それからどんどこしょ
「そうだな、こんな茶番はさっさと終わらせてしまおう」
お前がそれ言うのかよ王子馬鹿なの?
「さあ観念しなさい、クロエリーシャ・フォルトゥナイト、あなたのやった事は全て分かっている」
ごめん、俺知らんそれ。
公爵令嬢が男爵令嬢虐めたとか、そんなんエトワール嬢が傍若無人に振る舞ってたから注意してたのしか見た事ないけど、何がダメなの?
あと何勝手に呼び捨てにしてんのコイツ死にたいの?
「あなたは、この学園にエトワールさんの悪い噂を流し、孤立するように仕向けましたね」
いや、あんだけ傍若無人な事してたらそりゃ悪い噂流れるよ?
男を誘惑して侍らせてるとかの事だよね? どう見たってそうにしか見えないですけど。
婚約者の居る男子複数に好意向けられてて満更でもないとか現在進行形でそうにしか見えないですけど。
「いつまで黙っているつもりです、いい加減に己の罪を認めたらどうですか」
いや、待って待って、これホントに何?
このパーティ、卒業祝いに他国の王族とかも来てるんですけど?
この国の評判地に落とすつもりなの?
いやホントに分からん、なにこれ?
「貴様……!! いい加減にしろ!!」
痺れを切らした王子が、そう言いながら黒薔薇の君へと近付き、乱暴に腕を掴んだ、その時だった。
「フシャアアア!!」
聞き覚えのある、威嚇音だった。
髪の毛を逆立たせ、大きく口を開けながら、顔の中心へ皺を寄せて、長い爪で王子の顔面を引っ掻く、
「うわぁぁぁ!?」
突然の奇行に掴んだ手を振り払う王子と、その反動で空中に投げ出された公爵令嬢が、ハイヒールのままにひらりと四つ足での着地を決める。
ぽかんとする周囲に構わず、公爵令嬢は猫が毛繕いをするように、拳を舐め、その手で顔や頭を擦った。
一体何が起きたのか、さっぱり分からない。
分からないが、もし公爵令嬢が何らかの魔法によりこうなってしまったのなら、ここは次期王国魔術師団長の俺が何とかしなければならない。
これが国際的なテロである可能性も捨て切れないし、国の宝である公爵令嬢に何かあっては今後この王国が詰む。
俺は王子と公爵令嬢の間に立った。
「おお、セン、お前の魔法があれば百人力だ、早くあの悪女を拘束するんだ!」
「王子ちょっと黙ってて下さい、頭の悪さが露見してます」
「え?」
王子を無視し、公爵令嬢に何が起きたのかを知る為に、魔力をレーダーのように照射する。
こうする事で、その肉体や物体を詳しく調べられるのだが、まあ早い話、魔力によるCTスキャンだ。
なお、俺が王子を蔑ろにしてるのは、テロ事件である可能性も視野に入れての注意喚起と、周りの貴族の反感が王子だけに向かないようにする為のヘイト管理の為である。
もし公爵令嬢が冤罪だった場合の保険であり、王子の立場を考えた、命懸けの行動だ。
王子の命と俺の命だと、王子のが大事だからね、仕方ないね。
そんな中、スキャンが終わったその時、驚愕の事実が判明した。
「……これは!」
「なんだ、どうした!?」
「王子うるさい黙ってろ」
「えっ」
「彼女は今、前世返りしている」
キッパリと告げたその言葉に、固唾を呑んで見守っていた
「前世返り? なんだそれは」
「授業で習ったわバカ王子マジ黙ってろ」
前世返り。
それは、人間である事に絶望する程のショックを受けた人がたまに発症する、魂の先祖返りのようなものだ。
全てに絶望でもしなければ発症する事は無いが、一度発症してしまえば誰か心の開ける者と出会わない限り元に戻ることは無い。
つまり、公爵令嬢の前世は、猫だったのだ。
前世が猫なのは余り聞いた事ないけど、それ以外なら前例が無い訳ではない、何せ、俺も前世返りの内の一人なのだから。
そして、分かった事が一つ。
「にゃおあん、うなーぁお、なうー」
懐かしい気配、懐かしい眼、懐かしい仕草、懐かしい、鳴き声。
「クロ!」
「なぉおん」
不安げな鳴き方をしながら辺りを見回している彼女の名を呼べば、ぱっと向けられた金色の瞳が俺を捉える。
「あぁ、クロ、会いたかった……、俺だよ、孝之だよ、クロ! 分かるかい?」
「おい、セン、どうしたというんだ、何を言って」
「うるせぇクソ王子黙ってろ」
「ぐはぁっ!?」
王子を適当にあしらい、クロへと近付く。
なんか肘に何か当たった気がするけどそれどころじゃないからまあいいや。
だけど昔とは姿が全く違うせいで、不審な目を向けられてしまった。
「んなーぉ、ぅなーん」
「大丈夫だよ、俺だよ、ほら」
近付くだけじりじりと後退るクロに優しく声を掛けながら、魔力を使って気配と、魂、匂い、それから、声を、前世のものと今の俺と重ねて発しながら手を差し出す。
すると、クロは姿勢を低くして警戒しながらもクンクンと指先の匂いを嗅いで、それからゆっくりと近寄って、掌に顔を擦り付けてくれた。
「よーしよしよしよし、こわかったねー、もう大丈夫だよー」
前世と同じように頭を撫でてやれば、一体どこから鳴っているのか令嬢の喉がゴロゴロと鳴った。
「よーしよしよしよしよしよし」
「んなーぉ、あぅんにゃあ、にゃううー」
「うんうん、そうだねー、寂しかったねー、辛かったねー、よしよしよしよし」
何を言ってるのか分からないけど、とりあえず頭を撫でながらうんうんと頷いて宥める。
「セン君! 一体どうしちゃったの!?」
突然過ぎるエトワール嬢の言葉にビックリしたクロがびゃっと飛び上がり、フシャー! と威嚇しながら俺の背後へと隠れる。
いや、どうしちゃったの!? ってお前こそどうしちゃったの。
「なんですか突然、クロがビックリして隠れちゃったじゃないですか」
「だってセン君、そんな風になった事なんて無かったよね? まるで別人みたいだよ」
そりゃだって王子の側用人として居なきゃいけなかった時の俺しか知らんやんアンタ。
「なるほど、読めたぞセン、貴様、この私を裏切っていたのだな!?」
うん、頭大丈夫かなこの王子。
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