第74話 帰還

 グローム軍の完全降伏を耳にした魔境&エクルドの連合軍は歓喜に沸いた。

 侵略に屈するという最悪のシナリオを回避し、おまけに裏で今回の争いを仕切っていたタイラス王子を捕らえた――こちらとしては満点の結果だ。


 そのタイラス王子の処遇についてだが、降伏してからしばらく経ってやってきたグローム騎士団との交渉によって決められる運びとなった。

 本来であれば、侵略者であるタイラス王子をみすみす帰すなどあり得ないのだが、駆けつけたレオン第一王子とエクルド側の話し合いの末にそうした流れとなる――恐らく、何か取引があったのだろうな。


 まあ、その辺は国同士でやってくれたらいい。

 俺としては魔境を無事に守れてこれ以上ない終わりを迎えることができたのだから、それでよしとしないとな。



 すべての決着がついた後、俺とリリアンとアル、そして応援に来てくれたスレイトンたちとともに魔境へと戻った。

 すると、


「エルカさん!」


 イベーラをはじめ、たくさんの人たちが出迎えてくれる。

 こうして見ると……本当に人が増えたなぁと思う。


 ここへ来た当初は、ゲーム知識があるから大丈夫と自信はあったが、それでもどこかに不安を抱えていた。

 しかし、頼れる仲間たちに支えられ、無事に今日までやってこられた。

 今回、一歩間違っていたらどうなっていたか分からない不測の事態を迎えたが、それもみんなで乗り越えることができた。


「……ありがたいな」

「? 何か言いましたか、エルカ様」

「いや、何……みんなの存在に感謝していただけだよ」

「それなら私たちもエルカ様に感謝していますよ」

「俺に?」

「あなたがいてくれたから、今日まで楽しくやってきたのです」


 リリアンは一点の曇りもない笑顔で言いきる。

 さらに、


「俺としても、エルカがいてくれたから人間と交流を持つことができた。パーディやゾウィルも、そのうち同じことを思うはず――いや、もうすでに持っているかもしれないな」


 そう語ったアルの視線の先には、手を振って俺たちの帰りを迎えてくれた魔境村の住人たちに混ざるヌシたちの姿があった。すっかり溶け込んでいるというか、違和感がなくてちょっと驚いたよ。


「これからもエルカ様がいてくだされば、この魔境は素晴らしい場所になると思います」

「同感だな」

「ははは、そこまで言われたら――期待に応えなくちゃいけないな」


 この魔境が、これからどのような姿に変わっていくのか……正直なところ、まだ具体的なビジョンは見えていない。

 それでも、せめてこの地に暮らす人々が幸せでいられるように最大限の努力はしていくつもりだ。


 これからグロームへの対応で騒がしくなりそうだし、エクルドとの再交渉はそれが終わってからになるかな。


 いずれにせよ……今はゆっくりと休みたい。

 緊張の糸が切れた瞬間、一気に疲労が押し寄せてきたからな。


 休息を取ったら、また明日から頑張ろう。





※次回が最終回となります。

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