…………かなり、嫌だ。
余りにも現金な自分の変化に、思いっきり苦笑したかったけど、王様の前だから自重する。
あんだけ死にたいと思ってたのに、こんだけ俺を変えてしまうクロはきっと、前世含めて、大きい存在だったんだろう。
だが、こうなったら前世の知識とかその他色々駆使して、生き残る事を考えるしかない。
一度だけ目を閉じて、瞬きと同じ速度で開けた。
それから、王様の言葉を待つ。
「貴様には、フォルトゥナイト公爵令嬢の保護と補助を申し付ける」
………………なんですって?
それってつまり、クロと合法的に一緒に居られるって事ですか?
え?
なにそれ、なにその天国。
そんなの、受けない訳ないじゃないですか!!
「かしこまりました、拝命賜り恐悦至極にございます。
私の身命を
「うむ、多少勝手は違うだろうが、前世返りをした者の方が分かる事も多かろう、頼んだぞ」
「はっ!」
俺が前世返りしてる事は、両親が国に伝えてくれてるので王様が知らない訳が無い。
王子は、調べない人だから知らないんだろう。
まあ、前世返りした人間に、前世返りした人を任せるのは常識的に考えても当たり前の行動である。
そして、全身全霊での受け答えをする俺の胸中は、小躍りせんばかりに沸き立っていた。
テンションがMAX過ぎてもはや自分でも何か言いたいのか分からなくなる始末であるが、とにかく。
やったああああ!! クロと一緒だあああ!! ひゃっはぁあああ!!
なんとか叫び出さずに心の中だけでわっしょいわっしょいお祭りする俺。
だがそこで、王子がまたアホを発動した。
「待って下さい父上! 何故その女の肩を持つのですか!」
まだそんなん言ってるのお前……、馬鹿だとは思ったけどホントに馬鹿だなコイツ……。
前世返りを知らないってのもドン引きなのに、まだ敵視してるとか…………マジ引くわ…………。
そんな王子に、王様は冷めた眼差しを向けながら、堂々たる雰囲気で語り始めた。
「…………では王子よ、其方の望み通り、貴様とフォルトゥナイト公爵令嬢の婚約は破棄させよう」
「…………!! ありがとうございます!!」
「その代わりに、そこの男爵令嬢を婚約者とするように」
「はっ!」
そんな喜色満面で無駄に鬱陶しい王子に、王様はゴミを見るような目を向けた。
「何を浮かれた顔をしている? これで貴様の王位継承権は無くなるというのに」
「な、何故ですか! 私は父上の、あなたの第一子です!」
「今回の事はそれだけの対価が必要という事だ」
まあ、そりゃそうだ。
こんな公衆の面前で、高位貴族の令嬢に無実の罪を着せようとしてるとか、しかも、浮気しといてそれとか、王子としてアカンに決まってる。
それすらも理解出来ないらしい王子は、訳が分からない、という顔で王様をガン見していた。
「待って下さい! そんなの酷いです! 王子がクロエリーシャさんとの婚約の事を忘れてたのは、昔だから仕方ない事で、王子は悪くないです!」
効果音と付けるなら、バァーン! だろうか。
なんかそんな勢いでエトワール嬢は王様と王子の間に立った。
堂々と王様に意見し始めるとかマジで心臓に悪いんでやめてほしいんですけど。
なんなのこの子死にたいの?
「そ、そうだ、過去はともかく私はもう、あの悪女との婚約など耐えきれない、それだけです! 何故!」
王子は馬鹿丸出しなので黙ってろと言いたい。
王様の前で勝手に喋るのは普通にマナー違反なので出来ないんだよ。
王子にやってたのに王様の事は別なのか、って問いには、当たり前だろ、と答えておこう。
王子にやったのは、まあ一応緊急事態だったからだし、王族ってだけで偉いのかと言われると、実は他の生徒より偉いだけで、高位貴族よりは偉くない。
家が偉いのであって、まだ家を継いでない息子や娘はそんなに偉くないというか、なんかそんな感じのやつだと言えば理解してもらえるだろうか。
…………王子、なんでこんなアホに育っちゃったんだろう。
おかしいな、俺の知ってる王子は、……………………仕事しないお飾り生徒会長だったわ最近。
それもこれも全部エトワール嬢が中途半端に王子に関わって、中途半端に持ち上げたり都合のいいような事言って王子のアホさを引き出したからだ。
ちくしょう、どうせ早く死ぬし国がどうなろうが知らんとか思ってたからなぁ俺。
マジやらかしたわ、放置してたツケかコレ。
自業自得といえば自業自得なんだが、これが無ければ俺はクロに気付かなかった訳で、…………なんだかなあ。
なお、エトワール嬢は王様からスルーされた。
ここで王様が返答しちゃうと、エトワール嬢を無礼打ちとして罰さなきゃいけなくなるから仕方ないね。
「何故、何故、何故と、貴様は馬鹿の一つ覚えのように、尋ねる事しか出来ぬのか」
「………………どういう事ですか」
王様の呆れたような言葉に、王子は訝しげな眼差しを向けていた。
………………いや、王様は国の最高権力者なんですけど王子マジ頭大丈夫かな…………。
「貴様は一度でも考えたのか?」
「何をですか、父上」
おかしいな、ホントにどうしよう王子がヤバい。
主に頭がヤバい。
「もうよいわ、貴様には失望した」
「そんな……!」
苛立ちからか、眉間の皺と、あとついでに怒りの表情が凄い王子と、能面みたいな無表情の王様とのギャップが凄い。
「待って下さい王様! 王子は、あなたの家族じゃないんですか!?
どうしてそんな酷い事が出来るんですか! 大事な事を何も言わずに、分かれなんて、無理です!」
「エトワール……! そうです、父上、説明して下さい! どうか、お願いです」
なんかいい雰囲気にしようとしてる所悪いけど、それ、俺たちは馬鹿だよ! って言ってる事になるけど良いの?
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