そんでどうなった
なんか物凄いドヤ顔で、めっちゃ訳の分からない事を言い始めたんですけど何この王子やだ怖い。
裏切るも何も、まず俺、王子の事信用すらしてないですけど。
え? なに、俺こんなのに友達とか思われてたの? やだわー。
「裏切り……? 王子、それは一体どういう事ですか」
真に受けてしまったらしい次期宰相予定の長髪眼鏡が、真剣な顔で王子へと問い掛ける。
すると、物凄いドヤ顔の鬱陶しい王子は、ビシッと俺を指差してふんぞり返りながら、堂々と間違いまくった自論を展開し始めた。
「貴様、その悪女と手を組み、我々のスパイをしていたのだな!」
「なんですって!?」
驚愕の声と目を向けてくる眼鏡と、双子と、あと王子に引っ付いてるエトワール嬢。
どうしようコイツらこんなに馬鹿だったっけ。
あっれー、おかしいなあ、エトワール嬢はともかく、双子もこの眼鏡も秀才って評判で、王子に至ってはこの学園を主席卒業したんじゃなかったっけどういう事?
ホントにコイツが次の王様でいいのこれ。
あ、でもまだ立太子してないから次の王様になるかは未定だっけか。
え? なのに自分の婚約者が王太子妃になると思ってんの?
だから王太子妃に相応しくないとか言い始めたんだよね?
え? 馬鹿なの?
ていうかめっちゃ蔑ろにしちゃったよ、俺死んだね。極刑だね。仕方ないね。
よーし、こうなったらヤケクソだぁー! 死ぬなら派手に行こう!
っていうか、王族の婚約ってそんな簡単に破棄出来たっけ?
ちらっとこの国の王様の居る方に視線を向けたら、めちゃくちゃ頭抱えて落ち込んでいた。
うん、これはアレかな。
王子の勝手な行動により国の存亡が行方不明になってってる事に対する嘆きかな。
この王子はもうダメかもしれんね。
今回の件で見限った人多いんでないかな。
俺も含めて。まあ俺死ぬけど。
「一体いつから裏切っていたのかは分からんが、ここでその悪女を庇い立てするのが何よりの証拠だ!」
「んなーん」
「よーしよしよしよしー、クロどしたー? 大丈夫かー?」
なんか言ってる王子よりも今はクロの方が大事なので、無視して背後のクロの頭を撫でる。
「にゃおん、なーぁお、なー」
どこか必死に鳴く姿は、可哀想の一言では表し切れそうに無い。
金色の瞳が潤み、その美しさはまるで宝石のようだ。
これだけ鳴くという事は、何かしら俺に伝えたい事があるのかもしれない。
だがしかし、前世返りの影響か、猫語しか喋れなくなってしまっている為に意味不明である。
人間として生きた記憶が、本人の絶望感により封印されてしまっているのが原因だろう。
ナイスバディの超美少女がにゃんにゃん言ってるようにしか見えないし、癖で跳ねている横髪が猫耳にすら見えて、見た目は物凄くヤバい。
中身は前世の愛猫なのに、なんとも言えずドキドキしてしまうのは、今世も前世もモテなかったせいだろう。
そういうの差っ引いてもめちゃくちゃ可愛いんだけどなにこれ、困った。
元の公爵令嬢は気が強くて高飛車で、それでいて気品もあって、貴族としても尊敬出来る人だった。
でも、何故か俺には猫っぽく見えて無駄に好感が持ててたんだけど、そりゃそうだわ、前世の愛猫だもん。
可愛いに決まってるわ、当たり前だわ。
********
───────それに気が付いた時には、もう遅かった。
大好きな王子様。
小さな頃から憧れて、誰よりも大切で、私の初恋の人。
婚約者に選ばれた時は、本当に嬉しかった。
大好きなクマのぬいぐるみを抱き締めながら、ベッドで飛んだり跳ねたり、転がって喜んだ。
金色の髪で蒼い瞳の、とても優しくて美しい王子様。
王位継承権第一位の王子として、プレッシャーに押し潰されそうになっていたか弱くて繊細な人。
その人を支える為に、寄りかかられても平気になる為に、私はとても頑張った。
苦手なダンスも、お裁縫も、礼儀作法も、政治や統治の事だって、私に出来る限界まで頑張ったの。
相応しくあれるように、釣り合うように、凄く凄く頑張ったの。
だけど、彼の心は私からどんどん離れていった。
何をしたら良かったのか、分からない。
ワガママを言ったり、贈り物をしたり、優しい言葉を掛けたり、色々やったの。
本当に色々考えて、頑張ったの。
だけど、全部空回りしてしまった。
だからせめて、外見だけでも釣り合うように、少しでも王子に好かれるように、磨きに磨いたわ。
全部、無駄な時間になってしまった。
王子の隣で、笑う女。
私に無いものを全て持っている女。
癖のない、綺麗な色の髪。
丸くて優しげな目元。
ふわふわしたパンケーキみたいな、甘やかな外見。
王子が、私の見た事の無い笑顔で、女を見ていた。
でも、婚約者は私。
だから大丈夫。
必死にならなくても、大丈夫。
そう自分に言い聞かせていたのに。
「クロエリーシャ・フォルトゥナイト! まさか貴様がエトワールに嫌がらせをしていた首謀者とはな……、そんな女に王太子妃など言語道断! 今日をもって、貴様との婚約は破棄させてもらう!」
卒業パーティの真っ只中、王子は私にそう言い放った。
背後に、あの女を連れながら。
その後も王子が何か言っていたけれど、全然頭に入って来ない。
あの女は、必死な顔をして王子に何か言ったあと、私を見て
にぃやりと、悪魔のような笑顔で、私を嘲笑った。
───────あぁ、私、嵌められたんだ。
それを理解した瞬間、私は全てに絶望した。
周りの人間達が全て、悪意のある眼差しで私を見ているようにしか、感じられなかった。
誰も私を知ろうとしない。
誰も私を必要としない。
誰も私を信じてくれない。
私には誰も、居ない。
なら、もう、こんな人生───────
********
知らないニンゲンがいっぱいいる。
凄く変な目であたしを見てる。
知らない匂い。
知らない場所。
なんかよく分からないけど、いきなり前足を掴まれた。
怖い。
だからあたしは、そいつをひっかいて、逃げようとした。
だけど、ニンゲン達があたしを囲んでて、逃げられそうにない。
やだよ、こわいよ、ここはなんなの? あたしはどこにいるの? おうちに帰りたいよ。
「クロ!」
聞き覚えのある、響きが聞こえた。
あたしの名前。
声のした方を見るけど、知らないニンゲンだった。
やだよ、こわいよ、かえりたいよ。
必死で叫ぶ。
「大丈夫だよ、俺だよ、ほら」
知らないニンゲンがあたしに前足を出した。
知らないニンゲンな筈なのに、知ってる匂いと声と気配が重なる。
知ってる匂い。
いつも聞いてた声。
いつも一緒だった気配。
タカユキだ。
なんでいなかったのかと思ったらこんなとこにいたのね!
だいぶ大きいのに迷子なんて、世話の焼ける子なんだから!
いつものように頭を撫でてくれてるけど、誤魔化されないんだからね! もう!
知らない場所だからまだちょっと怖いけど、この子と一緒なら安心出来る。
あたしは、タカユキに顔を擦り付けたのだった。
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