第3話 どこへ行ったんだ

 薪ストーブの前にはイスが4つ半円を描くように並んでいて、ミハイルとエレノアは2つのイスに並んで本を読みながら座っていた。世話人のユーリャは畑に出掛けている。アルフレッドはといえばどこかへと行ってしまった。またスリでもしているのかもしれない。そんなことを本を読みながら考えていると、エレノアがこちらをジッと見ているのに気づいた。エレノアが本をたたんでこちらを見ながら言った。


 「ミーシャ、アーニャはどこに行ったの?」


 ミーシャとはミハイルのことで、アーニャとはアルフレッドのことだ。ふたりは孤児院ではそう呼ばれている。


 「わからないよ」


 「あの子、またスリでもしてるんじゃないかしら」


 「僕もそれを考えていた」


 「だってあの子、だいたい暇を持て余しているときはスリをするんだもん。あたしにはわからないんだけど、アーニャとってスリはとてもワクワクすることなんだって」


 「エレノアがわからないのは当然だよ。それに僕もそうだよ。スリなんかやっていいことないんだから」


 エレノアは口元に手を当てて少し考える表情をして、また本を開き読み始めた。スリをするときの気持ちをエレノアは考えていたのかもしれない。エレノアにはわからないと思うが。

 ミハイルもまた本を読み始めた。


 しばらくすると「ドンドンドン」と大きく怒るように孤児院の玄関をノックする音がした。ミハイルとエレノアは顔を合わせた。エレノアは大きな目を見開いていた。いったい誰だろうと思っているのだろう。


 エレノアはミハイルに「ミーシャ、ドアを開けてきて」と言った。


 「わかったよ」 

 ミハイルはそう言うとエレノアにうんと頷いてから、玄関へゆっくりと向かった。


 ドアノブを回し玄関を開けると、アルフレッドが首根っこを村の衛兵に掴まれて立っていた。


 「ミーシャ、またやっちまったよ」


 アルフレッドは両手を万歳し、赤いいちごみたいな舌をぺろりと出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る